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生きるのに必死っていうか。
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体育館の中央に、まるでカルトの儀式であるかのようにぐるりと円を囲むようにして並べられた机と椅子。
それは壇上に置かれていた演説台とよく似ていた。
配慮のつもりなのだろうか。人数分ある席は死んでしまった帚木と熊谷の分まで用意されていて、二人の席らしき場所にはそれぞれの遺影までもが置かれてあった。
熊谷の写真はここに来る前に撮られたものなのだろう。写真の中の彼女は花柄の着物がよく似合っていた。
帚木も、いつものような明るい笑顔を白黒の紙に落としている。
明るいようでいてまるで暗い二枚の写真は、生者との明確な違いを克明に表していた。
悪趣味の一言では片付けられないような命に対する冒涜がそこにはあり、人によっては見るにも耐えないようで、目を逸らす者だっていた。
雲隠はただ、愚直に前を向くことしかできなかった。
召集の放送によって体育館に集められた彼らが、途中諸事情による席の交代などあったものの(今朝から藤袴の体調が一向に良くならず、付き添いとして隣に待雪が立つことになったのだ)ひとまずはそれぞれが、自らの名札が置いてある机に立ち上った。
そしてその時機を見計ったように一人の男が──神座出流が──暗幕の裏から現れたのだった。
「諸君」
男の登場により、場が緊張や嫌悪の感情で満たされるのを肌で感じ取れた。
良くも悪くも、あの男は生徒たちに強い影響を与えているらしい。神座は好奇心が隠し切れていない目つきでこちらに見ていた。
「それぞれ思うところもあるだろうが、生きるために悔いなく存分に推理をしてくれたまえ。──クロであれシロであれ、このようなところで死んでしまうというのなら超高校級の名折れと言えよう」
その超高校級というのが、雲隠にとってはよく分からないのだった。明確な疑問があるわけではないのだが、ただその言葉に流されてしまっている自分がいるように感じるのだ。
何か一つの分野で突出しているだけで、超高校級と呼ばれる彼らの本質はただの子供である。それも年端もいかぬ精神的にも未熟な少年少女ばかり。
この殺し合いは何らかの実験であると謳われているが、青少年らの戦闘能力、ひいては非従軍者の環境適応能力を知りたいというのなら、そこに超高校級と呼ばれる彼らが必要であるとはどうしても思えなかった。
だって、そんなことは他の高等学生であっても事足りるのだし、サンプルとして“ある分野において才能を発揮する未成年者”なんていう条件が必要だとは思えない。
そもそも殺し合いなんていう過程を経て得た実験結果から、いったいなにを見出すことができるというのだろうか?
それに超高校級なんていう肩書きも、政府公認だかなんだか知らないぽっとでの教育機関が定めた、実績も何もないおかしな格付けなのだ。
真に才能を持つ人がいたとしてもだ。それでも彼らはまだまだ不揃いの青い半ちくばかりである。
未熟で、蕩けていて、故に形が壊れやすい。
実験材料として扱うのにはあまりにも危うい存在だ。
どうせならもう少し時間をおいて成熟させたほうが研究結果とやらも良いものが出るだろうに──雲隠は、そう思わずにはいられなかった。
思うにこの生活は、前提からなにから破綻しきっていると言えばそうだった。
だから今、雲隠らが巻き込まれているこの殺し合い生活が、一体どのような目的を伴った実験の材料となるのかはてんで想像がつかないものだった。
こんなこと道楽でできるはずがないのだから、必ず何か強い目的が存在しているはずなのに……それがどうしたって彼には見えないのだ。
そんな不明瞭さは、不安として彼らの心に巣食っていた。
人だって殺しかねないほどに。
「明確な制限時間を明かせば、推理が煮詰まった際に焦りが生じるだろう。そのため、今回は制限時間は設けないことにする。確実に犯人を見つけたまえ」
学級裁判。
もし雲隠らが犯人を言い当てれば、犯人は処刑される。
逆に犯人を見つけることができなければ、自分たちは全員死ぬ。
人の命は決して軽くはないのだということを雲隠は知っていたから、どうせならば、そんなに人が死なない方を選びたいと密かに決意した。
(とはいえ、僕になにができるだろうか)
斜め前にいる澪標の顔をちらりと見上げてみる。
彼女に緊張している様子はなく、いたって涼しげな、平然とした顔つきだった。
ただそれでもちらちらとよそ見をしているあたり、今の状況に対して興味を抑えることは難しいらしい。
(立竝さんが興味を持つなんて珍しいことだ。……いや、最近じゃ他にもあったっけ)
先日のことを思い出す。
彼女にしては珍しい言動だったと、比較的印象に残っている記憶を思い起こしていた。
澪標がなにかに興味を持つなんてほとんどないことだったから、長らく彼女と共に過ごしてきた雲隠は今までとは違った雰囲気を嫌でも意識させられた。
(そのことが気になるけど……ともかく今は学級裁判だ)
一旦澪標からは目線を外して、広く体育館を見渡した。
警戒することもそうだが、雲隠は誰かが話し始めるのを待っていた。
結果として雲隠は、そう待つ必要もなかった。
神座が話終えてからそう間も置かずに、篝火という男が「待てよ、てめェ」とその怒気を含んだ鋭い目つきで神座を睨みつけたのだ。
篝火の声は罵声とそう変わりなく、怒りを無理やり押し込めたようなもので、今にも破裂しそうなくらいだった。
「本当にこの中の誰かが、帚木と熊谷の二人を殺したッつーのかよ……ッ! 帚木は小柄な体格だったし、熊谷は女だったが、だからッてアイツらも人間だ。二人の人間を無抵抗なまま殺せるやつが俺らの中にいるとは思えねェ!」
血が滲む拳を台に叩きつけて、篝火は叫んだ。
「アンタら大人が、あの二人を殺したんじゃねェのかよッ!」
神座は、その言葉に対しやや考える素振りを見せると、冷ややかな態度で淡々と言葉を返した。
「……それはありえないとだけ言っておこう」
「アァ?!」
「私たちはあくまで運営の側に過ぎない。こちらから諸君に危害を加えることがあるとすれば、それは自己を防衛するときだけだ。……そのときだって、私たちは非殺傷性の道具を用いる」
「じャァよォ、……じャァなんであの二人は死んだ?!」
「諸君の内の誰かが二人を殺したからだ。事実を受け入れたまえよ」
「ンな話、信じられるかよッ!」
篝火は、今度は台を蹴り飛ばした。それはあまりにも強烈な蹴りで、派手な音と共に台が倒れ、木片が宙を舞った。
だがそれに動じることなく神座は言葉を返す。
「信じようが信じまいが君の勝手だが……私たちは貴重な研究材料を無駄にするようなことはしない。例え二人を失ったとしてもこの実験の続行を望み、諸君との信頼関係を崩さないためにも、事の顛末をキチンと説明することだろう。……“事故が起きたのだ”と」
「……ッ! てめェ、ふざけやがッて! アイツらのことを実験材料としか思ッてねェのか……ッ!」
「おい待てっ、篝火! そこまでだっ」
今にも神座へ掴み掛かろうとする篝火を、後ろから羽交い締めにする形で匂宮が止めに入った。
二人は人殺しが起きないようにと夜警を行ったり危険人物を捕縛するなどして治安維持に奔走していたから、だからこそ人一倍、二人が死んでしまったことに対して強い悲しみと憤りを感じているのだろう。
篝火は露骨なまでにその怒りを顕にしていたし、匂宮もなんとか感情を抑えているのか、顔つきはずっと険しかった。
彼ら二人と行動を共にしていた藤袴という女子生徒だって、今回の殺人を受け、いつもの厳粛な態度とは一転し顔を青くして黙り込んでいる。
匂宮は腕の中で暴れる篝火に対し、その暴力的な怒りに真正面からぶつかる形で言葉を言い聞かせた。
「あいつらの言っていることは倫理観に欠けるが、めちゃくちゃってわけじゃない。認めたくはないが、確かにあいつらには
「分かッてんだよそんなこと……ッ! 離せ匂宮ッ! 俺ァ、アイツらぶっ殺してやンだよッ! 元はといえばアイツらが原因だろうがァ! 殺し合いなんつーことがなけりャ、あの二人は死ななかっただろうがッ!」
更に激しい抵抗が起こる。篝火の後頭部による頭突きが匂宮の顔面に直撃し、彼の鼻からは血が激しく噴出した。しかしそれでも匂宮は篝火を離そうとはしなかった。
きっと彼は分かっていたのだ。ここで拘束の手を緩めてしまえば、神座へと殴りかかるだろう篝火が周りの軍人に射殺されてしまうことに。
「聞けよッ、篝火!」
今度は匂宮が、羽交い締めのまま前方へ倒れる形で篝火を地面へと押し倒した。体育館の床と篝火の額が直撃し、緩衝材も何もあてがわれていない床面は酷く目眩がするような鈍い音を立てた。
「聞けッ!」
そこでようやく、篝火は動きを止めた。額から流れる鮮血が、頭部を襲う鈍痛が彼を正気に戻させたのだろう。
「確かにそうだ。アイツらがいなけりゃ二人が死ぬことはなかった。それが事実だ!」
匂宮は、張り裂けんばかりに喉を震わた。耳奥が痺れるほどに強い感情が込められた言葉だった。
「だからこそ、オレたちはこんなところで死ぬわけにはいかない……ッ。生きて、生き残って……! 今逸っても、むしろ殺されるだけだぞ!」
「……ッ、ああクソ! 頭では理解してンだよ! 今出てったって、銃で殺されることくれェよォ……けど、けどよォ……」
匂宮の誠実な気持ちは感じ取ったのだろう、けれど篝火は悔しそうに何度も額を床へ叩きつけた。
やるせなさや、無力さは、痛みでは打ち消せないものだった。
「……耳を貸せ」
匂宮は羽交い締めのままに、篝火の耳元に口を寄せて、小さな声で何かを言った。
「…………」
最初は不思議そうな顔をしていた篝火だったが、みるみるうちに冷静さを取り戻し、拘束を解かれた彼はどこか含みのある神妙な顔つきで起き上がった。
「ッ、そうだな……ぜッてェ生き残らねェと、ダメだな……」
結局アイツらの言いなりか。と、篝火はわざとらしい大声で叫んだ。
匂宮に諌められはしたものの、篝火はまだ興奮が収まっていないのだろうか。立ち上がる彼の一挙手一投足からは苛立った様子が見て取れた。
だが、学級裁判を行うことに対し少しは前向きな姿勢を持てるようになったのか、彼はようやく壇上に立った。
それを認めて、匂宮は言う。
「必ず犯人を見つけよう。それがきっと、二人に対する最大の弔いだろうから」
匂宮は、裁判場にいる全員の顔をひとり一人じっくりと見てから、意思を固めるようにして言った。それは、疑心暗鬼に塗れた彼らの心を一つの方向へとまとめあげるのには十分な振る舞いだっただろう。
同調するよう多くの人が頷く。だが、
「待てよ」
と口を挟んだのは竹河だった。
落ち着き払った冷たい姿勢で匂宮を問いただす。
「お前が仕切るのか? ……否な、俺だって命がかかっている。理由もなく誰かに仕切らせる訳にはいかない。……せめてお前が、この場を仕切るに足る理由を俺に説明してくれよ」
鋭く飛ばされた悪意。
しかしそれは真っ当な意見でもある。
だからこそ匂宮は、正面から彼を見据えて答えた。
「オレは探偵だ。殺人現場に立ち会ったことは二度や三度じゃない。……だから、場を仕切る人間としてオレが向いているかどうかはともかく、少なくとも死体を初めて見たやつよりかは冷静に判断できる自信がある」
それに、と匂宮はみんなに誇示するよう分かりやすく待雪に視線を向けてから続けた。
「──アイツが証明するように、オレにはアリバイがある。だから犯人が指揮を取るという最悪の事態だけは避けられるはずだ。……それでもオレを疑うなら、竹河、オレとお前の二人で学級裁判の指揮を取ることもやぶさかじゃないが……どうする?」
匂宮の提案に、竹河は顎へ手を当て考え込んだあと、
「……否、俺はいい。確かにこの場においてはお前が適任だろう。さっさと続けろ」
「はぁ、勝手なやつ……」
竹河の粗雑な態度に匂宮は露骨な不満を見せたが、気を取り直すようにため息をついて続けた。
「じゃあ、学級裁判を始めたいと思うが……分からないことがあれば必ず訊いて欲しいし、少しでも気になったことや憶えていることがあれば、曖昧なことでも構わないから伝えて欲しい」
なんせ命が掛かっているんだから。と匂宮は真剣な顔でみんなに伝えた。
彼の先程の振る舞い、言動、その全ては真摯な想いが込められたものであり、皆からの信頼を得るには十分だった。
感触を確かめるように、彼は言葉を継ぐ。
「まずは死体現場の話から始めよう。……野分、確か検死は、お前と竹河の二人でやったんだよな。分かったことや、不思議に思ったことがあれば、些細なことでも構わないから教えてくれないか」
匂宮は、みんなの名前を確かな物言いで口に出したり、しっかりと目配せをしながら指示を出すという工夫で、この場にいるみんなの冷静さを保つために不器用ながらも助力しようと試みているようだった。
彼自身どこか手慣れているのは、やはり死に直面する経験が幾度かあったからなのだろう。この場にいる誰よりも、彼は冷静に務めようとしていた。
この中に人殺しがいるかもしれない──そんな不安が満ちる中で、アリバイがある上に探偵という事件を解決するスペシャリストが指揮を取っているのはとても心強いことだろう。
だからか、死体について尋ねられた野分は素直に答えた。
「あ、ああ。分かった、尽力しよう。……とはいえ、他殺体を診るのは初めて故にな……上手く、伝えられるかどうか……。竹河クン、間違えているところや不足している部分があれば、補足してはくれまいか」
「いいだろう」
傲慢な態度で竹河は応える。
ただ彼も真剣なのだろうか、その口ぶりに淀みはない。
そうして恐る恐る、匂宮が再度訊ねた。
裁判場にいるみんなに情報を共有するということが目的としてあるからか、ハッキリとした口調で話しかけていた。
「……どうだった? 死因や、死亡推定時刻は」
「うむ……死因についてだが、二人とも、首元に切り傷があった。他に目立った外傷もなかった故、おそらくはそれが死因であろう」
野分は比較的冷静な顔をしているが、現場を思い出しながら話しているのだろうか。緊張や恐れからか、その額には汗が浮かんでいて、声も少し強張っていた。
そして、眉間の皺を大きく寄せ、苦しそうに声を絞り出して言った。
「……十中八九、失血死だ。あれは即死だ。現場を見た者なら分かると思うが、あれほどの量の出血をして生きていられる人間はおらん」
「そうか、即死か……死亡推定時刻はどうだ?」
「そのことだが、ボクも死体について詳しいわけではない故、なんとも言い難いのだが……」
言葉を濁らせながらも、野分は言った。
「図書室に置いてあった本などを参考にして、死亡時刻を推測してみようと試みたが……なにぶん今が寒い季節ということもあってか、殺人が起きた時間帯は不明瞭である。ただ、血の渇き具合や二人の目撃情報からして、深夜帯に行われた殺人であることは確かであろう」
竹河はそれに同意を示す形で頷いてみせる。
それを見て、匂宮は残念そうに肩を落とした。
「……帚木の姿を最後に見たのは、オレたち──つまり藤袴と篝火、それに加えて野分とオレの四人が、夜警を終えようとした頃。つまりバッテリー交換を終えてから少し経ったころだ。……その時間帯に、人の姿を見かけたやつはいないか?」
匂宮の問いかけに反応する者はほとんどいなかった。
深夜帯はほとんど人が出歩かないため、目撃情報が出ないのも無理はない。
ややもって、跳ねるように壱目が台から身を乗り出し、元気よく手をあげて答えた。
「はいはーい! 目撃情報なら私が聞いてまわったのでまとめてお伝えしますねえ! 犯人が嘘をついている場合はこの限りじゃありませんが、鑑みてみるに、昨夜最後に人の姿を目撃したのは匂宮さんら夜警組かと!」
「……つまり、オレたち以外誰も見てないっつーことか」
「そうなりますねー! そも、私はお布団に入るとぐっすり寝ちゃうタイプですしー、あの時間帯だと目撃情報はやはり薄いですねー! 当然というか、ちょっと頭を働かせて考えてみればわかる話というか!」
「…………」
不機嫌そうな顔をして眉間に皺を寄せた匂宮だが、軽くため息をついただけで不満を口にはせず、すぐに帚木を目撃した時のことについて語り出した。
「昨夜見かけた帚木の様子についてだが……夜警をしているときに美術室に灯がついているのを見かけたから、早く寝るようって声をかけた。それが最後だった」
「ただ明かりがついていただけという可能性はないのか? 既にその頃には死んでいたかもしれない」
と突っ込みを入れたのは竹河だ。
それに応じて、匂宮が返す。
「いや、それはない。返事だって返ってきたし、なによりちゃんと顔を見て言った。このことは……篝火、お前も一緒にいたよな」
「あ、アア。俺も帚木の顔をきちんと見たぜェ。……暗がりだったが、あんなに小柄なヤツはアイツしかいないし、声だってアイツのモンだったしよォ」
「つまり帚木は美術室にいたんだな」
「そうなるな。……夜警は同じところを異なる班が一度ずつ通るルートで行なっているから、一応、藤袴と野分のやつも見ているはずなんだが……」
「ああ。帚木クンと話をした憶えがある。……そうだろう? 藤袴クン」
「…………」
藤袴は言葉も出せないようで、ぽかんと空いた口を下に向けたまま、微かに首を縦に傾けた。
「……チクショウ、藤袴がああなッちャァ、なんか調子出ねェなァ……」
「確かにな……」
匂宮や竹河、壱目のような、殺人が起きても毅然と振る舞える人間は非常に稀と言えた。
単純に慣れている、単純に他人の死を恐れていない、単純になにも怖がらないというのは、並大抵の人には有り得ないことなのだ。
藤袴は、なにかあったときそれを無視することができない真面目な性格が災し、事件に真剣に向き合ってしまったせいで、より一層心のダメージが大きいようだった。
他にも意気消沈している者は何人かいたが、やはりとりわけ藤袴の心が最も派手に、根本から折れてしまっていた。
「そんなやつ放っておけ。気にするだけ時間の無駄だ」
冷たくそう言い放ったのは竹河だった。
「ンだとテメェ! いくらなんでも、その言い方はねェだろうがよォ!」
「待て、篝火。……確かに、今は藤袴のことを気にしてやれる猶予はないんだ。時間制限はないと言っていたが、オレたちはいつまでも議論を続けられるわけじゃない。それに今何をしたって、藤袴のやつがすぐに立ち直れるってわけでもないんだ。アイツには時間が必要だ」
匂宮は篝火を諭し、それから今度は竹河に目を合わせて言った。
厳しさと共に苛立ちが含まれているように見えた。
「だが、そんな言い方はないんじゃないのか。もう少し言葉を選んだ方がいい」
「フン、事実を言ったまでだ」
竹河は尊大な態度をそのままに返す。
匂宮はまた溜息をついて、無理矢理議論を再開した。
「熊谷は……熊谷のやつの目撃情報はないのか? 壱目」
「バッテリー交換のときが最後じゃないですかねー? 帚木くんに関して言えば美術室にいたという皆さんの証言がありますけれど、彼女に関してはバッテリー交換後に個室まで戻ったのかすらも不明ですー!」
「そうか、ならやはり殺人はバッテリー交換の後、ということになるのか」
熊谷が最後に発見されたのはバッテリー交換の後。
帚木はそれよりもさらに後で、おそらく昨夜出歩いていた人間の中では最後の目撃情報となっている。
いずれにせよ、殺人が起きたのはそれよりももっと後なのだろう。
「深夜帯ってことは、アリバイ……つまり殺人が起きたとき現場にいなかったことを証明できる人は、ほとんどいないってわけだよね」
と雲隠。
それに付け加え、確認するように明石がこう言った。
「確か匂宮と待雪の二人はアリバイがあるんだっけか。……夜、個室、それも二人で。なにをしていたのかは、まあ野暮なことだから聞かないでおくけどな」
「故郷の話をしていただけだ」
匂宮は食い気味に否定する。
匂宮と待雪とがお互いにアリバイを証明しあっているということに関し、竹河が一言申しそうなものだったが、彼は特に何も言うことはなく事の趨勢を見守っていた。
すると。
「私は?」
素っ頓狂な声をあげたのは鯉口だ。
「私は昨夜、藤袴に“強引なかたちで”個室へと連れ込まれ、この荒縄でキツく縛られてしまっていた。自分一人じゃ解けないほどにキツく。正直興奮しました」
鯉口は後ろ手に繋がれた縄の結び目を誇張するように見せる。確かにそれは固く縛られていて、身動きひとつ取ることだって難しそうだった。
「だから、こんなドアノブ一つ扱えないような格好で夜を出歩くことは──ましてや人を、一人のみならず二人までも殺めてしまうといったことは、私には不可能であると思うのだが」
「ああ? 貴様何故縄で縛られているんだ……? ……チッ、これだから女のすることは分からない……」
と、竹河が複雑そうな表情でかぶりを振っていた。
意に介さず、鯉口が話を続ける。
「ちなみに昨夜から私は一睡もしていない。だって女の子の部屋は緊張しますから! いい匂いがした! ので、付け加えて藤袴が部屋から出ていく姿は見ていないと証言しよう」
「つまり、鯉口と藤袴の二人もアリバイ成立ってわけか……?」
「そうか? あの変態なら、いざとなれば縄だって抜け出せそうな気がするが」
「だとしたらよォ、藤袴が襲われてらァ」
「それもそうか……」
納得したのか、匂宮は幾度か頭を縦に振った後、それから困ったように匂宮がつぶやいた。
「つまりオレ、待雪、鯉口、それから藤袴の四人以外はアリバイがない時間帯に、二人は殺されたというわけか」
「容疑者が多いなァ、なにより目撃情報がねェのが辛ェ」
「鯉口。足音とかは聞こえなかったのか」
「藤袴の心拍に集中しすぎたせいか、そこまで意識が及ばなかった……ただ後悔はしていない」
「……ああ、クソ。血塗れのシーツとかよォ、落ちてなかったのかァ?」
篝火が裁判場にいる全員に向けて、大きな声で尋ねた。だが、声は帰ってこない。
目立った証拠、異変というものは見つかっていないらしい。
確かにあれほどの出血があったのにも関わらず、血濡れになった衣類などはどこにも落ちていなかった。個室などに隠されているのかもしれないが、少なくとも寄宿舎の廊下などに血痕が残っていたという話は誰からも聞かない。
推理が膠着を見せ始めた段階で、待雪がボソリと呟いた。
「どうして犯人は、人を殺そうと思ったんでしょうか……」
「? 変なこと聞くンだな。そりャ外に出たかッたからじャねーのかよ」
「そう、ですか。……それもそうですよね」
待雪は残念そうに呟く。
暗い表情で、悩み込んでいて、あまり気分は良くなさそうだった。
匂宮は少しだけ気遣うそぶりを見せたが、すぐに気を取り直して、再度野分に訊ねた。
「現場には、他になにもなかったのか?」
「先程あげた点以外はなにもない。証拠品らしいものもなにも辺りには落ちていなかった故な、特定の誰かを邪推することすら出来ぬであろう。……ううむ、だが、その……犯人への手がかりとなるかは分からぬのだが……」
「なんでも構わない。気になることがあったなら言ってくれ」
「……そうだな。これは言っておかなければ、ボクの気もすまない……!」
野分は深く呼吸をしたあとに、震えた声で怒りを吐き出した。
「犯人も、惨いことをする……! 熊谷クンの喉に突き立てられていた包丁は、……深く、抉るように刺さっていたのだ……っ」
語られる惨状。
雲隠も、それは確かに目にしていた。
あれはただ殺すという目的だけだと残らないような傷口だった。
恨みとか、殺意とか、そういうのがごちゃ混ぜになった挙句生まれた歪みなのだろうと思われた。
「きっと熊谷クンを殺した犯人は……強い恨みを彼女に対して抱いていたに違いない……!」
「……! 確かに、恨みでもなければそんなふうに人は殺さない……」
犯人は、熊谷と何らかの因縁があった人物。それがきっと、この事件解決への糸口となりうるのかもしれなかった。
「つってもよォ、アイツ、仲悪いヤツとかいたッけか」
「馬鹿、篝火。お前は鈍感だから気付かないだけで、意外と女子の間では些細なことで喧嘩が起きるって聞いたことがあるぞ」
「マジでか。コエーなァ、女子」
「ちょっと待ってくださいよー! 熊谷さんがどなたか女子と仲が悪いなんて話、私聞いたことがありませんよう! むしろ篝火さんや匂宮さん、それから……竹河さんなんかがイザコザを起こしてたっていう話なら、私よく聞きますけどねー!」
「エエ? 俺がァ?!」
「…………」
心の底から驚いている間抜けな顔で聞き返す篝火。反論することもなく話に聞き入っている竹河。
匂宮は既にアリバイが証明されているため犯人の候補としては除外されているものの、上の二人ばかりはそうはいかなかった。
「イザコザ、ね。私、その二人が熊谷さんに叱られているの見かけたことがあるわ。……そこの彼はすっごくプライドが高そうだから、恨んで殺したということも、あり得なくはないのかもしれないけれど」
意地悪な笑顔を見せて、東家が鋭く指摘した。
彼女は先程まで捜査時間も通して暗い面持ちで行動を起こす気力もなかったようだが、ようやく事件に向き合えるようになったのだろう。顔を前に向けて議論の輪に加わっていた。
ただ竹河もこれには黙っていられなかったのか、わずかに青筋を立てて反論の姿勢に入った。
「……好きに言えばいい。ただ俺は、人を殺すならもっと上手くやる。そも凶器を現場に残すようなことはしないし、殺しを二度行うというリスクが高いことだってやらない」
「アァ?! ンだよてめェ! 人が死んでんだぞッ!」
「静かにしとけ篝火。お前も竹河と同じくらい疑わしい容疑者なんだぞ」
匂宮が嗜めるように言った。
そう、篝火もまた竹河同様に容疑者の一人であるのだ。
それを指摘するように、東家が今度は篝火に対して疑問を投げかけた。
「篝火さんは、確か夜警を行っていらっしゃるのでしたよね?」
「あ、あァ。だよなッ、藤袴!」
「え、ええ。……あ、いや、すみません。その……私、話を、聞いていませんでした」
一度肯定したものの、自身なさげな声色でそれを取り消すと、再度藤袴は虚げに目を閉ざしてしまった。
それを見て篝火は、やきもきとした感情を隠そうともしていない。
「あァーッ、クソッ! ッたくよォ!」
「……おほん」
やり切れない思いが怒りとなって噴出している篝火を横目に、東家が質問の続きを話した。
「夜警を行っているのでしたら、匂宮さんや藤袴さんらと別れた後、一人で外に残り、それから殺害を……ということもあり得るのではなくって?」
確かにそれはあり得ない話ではない。
夜中に一人で教室にいた帚木を篝火は目撃しているわけであり、そこを狙って殺害を企てるのは自然な話である。その上で、後から殺害現場に訪れた熊谷を、目撃者をなくすために殺したのだ……と推理することは不可能ではなかった。
特に熊谷の喉元の傷の深さが、なにより印象的に、因縁があったのだという彼を疑わせた。
しかしそこで匂宮が声を上げた。
「まあ待て! 篝火の証明は俺がする」
「あなたにできるのかしら」
「ああ、できるさ。やってみせる」
匂宮は少しの間考え込むと、ハッとなにか気がついたのか、ややもって応えだした。
「篝火は包丁を使うよりもきっと、力を使うやり方の方が得意だ。それこそ鈍器とか、縄とか、もし人を殺すとしたらそういうのを凶器として選ぶはずだ」
「馬鹿にしてンのか?」
「違う。そもそも篝火、お前は包丁を使い慣れてないだろ。……前にみんなで料理をしたときに、こいつだけなぜか荷物運びだったからな。そうだろ? 待雪」
「え、ええ。カガリビさんは包丁の扱いがとっても危なっかしいので、荷物運びをお願いしました……」
と、待雪が証言する。それを認めて匂宮は深く頷き、話を続けた。
「篝火は、数日前に“自分には包丁が扱えない”のだと気付かせられていた。だってのに、わざわざこんな殺人という土壇場で包丁を使うと思うか?」
そう言われた東家は、神妙な顔つきで篝火の顔を見た。
やがて諦めたように彼の言葉を認める。
「……それもそう、かしら。確かに人殺しを行うのに、わざわざ不得意なものを扱うとは思えないもの……さきほど話に上がっていた鈍器や縄の方が、よっぽど現実味があるわ」
「ああ。つまり篝火だって、犯人である可能性は薄いはずだ。こいつの包丁さばきの下手さは本物だ」
「おい、やッぱしテメェら俺ンこと馬鹿にしてンだろ」
「してない」
篝火は顔を顰めて、じっと匂宮の方を見つめる。匂宮は気まずそうにそっぽを向いた。
「断じてしていない」
「嘘くせェ〜こいつ!」
多少の沈黙が裁判場に流れたあと、気まずそうに待雪が口を開いた。
「以前カガリビさんとお話させていただく機会があったとき、クマガイさんのことも話題に上がりましたけど、殺したいほど恨んでるみたいな雰囲気ではなかったです。……むしろ、楽しげですらありました」
それに篝火は気落ちした表情で付け加えた。
「……ま、怒られることもあったけどよォ。悪い気はしなかッたンだ。幼馴染にもああいうヤツいるから」
「となると……私怨という線で疑うなら、残るは竹河クンくらいか」
これまでの証言を受けて、ちらりと竹河の方を見てから野分が言った。
だが、意外にも匂宮がそれに反論を告げた。
「ここまで話しといて何だが、私怨ってのは判断材料にはならないと思う。もとより殺しの理由は“外に出たいから”の一つだ。たった数日話しただけのやつを、恨んでいるからという理由で殺すのはまずないと思う。それにリスクだって高い」
「確かに、それもそうだな。……誰を殺すか選ぶのに、恨んでいるからというのは、あまりに個人的な理由か」
そうして、再び議論は膠着状態に陥った。
なにより証拠品となりうるものがあまりに少なすぎるため、犯人への糸口というものがまるで見えないのである。
超高校級の探偵という肩書きを持つ匂宮ですらも、ないものを見つけ出すことはできない。それができるのは神くらいだろう。
ただあるいは澪標ならば、誰が犯人なのか、事件の全容すらも既に特定しているのだろうかと、雲隠は向こうに立つ澪標をじっと見つめた。
彼女は議論に関与することはせず、場を見定めているように見えた。
「そうだ」
停滞していた空気を押し進めたその声は、篝火のものである。
「つーかそもそもよォ、なんで熊谷のヤツは夜中に出歩いてたんだァ? そこが分からねェよなァ……夜中に出歩いたせいで死んじまッてよォ、結局、その現場を見ちまッた帚木も殺されて」
「犯行現場を見られて……というのは正しいかもしれないが。ただ順番が違うな」
竹河が即座に否定した。
野分も同じ意見のようで、首を縦に振って同意を示した。それは確かなことらしい。
「肝心の凶器である包丁は熊谷に刺さっていた。熊谷が先に殺されて帚木が後だと言うのなら、熊谷に包丁が刺さっているのはおかしいとは思わないか?」
「……時系列が違うッつーことか。帚木が後に殺されたなら、包丁は帚木に刺さッてるはずだもンなァ……。……犯人が順番を錯誤させるためによォ、熊谷を二度刺したってことはねェのか」
篝火が呈した疑問に、またも竹河が否定で返した。
「熊谷の体に傷は一つしか見当たらなかった。一度刺した場所にもう一度刺したということもないだろう。……傷口を開いて調べてみたが、それらしい痕も残ってはいなかった。このことは野分も確認済みだ」
「うげェ。竹河さん、澄ました顔してえげつないことするんですね。生きるのに必死っていうか」
壱目が議論に口を出す。
竹河は明らかにそれを無視していた。
「だとすると、犯人は元々帚木を狙っていた……そこで熊谷に殺害現場を見られてしまったために、熊谷も殺すことになった……ということになるな」
「熊谷クンとの私怨どうこうの筋はほとんどなくなったわけか。……もともと犯人は、帚木クンを殺そうとしていたことになるのだからな」
ただ、と。竹河が待雪の方を一瞥した後にこう忠告した。
「可能性の話をするなら、他に凶器があるという可能性もないわけではないがな。仮に凶器があの包丁一つだけだというのならそう言う順番になるが、他のなにかが殺しに使われていたのなら、それもまた変わってくるだろう」
「というと?」
「先に熊谷を刺して、包丁はそのままにし。そのあと別で用意しておいた凶器で帚木を殺傷した可能性があるってことだ」
ただ、と竹河はあくまでもそれが憶測に過ぎないのだということを強調する。
「……その場合は、どうして帚木を殺すために使った凶器だけを隠したのかが謎となって残る。──これはあくまで個人的な推測に過ぎないが、熊谷の死体に凶器が残されていたのは殺害の前後を誤認させるためのものかもしれない」
それが犯人にとってどのような利益になるのかまでは分からんが。と最後に竹河は言った。
「犯行の順番を誤認させることによって、どのような得が生まれるのか……それで得をする人物は誰なのか……。証拠がなにもない今は、これも考えることを視野に入れておいた方が良さそうだ」
と、匂宮が話の総括を述べる。
確かにそれは重要そうな話であった。深く抉るように刺さっていたという包丁しかり、不自然な点はいくつかある。
それが犯人への手がかりとなりうる可能性はゼロではなく、少しばかり、解決への一手に近づき始めている予感が彼らの中であった。
雲隠がそれらの証拠を曖昧な糸で繋ぎ合わせて、ぼんやりとした思考を巡らせて考えていると、東家が澄んだ声色で疑問を呈した。
「そういえば、あの包丁ってどこから来たものなのかしら」
包丁というのは、凶器となった収穫包丁のことだろう。
そしたら待雪が困ったように答えを返した。
「い、以前、倉庫に置いてあるのを見ました」
「厨房にはないのか? なんたって包丁だろう」
「……収穫包丁は農機具の部類なので、厨房においてある調理器具とは根本的に違います……芯が硬く、素手での収穫が難しい野菜を収穫するときに使う包丁なので……要は稲刈りに使う鎌のようなもので……」
「そうなのか。ならば食堂には置いていないか」
と納得したのか、野分は頷いて答えた。ただ不機嫌そうに、竹河がこうも言った。
「あくまで熊谷という女の喉に刺さっていた包丁が倉庫にあるものだったというだけで、帚木とかいうのを殺めた凶器が食堂になかったとは言い切れんがな。……ただ、そこの女にはアリバイがあったか」
威圧を感じさせる切長の瞳がジロリと待雪に向けられた。
彼女は一瞬怯むように肩を跳ねさせたが、しかし震える声でありながらもしっかりとした言葉遣いで食堂の話を始めた。
「食堂の道具や食器はわたしが管理しているので、今朝も食堂を利用する際に点検したのですが……この島に来てから今に至るまで調理器具や食器の紛失はありませんでしたし、食堂から鋭利なものが持ち出されたということはないと思います」
「……朝早くにクロが忍び込んで、片付けたなんてことはないのか?」
「それもないかと……全ての調理器具は、昨夜と全く同じところに置いてありましたし、洗った痕もありませんでした。それになにより、わたしは朝時間になってすぐに食堂に入りましたから、食堂を利用する人がいれば気付くはずです」
「…………、もっとも貴様が嘘をついていた場合はそれも信じられない話なのだが……貴様はあくまでもシロ。嘘をつく理由はないのか」
「ええ、まあ……」
「もっとも、貴様が食堂を利用する前──すなわちこの殺し合いが始まるよりも早くに、何者かが食堂へ入り包丁を盗み出したというのなら話は別だろうが……それはもう、議論するだけ無駄というものか」
残念そうに竹河は腕を組んだ。
あまり待雪のことをよく思っていないらしく、彼の言葉には多少なりとも私情が混じっているように見えた。
待雪の話に付け加える形で、椎本が「収穫包丁が厨房にないのは、僕も見たよ。つい先日熊谷さんや藤袴さんと一緒に厨房を使わせてもらう機会があったけど、それらしいものは見当たらなかった。……そう、つい、先日」と待雪の言葉へ悲しげに同意する。
熊谷のこと思い出していたのだろう。彼の大きな背は沈痛なほど悲しみで曲げられていた。
「つまり夜中は出入りができない食堂からは凶器は持ち出されておらず、いつでも空いている倉庫から凶器を調達した可能性が高いということか」
「……その収穫包丁なんだけど、二日前には三つ倉庫に置いてあったんだ」
と椎本が緊張した顔つきで話した。
「以前、待雪さんや熊谷さんと収穫包丁を使う機会があったときには三つ置いてあったから、今倉庫に包丁がいくつあるのかで、凶器となった包丁がいつ持ち出されたものなのかが分かるかもしれない」
「んじャァ、さっき言ってた凶器のすり替え……食堂からっていうのは無理かもしんねェけどよォ、倉庫にある同じ形のものってなると、可能なんじゃねェのか?」
「それは十分あり得るな……そも帚木とかいうのを殺した凶器に関しては、鋭利なものならなんだっていいんだ。一度倉庫の内容物を調べて、凶器となりうるものがないかどうかを調べたほうが良い」
と言ったあと、竹河は野分に視線を送った。
その意味を瞬時に読み取って、野分は慌てて足元に置かれた鞄から紙の束を取り出した。
「以前、匂宮クンと椎本クンとの二人で、倉庫になにが置いてあるのかを表にしてまとめたんだ。……これと照らし合わせて、なくなっているものがないか調べてみよう」
「じゃあ、オレと椎本、野分、それから……竹河も倉庫へ点検に行くぞ。篝火と……篝火は一人で、他の倉庫に誰も入らないよう警戒してくれ」
「オウ」
といったところで、裁判は一度、包丁の確認を行うため中休憩を取ることになった。
篝火「やろう、ぶっころしてやる」
神座「死体が喋っている」
銃「」パァン
あの島で一番腕力が強いのは篝火なので、匂宮が普段から人に羽交い締めされている経験がなければこうなってた。
【議論】
大正時代の高等学生はエリート揃いなので、みんな頭が良いし議論もそれなりに進んでます。
とはいえ得意不得意はあるし、殺人が起きてしまったことに対してショックを受けてしまった人も多く、心傷から議論に参加できていない人がいたりします。
今の鯉口さんは単純に馬鹿なので議論に参加してません。
【包丁】
ヤンデレ御用達の万能アイテム。バレンタインデーに向けてチョコを刻むも良し、想い人を永遠のものにするも良し。
無印でも使われた凶器であるが、厳密にいうと今回使われた包丁は収穫包丁という料理に使われるものではない……細かいところは割愛。
ちなみにスーダン2の一章で使われた凶器は鉄串で、調理器具。包丁といい鉄串といい、厨房は初心者向けの凶器が揃えられているので、殺し合いに巻き込まれたときは食堂へ行くのがオススメ。古事記にもそう書いてありました。
(クロの厨房と倉庫の使用率は異常。封鎖した方がいいんじゃないかな)
【モノクマファイル】
今作にはモノクマファイル的なものが存在しません。というのも、そもそも大正時代には監視カメラがなかったりするので、運営側がそういったものを作れなかったりするんですよね。なのでそういった都合もあり、今作ではモノクマファイルは廃止。(まあ、本編でも大して情報くれないときとかありましたし、あってもなくても変わりませんよね)
※次回解決編です。一応次の話で一章は完結します。