「うわっぁぁぁぁああっ!?」
狂乱じみた悲鳴を上げながら、少年はベッドから跳ねるように転がり落ちた。
フローリングの床に強かに打ち付けた腰を擦って起き上がる。ぼんやりする頭を軽く振り、机の上にあった鏡で自分の顔を覗いた。
少し疲れている顔だが、《若干》女性的な顔と翡翠のような澄んだ色合いの綺麗なショートヘアーが映っている。
「大丈夫……なんも刺さってない」
いくら夢の中とは言え、あまりにもスプラッタで生々しい光景の夢だった。実際にあった事かのように今も痛みが鮮明に思い出せるぐらいだ。
だが実際にそんな事に遭遇した記憶はないし、手足もしっかりと存在している。背中から胸板に掛けて幾筋もの傷跡が立ち鏡に映るが、これは元からあったものだ。
「……いやいや、そもそも頭なかったら死んでるよね。うん」
そう自分に言い聞かせて納得する。
あれはただの悪夢だ。じっとりと残る嫌な感触を振り払うように彼は背筋を伸ばし、欠伸をこらえることなく存分に外に漏らす。軽く体を伸ばした事で残っていた感触は振り払われたような気がした。
彼は軽く首を巡らすと、すぐさま机の上に置かれた日記を確認する。無論、他人のものではなく自身で書いた日記だ。だが彼には毎朝その日記を覗いておく必要があった。
「特に何も……うん?」
日記に書かれていたのは、細かいメモの寄せ集めのような、箇条書きの文章の集まりだった。昨日書かれた分のメモを上から順に読み流していくうち、ある一文が目に付く。
――――机の上のアクセサリーを肌身離さず持つこと。
日記に従って視線を机の一角に向ける。
そこには言われた通り、翡翠のような色を放つ見覚えの無い宝石を貴金属で彩ったアクセサリーが置かれていた。男性である彼には無縁であるはずのものだ。そもそも、自分で買った覚えはない。
なら、思い当たる理由は一つ。
「……あっちの方の用事か」
呟き、彼はため息まじりに紐のついたそれを首から掛け、自分の内に意識を向ける。だが、別に何かの反応が返ってくるわけもなく、再び深い溜息を一つ吐いた。
だが恐らく、《もう一人の自分》が何かしらの理由で必要なのだろう。そう判断して彼は手早く制服に着替えた。羽織った制服の裏に、刺繍で描かれた持ち主の名前が翻る。
■
「おはよう、つばさちゃん」
つばさが部屋を出てリビングの扉を開けるなり、キッチンから声が響いた。朗らかな、優しい印象を与える女性の声。つばさの母親、椿だ。
彼は聞こえてきた声に顔を顰め、テーブルの上に用意された朝食のトレイをひったくるように掴んで即座にリビングを出て行く。その去り際、先ほど聞こえてきた声は幻聴だったのではと思えるような辛辣な言葉が背後から響く。
「あなたは呼んでないわ」
とても親子の会話とは思えない。
実際、つばさも彼女を親だと認識したことは一度とだってない。母親に望まれない性別として生まれた事によって、彼は丁度、物心付く頃から恒常的な虐待を受けていた。
両親が望んだのは女の子だ。だが現実はそう上手くはいかない。
かくして男の子として生まれたつばさだが、物心が付く頃、父親が事故で亡くなってしまった。それから間もなく、つばさにとって苦難の日々は始まる。女の子を産むことを望んでいた母親からの虐待だ。
男である事を、この世に生まれた事を常に否定され続け生きてきた。父親がいた事で表には出さず、溜め込まれていた子への不満が爆発したのだろう。
既にその虐待から我が身を守ってくれたであろう父親はこの世にいない。そうなれば無論、その家庭の最高権力者は母親になる。そんな環境で彼を守り続けたのは何か。
それは――。
「っ……」
不意に自身の内側から湧き出してきた感覚に眩暈を起こし、つばさは慣れた動作で素早くトレイを床に置く。
彼をこの十数年間守り続けた《彼女》がやってくる感覚。少なくとも早朝からの不快な会話から逃げられることに安堵し、彼は自身の意識を潔く手放した。
そして、
「ん……ああ、おはよう。お母さん」
もう《一人のつばさ》と切り替わった。
先刻までの陰鬱な表情はどこへいったのか、天真爛漫な笑顔を振り巻きながら、床に置かれたトレイを持ってリビングに戻る。その仕草、表情は歳相応の《少女》のようだった。
それを待っていたかのように、母親も朗らかな声で答える。
「あらおはよう、つばさちゃん! 今日は早かったのね!」
「うん!」
解離性同一性障害。いわゆる二重人格が彼――男性としてのつばさを守り続けたものだった。もう一つの人格を心から愛し、本来のつばさへの虐待を行う母親と、その虐待ゆえに偽りの自分を生み出すことで精神の安定を保っているつばさ。
これが遠藤家の普段の――狂気を孕んだ姿だった。
■
彼が本来の意識を取り戻したのは、既に家から出た後だった。念のため自分の姿を確認するが、着ている制服はちゃんと男子のものだ。流石に女子生徒の制服が周到に用意されているとは、思いたくもない。その行動からも察する通り、二つの人格はお互いの記憶を共有していない。
ほっと胸を撫で下ろし、同時にあの家に潜む狂気が外部に隠されていることに言いようの無い不快感を覚える。所詮公共の場でまともな格好で居られるのは家庭の狂気を露見させないためのカムフラージュなのだ。
例え、ここでつばさがそれを訴えた所で、母親が居なくなるわけではないし、この体以外に虐待の痕跡が残っている訳でもない。この傷は以前に生活中での事故として処分されてしまっている。あの狂った女は、あくまでつばさの中に眠る女性人格を自身の子供として扱っているだけだ。直接的な方法はここ数年取っていない以上、物的証拠が存在しない。それ故に、逆にここ数年は精神的な追い詰め方をされている。そしてつばさには、逃げようにも母親以外に親族がいなかった。最初からまともな逃げ場なんてない。今朝の激痛を思い出すかのように、背中にズキリと痛みが走る気がした。残っている方法は――。
(くっ……!)
不意に浮かんだ考えを振り払うように頭を振る。それは駄目だ。それではあの人と変わりない――むしろあの人以下の最低な存在になってしまう。脳裏に張り付いた凄惨なイメージを振り払い、つばさは止まっていた足を前に進めた。
(どうしようもない…………)
詰まる所、つばさには現状を打開する方法を見つけられなかった。
いつも通りの朝、いつも通りの考えと結果。やはり現状を変える手は無い。沈んだ気分でつばさは自身のつま先を見ながら歩いた。
「――ちょっといいかしら?」
不意に、澄んだ女性の声が耳に響く。つばさはそれが自分に向けられたものだとは思わず、黙々と進む。
「ちょっと君、聞こえてる?」
肩を叩かれて初めて、彼は自分に掛けられた声だった事を認識して振り返った。
そこには縦ロールの金髪を指に絡め、怪訝そうな表情でこちらを見ている女性が居た。
服装が彼と同じ学校の女子生徒の制服であり、見覚えのない美人である事から二年生、もしくは三年生の先輩だと判断する。仮に一年生であれば、流石に色恋沙汰に疎いつばさと言えど、ここまで印象的な女性に見覚えすらないという事はないだろう。
「えっと……な、何ですか?」
たどたどしくつばさは反応を示す。
例の病症ゆえ、どちらかといえば女性と話す機会は一般的な男子生徒よりも多いのだが、目の前の女性に限っては不思議と後ろめたい感情が湧いた。理由はわからなかったが、とにかくここから逃げ出したい衝動に駆られる。
「……私の事は覚えてるわよね?」
目の前の女性は周囲に気を使って小声で問いかけて来た。
無論、つばさにはこの女性との面識はない。即座に首を左右に振って答える。だが女性は納得しない様子でつばさの腕を掴んだ。
「ちょっと、来てくれる?」
だが掴まれた腕を引っ張られ、つばさの脳裏に過去の映像が過ぎる。
まだ幼い頃の、母親の虐待の記憶だ。無理矢理引き寄せられ、殴打され――――。
彼は殆ど反射的に女性の手を振り払い、慌てて走り出した。
「ごめんなさい! 本当に知らないですから!」
ちらりと後ろを見るが、追いかけてくる気配はない。
つばさは脳裏に焼きついた虐待の光景を振り払いながら、自分が通っている中学校――見滝原中学校の正門をくぐった。
■
今朝の騒動が嘘だったかのような平和な休み時間。次の授業である体育に備えてクラスメイトが一斉に着替えのために移動する。だがつばさはそれに倣わず、頬杖を付いて窓の外を見上げていた。
理由は簡単だ。彼には居場所がない。
いつ女性人格がやってくるか判らないし、かと言って男子の体で女子と一緒に着替えるなんて訳にもいかない。それゆえ、彼は常に一人で着替える。皮肉な事に学校側もつばさの病状自体は把握しており、その事について特に何かを言われたことは無い。
男子と着替えれば、背中の傷を見てもらい、救いを求めれるのではないかと考えた時期もあった。
今現在、それを行っていないのはそれが無意味だと知っているからだ。所詮、他人は面倒な対人関係など二の次でしかない。こんな病症を持つ自分なんてなおさらだ。つばさはそれを既に身を持って理解していた。
『やれやれ、かなり特殊な子を魔法少女にしてしまったようだ』
不意に、脳裏で声が響いた。だが、誰かが教室の中で喋ったわけではない。ここにはつばさしか居ないのだから。
頭の中に直接声が響いてきたような感覚にびくりと身を強張らせる。周囲を見回すがそれらしい姿は見当たらない。
『こっちだよ』
今度は声の方角が判るように声が響いた。窓際から発せられた声につばさはすぐさま振り返った。
そしてそこに立っている声の主の姿を見つけて言葉を失った。
白い体毛に赤く円らな瞳。猫のような体つきだが、狐のような尻尾が目立つ。何より異質なのはその表情だ。生き物のはずなのに何も感じさせない無表情。その無表情な瞳が、じっとつばさを見つめている。
彼は身構えてその生き物に声を掛けた。
「き、君が喋ってるの?」
『そうさ』
目の前の奇妙な生き物はこくりと頷いて窓際からつばさの目の前の机に飛び移る。そして見定めるように若干――本当に若干、目を細めた。
『ボクはキュウべぇ。君は覚えていないだろうけど、僕は既に君に会っている。この意味は理解できるだろう?』
つばさは戸惑いながらも頷く。
自身に記憶がないが、目の前のキュウべぇと名乗った生物は既に面識があるという。
となれば簡単。もう一人の自分だ。虐待の記憶が先行して気づかなかったが、今朝の女子生徒にしたってもう一人の自分が会っていたのかもしれない。
それなのに日記に書かれてはいなかったのが少し気に掛ったが、それを確認するにはこちらから日記に書いて伝えるしかない。
『なら話は早い。今日の放課後、校門の前でまた会おう』
それだけを言い残し、キュウべぇは窓から飛び降りた。どういう訳か、着地音にも、歩くキュウべぇにも誰にも気づいていない様子だ。
今しがた目の前で起こった現象を理解できず、つばさは自身の頬を抓った。痛みはあったが、やはり現実とは到底信じられなかった。
結局、彼は状況を飲み込めず呆然とし、体育の授業に遅れて参加した。
■
放課後になり、つばさは言われた通り校門の前に立っていた。
ここに来るまでの間に何度も夢だったのではないかと思ったが、校門前で待つぐらいであれば夢でも構わないという結論に至った。どうせ、家に帰りたくはないのだから時間つぶしにはなる。
『来たね』
「う、うわっ……」
本当に出た、という言葉を飲み込んでつばさはレンガで出来た塀の上を見上げた。
そこには先の休み時間と同じように真っ白い生き物が座っていた。やはりというか、周囲はキュゥべぇの存在にはまるで気づいていない。周囲に気を配るつばさの姿を見ていたキュゥべぇは片手を上げてそれについて説明した。
『大丈夫。ボクの姿は見える人間を限定できるんだ』
再び脳に直接響いた声。慣れない感覚に眩暈がする。
『頭で言葉をイメージすれば話せるよ。こっちの方が楽だろう?』
さも当然のようにキュゥべぇは話す。だがつばさは軽く頭を振って《頭で》答えた。
『気持ち悪い……』
『慣れれば楽さ』
キュウべぇはつばさの意見に取り合ってくれる気はないらしい。彼はため息を吐きつつその飄々とした姿を眺めた。
一体何だって、僕はこんなわけの判らない生き物に付き合ってるんだろう。
そこに、もう一つの声が響いた。
『キュゥべぇ、そちらは合流できた?』
『ああマミ、校門の前で待ってるよ』
『えっ。他にも居るの? ……あれ?』
脳でイメージしたことが勝手に出てしまった。思わず口を塞ぐがまったく意味をなさない。その様子にキュゥべぇは小さく笑い声を漏らす。先ほどの声の主も状況を理解したようでくすくすと笑い声を漏らしていた。
『……えっと……どちら様、ですか?』
恥ずかしさを堪えながらつばさは問いかける。だが、返事は無かった。彼は目を細めて長い沈黙が破られるのを待った。
『……そこで待っていてもらえる?』
『まぁ、他に無いですし……』
歯切れの悪い返事を了承と受け取ったのか、会話はそれきりだった。下手な事を考えれば言葉になってしまうし、相手も何かしら喋りたくないのかもしれない。
そもそも、キュゥべぇがこの会話を切っている可能性だってある。つばさは不覚考えず、レンガの壁に背を預けて声の主がやってくるのを待つしかなかった。
待つこと十分程度、先ほどの声の主はやってきた。
長い髪を縦ロールにした金髪の女性。見覚えのあるその姿につばさは身を引いた。
「ごめんなさい、少し遅れてしまって……」
申し訳なさそうな表情で女性は頭を軽く下げる。つばさも慌てて大きく頭を下げた。
「えっと、朝はすいませんでした…………」
開口一番、とりあえず今朝方の事を謝罪する。まさかとは思っていたが、キュゥべぇもこの女性も自分に用事があったようだ。
女性は柔らかな笑みを浮かべると左右に首を振って答えた。
「事情はキュゥべぇから聞いてるから大丈夫、別に怒ってないわ」
「は、はぁ……そうですか」
正直、生返事しか返せない。つばさ自身はこの奇怪な状況に対する説明を何一つ貰っていないのだからウェットな返事だって返しようがない。そもそもそんな会話能力自体元々持ち合わせてはいないが。
「自己紹介が遅れちゃったわね。私は巴マミ。三年生よ」
「えっと……遠藤つばさ。一年生、です……」
「よろしく、つばさ君」
マミと名乗る女性はキュゥべぇを軽く一瞥する。すると再び脳に直接声が響き始めた。ここから先はあまり聞かれたくない会話のようだ。
『ここじゃ話し辛いでしょうし、少し歩きましょうか』
『あ……はい…………』
つばさは慌ててマミの隣を歩く。
学校の先輩。それも間違いなく美少女に入る部類の女性と並んで歩いているなど、明日クラスメイトに何て言われてしまうのか。目立つ事を嫌うつばさにとっては考えるだけで恐ろしい事態だ。そんな彼の脳裏に、どこか穏やかな笑いを含んだマミの声が響く。
『……聞こえてる』
「ふぇっ!?」
やはりこの話し方は慣れなさそうだ。何を話していいか判らず、また下手な事を考えるのも憚られてつばさはなんとか相槌を返すのが精一杯だった。
そうこうしている内につばさ達は一件のマンションの前まで歩いてきていた。豪華としかいいようの無い立派な高層マンションだ。
マミはそのマンションの入り口のドアを手慣れた手つきで開錠し、手招きする。キュゥべぇは臆する事なくそれに従い、つばさも周囲を警戒しながらオートロックの扉をくぐった。エレベーターに乗り、五階で降りる。コの字に入り組んだ形状の通路を歩き、マミが突き当たりの部屋の扉を先ほどと同じような手つきで開けた。
「入って」
「……お邪魔します」
つばさは息を呑んでその部屋に踏み込む。別に初めて入る女性の部屋だとか、そういった類の緊張は微塵も無い。
それ以上に脳裏で何かが警鐘を鳴らしている事こそが問題だった。この感覚はそう――朝の夢での出来事のような感覚に近い。
キュゥベぇの後に続くように進んだ先、広いリビングが視界に広がる。
「大したおもてなしはできないけど……」
マミは自分の鞄を置くなり、キッチンへと向かう。つばさはおどおどと、リビングの中心に置かれたテーブルの傍に腰を下ろした。
丁度良くマミの姿が隠れたのをいい事に、ほっと張り詰めていた息を吐いた。
その際、目の前に座りこむキュゥべぇと視線が合う。相変わらずの無表情だが、その瞳がぞっとするような笑みを浮かべたような気がして、背中に薄ら寒いものが走った。
すっかり生きた心地のしなくなったつばさは軽く目頭を押さえて考える。そもそもマミとキュゥべぇが示し合わせたように合流し、自分を連れてきたのだからその話の内容は一致するに違いない。だが、その肝心の話題は何だろう。その疑問を打ち消すように、目の前にひとつのティーカップが置かれた。
「コーヒーの方がよかったかしら?」
出してすぐ、しまったと言った様子でマミは苦笑する。つばさに紅茶の知識はないが、目の前で湯気を立てながら優雅な香りを放っているそれはとても美味しそうに見える。元より、つばさはまだコーヒーの何が美味しいか理解できていなかったのでむしろこの方がありがたい。
「いえ……」
視線を合わせようとはせず、つばさはその紅茶に一口つける。すっきりとした味で飲みやすい。砂糖が入っていなかったが、苦味が嫌いなつばさでも問題なく飲めるすっきりとした苦味だった。その味を楽しみたいところではあるが、今はそれ以上に先ほどの疑問の方が大事だ。それを切り出すタイミングを掴み損ね、つばさはちらちらと、優雅に紅茶を飲むマミの様子を窺う。
その視線に気づいたのか、マミは一度目を細めるとティーカップを置いて口を開いた。
「そうね。そのために来てもらったんだものね……」
マミが少し悲しげに呟く。せっかくの紅茶をつばさがあまり飲まない事が原因かとも思ったが、どうやら違うようだった。
数秒の沈黙。だがマミは浅く呼吸を整え、つばさに向き直る。
「単刀直入に言うわ。つばさ君、あなたは――」
ごくり、と喉を鳴らす。この家に入ってから鳴り続けていた警鐘が壊れるのではないかというほど大きな音を立ててつばさに「聞くな。逃げろ」と訴え続けている。だが不思議と、つばさはそこから動かず、マミの言葉に聞き入っていた。ここで聞かなければ後悔する。直感だが、その確信があった。
「――あなたは、魔法少女なのよ」
最初から理解が追いつかなかった。もう警鐘が鳴っているとか、逃げろとかそういう次元じゃない。魔法少女?
自分は確かに二重人格者だが、生来男性であるのは間違いないはずだ。
今にも煙を立ててオーバーヒートしそうな脳をなんとか回転させ、つばさは言葉を絞り出す。
「ぼ、僕は確かに病気で女の子の人格になりますけど、魔法少女になった覚えはないですよ」
幼少時になりきり遊びなどで魔法少女のまねごとをさせられた事はあるが、まさかこの年齢で、それも同じ学校の先輩にそんな事を言われるとは思っていなかった。
対してつばさの返答にマミは眉を顰めた。どう説明していいか迷っているという様子だ。
そこにマミの隣でケーキにかじりついていたキュゥべぇがゆっくりとテーブルの上に飛び乗り、彼女に代わって説明を始めた。
『いきなり魔法少女と云われても実感がないだろう?』
つばさは素直に頷く。そもそも実感以前に事実として認めた覚えはない。
『まず、昨日の事は思い出せるかい?』
キュゥべぇに尋ねられ、つばさは思い出せるだけの昨日の記憶を口にするが、放課後以降は女性人格と切り替わっていて何も覚えていない。キュゥべぇはため息混じりにその《男性人格のつばさにとって空白の時間》を説明した。
『男性人格の君が意識を失った後、もう一人の君は魔女に襲われたんだ』
魔女。再び聞きなれない単語に思考が追いつかなくなる。だがキュゥべぇはそれも予想していた様子で掻い摘んで《魔女》について説明した。
『君たちの認識で言えば悪霊に近いかな。魔女は自分の結界を持ち、そこに隠れて使い魔と呼ばれる手下を使って結界に生き物や道具を引きこむんだ』
「……引きこまれたらどうなるの?」
ごくり、と唾を飲み込む。思い浮かぶのは、今朝の夢の光景。
『色々あるよ。まぁ物理的なり精神的なり喰われるのが大半だ』
繋がってはいけない線が繋がった気がした。だがつばさはそれを認めず、その線を断ち切るための答えを求めてさらに尋ねた。
「で、でも僕喰われてないよ? 襲われたっていうけど」
そうだ、キュゥべぇの言うとおりなら自分は今ここにいない。
『そう、それを阻止する事が魔法少女の仕事さ。もう一人の君は昨日、魔女に襲われた。その後、同じく魔法少女であるマミに助けられ、その実態を知った。そしてもう一人の君もまた魔法少女になった』
頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。今朝見た夢と、今しがた聞いた話が繋がった。つまりあの夢は実際につばさが体験した事を元にしていたのだ。そして自分はこの奇妙な生物が言う《魔法少女》というものになってしまっているらしい。
そこまで考えて、つばさはある事に気付いた。
「キュゥべぇ、僕は男なのにどうして魔法少女になれたの?」
魔法《少女》、というからには女性でないとなれないのではないのだろうか。単純だが意外と重要そうな質問。キュゥべぇはそれにも淡々と答えた。
『確かに大抵は人間の女の子になってもらってるよ。その方が都合がいいからね。でも別に男性でも絶対になれないという訳ではないんだ』
それを聞いていたマミが意外そうな顔をする。どうやらこの話は知らなかったらしい。
『魔法少女になる上で重要なのは対象者の感情の起伏なんだ。そうなると多感な時期――特に第二次性徴……思春期と言った方が分かりやすいかな? その時期の少女が最も適しているのさ』
そこまで説明されて、つばさは「あー……」と若干疲れたため息を吐いた。何故男性の自分が魔法少女になれたのか。その理由におおむね想像がついた。
「つまり……女性人格の僕だったから魔法少女になれましたと?」
『概ね正解だ。ただし実際は少し違う、君のその2つの人格の入れ替わり――無となっている女性の意識が百パーセントに切り替わる事自体が一番の理由さ』
つばさはできる限り平静を装いキュゥべぇの言葉を理解しようと努めた。つまりは人格の入れ替わり――無から有への変化の方が感情の起伏というのが大きいからこそ、魔法少女としての才覚があったという事になる。だが、それに割って入るようにマミが口を開いた。
「それで、ここからが重要なの」
「えっ」
魔法少女という事実で既に大問題なのだが、どうやらそれ以上の問題が発生しているらしい。マミが視線で促すと、キュゥべぇはテーブルの上でごろんと横たわりながら楽な姿勢で話す。
『話を戻そう。つばさ、君は魔法少女になったけど、魔法少女になる際にはどんな願いでも叶える事ができるんだ』
「どんな願いでも…………?」
脳裏に湧き上がるのはあの母親の存在。抹消でも、性格が治るでもいい。とにかくあの環境が改善されるならなんだっていい。つばさは期待に目を輝かせた。
だが続くキュウべぇの言葉は彼を落胆させるには十分な言葉だった。
『そしてその願いは女性人格の君が答えてしまっている。今日はその内容を伝えておこうと思ったんだ』
「……そう…………」
がっくりとつばさは肩を落とす。やはりあの環境から逃げ出す事はできないのか。落胆するつばさを追い詰めるように、キュゥべぇは淡々と事実を告げていく。
『女性人格の君の願い、それはもう一つの人格の消滅だ』
本日何度目かも分からない衝撃。幻聴と思い、再びキュゥべぇに問いかける。だが、その答えは変わらなかった。
『片方の人格の消滅。これははっきり言って抽象的な願い過ぎるんだ。だから今後、君に何が起こるか予想がつかない』
「……僕が消えるかも、ってこと?」
女性人格の自分が言う《片方の人格》と言うのは男性人格のつばさの事だろう。だがキュゥべぇは首を横に振ると説明を付け加える。
『言っただろう? 片方の人格だと、この言葉に当てはまるのはお互いだ。だからこそどちらが消えるか予想がつかない。それに、消滅というのもどういう形になるやら……下手をすれば肉体ごと纏めて殺す事になるかもしれない』
肉体ごと、という単語につばさはぞっとする。
『願いの成就を対価に君たちを魔法少女にしているのは僕らだ。だがその願いの成就の形については僕らが知る所じゃない』
キュゥべぇは悪気もなく答えた。願いは叶うがその方法は未知数ということだ。そして、つばさの願いは《片方の人格の消滅》。彼は震えていた手を胸元で押さえつけ、絞り出すように問いかけた。
「も、もしかして今この場で死んじゃうかもしれないの……?」
怯えた様子のつばさに気遣う事もなく、キュゥべぇは淡々とした口調で答える。
『それはほぼ無いだろうね。因果があって結果がある。これはこの世界に敷かれた一つのルールだ。だからこそ原因も無くいきなり死ぬ事はない。もしそれを書き換えれるとしたら、それはもはや生命の域を超えた神に等しい存在だ』
ほっとつばさは息を吐く。だがキュゥべぇは「心臓麻痺が起きれば別だろうけど」と小さく付け加え、彼は再び怯える。
そこに、それまで黙って話を聞いていたマミが彼の震える手をそっと握った。
「急にこんな話をされて混乱してると思う。でも落ち着いて聞いて?」
彼女はそう言って大きく息を吸った。つばさもそれに倣って息を精一杯吸い込む。どちらからともなく、吐き出した息と共に不安も吐き出したような気がした。もう一度深呼吸をしたつばさは握られた手を見つめながら話す。
「僕は……どうしたら…………」
少なくとも自身か、もう一人の自分が消える事は確かなようだ。そうであるならば、自分は何をすればいいのだろうか。
『君の好きにするといいんじゃないかな?』
「キュゥべぇ、そういう話じゃないの」
そっけない態度のキュゥべぇをマミが睨む。彼女は握った手を離さずに、つばさの隣に座りなおす。つばさは反射的に距離を取ろうと動いたが、すぐそばのソファーにぶつかって失敗に終わった。
「つばさ君……成り行きとは言え魔法少女になった以上、命の危険もある。色々大変だと思う。何かあったら……すぐに相談して?」
やわらかく微笑みながらマミは目を細めた。つばさは小さく頷いて、その琥珀色の瞳を見つめ続けた。
震えは、いつの間にか止まっていた。
そんなやりとりのお陰か、少し落ち着いたところでつばさは夢の話を切り出してみた。
「そういえば、昨日の魔女って文房具の化け物……だったりしますか?」
「覚えているの?」
意外そうな顔でマミが目を見開いた。つばさはお互いの人格の記憶を共有していない事は既に知っているから当然だろう。
「夢の中で…………見たってだけ、ですけど……」
手を振って否定しながらつばさは答える。そこに、興味深そうな唸り声をあげてキュゥべぇが反応した。
『もしかすると、記憶の共有化が起きているのかもしれないね』
夢というのは脳に蓄積された情報の整理の一環だ。キュゥべぇ曰く、片方の人格が消滅するために、お互いの記憶という情報が一つになりかけているかもしれないとのことだ。
『あくまで推測だけど、記憶の共有化をしているのであれば肉体的な死はないんじゃないかな?』
どちらの人格が残るかは予想できない。だが少なくとも肉体的に死ぬことはないと聞いてつばさは胸のつっかえが一つとれたように息を吐いた。マミもその様子に少し嬉しそうな笑みを見せる。
だが、その時間もそこまでだった。
『うん……?』
ピクン、とその大きな耳を立て、キュゥべぇが飛び上がった。
今までゆったりとしてた彼の急な動作につばさは驚くが、マミは見慣れているように立ち上がってキュゥべぇに問いかけた。
「魔女?」
『ああ、昨日のだね』
「き、昨日の……」
脳裏によぎるスプラッタな光景に吐き気がこみ上げてくる。既にあれは夢じゃないのだから、またあの怪物が誰かを襲っているのだろうか。そう思うと居てもたってもいられない気持ちになる。
気持ちにはなるが、体は動こうとはしない。むしろ震えあがって、足が竦んでいた。
「あ、あはは……」
つばさは力なく笑う。巻き込まれただけなのだから関係ないと言えるほど、彼は淡泊な人間ではなかった。だがそれ以上に、いくら戦う力を持っていると言われても、怖いものは怖い。はいそうですかと命がけの戦いへ即座に身を投じれるほど人は強くはないのだから。
その場に座り込んで動けないつばさを見て、マミはまるで姉のように優しく語りかける。
「つばさ君、怖いでしょうけど……今後、あなたも戦わなければいけない。だからこそ、今は魔法少女の戦いを見ておいてほしいの」
差し出された手を前に、つばさの心はこれ以上ないほどかき乱されていた。この手を取れば、待っているのは命をかけるような戦いだ。だがとらなければ?
実はこれは何かのドッキリで、今もどこかでカメラが回ってて、僕の選択を待っているのでは? 意外と、戦う道を選ばなければ種明かし的にテレビで見るような芸能人が笑いながら出てくるだけで済むのでは?
そこまで考え、今朝の夢のあとに感じた痛みを思い出した。
夢な訳が、ないのだ。あの痛みが、リアルな恐怖が、全てを物語っていた。これはまぎれもない現実だと。
つばさは諦めて、あえてその手を取らず立ち上がった。その手を握る事は、戦う事を決めてしまうからだ。
僕はまだ、戦うと決めていない。
■
マミとキュゥべぇに先導され、連れてこられたのは町はずれの工場だった。夕暮れ時で、人気のないその場所でつばさはあたりを警戒する。いきなりあの化け物が出てくる事はないようだが、それでも気を抜いていられるわけがない。その様子にマミはきゅっと彼の手を握り、話しかける。
「大丈夫。いきなり出てくる事はないわ」
「は、はいっ……!」
つばさは上ずった声で答える。大丈夫と言われてもその正体が分かってるからこそ余計に怖い。
「言ったでしょう? 魔女は結界の中に潜んでる……だから、結界に入ってない限りは大丈夫」
先ほどの話を思い出す。そうだ、魔女は結界の中なのだ。思い浮かべるのはあの夢の世界の光景。あの前人未到の世界こそが《結界》なのだろう。そう思えば、まだ周囲の景色が工場のままな分、多少安心できる。
そう思った矢先、マミが不意に足をとめた。
「ここから先は……覚悟して」
今までの優しい表情は消え、緊張感あふれる声が耳に届く。つばさはゆっくりと頷き、マミは何もないはずの空間に手を伸ばす。そこで、目を疑う光景が生まれた。
まるで空間を切り取って、円形のスクリーンに別の場所の映像が映されたかのようだった。だがその映像には、ノートの切れ端でできた壁と、定規を重ね合わせて作られた橋が見えた。それだけでつばさは今朝の夢と同じような空間だと察し、身構えた。
マミがつばさの手を引き、その空間へと踏み込んでいく。一瞬つばさはその手を振り払いたい衝動に駆られたが、かすかに震えるマミの手に気づいて握り返した。戦いたくはないが、彼女を置いて逃げ出す訳にもいかない。だからこれが今の自分にできる精一杯だろう。つばさは渋々とその空間に踏み込んだ。
自分はもっと怯えていいんじゃないだろうか。そういった考えが頭をよぎる。そうは思うものの、心は霧がかかったようにおぼろげで、怖いといった感情を感じなかった。あまりの異質な空間に加え、今日これまでにあった理解の範疇を超えた超常現象に感覚が麻痺してしまっているのかもしれない。どこかひどく落ち着いた頭でそう考える。
つばさとマミ、そしてキュゥべぇの一行はそのおとぎ話のようで、狂気が満ち溢れた世界を静かに、酷く静かに進んだ。途中通りかかる使い魔と思われる手足の生えた鉛筆と出会ったりしたが、どうやらこちらに関心はない様子でそそくさと通り過ぎて行った。
『おそらく既に餌は見つけたんだろうね』
キュゥべぇの《餌》という呼び方に不快感を覚える。軽く目の前を進む白い珍獣を睨みつけるが、気づいていないのか無視しているのか、キュゥべぇはさらに説明を加える。
『餌さえ魔女に献上していれば使い魔は基本的に自由奔放だ。その自由時間で力を蓄えて、使い魔もまた、魔女になる』
「なら、こいつらも全部やっつけないといけないんじゃ……?」
つばさは周囲を歩きまわる鉛筆に視線を向ける。この場で確認できる限りでも何千体もいるというのに、これが全部魔女に――あの夢で見た化け物のような大きさになるなど考えたくもない。だが身構えるつばさに対してマミが平静を装った声で答えた。
「魔女さえ倒してしまえば使い魔は結界と共に消滅するわ。だから魔女を見つける事を優先して」
なるほど。とつばさは頷いてその後についていった。鉛筆の使い魔も事を荒立てる気はないようで、こちらに気づいた素振りを見せつつもつばさの足元を通り過ぎていく。とはいうものの、つばさとしては夢の件もあって生きた心地がしない。
「止まって」
鉛筆を踏みつけないように注意しながら歩いていくと、ふとマミが手を挙げてその動きを制す。何かの入り口のようだったが、人ひとりが入れるような入り口となっていて様子がうかがえない。マミは一歩下がり、一つの宝石を持ち出した。その宝石に見覚えのあるつばさははっとなってそれを食い入るように見た。
琥珀色の宝石を包むように、金の装飾が成されたアクセサリ。色こそ違えど、つばさが朝、首にかけたそれと全く同じアクセサリだった。マミがそれを握りしめるなり、溢れんばかりの光が周囲を包む。
咄嗟につばさは目を閉じ、顔を両腕で覆うようにかばった。
光が収まり、彼が目を開けた先には既に彼の知っている学校の先輩である巴マミはいなかった。代わりに立っていたのは、全体的に中世をイメージさせるような意匠の姿になった巴マミだった。これが魔法少女の姿なのか、とつばさは関心する。そして浮かんだある疑問に対して、彼は隣にいる白い生物に反射的に問いかけた。
「ねぇキュゥべぇ…………僕もああいう格好になるの?」
『ああ、無論女性の服装だったよ』
「うぇ……」
どうせなら男性、とまでは言わずとも、中性的な格好に落ち着いて欲しかった。
「……お喋りはそこまで」
マミのあきれた視線に気づいてつばさは背筋を伸ばす。これまでの情報に間違いが無ければ、この先にはきっとあの夢で見た化け物がいるのだろう。正直言って、あれにどうやってこんな華奢な少女や、自分のような人間が勝てる要素があるのだろうか。体中に巨大な文房具が突き刺さる光景を思い出し、身震いする。
「つばさ君はここで見ていて、何かあったらキュゥべぇの指示に従う事。いいわね?」
「は、はい…………」
マミが先に行く以上、つばさはこの異常な空間で一人で待たなければならない。キュゥべぇはいるものの、正直言ってこの背丈の動物一匹というのはあまりにも頼りない。だからこそ、もしもの時はキュゥべぇの指示に従い――。
(戦わないといけない…………?)
そのもしもとは、どういう事なのか。それを考えようとして、やめた。考えたら最後、最悪の光景――今朝の夢の光景をこの目で見て、そして体験する事になってしまう。そんな不安が過ぎった。
「そんな不安そうな顔しない」
ぴん、と額を指で叩かれる。マミはどこからか取りだしたマスケット銃を一丁手に取り、目の前の出入り口を潜った。
「とっ……巴先輩! …………気をつけてっ……!」
つばさは慌てて後押しの言葉を送る。
「マミ、でいいわ」
振りかえりざま、ぱちりと片目を瞑ってマミは答えた。その仕草につばさの胸が高鳴る。
だが、
「っ……!」
やってきた。あの感覚が。胸の高鳴りも一瞬の内に鳴りをひそめ、薄れゆく意識の中でつばさはマミの背中を見送った。
そして現れた《彼女》はふらつく頭を押さえ、倒れかけていた体を渾身の力で立て直した。
「う……ん…………」
眠そうな声を漏らした彼女はぼんやりとあたりを見回し、それが自分の見知っている光景ではない事に気づくなり目を見開いた。
「ここは……!」
昨日と同じ光景。すぐさま自身の周囲から昨日出会った白き生物の姿を探し当て、恐る恐る声を掛けた。
「キュゥべぇ?」
『やぁ、お目覚めのようだね』
尻尾を揺らしながらキュゥべぇが振り返った。
「ど、どうしてまたこの場所に……?」
つばさはおろおろとしながら辺りを見回す。そこに、一つの銃声が鳴り響いた。
『始まったみたいだ』
酷く落ち着いた声でキュゥべぇは呟いた。銃声の方へ視線を向けると、そこには昨日も見たおぞましい怪物と、一人の少女がマスケット銃を次々と使い捨てながら戦う光景だった。あの人は見覚えがある。昨日私を助けてくれた人だ。
『さぁつばさ、魔法少女としての初陣だ』
キュゥべぇはつばさの足元まで寄ると、その赤い瞳で彼女を見上げる。つばさは一度喉を鳴らし、首から下げていた翡翠の輝きを灯すアクセサリを握りしめた。
「……行ってくる!」
言うなり、先ほどまでの怯えはどこえ消え去ったのか、つばさは凛々しい表情で目の前に小さく穿たれた出入り口を潜った。
同時に、握りしめたアクセサリがその内に灯す光を吐きだすかのようにまばゆい光を放つ。不思議と眩しく感じないその光を受け、つばさの服装が見るみると変化していった。
白いマントを身に纏い、黒く大きな帽子を目深に被る。そしてやはり黒いブーツに黒皮のグローブを装着し、目の前に突然現れた身長よりも長い箒を掴み取る。これがつばさの魔法少女としての姿だった。最後に胸元の金具にアクセサリを固定し、つばさは跳躍とともに手に持った箒に跨った。
「遠藤つばさ……行きますッ!」
跨った箒が宙に浮きあがり、その細い見た目のどこにそんな力があるのか想像もつかないような速度で加速した。つばさは自身に掛る空気の圧力に片目を瞑り、その加速に耐えて視界に映った巨大な魔女目がけて突撃する。
即決即断、それがもう一人の《遠藤つばさ》だった。
はい。という事で一章でした!
元々同人誌として頒布するつもりで書いた物なので割と展開巻きまくってます。
サブタイトルは原作に準えて本文中のつばさ君の台詞が用いられる事になります。
どっちかは規則性とかはないですが……。
次回冒頭より初戦闘。
『片方の人格を消したい』という願いで発言した魔法は何か!?(バレバレ
本編はプロローグ、エピローグ含めて全11話構成となります。
暫くの間お付き合いして頂けると幸いです!
適度な所でつばさ君プロフィールも後書きに記載したいですね……
それではまた次回!