プロローグ
闇夜の街に、小さな影が蠢いていた。
遠くから見れば人と見間違うであろうそれは、人間よりも大きな体躯でその場に揺らめいている。だが道行く人々はそれに気付く事無く、何事もない日々を過ごしていた。
「居ました。ビンゴです」
その光景を望遠鏡で眺めながら制服姿の少年が呟いた。その隣には西洋風の衣装に身を包んだ金髪の少女。彼女は少年の呟きに小さく頷くと、手に抱えた一丁のマスケット銃を構えた。
「全く。魔法少女も大変よね……全然らしくないっていうか」
ぼやきながらも、その照準はゆっくりと遠方の影を捉える。少年はその照準のズレを合わせるようにそっと銃に触れては位置をずらしていた。
「仕方ないですよ……人ごみの中で戦う訳にもいかないですし」
呆れたように少年は溜息を付いて、相手の動きをじっと見つめていた。翡翠を閉じ込めたかのように澄んだ瞳は瞬き一つせずに目標の一挙一動を見逃さない。
「風よし、距離よし、時間よし……カウントします。3……2……1……」
発射の掛け声はいらない。その一言が不要な程やってきた動作だ。
間髪いれず、少女が構えていたマスケット銃が火を噴いた。放たれた弾丸が真っ直ぐに――正確にいえば少年の脳裏に描いた通りの軌道をなぞり――影の頭を撃ち抜いた。着弾音も何もない。普通の人間にはただ強い風が吹いた程度だろう。
「ふーっ……命中です」
影が消滅したのを確認し、少年は安堵の息を付いた。その報告を耳に入れ、少女も持っていたマスケット銃を1本のリボンへと変える。
「はぁ……こんなスナイパーの真似ごとなんて性に合わないんだけれども……」
まだこの狙撃が不満なのか、少女はどういう原理か、西洋風の衣装から少年と似通った色味のある制服姿へと変わりながらため息をひとつ漏らす。揺れる少女の髪に気を取られながらも宥めるように少年は答えた。
「この街を守れるのはマミさんしかいないんですから、我慢ですよ。さ、グリーフキューブ回収して帰りましょう」
「もう、戦ってるのはつばさ君もでしょう? 私だけじゃ狙撃なんてできないんだから」
お互い肩を竦めて先ほど消滅した影が居た場所を目指す。
二人の少年少女、遠藤つばさと巴マミ。
かつて出会った世界は既に無く、どこかの誰か――今の彼らには最早知り得ぬ少女の願いが生み出したこの世界で、二人は再び巡り合っていた。
それがどれだけの奇跡であるのか。その記憶を持ち得ぬ二人には知るよしもない。
「まどか――――」
「ふふふ…………誰かしら、その娘?」
「マミさん顔が笑ってません! 何か急に浮かんできただけですよ!」
全く知らない、少女の名前。それが世界が残した彼女の残滓である事も知らず、二人はこの街――見滝原の街で生きて行く。その背後を、一瞬桃色の光子が通り抜けていった。
――――私ができるのは、ここまで。
――――前より辛い未来かもしれない。
――――前より残酷な世界かもしれない。
――――だけども、二人にはせめて出会って欲しかったから。
――――そして、あの子にも幸せになって欲しいから。
――――つばさ君、マミさん。私は見守っているよ。
――――だからきっと……二人で幸せに。
光子はふっと消え入り、完全に見えなくなる。誰も感知することは無いその輝き。だが、光りの主の想いが届いたかのように二人は振り返った。
「何かしら……」
「今、誰か居たような……?」
お互いに顔を見合わせ。二人はそこに立ち止まっていた。
二人にも見る事のできない光の主はイラズラっ娘のようにくぐもった笑いを漏らし、その場を立ち去って行った。
魔法少女つばさ☆マギカ [続編]Re:birth the World
ご無沙汰しております辰です。
なかなか別用等で筆が進まないですがちょっとでも上げようとエピローグの作成をば。
つばさマギカ[本編]の一つ一つが長いので[続編]は小出しな感じでやってみましょうかね……うーん悩ましい。
さて、プロローグという事で短い感じですが主人公とヒロインの立ち位置の空気には触れたのではないかと思います。
まどかさんだけは設定の都合上、[続編]では登場できませんのでこのプロローグだけでもちょっと出しておきたかったのです。
魔獣の設定についてはざっと調べた程度の知識ですのでところどころ公式と食い違いがあるかもしれませんがご容赦を。
指摘があれば拾えるものは拾わせていただきます。
というわけでこれより始まる再編後世界のお話ですが、どうぞ気長に付き合ってくださいませ!
ではまた次回に。