ヒノカミ神楽ガチ勢が鬼滅世界にINする話 作:Michael=Liston
今回は何の戦闘もありませんし、お目当ての人物ですら登場しません…
久々すぎてこの書き方であってんのかめちゃめちゃ不安…
「――あまね。」
「どうなされましたか、御館様。」
先ほど鬼殺隊への入隊を宣言してくれた炭治郎が部屋を出た後、一人物思いに耽っていた産屋敷耀哉は愛する自身の妻、産屋敷あまねに声をかけた。すぐさまあまねは反応し、耀哉のそばへと寄り添う。既に柱達も下がらせ、この場にいるのは耀哉とあまねの二人きりである。
「あまねは彼のことをどう思ったかな?」
「私は短い間しか彼のことを見ていませんが、芯のしっかりしているように思えました。あの齢であそこまで成熟した精神の持ち主を見たのは、それこそ貴方に出会ったとき以来です。」
彼は、竈門炭治郎はおおよそ普通の子ではなかった。わずか齢十と少しの少年が、家族を守るためとはいえ命の危険の大きい場所へ、それも即決で身を落とすことを良しとしたのだ。あまねだけでなく、柱の面々もあの瞬間の驚きは大きなものだったといえるだろう。
「うん、私もそうだった。そうだったんだけどね…。」
耀哉もそうだった。ただ耀哉が他の面々と違ったのは、炭治郎から感じたものが“家族思いの優しい少年”というだけではなかった、とうことだった。
「御館様?あなたは何かほかのものを感じ取られたのですか?」
「うん。あまり柱の子供たちや、彼のお母さまには言えないことだったからね。」
「あまり良からぬことだった、ということですか…?」
「彼は、炭治郎は間違いなく鬼殺隊で最も強い剣士だろう。これからそうなるんじゃなくて、おそらく現段階でそうなんだ。鬼舞辻無惨を相手にして家族全員を無傷で守り通し、あまつさえ手傷を負わせるなんて歴代の柱でも出来た所業じゃないだろう。
でも、彼の精神は驚くほどに未熟だった。」
「未熟、ですか…?」
でも、実際炭治郎が喋っている姿を見たあまねは、否、他の柱達も皆そうだったのであろうが、とてもではないがそのようには見えなかった。先ほど自分が言ったように、これほどまでに完成された精神を持つ子供がいるのかと驚愕したほどである。
そんなあまねの心を読んでか、いや、実際に読んだのであろう耀哉はいつもの微笑みを消し、いつになく神妙な面持ちだった。
「だからこそ炭治郎は異常だった。
他の同じ年の子供どころか、大抵の大人よりも完成されているのに、どこか不安定だった。そして私にはそれがとても歪に見えたんだ。
…これは勘だけど」
産屋敷は勘、先見の明ともいえるそれが並外れて優れている。鬼殺隊を千年以上もの間ほぼ一族の財力のみで支えてきた彼らだが、当然その財は有限である。ではどのようにして鬼殺隊を支えてきたか。先にも言った勘である。彼らはその勘でいくつもの財を成し、財政面におけるいくつもの危機を乗り越えてきたのだ。そういえば、いかに産屋敷一族の勘が優れているのかわかるというもの。
逆に言えば、この一族が勘で感じ取ったものはほぼ間違いなく的中するのである。
だからこそ。
耀哉が続けていった言葉はあまねにとってこれ以上とない衝撃だった。
――彼は鬼との闘いを終わらせる存在にもなるだろうし、反対に私たち鬼殺隊に破滅をもたらす存在にもなるだろう。
▲▲▲
――駆ける。
ただひたすらに駆ける。
鬼殺隊の隊員の主な移動手段とは基本的に己の足である。馬車や人力車などが主な移動手段であった大正時代であるが、鬼殺隊はこれらの移動手段をあまり用いることがなかった。
理由は簡単。遅いからである。
鬼殺隊はその全てが、柱は言わずもがな、その末端のなり立ての隊士でさえ常人離れした身体能力を持っており、何よりも自分の足で駆けた方が速かったのだ。
という理由で、炭治郎と天元は自然豊かな田舎道を凄まじい速度で駆けていた。
駆けながら、天元は隣で汗水一滴すらたらさず、余裕な顔で走っている炭治郎へ向かって声を投げた。
「それにしてもド派手に納得のいかねえ話だな。」
「何がですか?」
「全部だよ。
その珠世って女が鬼だってのに会いに行こうとするお前も、それを容認した御館様も含めて全てだ。」
先日の柱合会議の折。
炭治郎は珠世という女を探したいと耀哉に頼み込んだ。その名を聞いた瞬間、耀哉が何故か一瞬驚いた顔をしたのを天元は見逃さなかった。その後は珠世という女についてはあまり触れず、炭治郎から無惨の戦闘方法や声の特徴などを柱全員で共有し柱合会議はお開きとなったが、その後炭治郎のみ耀哉の下に残されていた。十中八九珠世について話していたのだろう。わざわざ柱達を下がらせた上で話すなどよほど柱達は知らない方がよいことなのかと思ったが、後日炭治郎と共に行動する柱として白羽の矢が立った天元は耀哉の下へと召集され、大いに納得したものだった。
――曰く、珠世とは少なくとも戦国時代から生きながらえている鬼の女である。
当然、この事実を知った天元は思わず反発したものだった。なぜ所在のわかっている鬼を野放しにしているのかと耀哉に問いかけた。だが耀哉はそんな天元の問に答えず、ただここから先は天元の目で確かめてくれ、の一点張りだった。敬愛する耀哉に言われてしまえば天元も何も言えず引き下がるほかない。
だが、何故自分に白羽の矢が立ったのか、それは言われずとも理解していた。
柱達の中で、最も天元が鬼への恨みを持っていないからだ。
鬼殺隊の隊員はごく一部の例外を除き鬼へのぬぐい切れぬ恨みを持っている。彼らは皆鬼に親を、兄弟を、友人を。大切なものを奪われ、仇を討つために刀をとったのである。だからこそそんな中で天元や炎柱の煉獄杏寿郎などのような鬼への恨みの少ない者はこの上なく稀有だった。
実際、耀哉も天元か杏寿郎、どちらに炭治郎の下へと行かせるのか悩んだという。
だが結局、白羽の矢が立ったのは天元だった。
杏寿郎は鬼の頸を斬ることを生まれたころから教え込まれている。悪くいってしまえば、鬼の頸を斬ることに疑問を挟み込む余地が彼にはなかったのである。鬼殺隊設立当初から代々炎柱を輩出し続けてきた煉獄家の者ともなればその考えは仕方がなく、そしてこれ以上に正しいものだろう。だがだからこそ、今回炭治郎へと同行させるのは誰か悩んだ際、その考えは致命的だった。
故に唯一、精神が成熟し、かつ鬼への恨みがない状態で鬼殺隊へと入隊した天元が炭治郎のもとへと赴くこととなったのだ。
そしてその責の重さを天元は正確に理解していた。
今、天元は鬼殺隊の命運を左右する存在といってもいい。炭治郎がわざわざ探しにいくというのだから、珠世という女は彼にとって必要な存在なのだろう。そんな女を柱である自分が真っ向から頭ごなしに否定してしまえばどうなるか。
無惨を倒すという意志を持っている以上鬼殺隊と対立することはないだろうが、彼とこちらの間に何等かの溝が出来てしまうことは間違いない。時透兄弟以上の実力を持つと目される彼の存在は極めて重要だ。何の憂いもなく背中を預けられるような関係を築いておくにこしたことはない。
天元が珠世を否定してしまえば、もはや鬼殺隊に彼女を受け入れる余地はない。だからこそ今、天元の手に鬼殺隊の命運が握られているといっても過言ではないのだ。
――御館様は、天元が選んだことならどんな選択でも受け入れるって言ってくださったがな…。
「貴方は今の鬼殺隊と、何百年にも渡って無惨だけを追求してきた鬼。
どちらがより有益な情報を持っていると思いますか。」
「そりゃあ、鬼の方に決まってんだろ。」
珠世のことか。
天元は息をつきながら一人ごちた。
「炭治郎、俺はうだうだ言うのは好きじゃねえから先にはっきりと言っておく。珠世って女がどんな奴かは知れねえが、鬼ってだけで鬼殺隊のやつらは受け入れようとはしないだろう。当然、柱のやつらもだ。」
澄んだ、赫みがかった瞳でこちらを見やる炭治郎を見つめ返しながら天元はつづけた。
「おそらく、いや間違いなく鬼殺隊の中で鬼に対し最も寛容であれるのはこの天元様だ。俺のいいたいことは分かるか?つまり、俺が珠世って女を認めないと言ってしまえばもうそれでこの話は終わりになる。」
だから。
「だからこの俺様を派手に説得してみやがれ。珠世って女が人を食わない鬼だってことは御館様から聞いた。それならまだ余地はある。
その珠世って女を鬼殺隊が受け入れてどんな利点がある?」
その言葉に。
暗にことと次第によっては俺が珠世と鬼殺隊とをつなぐ架け橋になってやるという言葉に。
炭治郎は柔らかな笑みをこぼした。
「さっきも言った通り、珠世さんは数百年前から無惨を殺すため、無惨および鬼という生き物を追求してきた鬼です。
だから彼女が我々の知らない情報をいくつも握っていることは間違いありません。」
正確には分かりませんが、と続ける炭治郎。
「彼女がかつて無惨の支配下にあったときの上弦の鬼の情報などを持っているかもしれません。上弦の鬼はここ百年以上顔ぶれが変わっていないと聞きました。それならあるいは、現在も上弦のままでいる鬼の情報を得られる可能性は大いにあります。」
情報とは、武器である。
元忍である天元だからこそ、その価値が誰よりも分かる。情報が一つでもあれば状況は大いに変わる。この情報一つ知っていたから勝てた、などということも命のかかる鬼狩りの戦いでは珍しくないのだ。
例えば強力な鬼のみが使える異能の力、血鬼術や、その鬼の戦闘方法など。それ一つで有利不利は簡単にひっくり返る。
「彼女をこちら側に引き入れることの利点は情報だけではありません」
「ほう?」
視線で天元は先をうながす。
「彼女は医者です。数百年にわたって人の命を救ってきた彼女の医療技術は今や国内でも並ぶ者はいないほどでしょう。死の絶えない鬼殺隊において彼女の医療技術は大いに有用でしょう。」
――さらに。
「彼女には研究者という側面もあります。
我々が鬼を狩り、彼女に研究材料として提供すれば無惨の血の研究が進み、鬼を人に戻す薬や、一瞬だけ鬼の再生能力を人に与えて命を救う薬なども作り出すことが出来るかもしれません。」
「……。」
まずいな、と。
天元は口には出さず、心の中でつぶやいた。
間違いなく、心が揺れ動いている。珠世を受け入れる方向にだ。
聞けば聞くほど、炭治郎の言うことが本当であるのなら拒絶する理由がなくなっていく。何より人を食わずに生きているという時点で彼女が鬼であるという事実への嫌悪さえ抜きにすれば利点しかないのだ。
炭治郎が最後に言及した薬についてもそうだ。
鬼を人に戻す薬を作れたならば。百年以上討伐報告のない上弦の鬼さえ真っ当な手段で殺す必要はなくなるのだ。薬を打ち込めさえすれば彼らは鬼でなくなる。そうなってしまえばあとはもはや容易くその頸をとれる。
もう一つ彼が言及した一瞬だけ鬼の再生能力を得る薬については鬼殺隊では賛否両論あるだろう。鬼に復讐するために刀を手に取ったのに、一瞬とはいえ鬼になるのはいかなものかと。だが自分が鬼と戦い死に瀕し、かたわらにその薬があったとき。果たして三人の嫁達のことを思えば、自分はどうするのか考えたとき、答えは出ず。その葛藤が、何よりの答えだった。
「…あれが東京、浅草だ。」
夜道の先にうすぼんやりと見え始めた街の光に、半ば話を強引に変えるかのように天元は足を止めた。
「あそこに珠世さんが…。」
感慨深げに光を見つめる炭治郎を視界の片隅にとらえながら、天元の目は鋭くなっていった。
――珠世を受け入れる利点は大いに理解した。あとは、彼女が如何な人物であるかだ。
▲▲▲
今日は長ーい遠足だった。いやー東京遠すぎんよ。俺たち今日一日中走ってたんだぜ?まあ全然本気じゃなくてかるーくだったけど。
てかふと気づいたんだけど天元さんも冷静に考えたらヤバいよな。いや性格じゃなくて身体能力の話だよ?天元さんも一日中走ってたんだから大気中のマナを効率よく使えてるんだよね。世界で僕だけじゃなかったんだね。うれしい反面ちょっと残念。
耀哉さんも言ってたんだけどやっぱし珠世さんを鬼殺隊に受け入れるのはめちゃくちゃ難しい。でも天元さんは説得してみた感じ行けそうだよね。柱の人たちと鬼の間に何があったのかとかはほぼ知らないけど、少なくともしのぶさんは難しいよね。
でも珠世さんってばべらぼうに美人だから、男の人たちは許してくれそう。一目見た瞬間そのあまりの美しさに涙してこの世に生まれた奇跡に感謝すること間違いなしだよね。
お、耀哉さんにもらった超絶賢い鴉である師匠がなんか手紙持ってきてくれた。なんか俺のこと弟子って呼んでくるからね、師匠って呼ぶしかないでしょ。
耀哉さんからの手紙だ。なになに~?
禰豆子が鬼殺隊に入りたいって言ってる?
――――――――は?
色々悩んだ結果、この作品はイージーモードつまり炭治朗の炭治朗による炭治朗のための無双ルートと、最後滅茶滅茶苦戦する激ムズルートがあったんですが、後者の方に進むことになりました。
よろしくお願いします。