旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

14 / 69
第十三話 技術文明

 愛のある部屋(パンドラボックス)では、これまでにアイの能力や人体実験といったことはしてきた。今はそれとは違う方向性の実験をしている。

 

「念空間って、マジで全然育たないのな……」

 

 愛のある部屋(パンドラボックス)の西区域を栽培可能エリアとし、土や肥料、種まきを頑張っている。

 もちろんこれは暗黒大陸に向けた準備の1つで、食料問題を解決する自給自足の策である。

 

「ヘイト、これなら食べれるんじゃない?」

 

 黒い人形(アイ)の手には細い人参が握られている。

 原因は分かっている。ここには太陽がなく、栽培には圧倒的に不向きなのである。

 安全な食料、それを暗黒大陸で入手することはほぼ不可能。

 これはネテロからも情報を得ていることで、念空間に食料を備蓄する以外に安全な方法はないのだ。

 

 「あちらの世界には究極の長寿食“ニトロ米”なんてものがあるみたいだが、ほんとかどうかも怪しいしな」

 

 暗黒大陸の門番の嘘かもしれない。人間だって平気で嘘をつくのだから。

 

愛のある部屋(パンドラボックス)からコンビニにでも買いに行けばと思っていたが……それもネテロに怒られたし」

 

 知らぬまにゾバエのような病気にかかりジャポンに戻ればどうなるか。感染するようなタイプだった場合、ホラーゲームが現実になってしまう。

 

「ミルキもいろいろやってるみたいだし見に行ってみるか」

「あいあい!」

 

 愛のある部屋(パンドラボックス)の南区域にあたる住居エリア。

 そこはネテロとミルキが生活する場所で、同じ念空間とは思えないほど文明が違っていた。

 

「まさにテクノロジーだな。しばらく見ないうちに、これほど変わっているとは……」

 

 呆けた顔がないはずのアイも興味津々である。機械の調整をしていたミルキはこちらに気づき手を止める。

 

「畑のほうは順調か? そろそろ収穫時期だよな」

「ミルキ、そんなことよりも、ここに電気があったことに驚いているんだが」

 

 これが機械オタクの本気というやつか。

 この念空間の広さなら問題なく賄える電力がそこにはあったのだ。

 

「これくらい当然だろ。それより、アイにやってほしいことがあるから来てくれるか?」

 

 ミルキにより発展した住居エリアを案内される。

 人工の滝と水力発電。そしてエリア一帯には水路が整備され建物が幾つも並ぶ。

 まさに水の都とでもいう世界が広がっていた。そこは照明により昼間のような明るさもあった。

 

「外とあまり変わらないだろ、けっこう苦労したんだぜ?」

 

 ミルキが操る自動人形が小さな町を作っている。

 そのほとんどが倉庫であり、冷凍庫がずらっと並び持ち込んだ食料が冷凍保存されている。

 

「この冷凍庫は四カ月前に準備したものだ。アイの力で冷凍庫の中の時間を戻せるか試してほしいんだ」

「ミルキ、この箱をもどせばいいの?」

「ああ、中にはいろんな種類の食べ物がはいっている。それを食べれる状態に復元できるかを知りたいんだ」

 

 アイの力で冷凍庫の中の物が復元される。

 

「ミルキ、どうだ?」

「結果としては失敗だな」

「冷凍でもダメなのか?」

「いや、この冷凍庫の電源はいれていないんだ。腐った食品を復元できれば管理が楽だったんだがな、他のも確認したいから来てくれるか?」

 

 日付毎に管理されている冷凍庫をミルキはメモを取っていく。そして基礎となるリストを完成させる。

 

「アイ、助かったよ。復元されるのは、やはり鮮度が関係してそうだ。種類によってまちまちだが、野菜と魚は二週間、卵と肉はニか月くらいが保存限界だな」

「ミルキは電気が無くなった時の事まで考えてるのか」

「当たり前だろ、相手は暗黒大陸なんだぜ?」

 

 食料品の復元管理を徹底すれば暗黒大陸での長期滞在は可能となる。

 

「期間が過ぎる前に復元してまた保存すればいいってことだな」

「ああ。食料を種類別に分けて保管し、日付管理すればかなりの量を備蓄できる」

「さすがミルキ、これで食料問題解決だな!」

「お前は馬鹿か? ヘイト、これは一時的な保存に過ぎない。食料が底をつけば俺達は終わりなんだ。で、肝心のお前の畑はどうなんだ?」

 

 アイの人参を見せたらミルキに怒られた。

 細い人参では人は生きていけない。これが現実、ミルキの所から電力を引き栽培用の照明を付ければ少しは良くなるだろうか……。

 

「よし、次は大根に挑戦しようと思ってな!」

「ヘイトにはもとから期待はしてないから、準備しといてよかったぜ」

 

 そこには水耕栽培された野菜がずらっと並んでいる。現代の最先端技術、文明の利器。

 

「畑にスプリンクラーをつけてくれ! オラにも文明を分けてくれッ!」

 

 効率厨のミルキはこれから家畜の準備に入るらしい。

 これは自虐ネタではない。豚ではなく、鶏くらいならなんとかなるらしい。

 牛乳の取れる家畜は無理だと言っていたので、アイの絶対注文であるプリンは難しいとのこと。妥協案として卵に甘い水で作るプリンならできるそうだが――。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 サヘルタ合衆国の田舎町。

 外の日差しが強く、ヨークシンから五百キロほど離れた場所で涼む。観光地でもないため、人も少なく自然を満喫できる。

 

「ヨークシンのオークションが始まるまでには十分な時間があるな」

 

 ヒソカの治療とミルキの勝利で、質屋に出したハンターライセンスは無事回収する事ができた。

 そこまでは良かった。ギャンブルとは恐ろしいもので、ずるずる続けていたらお金が無くなっていた。天空闘技場とは結局のところ欲望だったのかもしれない……。

 

「ここは平和だな。ジャポンの田舎とよく似てるし」

「あっ、猫!」

 

 黒い人形(アイ)は猫を追いかけるも足が遅いため追いつくことはない。

 

「ミルキに頼んでアイが乗れる小さな自転車でも作ってもらうか」

 

 相互協力型(ジョイントタイプ)の自転車ねらば、アイでもそれなりのスピードを出せそうな気はする。問題はアイが自転車に興味を持つかどうか。

 

「作ってもらえたらアイの自転車の練習もしないとだな」

 

 黒い人形(アイ)が戻ってくる。猫に逃げられたのかアイは落ち込んでいる。

 

「ヘイト、にげられた」

「ジャポンと違って警戒心が強そうだから無理じゃないか?」

「うーん」

 

 野良猫は警戒心が強く、餌付けでもしないかぎりは捕まえるのは無理だろう。万年猫屋敷のジャポンの隠家とは違うのだ。

 

「アイ、先に言っとくが捕まえても飼わないからな?」

「ええーッ! ジャポンの家にはたくさんいるのに?」

「あれは街で飼ってる地域猫だ。ボス猫もさちこやら、チャチャとか色々呼ばれてるからな」

 

 アイは腰を抜かして驚く。

 いや、自身で後方に飛んでから尻で着地したが正しい。驚いた時のキルアの真似だろうが使い方を間違っている。

 

「勝手に棲み着いてるのは――」

 

 ふと空を見上げると、黒い人影がこちらに近づいてくる。

 明確な殺意と視線は間違いなくターゲットが自分であると分かる。何故なら他には誰もいないのだ。

 

「上空からの銃弾か」

 

 敵のでかい狙撃銃が閃光を放ち、着弾と共に地面にクレーターができる。

 

「たいした威力だな、念弾にしては上出来だ。アイ、久々の敵だぞ」

「あい!」

 

 敵という言葉でアイはすぐさま体に戻る。

 

「概ね復讐といったところか」

 

 これまで情報を残すようなヘマはしたつもりはないが、どこかで漏れたのだろう。伯母のキキョウのような能力なら、外部から認識される可能性は十分にある。

 

 無音の念弾を堅でカードするも想像よりもはるかに重い。

 一発の威力が凄まじく、堅を簡単に突き破り体を貫通していく。

 

「いってーな、おい! 狙撃銃の連射とかゲームバグかよ」

 

 念弾の嵐に穴が塞がることはない。

 魂の力を節約しながら戦うというのは意外と難しい。敵は有利と判断し撃ちながら距離を縮めてくる。

 

「許さない、許さない、許さないッ!」

 

 濃密なオーラを纏う少女、見覚えのある顔で復讐で間違いなさそうだ。

 

「でかい狙撃銃とメイド服か」

 

 長い青髪をヘアバンドでまとめている少女。

 纏うオーラより気になるのはスカートの丈が短すぎてパンツが少し見えていること。

 ミルキの部屋にあったでっかい人形、敵である以上は容赦はしない。

 

「すまないが死んでくれ」

 

 俺はパンっと両手を合わせる。

 それと同時に少女の背後に突如現れる闇の空間。辺りには悲鳴に似た魂の叫び声が響き渡る。初見殺しでありアイの胃袋。

 

「【愛憎の棺(アビスコフィン)】、魂を喰らえ!」

 

 アイの食事である魂の吸収。

 普段は殺してから奪うのだが、情報が欲しいため無理やり魂を引きずり出す。

 吸収された魂は一番強い思い出をアイに見せる。アイが力を使うまで魂は永遠にこの中で拘束される。この距離なら外すこともないだろう。

 

 ――そして、撃たれた……。

 

「痛――ッ! アイ、交代で!」

『あいあい!』

 

 恥ずかしい、格好をつけて死んでくれとか言ったのに死んでいない相手。

 

『憑依型じゃないのかよ』

 

 たしか情報収集が大切だとネテロは言っていた。まずは敵を知ることが大事、アイの目を通して敵を再認識する。

 

『こいつ、黒いオーラだ!』

「ええー! ヘイト、こいつ魂ないよ!」

 

 魂がない死人というか死人形。

 魂が抜ける時の最後の抵抗、それが黒いオーラな訳だが、他に利用する人間がいる事に驚く。

 人間の人生は一度、簡単に扱えるモノではないからだ。

 

 アイは体をガス状にして念弾を避けていく。

 敵の念弾が何発も体を貫通していくが先程と違い血がでることはない。移動や攻撃は不向きだが防御だけでいえば負けることはない。

 

『さてどうするか』

 

 アイの得意である魂を歪める技。人間なら簡単にねじ切れるが魂がないなら意味がない。

 

『アイ、敵から情報を引き出せないか?』

「やってみる!」

 

 アイは両手を上げて少女と話し合う。しかし敵の攻撃が止まることはない。

 

「うーんと、名前はなんですか?」

 

 アイにしては頑張ったほうか。できれば背後にいる組織とか分かるような質問だといいのだが――。

 

「ヘ、フフッ……私はヘル=ゾルディックよ! しゅ……主人を殺した貴方を許さないッ!」

 

 ゾルディックや主人の所で顔がにやけるのはなんだだろうか。

 何処のゾルディックかは知らないが、人違いであることは間違いない。ゾルディックという名前なら確実に記憶に残るはず。

 

「ヘイトが人違いって言ってるよ。ひとちがい!」

『アイ、それは機密情報だ』

 

 相手に情報は与えないでほしい。

 

「私が、フッ……馬鹿なことを! ヘイト=オードブル! ミルキ様からの(ネン)であなたの事が鮮明に送られてきました。ミルキ様の死と共に送られてきた強い思い、この身が滅んでもあなただけは絶対に殺します――ッ!」

 

『ミルキに嫁だと?』

 

 そもそも伯母のキキョウが許すはずがない、イルミですら独身なのに。この泥棒猫が! とでも言うに決まっている、これが人間ならだが――。

 

 アイの戦闘練習には十分なっただろう。それに強敵(とも)のミルキは言っていた、リア充は滅べとな――。

 

『情報は十分だ。アイ、ミルキをここに召喚だ!』

「あいあい、ミルキをしょうかん!」

 

 アイの目の前にパンツ姿のミルキが召喚される。そしてヘルの顔は絶望へと変わる。

 

「愛する者の手で死ぬ、リア充に相応しい死。リア充に迫る念弾――ッ!」

 

 ミルキはパンツ姿で(タンク)として呼ばれたことを瞬時に理解した。

 ネテロの攻撃に比べたら遥かに遅く、ミルキは念弾をいとも簡単に握りつぶした。

 

「作戦は失敗に、じゃない。良くやったな、ミルキッ!」

「おいおい、急に呼び出すなよ」

「すまん、自称ミルキの嫁さんらしいやつがいてな、知ってるか?」

 

 ミルキはヘルに近づき青髪を撫でる。涙を知らない少女は悲しみの表情を浮かべる。

 

「ヘル、服を汚すな。お前は常に綺麗でいろ」

「ミルキ様、ごめんなさい……」

 

 パンツ姿の男とパンツの見える少女が触れ合う。

 兵器少女というゲーム内で行われた大会でミルキは圧倒的な軍資金(カキン)でワールドチャンピオンになった。

 

 その時に送られたのが“ヘル”という人型人形。

 ヘルはミルキの膨大な(カキン)で作られた兵器少女だった。

 ミルキの人形を操る念能力、その中の限定能力である【異世界の彼女(オレノヨメ)】が黒いオーラ(死後の念)によって暴走したとのことだ。

 

「ふーん」

 

 愛のある部屋(パンドラボックス)、俺はヨークシンに着くまでミルキを出禁にした――。

 




読んでくれてありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。