旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第十四話 ミルク

 ヨルビアン大陸西海岸のヨークシンシティ。

 世界最大のオークションが開催される都市で、数多くの珍品や貴重品が競売にかけられる。そのため街は観光客と商人で活気に満ちている。

 そんな中、小さなカフェでミルキと昼食をとる。

 

「ヘイト、サザンピースのカタログを貰うのを忘れるなよ」

「了解、オークションまでには手に入れておく」

「9月6日から10日までの間に数本がでるらしいから確認はしておけよ。俺はオークションまで掘り出し物がないか見てまわるから」

「どうせ、限定フィギュアだろ? わかってるよ、俺は俺で最後まで足掻いてみるさ」

 

 シルバからの支援により、ミルキは280億ジェニーの資金を準備している。息子のためとはいえ、150億をあっさりと貸すのは親バカでしかない。

 

「とは言ったものの、どうするか」

 

 できることは諦めずに頑張って資金を増やすこと、そんな悩む姿を見て戦闘人形ヘルが間に割って入る。

 

「ヘイト様、ミルキ様との二人の時間を作っていただき感謝します。私に分かることでしたらいつでも知恵をお貸しします」

 

 歩くパソコンことミルキの嫁。

 人工知能を持つヘルはゾルディック家で情報をひたすらに蓄積していた。

 

「まったく、有能すぎる戦闘人形だな」

 

 それは愛のある部屋(パンドラボックス)で大根を育てようとしていた時――。

 

「ヘイト様、そんなに密集して種を蒔いても育ちにくいだけですよ?」

「そ、そうなのか……」

 

 知識がないと分かるとヘルは優しく声を掛ける。その言葉には不思議と説得力があった。

 作物に関する膨大な知識、効率の良い栽培方法に適した環境づくりと人類の英知である人工知能を持つヘルにかなうはずがなかった。

 

「へー、なるほど」

「ヘイト様、後はやっておきますね」

「あっ、はい」

 

 気付けば誰も味方はいない。人工知能に仕事を奪われた初めての厄災。

 

「何か暇だな」

 

 愛のある部屋(パンドラボックス)での無職。そして気付いたのだ。ハンターになってから何も仕事をしていないことに――。

 

 

 仕事の依頼、それは前触れもなく唐突に現れる。空から降ってくるのは伝書鳩に一つの紙。

 

「これはハンター協会の印か、ネテロさんなら直接話すだろうし」

 

 紙を開くとそこには数字が書かれていた。

 つまりこれはネテロが知らないハンター協会の案件。目的を知るべくハンター協会に電話をする。

 

『はい、こちらハンター協会。ビーンズが承ります』

「今年ハンターになったヘイト=オードブルといいますが」

『ヘイトさんでしたか、ハンター試験以来ですね。最近の調子はどうですか?』

「はい、頑張ってますよ。そちらから何やら案内が届いたのですが知っていますか? 121とだけ数字が書かれています」

『12の1ですね。こちらから連絡が行きますので電話を切ってお待ちください』

 

 数分後の電話通知の相手は明るい声の男。

 

『どうもヘイトさん、副会長のパリストンです。まずは連絡ありがとうございます。いやー、ヘイトさんがいい人でよかった! 連絡してこないハンターがほとんどですから!』

 

 ネテロの次に位置する副会長パリストンからの依頼。認識もないはず、何故そのような人物から――。

 

『ヘイトさん、怖いので黙り込まないでもらえますか?』

「はい、聞こえてます」

『ハンター協会に上下関係なんてありませんから。切られるといけないし要件をいいますね、簡単な先輩ハンターのお手伝いです。新人ハンターの研修も兼ねてるのですが、どうでしょう?』

 

 新人研修とは裏試験(念の習得)の事だろうか。ネテロは必要ないと言っていたはずだが。

 

「いや、ちょっと用事が……」

『おや……もしかして裏試験は終えている感じですか?』

「まあ」

『んー、そうだそうだ! 天空闘技場からのクレーム大変でした。ヘイトさん、現役プロハンターの不正は良くないですよ。こうしましょう、今回はハンター協会からの指導ということで!』

「うーん……はい」

『いやー、ヘイトさんが話の分かる人でよかった!! これで私も指導したと報告できるのでお互い良かったですね、では――』

 

 話を勝手に進められた気がするが、報酬も弾むということなので仕方なく参加する。

 

「さっさと先輩ハンターとやらに会いにいって終わらせるか」

 

 ヨークシンのとあるホテルの最上階の一室。

 スイートルームの入口で牛の企業ロゴが入った警備員に案内される。その広い空間にいたのは牛の恰好をした男。

 

犯罪(クライム)ハンターのミザイストムだ。ミザイとでも呼んでくれればいい」

『ヘイト、うし、うしがいるよ!』

「分かりました。今回はお手伝いというか、勉強させてもらいます」

 

 犯罪(クライム)ハンターと一切関係のない容姿、どうするのが正解か。

 

『うし!』

「……牛?」

「なんだ、この格好が気になるか?」

 

 素直に頷く。さすがに触れない方がおかしいだろう。

 

「尊敬する人からのアドバイスだ。それと経営している警備会社の宣伝でもある。気にしないで座ってくれ」

「宣伝……なるほど」

 

 大きなソファーに腰を下ろすとミルクを勧められる。

 キャラ作りへの本気、これが経営者として成功に必要な才能なのだろう。

 

「まずはプロハンターになってみてどうだ?」

「プロ……そうですね、交通移動と身分の証明に関しては実感してますね」

「まあ、ハンターといっても実績があるとないとでは全然違うからな。星を持つと嫌でも世間からも注目されるようになる、俺は弁護士もやっているから必要な時は気軽に声を掛けてくれ」

「警備会社に弁護士まで……すごいですね」

「ただの肩書に過ぎないさ。それよりも君の未知(アンノウン)ハンターに興味があるのだが、調子はどうだ? 互いの接点はなさそうだが、どうも他のハンターの仕事というのは気になってしまってな」

 

 未知(アンノウン)ハンター、試験を合格にしたときに二つ名として適当に書いた気がする。

 話題になるようなものは……ない。なんせ畑仕事以外は何もしてない。

 

「最近はパドキワ共和国のククルーマウンテンの調査に……これといったものは何も見つかりませんでしたけど、貴重な経験になりましたね」

「ほう、ククルーマウンテンといえば暗殺一家のある場所と記憶しているが……よく調査させてもらえたな」

「門番の方が優しい方で案内してくれましたよ。たしかゼブロさんという方でしたね。特別と言っていたので他の方は無理かもしれませんが」

「なるほどな」

 

 ルームサービスで食事を済ませるとミザイストムは本題に入る。

 資料として用意した青年の写真を見せると同時にヘイト=オードブルの観察を始める。

 

「ヘイト、幻影旅団を知っているか?」

「聞いたことはないですね」

「そうか、Aクラスの賞金首の集団なんだが、別名“蜘蛛(クモ)”とも呼ばれている」

蜘蛛(クモ)……ああ、懐かしいですね。いまだに“大蜘蛛(オオグモ)”を知ってる人がいるなんて驚きですね」

 

 ミザイストムは予想外の回答に思わず険しい表情になる。

 幻影旅団ではなく別の蜘蛛。ハンターの中で世界最悪とされた大蜘蛛と呼ばれる組織。大蜘蛛(オオグモ)は同業者の中でも知っている者が少ない希少な情報。

 

「何故、その名を知っているか興味があるな」

「流星街の者なら、幻影旅団よりも蜘蛛(クモ)のイメージが強いんですよね。でも、その反応は違ったみたいですね」

「ああ、幻影旅団は大蜘蛛ではない。ただの蜘蛛だ」

 

 流星街、世界ではタブーに近い言葉。思わずミザイストムは目を細める。ヘイト=オードブルは人間特有の僅かな仕草を一切見せない。

 

 ――なんだ、この違和感は……訓練されている人間なのは間違いない。

 

 ミザイストムは多くの犯罪者を見てきた。そして裁判で多くの嘘も見てきた。

 犯罪者は必ずどこかに隙がある、がそれがない。

 ヘイト=オードブルはミザイストムが最も嫌う犯罪者に似ている。全ての犯行をなかったことにする完全犯罪、ミザイストムはヘイトを警戒人物に引き上げる。

 

「流星街か……なるほどな。そうなると今回の仕事はヘイトには難しいものになるかもしれんな」

「というと?」

「幻影旅団の一人にプロハンターが含まれていることが分かった。シャルナーク=リュウセイ、彼は恐らく」

 

 ミザイストムは言い淀む。流星街の住人の気質と流星街特有の仲間意識。

 

「流星街の人間なんて其の辺にいますからね。それよりもプロハンターがターゲットと言う事は、たしか……」

 

 ミザイストムの違和感は確信に変わる。

 流星街の人間で仲間意識がないのは異質、それに人間を物としか見ないあの目は間違いなく裏の人間。

 

「ああ、ハンターは十か条で守られてはいるが、拘束するだけの証拠が集まったということだ」

「場合によっては殺しても?」

「裁くのは私達ではない、手練れだろうが目的は拘束だ。そこは間違えないでほしい」

 

 ターゲットを見つけるまでは別行動。仕事の期間は最長で5日間狩り(ハント)が終わり次第、契約が終了となる。

 

 ミザイストムはパリストンと連絡を取る。

 

「パリストン、ヘイト=オードブルは流星街の出身だ」

『さすがミザイさんですね。これで彼とジンさんとの繋がりが見えました』

「となると……あいつがやはりそうなのか」

『間違いないと思います。ジンさんの星の一つに小国の救済、大蜘蛛の撲滅というのがありましたから、十分な繋がりですよ。犯罪(クライム)ハンターであるミザイさんから見て彼はどうですか?』

「俺には復讐するような男には見えなかった。それにネテロ会長が惹かれるような魅力も見つからなかったな。一つ分かったことは、あいつは裏の人間だ」

『それは犯罪ハンターの勘ですか? 消されないように注意してくださいね』

「お前に言われたくはないな」

 

 パリストンが副会長になってから多くのハンターが行方不明になっている。

 問題はこれだけではない。副会長も恐らく裏の人間、そして彼はどちらにでも傾くことができる。

 

「パリストン、貴様にハンター協会の私物化はさせない」

 

 どこかで潰さなければならない。ミザイストムはため息をつき、ヘイトのいなくなった部屋で静かにミルクを飲み干す。

 




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