ヒノカミ神楽ガチ勢が鬼滅世界にINする話   作:Michael=Liston

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 おいたわしや、無惨様…。


無惨様…

 ――兄は昔から物静かな人だった。

 弟や妹が大声を出してはしゃいでも静かに微笑んで見守っていて、まるで父のような人だった。あの子たちもお父さんが病気で命を落としてからはよりいっそうお兄ちゃんにひっつくようになったし、お兄ちゃんの落ち着いた雰囲気がお父さんにそっくりだというのもその理由の一つだったのだと思う。

 

 

 ――兄は太陽のような人だった。

 お兄ちゃんの落ち着いた雰囲気はお父さんにそっくりだったけど、お父さんとは明確に違うところが一つだけあった。お父さんは、植物のような人。とても優しいけれど、見ていて不安になってしまうような儚さがあった。お兄ちゃんは太陽のような人。誰よりも暖かい。そばにいるだけで何の理由も無く安心してしまう。お兄ちゃんならばどんなことがあっても大丈夫っていう不思議な気持ちにさせられる。

 

 

 

 

 お父さんは病で亡くなり、残ったのは六人兄妹と母一人。雪が盛んに降る地域で炭を売って生計を立てる。

 決して楽な生活ではなかった。でも優しいお母さんとお兄ちゃん、遊んで遊んでとせがんでくる弟や妹たちにかこまれて過ごす毎日はとても幸せで。

 ずっと、こんな日々が続いていけばいいのに、と思っていたのに………。

 

 

 ▲▲▲

 

 コンコン、と戸が叩かれる音がしたのは、日も沈み、家族全員が寝静まってしばらくしてからだった。深夜の静寂のなかでその音はやけに大きく響き、家族全員が目覚めたようだった。こんな時間に来客なんて来たことがない。もしや、山の中で道に迷ったのだろうか。

 

「はーい、今行きまーす。」

 

 少しばかりの懸念を抱きながら、弟である六太を抱えたまま偶然戸の一番近くにいた禰豆子は戸を開けようとした。

 

「待て」

「お兄ちゃ、ん?」

 

 それを横から鋭く静止したのは兄である炭治郎の声だった。振り返った禰豆子は見たこともないほど真剣な顔つきの兄の姿を見て大きく目を見開いた。

 目つきは鋭く、手には鞘に納まった刀。いつだったか数年前、探検しにいくといって家を飛び出した兄が持ってきた刀だ。

 

「やっぱり今日は家にいて正解だった。茂と花子のおかげだな。」

 

 本来ならば炭治郎は今日炭を売りに街に行く予定だった。だがつい最近に父を失ってしまった悲しみからだろうか、茂と花子は炭治郎が街へ行くことに駄々をこねまくり、炭治郎は困ったように笑ってじゃあ今日は家にいようかと言ったのだ。

 

「炭治郎?どうしたの?」

「そうだよお兄ちゃん、刀なんか持って。そんなに警戒することじゃないでしょ? 道に迷った人かもしれないし……。」

 

 疑問に思って声をかけた母に禰豆子も続く。当の炭治郎は振り返ることなく、炭治郎を除けば最も年長の男児である竹雄に声をかけた。

 

「竹雄、もしなにかあったらお前が家族を守るんだ。」

「兄ちゃん?」

「分かったな?まあ、もしものことはないが。」

 

 刀を持ったまま禰豆子を自分の後ろへとおしやり、竹雄の返事すら聞かないままに炭治郎は外へと出てピシャリと戸を閉めた。

 

「お母さん……」

「どうしたのかしらあの子…。なんだか普通じゃなかったね…」

 

 困ったような顔をした禰豆子に母である葵枝は答えた。

 実際炭治郎の様子は異常だった。廃刀令が出された日本ではあるが、炭治郎が刀を持っていることは知っていた。取り上げるべきかとも思ったが、長男ということもあり様々な我慢を強いている負い目もある。なにより珍しく興奮した様子で刀を手に家から飛び出していく炭治郎の姿を見ては取り上げることもできなかった。

 問題は、あの炭治郎の顔つきである。生まれてからの炭治郎を誰よりも長く見てきた葵枝でさえも炭治郎のあのような、怒ったような表情は見たことがない。そうだ、炭治郎は間違いなく怒っていた。生まれてこの方怒りという怒りを顕にしたことのない炭治郎が、誰とも知らぬ来客に対し葵枝にしかわからぬ程度ではあるが確実に怒っていたのである。

 

「やっぱり、あのお兄ちゃんなんだか変だったよ。私ちょっと様子を見てくるね。」

 

 禰豆子がそういったときだった。

 

「姉ちゃん!!」

 

 竹雄が禰豆子に飛びつき、地面に押し倒した。直後、家の戸が内側に吹っ飛び、舞い散る埃と木屑の中を大きな塊が高速で横切り、家の壁すら貫通して木に激突した。

 

「今のは…?」

「大変だ!兄ちゃんが!」

「兄ちゃあん!!」

「お兄ちゃんが血を流してる!」

「――え?」

 

 言われて葵枝と禰豆子が壁に空いた穴を覗くと、たしかにそこには血を流す炭治郎の姿があった。

 

「お兄ちゃん!」

「炭治郎!」

 

 一体誰がこんなことを――、

 怒りと、そして焦りが頭を占める中で、カツン、とやけに大きく響く足音を禰豆子の耳が拾った。

 

「貴様、よくも人間の分際で私に傷をつけたな……!!」

「――あ」

 

 振り返った先にいたのはあきらかに人間ではなかった。いや、基本的な形は人間であることに間違いはなかった。

 男には腕がなかった。そう、腕がなかったはずだった。たしかに禰豆子が振り返ったとき男は片腕を失っていた。だが今はどうか。禰豆子は固唾を呑んで見つめる前で、みるみる男の腕が生えていくではないか。

 男と禰豆子の目が合う。

 

「ちょうどいい。貴様を殺す前にこの人間どもを鬼にするとしよう。貴様がどのような顔をするのか楽しみだ。」

「禰豆子、皆を連れて逃げなさい!!」

 

 恐怖に体が竦み、動けなくなった禰豆子の腕を葵枝は力一杯に引っ張り上げて叫んだ。せめて、子供たちだけでも――。

 化け物相手に一体どれだけの時間が稼げるのか。自身の命をかけてでも子供たちだけは守る。強い覚悟を瞳に宿して葵枝は男を睨みつけた。

 だが――

 

「やあああああ!!」

 

 響き渡ったのは聴き慣れた声。

 見れば竹雄が木刀を手に持って男に切り掛かっていた。

 

「だめよ!竹雄!!」

「下らん。」

 

 叫ぶ葵枝を嘲笑うかのように男は再生しきった腕を振った。それだけで竹雄が手に持っていた木刀が砕け散る。

 

「気が変わった。まずは貴様からにするとしよう。」

「――あ」

 

 ぺたん、と。 

 地面にへたり込んだ竹雄に向かって男が手を振り上げる。

 葵枝にはそれらすべてがひどくゆっくりに見えた。

 

「貴様は太陽を克服した鬼になれるかな?」

 

 おに、オニ、鬼。

 さっきからこの男は何を言っている?そんなものが実在するのか?

 太陽を克服できない生物。日の光で死んでしまうもの。

 葵枝には一つだけ、心当たりがあった。

 この家にだけ先祖代々伝わる、300年前から受け継がれてきた舞。他では見ぬそれに、葵枝は疑問に思ってその正体を尋ねたことがある。

 

『――約束なんだ。』

 

 あのとき、生まれたばかりの長男を腕に抱いた夫はなんと言っていたのか。

 

『――俺の先祖の、恩人が為したものを後世に伝える。

 あの人の存在が決して無価値じゃなかったと証明する。

 だからこの子にも舞を継いでもらうことになるよ。』

 

 

『舞の名は――』

 

 

 

 

「『――ヒノカミ神楽』」

 

 

 

 振り下ろされた腕が斬り飛ばされる。

 腰を抜かした竹雄の前に悠然と立ちはだかるのは誰よりも憧れる兄の姿だった。

 

「兄、ちゃん」

「よくやったな、竹雄。流石は兄ちゃんの弟だ。あとは任せておけ。」

 

「遅、いんだよ……」

「竹雄!!」

 

 初めて経験する死の恐怖。それでもなお母を守るために飛び出した竹雄の精神は限界寸前だったのだろう。安心するように気を失った竹雄に葵枝は涙を流しながら竹雄に駆け寄った。

 

「母ちゃん、竹雄たちを連れて下がっててくれ。禰豆子達を頼む。」

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だ、禰豆子。俺は負けない。

 なぜならば、兄ちゃんは――

 

 

 ――世界で一番強いからだ。」

 

 

 ▲▲▲

 

 静かに刀を構える少年を、男、無惨は激情の宿った瞳で睨みつけた。

 額に奔る大きな痣。頭の後ろで一つにまとめあげられた長い髪。そしてきわめつけの太陽の耳飾り。全てがかつて無惨をあと一歩のところまで追い詰めたあの男に重なる。

 

 だが、まだ大丈夫だ。こいつはあの男ほど化け物染みてはいない。刀も赫くなってはおらず水色、あの男のようになんの感情も浮かべないことはなく、そしてなにより無惨の攻撃に対応できていなかった。

 

「私は攻撃に私の血を混ぜる。私の血を体内に入れたものの末路は二つだ。知っているか?」

「知らん。」

「私の血に耐えられず命を落とすか、あるいは適応して鬼になるかだ。」

 

 そうだ、だからどちらにせよ、炭治郎に勝利はない。適応して鬼になったとすればその時点で炭治郎は無惨の奴隷も同様。死ぬなら死ぬで無惨の命を脅かす者が減って損はない。

 痣が発現しているためおそらく死ぬことはないだろうが、このまま戦ってさらに血を入れれば確実に鬼にできる。

 

「強ければ強い人間ほど私の血に適応し鬼になるには時間がかかる。

 私の最も強い配下は3日かかったが貴様はどうかな?」

 

 無惨の中で勝利はもはや確定事項だった。無惨が腕を切り落とされたのは完全に慢心しきっていたからだった。つまり慢心さえしていなければ、あの程度の攻撃どうとでもなる。

 だがそれは、炭治郎がそのとき本気で攻撃をしていたならばの話である。

 

「何の話をしているんだ?俺はお前の攻撃なんて一度もくらっていない」

「何?」

「本気を出していると思っていたのか?

 俺はお前からでた血を服に塗ってお前の攻撃を喰らったように演技しただけだ。」

 

 ――この男は、何を言っている?

 確かにこの男は攻撃を喰らったはずだった。感触もあった。まさか、あれは錯覚だった?

 いや、そんなはずはない。そんなことが出来るとしたらそれは血鬼術のみ。人の身であるこいつには――。

 

「………」

 

 そこで、無惨は思い出した。

 おそらく炭治郎は唯一無惨を追い詰めた男の呼吸の継承者。ならば、もし炭治郎があの男と同格の強さを保有しているとすれば?

 可能性はゼロではない。

 サァっと。

 血の気が引くのを無惨は感じた。

 

「油断させて一息に殺すつもりだったんだがな。

 そろそろ本気を出そう。」

 

 ここにきて初めて炭治郎が刀を両手で持った。

 両手に脈が浮かび上がる。ギシィ!!と音が鳴る。刀だ。炭治郎が万力の握力で刀を握りしめただけでうるさいほどの音が鳴っている。

 

「――卍解、爆血刀。」

 

 その瞬間、無惨は信じられぬものを見た。

 炭治郎が持つ水色の刀が突如として炎に包まれ、刀身が赫くなったのだ。

 無惨の頭がズキリと痛む。

 細胞に刻まれた300年前の恐怖の記憶が強制的に記憶の奥底から引き摺り出される。

 ――そうだ、あの男が使った刀も今のこいつと同じ赫い――

 

「日の呼吸、壱の型――」

「鳴女ェ、戻せええええ!!」

 

 

 

「――円舞」

 

 

 

 

▲▲▲

 

 ふぅ、というわけでイカした西洋の服を着たマイケル・ジャクソンみたいなやつを撃退することに成功いたしました。私炭治郎、感激の極みでございます。

 生まれてから早十数年、この世界がファンタジー世界だと気付いてから遠くの山で山の王に貰った刀を振り回しておいてよかったとこれほど思った日はなかったよね。

 そう俺は転生者。どうでもいいけど。

 この世界がファンタジーだと気付いた理由はいくつかある。

 まず第一にこの体。鼻が利くよそりゃもう。匂いで感情がわかるってそれもう勘違いじゃないですかやだー。

 第二に額の痣。生まれたときからあるらしいけどこの痣の形がなんとも中二心を燻る形でございまして…。こんな形ファンタジーじゃなきゃありえんだろうということで。

 あとはやっぱりするだけで疲れなくなる呼吸とパピー曰く透き通る世界ってやつ。透き通る世界っていうのは文字通り世界が透けて見えるらしい。パピーが真面目な顔して言ってた。俺にもできるようになるっていうもんだから街ゆく人の裸体を拝みたいなーと思って、透けろー、透けろーと目に力を入れてみたらあら不思議世界が透けたんですわ。でも透かしたい思いが強すぎたのか裸体を通り過ぎて内臓や筋肉をみれるようになってしまった。出来たか? ってきかれたけど流石に裸体通り過ぎて体ん中見ちゃいましたとか言えねーからできませんでしたとしか言いようがなかったよ。

 あと呼吸だよね。息するだけで疲れなくなるってどうよ。冗談じゃなしに三日三晩走り回っても少しも疲れないわけよ。多分この世界はファンタジーだから大気にはマナのような霊力のようななにかが漂っていて、正しい呼吸を使うことでそれらをエネルギーに変換してるんだよねきっと。証拠に魔法使えたし。刀に力を込めたら赫くなるし炎が出る。かっこいい。パピーは魔法とは違うって言ってたけど多分そういう発想がまだこの世界にはないだけなんだろう。

 でも今日は家にいてよかった。花子と茂の可愛さに感謝感謝。

 よくない匂いがしたから出てみたら心臓と脳何個も持ってるやつがいたから超ビビった。色々理由があって負けるフリしようと思ったんだけど竹雄が狙われたからやっぱり倒すことにした。ごめんよみんな、怖い目に遭わせて。

 今はみんなで家の修理してる。夜も明けたし。

 あ、お客さん来た。

 はいはいどちらさまー?

 

「鬼殺隊の冨岡義勇というものだ。少し伺いたいことがある。」

 

 ふむ、やっぱりここは刀で戦うファンタジー世界なんだね。

 

 

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