旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第十六話 苦労

 ヨークシンの郊外に荒れ果てたビルが立ち並ぶ。そのゴーストタウンの一つに幻影旅団の拠点(アジト)があった。

 そこで起きた一瞬の出来事に、幻影旅団の団長であるクロロ=ルシルフルは口を開く。

 

「鎖を見た者はいるか?」

 

 クロロの問いで他の団員達も異変に気付く。

 マチの消失で頭によぎるのは敵である“鎖野郎”、そんな中に紛れる一人の男だけが一部始終見ていた。

 

「鎖じゃない♠」

 

 幻影旅団No.4の団員ヒソカ、一番信用の薄い男である。しかし、今回に限ってはヒソカを疑う者は誰もいなかった。

 鎖野郎ではないのなら誰なのか。

 復讐されるという経験は多いが、人物を特定できるだけの興味を団員達は持ち合わせていない。

 

 クロロは読んでいた本を置くとヒソカに質問をする。

 

「ヒソカ、マチは念を使ったか?」

「使っていないよ♠」

 

 あらゆる可能性を考えるクロロは沈黙を余儀なくされる。

 聞かなければ言わないヒソカの印象は団員達の心に疑心を生む。その非協力的な態度に団員が声を荒げる。

 

「ヒソカ、てめーなにか知ってんじゃねぇのか?」

 

 腰の刀に手を添える着流しの無精髭の男。

 居合の達人であるノブナガ=ハザマはヒソカよりも遥かにマチと付き合いは長い。

 ノブナガの仲間思いであるが故の行動だが、クロロにとってはただのノイズとなる。

 

「少し黙れ」

 

 邪魔になると考えた団員達は静かにクロロの指示を待つ。

 

「鎖野郎は恐らく操作系か具現化系だ」

 

 念を使っていないマチを考えれば、鎖野郎とは違う人物の攻撃と推測できる。

 

「鎖野郎の仲間の可能性もない」

 

 もし仲間なら鎖など使わずに、この最善の能力を利用しているはずなのだ。

 考えるべきはマチが一人だけなのかということ。選ばれた理由、蜘蛛以外と関りを持たない者が何故――。

 

「いや、一人いたか。マチが気にしていた人物が」

 

 クロロは確信を得るためさらなる理由を求める。考えつくのは名声か賞金稼ぎ。

 

「ヒソカ、ヘイト=オードブルはハンターだったな?」

「マチから聞いてるだろ、ボクと同じハンターだってね♠」

 

 名声と賞金稼ぎ、普通のハンターならばおかしくはない。ただ、そんなものでヒソカがマチを売るかという点である。

 憎まれる、という事を考えればあるのかもしれないが――。

 

「そうなると一つの疑問が残る。ヒソカ、マチはその場にいたんだろ?」

 

 クロロはヒソカの心の傷を抉る。

 天空闘技場での決闘は団員全員が知っている。中にはそれを笑う者もいた。

 

「それは、ヘイトの念能力で瀕死のボクが復活したことを言ってるのかい?♠」

「ああ、そうだ」

 

 当のヒソカはそんなこと気にすらしていない。

 ただ知らなかっただけ自分が最強ではなかったと。そんなヒソカはクロロの言葉をさらりと受け流す。

 

「マチはヘイトに対して苦手意識を持っていたみたいだけどね♠」

「ほう、苦手意識か」

 

 クロロは小さく頷く。

 ヒソカの治療に居合わせたマチ、聞いた話では金でどんなケガも治療する男。ならばマチは何故願わなかったのか。

 治さないことを考えればヘイト=オードブルがその原因なのだろう。

 

 静かに悩むクロロを見てシズクは小さく手を上げる。

 

「団長、ちょっといいですか? そのヘイト=オードブルという男なんですけと、今ヨークシンにいますよ」

 

 興味のないことはすぐに忘れるシズクからの助言に団員達は驚く。

 

「ああ、本当だ」

「そうね」

 

 頷くフランクリンとフェイタン。

 それはシズクの言葉が真実だということ。地下競売の襲撃の日、腕相撲をしていた少年達の出来事を話す。

 

「名声ではなく、金か……警戒した方が良さそうだな」

 

 仕掛けてきたということは相手に勝算があるということ。クロロは具現化系の能力者である団員コルトピに指示を出す。

 

「コルトピ、アジトのコピーは増やせるか?」

「50は平気」

 

 旅団内では最も小柄の男コルトピは自信たっぷりに話す。

 コルトピの念能力である【神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)】は左手で触った物体を右手で複製させる。

 

「ヘイト=オードブルが幻影旅団を捕らえる万全の準備ができていて、外部から引き寄せできる能力者だとしたら、他の団員も消されているはずだ。それがないという事は“今後”接触してくる可能性は高い」

 

 静観することしか許されない団員達。

 出来ることは鎖野郎を追っているウボォーギンとシャルナークの合流を待つことだけ――。

 

「……コルトピか」

 

 コルトピによって増えたビル群、それは警戒中という団長からの指示(メッセージ)

 夜とはいえ拠点(アジト)の場所を間違えるはずがない。偽物(フェイク)が増えたところで場所は同じ。マチは迷うことなく拠点(アジト)に到着する。

 そこで待っていたのはまさかの異端審問、クロロの冷たい視線がマチに突き刺さる。

 

「念を纏えば敵とみなす。質問にだけ答えろ」

「――チッ」

 

 苛立ちと焦り、マチにとって無駄な質問が続く。仲間達からの最大限の警戒、ある一人を除いては――。

 

「クロロ、彼女は本物(マチ)だよ♠」

 

 マチが望む一番の言葉は団長ではなく最も嫌っている団員ヒソカからだった。クロロの行動は理解できるもマチの心には小さな亀裂が生まれる。

 苛立ちながらもマチは自身の証明を考える。それは思ったよりも遥かに難しく操作されていない証明は不可能に近い。

 ただ不満だけが募っていく。その蓄積された感情は消しきれない程に膨れ上がっていた。

 

「マチ、何があった?」

 

 クロロが核心部分に触れるとマチはヘイトとの出来事を団員達の前で詳細に話す。

 140億という懸賞金が団員の首にかかっている。

 そして、狙われているシャルナークと団員達の置かれている状況の全て。それを聞いた仲間達の反応はマチが思っているのと違っていた。

 

「交渉をしなかったのか?」

「あたしの状況も考えろよ!!」

 

 クロロが告げた当たり前の言葉にマチは反発する。

 マチには全てが不意打ちであり、冷静さを失わせるにはどれをとっても十分な出来事。実際に体験し見た者とそれを聞いただけの仲間、それだけの違い。

 マチは精神が不安定になっていることを自覚する。蜘蛛の運命がかかっている以上は冷静にならなければいけない。

 

「悪い、感情的になった……。ヘイトに対して何もできなかっただけ」

 

 マチは小さな声で呟く。それを聞いたクロロは小さく笑い呆れた表情をする。

 

「やはり、信じがたいな。金で解決できる相手に交渉をしない、シャルナークを狙う理由すら聞き出さず……だが腕だけは治してもらったと。これは俺がおかしいのか?」

 

 クロロは静かに首を横に振る。

 外から見ただけの意見ではあるが的確で正論。マチは嫌味に対し言い返すことはできない。

 

「あいつは本物の化け物なんだよ、嘘じゃない。関われば蜘蛛は間違いなく無くなるんだ」

 

 マチの必死な説得、それは初めて見るマチの弱さ。それが原因なのかクロロの目にはマチが別人に映っていた。

 死を恐れない蜘蛛、何に怯えているのか……。

 クロロが知るはずもない答え。魂の怯えはマチ本人でさえ分かっていない。

 

「お前は本当にマチか?」

 

 クロロの一言でマチの仲間に対する愛が憎しみに変換される。

 その反動は凄まじく、怒りというエネルギーがマチの心の底から溢れ出す。

 

「てめーら、そんなに疑うなら素っ裸にでもして調べればいいだろッ!! あたしはあたしだ!!」

 

 荒れ狂うマチの気迫に静まり返る拠点(アジト)。しかしクロロの冷静さは変わらない。

 

「それもそうだな。パクノダ、マチからヘイトに関する情報を全て引き出せ。そして俺に見せろ」

「ええ、わかったわ」

 

 胸元の開いたスーツを着ているグラマラスな鷲鼻の女性パクノダ。

 記憶を読み取る能力を持っており、読み取ったものを【記憶弾(メモリーボム)】で他者に見せることができる。

 

 パクノダはマチに触れると記憶を読み取っていく。

 パクノダが読み取ったそれは団員達にとって不必要なものが含まれていた。ヘイトと出会った一つのカード、パクノダは知ってしまうマチの女の感情を――。

 

「マチの言っていることは全て本当ね。見せる必要はないわ」

 

 パクノダの言葉を聞いたクロロは不思議そうな顔をする。そしてマチの味方は次第に増えていく、シズクもその一人。

 

「団長、ヘイトの念をこの目で見ましたけど、かなり異質でしたよ。だよね? フェイタン、フランクリン」

 

 視線の先の二人は頷く。

 それぞれの審議が終わりクロロに向けられる団員達の熱い視線。今のマチを疑う団員はいない。クロロは深くため息をつき小さく笑う。

 

「……まるで俺が悪者だな。まあいい、最終確認だ。マチ、利き腕はどっちだ?」

「右だよ、知ってんだろ!」

「ノブナガ、右腕を切り落とせ。マチ、念を許可する」

 

 ノブナガは一瞬驚くがすぐにクロロの狙いを理解する。

 マチの念能力である【念糸縫合(ねんしほうごう)】。その高度な技術を片手で……さらには利き腕ではない手で証明しろということ。

 マチ自身も初めてやるであろう己の技術。操作ではなく本人の強い意思でなければできない操作の説を消すための作業。

 

「ノブナガ、さっさとやりなッ!!」

「おー怖ぇ、団長の命令だ。マチ、怨むなよ」

 

 ノブナガの居合により切り落とされる綺麗な切り口の右腕。その腕を大切に受け止めるのはヒソカ。 

 

「ボクが持つよ♥」

「感謝するよ、ヒソカ」

 

 ヒソカは縫合のしやすいように腕の位置を調整する。そしてマチは証明した、自分が自分であると。

 幻影旅団の拠点(アジト)はいつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。しかし警戒を緩めることはない、クロロはお詫びとして団員達を安心させる。

 

「ヘイトのことは心配するな。こちらから触れる必要はない」

「どういうことだ?」

 

 ノブナガがクロロに聞き返す。

 

「やつは俺達にかかっている金が目的、なら俺達の価値をなくせばいい。懸賞金は陰獣を始末された十老頭による報復だろう、それを始末するだけだ」

「元を潰すってわけか!」

 

 懸賞金がなければただの死体(ゴミ)。ハンターなら損得くらいは分かるだろう、無駄にリスクを取ることもしないはず。

 

 問題は感情で動いている鎖野郎。

 

「鎖野郎も動いている状況だ。なるべく目立つ動きは避けたい、この件は俺がなんとかしよう」

 

 その心強いクロロの言葉は反論の余地を与えない。

 クロロは拠点(アジト)の外で夜風にあたる。そして信頼できる相手に電話を掛ける。

 

「イルミ」

『そろそろ依頼の来る頃だと思っていたよ』

「フッ、そうか」

 

 僅かな沈黙は互いの駆け引きを生む。

 

「十老頭のやつらも依頼してきたか。まあいい、いくらだ?」

『そうだなー、1人15億の10人で150億で手を打つよ』

 

 いつもより遥かに高い金額、懸賞金との天秤か。

 幻影旅団に対し鎖野郎だけでなく、ヘイトというハンターにゾルディックまで動いてるとなれば素直に受け入れるしかない。

 

「分かった、それで頼む」

『助かるよ、最近大きな穴が開いちゃってね。まあ、返ってくる宛はあるんだけど』

 

 クロロは空を見上げる、そこには綺麗な星空。それとは違い地上は汚い金が流れ人間の欲望だけが綺麗に輝く。

 

「クソがッ!!!」

 

 クロロは地面を蹴り上げる。

 誰にも知られることのない団長の苦労。クロロは頭の中で本の選別を始める。

 夜空に輝く月だけがクロロを見守っていた。




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