月夜の雄叫びで静かだった荒野が騒がしくなる。
「ヘイト、あっち」
素手で応戦している見覚えのある巨漢の男――。この戦いは先を越されたということ。
『……鎖使いの相手は20億の男だ!』
マチとの交渉でこちらは手出しが出来ない。
アイの持つ漆黒の目での観戦、二人の念色は黄色と濁った赤色。
黄色は主に強化系で赤色は具現化系を示す。濁りは特質系を示し、鎖使いは具現化系と特質系を持つ珍しいタイプ。
それはアイにとっても同じで希少な魂なのである。
『ヘイト、あれ食べていい?』
二人の魂の輝きは十分で許可をすればアイはあの二人を即座に捩じり殺すだろう。
『魂は宿り主のもの。命の尊さ、殺しという快楽に溺れてはならない、ゼノさんがよく言ってるだろ』
こちらは快楽殺人者などではない。魂の食事は仕事で始末した人間と敵対者のみ。
ゾルディックの教えであり誇りというやつだ。長年続けた仕事はアイも分かっている。
勝負が終わり立っていたのは鎖使いの男だった。
ハントに成功し懸賞金20億は鎖使いが獲得。欲をかいたのはこちらでハンターとして素直に認めるしかない。
「
相手を称え、その場を後にしようとした時、鎖使いが
「まさかの快楽殺人者か?」
鎖使いは車でその場を去っていく。静けさを取り戻した荒野では自身の強い心音も聞き取れる。
人は見かけによらない。埋まっていた
「まあ、誇りなんてあってないようなものだからな。そもそもゾルディックじゃないし」
貰えるものは貰う、乞食ハンターと言われようが気にしない。世の中は結果が全てなのだ。
『うまーい!!』
アイも男から抜き出た魂を喰らう。たまたま落ちていたものを拾い喰っただけ。
男の亡骸に手を合わせジャポンの作法で感謝を示す。そのまま鎖使いの変装をし即座に換金する。これで足が付くことはない。
“ヘイト、シャルナークを見つけたぞ”
ミザイストムからのメール、幸運はまだ続いているようだ――。
シャルナークは追われていた。それはウボォーギンと別れてすぐのことだった。
運がよかったのは追跡者が未熟だったこと。
すぐに視線を感じ取れたのが救いで、囲まれていたら逃げる暇はなかっただろう。
「牛のロゴ、これは注意しないとだな。とりあえず団長に連絡しておくか」
シャルナークは屋上を移動しながら団長の指示を待つ。
数ある情報源によりミザイストムが経営する民間警備隊と分かる。
「元締めは十二支ん……なるほどね、了解と」
団長から送られた指示は時間稼ぎ。
ここは世界最大のオークションが開催されているヨークシン、夜でも多くの人で賑わっている。時間稼ぎだけなら支障はない。
シャルナークは次の指示でマチに起こった出来事を知る。そこには
「へぇー、治療と瞬間移動か。ヘイト=オードブル、たしか今年の新人ハンターだったな」
団長が相手の能力を書いてきたということは能力を奪うことの示唆。つまり、隙をみてアンテナを刺せとの指示である。
「確認できている念能力は二つか、情報としては十分だな」
二つの発、才能を考えればプロハンターになる前から念能力者である可能性が高い。
警戒はするも分かっていれば対処はできる。シャルナークの不安要素は相手が操作系であるかどうか。
「うーん、でもそれらしい人物はいないんだけどね。こっちから探すか」
アンテナによる捕獲、相手が一番油断するタイミングを見極める。
「囮作業は継続っと」
ミザイストムとヘイト=オードブルは繋がっていると団長は考えている。
ミザイストムは屋上を飛び回るシャルナークを確認する。
「これは誘いだな。それに屋上か……ついてないな」
ミザイストムの念能力は【
それは青黄赤の三種のカードを使う。青は入廷、黄は拘束、赤は退場といった能力に分かれている。
問題なのは一つの制約。相手にカードを見せるというもので、一定の距離と青の入廷カードを認識させる必要がある。
入廷さえさせてしまえば、黄の拘束に繋がり相手の動きを封じることができる。青を無視し黄の拘束からでも可能だが、警告とルールの読み上げが必要になる。
「逃げに徹しているこの相手にその時間はない。追った所でオーラを能力に回せば差は開くな」
逃げられるのが現状で成功はしない。まずは協力者、僅かな時間を稼げるだけの人間が必要。
「遅くなりました、ミザイさん」
現れたのは協力者のヘイト=オードブル。
シャルナーク捕獲という
「ヘイト、やつは屋上を飛び回っている。恐らくは誘いだ、逃げる様子もない。少しの時間を稼いでくれれば俺が拘束をする」
「はい、やってみます」
「よし、合図で一気にいくぞ!」
互いの思惑が入り混じる本気の鬼ごっこが始まる。
初動の差でミザイストムとシャルナークの距離が縮まる。しかしそれはシャルナークに予測されていた。
少し遅れてその二人を追うヘイト。
シャルナークの視線の先、ミザイストムは自分を見ていない標的に気付く。
「流星街の繋がりがあるのかもしれないが、まずは追い詰めることが優先だ」
その中でミザイストムは一つのミスを犯す。
幻影旅団は冷静沈着、そして残忍。シャルナークの標的はミザイストムでもなくヘイトでもなかった。
狙いは一般人、向けられた周で覆った小石。
オーラを纏わぬ者に当たれば即死、シャルナークはわざと間に合うように調整をしていた。
ミザイストムと距離を離しヘイトと二人になるための策。
「これは警告だな」
星を持つハンターとしての良心が追跡の邪魔をする。
小石に一切反応することなくシャルナークの後を追うヘイトを見てミザイストムの心に疑念が生まれる。
「――まさか、蜘蛛がヘイトを仲間にしようとしているのか?」
仮にそうだとしたら、蜘蛛はヘイトの情報をどこで手に入れたのか。どこかに十二支んの知らない情報があるのかもしれない。
再検討の必要性、最悪はヘイトが単独で画策している可能性だ。
「ネテロ会長すら引き抜く男、十二支んの考えなど読まれているかもしれない」
ミザイストムは思考の沼に埋もれていく――。
ミザイストムの脱落を確認したシャルナークはルートを変える。後ろからついてくるヘイトを確認しながら拠点の方角に進む。
しばらくして幻影旅団の拠点から近い広場で鬼ごっこは終わる。
「初めましてかな、新人ハンターのヘイト君。君がオレを狙うのはミザイストムの依頼だろ?」
「そうですね、シャルナークさん」
「それはよかった」
シャルナークはマチが告げた発言を把握する。標的の理由が分かれば後は蜘蛛として動くだけ。
「ヘイト、マチと交渉したそうじゃないか。オレとも交渉をしないか?」
「それは面白そうですね」
互いの交渉、それはヘイトも考えていたこと。
団長の指示通りに事は進む。幻影旅団にとって唯一ヘイトと交渉できる人物がシャルナーク。
標的であり殺されない交渉人、マチは後手に回ったがシャルナークは先手を取った。
「ヘイト、マチの交渉分に加えてさらに40億をだすよ。オレは情報と経理の担当をしている、金には困ってないんだ」
「へー、なるほど」
「別にミザイストムを裏切れとか無理強いはしない。ミザイストムの依頼が拘束なら、オレからの依頼は救出ってところかな。それくらいは簡単にできるんだろ?」
「たしかに、それなら両方の依頼を受けれますね。いいですよ、交渉成立で」
シャルナークの提案はヘイトに了承され互いの目的が一致した。
「もちろん治療代も含まれてるからね。ヘイト、優しく頼むよ」
「分かりました。なんか幻影旅団から貰ってばかりで悪いですね」
「別に気にしないでいいよ」
シャルナークはほくそ笑む。
そして愚かにも一番大切なことに気付かない。ウボォーギンの死をヘイトは確かに告げていた。
蜘蛛の不吉な流れは変わらない。
四肢を折られたシャルナークはヘイトの手によってミザイストムに引き渡された。
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