旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第九話 お土産

 天空闘技場の周辺では今日も多く者が汗を流している。

 行き交うランナーはそれが習慣であるかのように軽く片手を上げる。

 

「やあ」

 

 長髪の男は出会うと決まって並走をする。

 互いの共通の趣味があるわけでもない。特徴としては、やけに発達した腕の筋肉を持っていることか。

 その何度目か分からない軽く頷くだけのやり取り。

 

「今日は一段とすごいね。ヘイト君は気にしないのかな?」

 

 男の目的に興味はないが、瞳に宿す“欲望”は気になるところ。

 そのヒントがあるとすれば、熱き瞳が列を成す場所に向けられていることか。

 

「まあ、気にはならないですが」

 

 いつものように男の視線に合わせる。

 選手を目指す者よりも多くの熱気を持つ観光客。男はそれを知っているのか些細な日常のように話す。

 

「注目される試合はいつもこうさ。まだ走れるだけマシだよ」

 

 欲望の密集は悪い事ではない。念能力者でなくとも輝く魂もある。

 政治家やアイドルといった魅力を有する者達。天空闘技場の選手も同じ部類になるのだろう。

 隣を走る、この男も当然同じ――。

 

「流石にバトルオリンピアの時期は自粛だろうけど。今日は花形選手のファンが押し寄せてるんだよ」

「花形……凄い人気なんですね」

「何を隠そう、僕もヒソカには注目していてね。彼は直ぐにでもフロアマスターになると思っているよ。ヘイト君は気になる選手とかはいるのかな?」

「いますよ。クロロ=ルシルフル選手」

 

 アイの推しだが。

 男はその答えが予想外だったのか、興味をなくしたかのように笑みを消す。

 

「……僕の知らない選手だな」

「フロアマスターの方ですよ。噂だと最上階にも住めるとか」

「ああ、そのようだね」

 

 いつもなら男の別れの返事で終わる流れ。それがないということは、期待の何かとは違っていたのだろう。

 だからといって話題を戻す気もないが。

 

「そうそう、ヘイト君。ヒソカの対戦相手、前回の試合は凄かったらしいぞ」

「たしか、不戦勝の多かった選手でしたね。対戦はした事ないですけど、見たことならありますよ」

「まあ、本命はヒソカだろう」

 

 どうやらミルキには興味がないらしい。

 男は宗教の勧誘でもするかのように、ヒソカの強みや戦績を解説交じりで語りだす。

 

「その感じだと、ヒソカ選手は随分と気まぐれな方なんですね」

「そう、その通りさ!!」

 

 男はより強い炎を瞳に宿すと力強く握った拳を突き出す。

 アイと出会っていなければ、この男のように人間らしくいられたのかもしれない。

 これだけキーワードを出しているのに、200階層の“秘密”に触れないのは上位選手としての配慮なのか。

 

「僕が思うに、肉体改造くらいではヒソカには勝てないよ」

「その勝てない選手も、ヒソカ選手に選ばれるだけの理由があったんですかね」

 

 男に対して自然と頷く。

 ミルキを否定するつもりはない。ただ、最近の印象が正拳突きで爆散する爆弾岩でしかない。

 

「選ばれた理由、か」

 

 男は少し考える仕草を見せると目を鋭くさせる。

 どうやら熱狂的なヒソカ推しでも指名の理由までは把握してないらしい。

 ヒソカの“欲望”を知らないとは、まだまだ浅いペーペーだ。

 

「ただの気まぐれ、何でしょうね」

「いや、ヒソカは相手を選ぶ」

『あい』

 

 男の魂の輝きが増す。

 アイが反応したということは、この男が持つ欲望に関係しているのか。

 

「なら、選ばれた相手も強者なんですね」

 

 壊し合い、それがヒソカの持つ欲望。その良駒を勧めた者が目の前にいるとは誰も思うまい。

 男は少し俯き、何かを決心をした表情でこちらを見つめる。

 

「ヘイト君は、何で選手を辞めたんだ?」

「それを聞くという事は、もしや選手の方ですか?」

「ああ、私は200階層選手のカストロだ」

「カストロ……上位選手の方でしたか」

 

 アイの推しに選ばれなかった10万の男。

 カストロは魂の輝きはあるが伸びしろがない人間。恐らくはヒソカが最終目標なのだろう。

 

「選手を辞めた理由ですけど、ハメられたが正しいです。審判にも弁明はしたんですが出禁にされました。初狩りのキルアって銀髪のクソガキには気を付けてください。色々調べたんですけど、暗殺一家の三男らしいです」

「君が出禁とはね……キルア選手なら知ってるよ、最近200階層に上がった選手だね。まだまだ若いし才能も感じる」

 

 カストロは愛想笑いをすると昇り旗に視線を向ける。

 

「――本当なら、僕があの場所に立っていた」

 

 そう呟くとカストロは念を纏う。

 念に目覚めてからは浅そうだが、怒りにも似た熱意を感じられる。

 

「ヒソカが言っていたよ、君に勝てれば喜んで戦うとね。最初は僕も訳が分からなかった。なぜ200階層ではない下位の選手なのか、とね……君も念は使えるんだろ?」

「へー、それで選手を引退した俺に決闘の申し込みですか?」

 

 流れから察するにヒソカからの間接的な依頼のようだ。

 稼ぐ手段を失っている者としては、はい喜んで! の精神でいくしかない。

 

「色々と君について調べさせてもらった。ヒソカと一緒に合格した新人のプロハンター。つまりはヒソカの弟子、なんだろ?」

「……まったく、師匠も人が悪いな。こう見えてトランプタワーとトランプ投げはマスタークラスです。師匠の依ら……意思なら喜んで受けましょう、押忍ッ!!」

 

 グッズ専門店で買ったトランプを手に持ち、ネテロがやっていた心源流の型を適当に真似る。

 試しにアイに任せてみたが、トランプで倒すのは以外と大変だった。

 

「ダブル、なかなか面白い能力だったな」

「あいあい、おしまい!」

 

 ヒソカにメッセージを送ると直ぐに返信が届く。依頼費用は言い値で即決、やはりお金持ちなのか。

 

「今度は試合後の治療か、了解と……」

 

 仕事の幅が広がっていくのは有り難い。

 ハンター試験で見せた蘇生能力にも興味を持ってくれたようでなによりだ。

 

「ん、待てよ……?」

 

 何気ない一連のやり取りに感じた事のない電気が脳内を走る。

 

「フロアマスターの権利……たしか、初狩りや勝ち星狙いの奴ばかりと言ってたよな」

 

 200階層限定、対戦者の棄権を売るビジネス。

 選手が持つ90日の準備期間。そこに支障になりそうなものは無さそうに感じる。

 

「普通に介入、出来るよな……」

 

 天空闘技場の関係者も当日まで棄権の判断は出来ない。非正規のノミ屋なら棄権すら賭けの対象にするだろう。

 

「勝ち星1つを基本報酬として、2回目からは3割引き。さらに、紹介料で5割引きすれば無限ループの完成じゃね?」

 

 暗殺一家が許されるんだから選手妨害一家くらい余裕だろ。

 ジョギングに戻るもビジネスプランがグルグルと脳内神経を巡る。

 考えに耽っていると何処からか強い視線を感じる。

 

「おーい、ヘイトさまぁ!」

「無視しないでください! ヘイト様――ッ!!」

 

 行列に目を向けると明らかに意識して手を振る女性達。さらには一斉にお辞儀をする黒服の集団。

 見間違えるはずもなくゾルディック家の執事達である。

 

「カナリアとアマネか。何でお前達がここにいるんだ?」

 

 二人はアルカ専属の執事。

 当のアルカは、ミルキの意思を受け継いで自宅警備をやっていたはず。

 

「あちらに」

 

 カナリアとアマネは仲良く駐車場を指さすと、そこには見覚えのある黒塗りの大型高級車が止まっている。

 その周囲を警護するように、選手顔負けの大柄の女性が見張っている。

 

「ツボネさんもいるってことは、シルバさんも?」

「ヘイトちゃん、そういう事でございます」

 

 車内でのんびりと寛ぐゾルディック一家。

 軽く挨拶だけは済ませるも、キキョウとシルバは何処かソワソワして嬉しそうだ。

 

「おはよう、ヘイトちゃん」

「元気そうだな、ヘイト」

 

 ハンター試験のキルアと状況はまったく同じようだ。駒使いとの試合は見なかったのか。

 

「あっ、ヘイトだー!!」

 

 キルア派閥のアルカには興味がないようで、カルトに遊んでもらっていたトランプを投げ捨てて抱きついてくる。

 

「アイは? アイはいないの?」

「いるぞ、ほら」

 

 アルカは心の何処かで(ナニカ)と同じものを感じているのだろう。

 影から【黒い人形(アイ)】が姿を現すとアルカはぎゅっと抱き寄せる。

 

「えへへ!! ヘイト、アイちょうだい!!」

「アルカ、アイは俺の大切なものって言ってるだろ?」

「えー!! ヘイトのケチっ!!」

 

 アルカはむくれ顔になると暫くは元に戻らない。

 キルアのなだめるが特効薬なのだが残念な事にここにはない。機嫌を直すべく、とっておきのお土産を取り出す。

 

「アルカにはこれな、カルトはこっちだ」

「あっ、お兄ちゃんだ!! ヘイト、ありがとう!!」

「あ、ありがとうございます……ヘイトさん」

 

 手渡したのはキルアとミルキの激安ブロマイドカード。ちなみにサインは俺が書いた。

 にやけるアルカはカードを眺め、カルトは大事そうに懐にしまう。

 

「アイ、シルバさんのお土産をとってきてくれるか?」

「あいあい」

 

 こんな物で喜んでくれるなんてまだまだ子供である。

 カードに夢中のアルカから逃れた【黒い人形(アイ)】は影に消えていく。

 

「お、それそれ」

 

 暫くして、荷物を抱えた【黒い人形(アイ)】が戻ってくる。

 お土産を確認すると日付が目に入る。賞味期限は5月7日と少し過ぎているが硬めの煎餅だし問題はないだろう。

 

「これはゼノさんに、いつもの老舗の羊羹です」

「貰ってばかりで悪いな、親父も喜ぶ」

 

 シルバは煎餅をつまみながら質問をする。それは純粋な親としての質問だった。

 

「ヘイト、お前から見てミルはどうだ?」

 

 ミルキの現状を伝えるとシルバは親の顔で嬉しそうに頷く。

 子供の成長とは何時になっても嬉しいのだろう。アイとの生活でシルバの気持ちは良く分かる。

 

「そういえば、キルアも天空闘技場にいましたよ?」

「あいつは必ず戻ってくる、心配はしていない。ただな、ミルはもう……」

 

 シルバは言葉に詰まると悲壮感の漂うため息をする。寂しさを見せる姿は子離れできない親そのもの。

 

「あいつが家を出てから、まだ数か月ですよね?」

 

 ミルキが選んだゾルディック家との決別。アイも何かを感じ取ったのか手に【黒い本】を出現させる。

 それは名前を書くだけで簡単に人を殺せるという【デスノート】……というのは嘘だが、趣味のための念能力である。

 アイは時折、花を見つけては毟るという謎の行動をする。花が枯れるまで離さないので押し花を教えた。

 

「ひとつあげる!」

 

 アイは【黒い本】の頁を1枚ずつめくり、自慢の押し花をシルバに披露する。

 野花や桜の花びら、花壇に植えられていた名も知らぬ綺麗な花達。

 シルバは1つの押し花に目が留まる。桔梗という妻と同じ名をもつ星型の青い花。

 

「アイ、これを貰ってもいいか?」

「あいあい!」

「同じ花を探していた。感謝する、私が育てていたのは無くなってしまってね」

 

 アイをひっぱたく権利を与えるが拒否される。

 シルバは押し花にされた桔梗を手に取り妻に渡す。その言葉のいらない夫婦のやり取りを見て、何故か母親を思い出す。

 故郷の流星街で元気にしているだろうか――。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 天空闘技場は今日一番の盛り上がりを見せる。

 巨大な屋外のモニターにも映像は流され、周囲にはヒソカとミルキに魅せられた人で埋め尽くされている。

 会場には欲望に支配された観客達が集結し、アナウンスにも気合が入る。

 

 「死神ヒソカ選手対武人ミルキ選手の大決戦――ッ!! いよいよ、注目の一戦が始まろうとしておりますッ!! なんと、ヒソカ選手は、これに勝てばフロアマスターの挑戦権利が与えられます!!」

 

 会場の熱気はピークを迎える。

 

「な、なんと、注目のオッズはヒソカ選手の2.5倍に対して、ミルキ選手がまさかの1.5倍ですッ!」

 

 なにやらオッズがやけに低い。

 ミルキに魅せられた人の方が多いのか、全財産を突っ込んだせいなのか。

 どちらにせよ、駒使いのギド戦で見せたミルキの技が強烈だったのだろう。

 

 歓声が収まると審判が中央に立ち注意事項を伝える。

 ヒソカは興奮を抑えきれないのか、体の一部位を吐出させミルキに話しかける。

 

「さあ、試合(ショー)を楽しもうか♠」

「ただの試合(ゲーム)だろ」

 

 ヒソカとは違いミルキは冷静だった。

 課題ともいえる精神的成長。これはネテロの影響であり感情を忘れるまで没頭しなければいけなかった修行の名残り。

 

「ポイント&KO制!! 時間無制限一本勝負!! 始め!!」

 

 審判の手が振り下ろされる。

 会場が試合開始と同時に静かになる。息を呑む観客は、ミルキの一撃を期待し見逃さないと言わんばかりだ。

 

「さあ、ミルキ。これならどうする?♠」

 

 念能力者なら分かる互いの本気。ヒソカは過剰なオーラを纏い異常な【堅】を見せる。

 

「へー、親父並だな」

 

 ミルキは修行を思い出し考えを巡らせる。

 ヒソカが選択したのは、普段では絶対にしないであろう開始前からの強大な【練】の維持。

 あらゆる角度からの絶対防御。

 非効率だがミルキの一撃を防ぐための安全策。戦いは試合開始前からすでに始まっている。

 

「まあ、普通はそうなるよな」

 

 ミルキはそうぼやくとオーラを纏い構える。

 ヒソカの選択は間違いでもあり正解でもある。なぜなら、その対策はミルキがネテロにとった失敗例の一つだからだ。

 つまり、ヒソカはその失敗を体験するのだが、一つだけ決定的な違いがある。

 

 “真似の出来ないオーラの技術”

 

 ネテロが最強と言われる所以。ネテロならば初撃で終わる。

 神速に合わせた【流】、そして【硬】。しかし今のミルキにはその技術はない。

 身に付けるのに何年かかるか、または何十年か。故に、ミルキができる事はヒソカと同じ【堅】の状態での高速攻撃。

 

「ヒソカ、お前に本気の一発をくらわせてやるよ!」

 

 心源流は真向勝負。

 これから始まるのは技術の攻防ではなく、ただのオーラとオーラのぶつかり合い。

 認識してからでは防ぐことのできないネテロの領域。

 しかし、それを防ぐかのようにヒソカの攻撃は始まっていた。咄嗟に一歩下がるミルキを見てヒソカは表情を変える。

 

「おや、本気の一発とやらは来ないのかい?♠」

 

 巧妙な誘惑。

 【隠】を極めたミルキだからこそ気付くことができた。ヒソカのそれはミルキから言わせれば不完全な【隠】。

 オーラが見えなくとも、境目に現れる陽炎のような歪みまでは消せない。

 

「ヒソカ、それじゃ足りてないな」

 

 ミルキの鍛錬された【凝】によりヒソカの思惑はうっすらと浮かび上がる。

 ヒソカの纏っている【堅】はフェイクであり、足先からは【伸縮自在の愛(バンジーガム)】が広がっている。

 

「――残念。でも、リングを覆ってしまえば同じこと♥」

 

 短期決戦を意識したヒソカはオーラを惜しみなく使う。

 【隠】といた【伸縮自在の愛(バンジーガム)】はみるみると広がり、会場の足場は巨大な粘着板と化す。

 

「速さだけじゃ、ボクには勝てないよ。技というのは、踏ん張りや全身の動きが重要になるからね♠」

 

 可動域が制限されれば威力は激減する。

 武神殺しの型封じ、リングの全てがヒソカの独壇場。しかし、その思惑が仇となる。

 

「変化系か。お前、負けた事ないだろ?」

 

 【隠】を見破られたことによる僅かな動揺。環境に優位を感じた気の緩み。

 そのヒソカ本人すら気にし得ない心の歪みをミルキは見逃さない。

 

「――ッ!?」

 

 殺気に反応しヒソカは瞬時に腕を交差させる。咄嗟の判断、飛び散る鮮血。

 意識が僅かに腕に集中した。ヒソカの目は獣のように鋭くなる。

 

「な、なんと――ッ、先制攻撃がヒソカ選手にクリーンヒットだ――ッ!! ミルキ選手の足が天を向き……おっと、これはヒソカ選手の手が消えている――ッ!!」

 

 刈り取られた腕先は肉片と化す。ミルキの攻撃がヒソカの絶対防御を上回った証でもある。

 ヒソカは瞬時に止血するも反撃出来ずにいた。

 

「舐めプとか馬鹿だろ。首なら死んでたぜ?」

 

 全てがネテロ基準のミルキとってはあり得ない隙。

 その偽りのない言葉がヒソカの心に突き刺さる。実戦で負けたことはない。自身が最強と自負している。その心の慢心を突かれたのだ。

 

「正拳突きではなく、蹴りとは以外だ♠」

 

 ヒソカは不気味な違和感を感じとる。

 結果として防御の薄くなった手を狙われた。ただその僅かを狙う攻撃が、一瞬で行うにはあまりにも正確すぎる。

 ヒソカは多くの戦闘経験があるからこそ疑念を抱く。

 

“本当にあのミルキなのか”

 

 痩せたから、イルミの弟、ヘイトの連れ。

 情報は確かにあった。ただ想像する中での成長速度だけが異常過ぎる。

 仮に誓約と制約があったとしても、想像だけで出せる動きでは決してない。

 一連の動きに無邪気さがなく老兵のような堅実な鋭さ。

 まるで全盛期の武人と戦っているかのよう。これがミルキの念能力だとしても対象となる人物に心当たりがない。

 

「脅威は速さではなく、動きか♠」

 

 だとしても、ヒソカは結果に納得できていなかった。

 ミルキの攻撃を逆算するも、それが可能とする条件が導き出せない。

 その一連の行動での最大の疑問――。

 

 “空中での重心の変化”

 

 神速の“動き”が念能力だとしても、身体の“重心移動”はまた別の念能力になる。

 攻撃の軌道だけならヒソカでも変えることはできる。

 しかし、重心移動だけは事前準備がなければ念能力なしには無理だ。

 

「攻撃の余韻と風、瞬間移動でもない。それに付随する念能力か……♠」

 

 たしかに想像だけを重ねれば念能力は再現できる。

 たとえばオーラによって起動を変える放出系、自身を何かで動きを与える操作系。

 だが、そこにはヒソカを最も悩ませる事が一つある。

 

「ただ、最も厄介なのは……」

 

 最大防御を上まわった重い一撃。

 【発】の必要がないといわれる強化系、ミルキは既にその領域に達している。

 短期間で強化系、操作系、放出系を全て極めたというのか。

 捨て身でガードしても部位の全てが致命傷となる。そして何より、ミルキが防御した場合に突破するだけの攻撃手段がない。

 

「今度はこちらの番だ♠」

 

 結果的に闘技場のルールに救われた。ヒソカは片手を失ったが初撃を逃れたことに安堵していた。

 足場は既に伸縮自在の愛(バンジーガム)領域(テリトリー)。さらに伸縮自在の愛(バンジーガム)の貼り付けも残りの片手で成功はしている。

 

「予言しよう。ミルキ、君は踊り狂って死ぬ♠」

 

 ヒソカは跳躍すると天井に伸縮自在の愛(バンジーガム)を張り付ける。指の一本は天井に、残りの四本はミルキと連結されている。

 ヒソカは空中に放ったトランプを器用に指先の伸縮自在の愛(バンジーガム)へと合わせていく。

 これにより、伸縮自在の愛(バンジーガム)を往復する弾丸トランプが出来上がる。

 ヒソカはすっかり獲物を狩る強者の目に変わっていた。

 

「ミルキ、このトランプは避け――ッ!?」

 

 視線を動かすも獲物であるはずのミルキの姿が消えている。

 ヒソカは瞬時に指先の伸縮自在の愛(バンジーガム)でミルキの位置確認する。

 

「背後――ッ!」

 

 まさに振り向くと同時、全身に強い衝撃が走る。

 

「くはっ!!」

 

 空中での不意打ち。

 ヒソカの口からは大量の血が溢れ出す。緩む筋肉と何本かの砕かれた骨。

 ポーカーフェイスが得意なヒソカでも意識外のダメージは隠しきれない。

 

「効くだろ、俺様の合金は」

 

 ヒソカの視線には自慢げに合金靴をアピールするミルキの姿ある。

 ここが地上だと錯覚するくらいに自然体なミルキ。ヒソカがこの試合で一番知りたい情報は相手によって明かされる。

 答えを得たヒソカはミルキの動きを全て把握する。

 

「なるほど、それが君の能力か……♠」

 

 特製合金の埋め込まれた靴。

 思い入れのある物ほど操作しやすくなる操作系。重いからこそ足場にもなり攻撃にも使える。

 伸縮自在の愛(バンジーガム)で止まっているヒソカと違い、その特殊な靴を履いているミルキは空中を自由に移動できる。

 故に分かってしまうこの先の展開。

 

「君ばかりじゃ、試合(ショー)を楽しむ客もつまらないだろ? 最後くらいは僕にも目立たせて欲しいな♠」

試合(ゲーム)は終わりだ。じゃあな、ヒソカ」

 

 ミルキの感謝の正拳突きがヒソカに突き刺さる。

 




読んでくれてありがとうございます。
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