9月1日――。
ヨークシンドリームオークションは表だけではなく裏の人間も引き寄せる。犯罪に関わるモノのみ扱う闇オークションも多数存在する。
世界最大の大競り市の始まり、街は早朝から多くの人で賑わう。
『ヘイトは仕事しないの? みざ……みむ、ミルクの人』
「しない訳じゃないが、こちらが頑張る必要はないからな。今はオークションだ」
他人の仕事なのだから最低限でいいのだ。
シャルナークを拘束して初めて依頼が達成する。ならミザイストムに見つけてもらうのが一番なのである。
「今回はミザイの専門だし、プロハンターからしたら邪魔でしかないだろう。そもそも新人のハンターなんぞ期待されていないはずだ」
パリストンが裏試験を話した時点で、この件はミザイストムにも話はいっているはずなのだ。
互いのやりやすいように流せばいい。評価をした所で意味はないのだ。
「いいか、アイ。値札は必ず見ること、値段の書いてない商品は絶対買わないからな!」
『あいあい、おこづかいで買えるものにする!』
お金を稼ぐとしたら掘り出し物を探すのが早い。簡単にいえば転売だが、これが一番に稼げる。
街にいる行商人の数をみればそれは明らかで、目利きさえ出来れば可能性は無限大である。
「ヘル、さっそくだが知識を借りたい」
「はい、主……ミルキ様からも手伝うように言われているので大丈夫です。アイ様も買い物をされるとのことですので、私がアイ様をお持ちましょう」
素直になればいいのに、と心で応援をするも首をつっこむ事はしない。
「ヘイト様、アイ様、それでは行きましょう」
ヘルは
傍から見ても美少女がぬいぐるみを持っているようにしかみえない。これなら移動が苦手なアイも問題はないだろう。
「ヘルは歩くのが早いんだな。いつもアイに合わせていたから移動が速く感じるよ」
「そうですか、では少し減速しますね」
ヘルが足を止めるときは掘り出し物があるという事なのだろう。隣で見ているがまったく違いがわからない。
商売をしている商人もヘルのような少女が目利きできるとは思っていないのだろう。
「このナイフを見せてもらえますか?」
「いいよ。なんだい、嬢ちゃんが使うのかい?」
ヘルは並べられている商品を一瞬で確認しデータと照らし合わせる。
「この商品の即決価格はいくらでしょうか?」
「即決ね……それなら傷も少しあるし、1万ジェニーなら売るぜ?」
「買わせていただきます」
ヘルは交渉から購入までがはやい。そのため、絵や壺、人形と荷物がどんどん増えていく。
「ヘル、そろそろ質屋に行こうか」
「はい、そちらの交渉も私がしましょう」
質屋の人間と対等に交渉までしている。一時間ほどで利益は持ち金の倍である4000万ジェニーになった。
再び掘り出し物を探していると両腕に収まっていた
「ヘイト、あれほしい!」
アイが欲しいのは古木の塊でゴミにしかみえない。
小物の商品は多く並んでいるも店主が不在の店。ヘルは値札を確認すると、書き直した複数の跡の最後に500ジェニーと書きいれる。
「ヘイト様、これは値段競売ですね。時間まで待たないと購入はできません。競売の規定時刻は12時ですので、それまで私とアイ様で待機します。お昼も近いですし、食事をされてきてはどうでしょうか?」
食事のいらない二人からのアドバイス、なら素直に従うべきだろう。
良くできた嫁、ミルキの念とはいえ理想が少し分かった気がした。
「なら、よろしく頼む」
「ヘイト様、いってらっしゃいませ」
昼食を終えても値段競売が終わるまでにはまだ時間がある。ヘルとアイもあの場所から動くことはないだろう。
何かないものかと辺りを見渡しながら、ふらふらと歩いていると一際騒がしい場所に出くわす。
熱気と歓声、普通の競売とは違うものがそこにはあった。
「さぁー、いらっしゃい。ここは条件競売だよ!! 落札条件は腕相撲だ!! 報酬は何と……この300万相当のダイアだ!! この少年に勝った者に与えられますよ。早いもの勝ち、参加費はたったの1万ジェニーだ!!」
条件競売――、初めて聞く言葉だが直観がこれだと告げている。
人が多すぎて腕相撲の相手は見えないが、声を聞くに多くの参加者が負けているようだ。
「……順番は、あと三人くらいか?」
しばらくして対戦相手が姿を現す。黒服の女性と対戦していたのはキルアの友達のゴン。お互い良い勝負をしている。
「頑張れ、ゴン! 勝つんだ!」
叫び終わると順番がまわってくる。そのにやけ顔を見たキルアが思わず叫ぶ。
「レオリオ、受けちゃだめだ――ッ!!」
「へ……? お、お前はッ!」
競売人の慌てぶりに周囲がざわつく。残念ながらレオリオは流れ作業で1万ジェニーを受け取ってしまっている。
「募金に感謝するぜ、キルア。その300万のダイア、運びやすいように箱にいれといてくれよ?」
「あっ、今度の相手はヘイトさんか!」
「久しぶりだな、ゴン」
キルア達とは違いゴンは晴れやかな表情を見せる。そしてキルアはゴンのサポートを余儀なくされる。
「最初から全力でいけ!! ゴン、あいつは絶対勝ちに来るぞ!」
「わかってるよ、キルア。これは真剣勝負だもんね! 負けるつもりはないよ、ヘイトさんも全力できてね!」
「――馬鹿、なに言ってんだッ!!」
ゴンの自分を試したいという小さな好奇心。
先程まで勝負をしていた黒服の女性も気になったのか足を止めて見ている。
「リクエストは全力ね」
全力と宣言したゴンは覚悟をきめオーラを纏う。
純粋な少年の挑戦を断るわけにもいかない。同期のハンター仲間としてこちらも本気でいくべきだろう。
周囲の人間に影響がでないように小さく、そして濃密に――。
「ゴン、俺が怖いか?」
纏う漆黒のオーラ。
ゴンとキルア、そしてレオリオですら瞬時にオーラの異質さを理解する。
針で突き刺されているような研磨されたオーラがゴンを襲う。好奇心の災い、過ちを知った震えるゴンはキルアを見る。
「……キ、キルア」
虚無の表情をキルアは見てしまう。レオリオの合図と同時にゴンの悲鳴は周囲を静寂にする。
それは逃げずに挑んだ証、周で強化されたテーブルに挟まれたぐちゃぐちゃに潰れてた肉片。
レオリオは怒りのあまり殴りかかるがイルミよりも深い目を見てキルアは止める。
「はなせ、キルア! この野郎はゴンの腕をッ!」
「いいんだ、レオリオ……」
ゴンは先の無くなった腕を押え蹲っている。レオリオは唇を噛み悔しさを滲ませる。
「きょ、競売は終わりだッ!!」
キルアの一言でその場が収まる。周囲の客は条件競売が終わり去っていくと、レオリオとキルアはゴンを介抱する。
そのやり取りを見ていた幻影旅団の三名。
黒服のシズク=ムラサキ、顔に傷のある巨漢フランクリン=ボルドー、そして小柄の男フェイタン=ポートオ。
「ヘイトって言ってたよね。あいつが相手じゃなくて良かった」
「ああ、たぶんマチのいってたやつだろうな」
「マチの寝言ホントか、注意したほうがよさそね」
目的の場所から離れた場所、そしてたまたま見つけた注意人物。シズクは自分の意見を他のメンバーに示す。
「ねぇ、団長に言っておく?」
「団長は気にしてなかったから別にいわなくてもいいだろ。それに俺らの目的と関係はなさそうだしな」
「それもそね、さっさと準備すませるね」
フランクリンの言葉に納得する二人。
襲撃予定の地下競売、マフィアに関係する人間ならばこんなところで遊んでいるはずもない。
幻影旅団はこの場を後にする。そして、夜に地下競売の襲撃が決行される。
それは多くのマフィアの怒りを集めることになる――。
9月2日――。
知らない男に紹介された一つの場所。この場所でも条件競売が行われていた。
“かくれんぼ”という名の競売条件。
指定された人物の受け渡し、生死は問わず。対象一人につき20億ジェニーという高額な報酬。
「そうそう、俺はこういうシンプルな話を探していた」
目的の一人はシャルナーク=リュウセイ、つまり幻影旅団が標的。そして、今の蜘蛛に見覚えのある女性を見つける。
これも何かの縁か――。
「へー、マチさんは幻影旅団だったのか」
『ヘイト、大金だ! 大金だね!』
心の中で踊るアイは、リングステージに集まっていく500万ジェニーという高額の参加費を見て興奮している。
「これでミルキを見返せるぞ!」
『ふふん、ふふーん、だね!』
「ああ、鼻で笑ってやるさ」
全員を殺せば140億ジェニー、シャルナークをミザイストムに引き渡しても十分すぎる大金である。
「知っている魂はマチさんだけだな」
呼び出して交渉するのがいいだろう。
条件競売は無期限とのことだが、ライバルも多いため早いに越したことはない。
「アイ、いくか」
『あいあい!』
街が暗くなってから荒野に移動をする。辺りに人の気配は一切ない。
アイの力によって呼び出されたマチは厄災を知ることになる。
「――ッ!?」
マチは念を纏い戦闘態勢にはいる。
視界の急な切り替わりに辺りを見渡すも何もない荒野が広がる。
「マチさん、こんばんは」
暗闇に紛れる男、それはマチが一番聞きたくない者の声。
「あんただね、ヘイト。こんなとこにあたしを呼び出してどうするき?」
「交渉にきました」
「……それは何の交渉だい?」
雲の間から見える月明かりにマチは息を飲む。
不気味な目をしたヘイトの体は闇に覆われ、その手には七名の顔写真が載った一つの紙が握られている。
「――手配書、か。そういえば、あんたもプロハンターだったね」
マチは地下競売の襲撃で関りを作ってしまったと瞬時に理解する。
「マチさん、手配書の一人頭20億の報酬である140億を用意できますか? それと、シャルナーク=リュウセイの引き渡しも。交渉が無理なら、今から全員殺します」
確実に蜘蛛は殺される、相手の目がそう告げている。
こいつは人間ではない。140億程度なら盗品を売ればどうにでもなる。
今は世界最大の競売が行われている、一人の判断ではいけないのだろうが決めるしかなかった。
「……殺されるのはごめんだね。シャルナークに資金の受け渡しをさせる。それでいいか?」
団長の説得は難しいだろうがするしかない。馬鹿な考えを起こせば蜘蛛はなくなる。
「交渉成立ですね。マチさん、手をだしてください」
マチは怯えながら手を差し出すと黒いナニカが手に触れる。
「馬鹿な――ッ!?」
マチの切り捨てたはずの片腕がそこにはあった。静かに感覚を確かめるも元の腕に間違いはない。
「期限は三日、準備ができたら連絡をください」
死神は対価を押し付ける。そして無理やり仲間を切り捨てさせるという代償も。
「ああ、わかったよ。でも、これっきりにしてほしいね」
マチは唇を噛み締め全速力で
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