旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第十八話 戦士

 電脳ネットで一つの映像が注目を集めていた。

 それは人体の解体という残忍なもの。これは幻影旅団に向けたマフィアからのメッセージ。

 

「……ほう」

 

 何時は訪れる逃れられないその日。

 拠点(アジト)に戻るがウボォーギンとシャルナークの姿はない。クロロはマフィアの映像を元に団員達に話しかける。 

 

「ウボォーギンが敗れた可能性が高い」

「団長、それはどういうことだ?」

 

 ノブナガは怒りの表情を見せクロロに聞き返す。

 単純思考ではあるがウボォーギンは馬鹿ではない。戦闘経験も多く考えるだけの頭は持っている、だからこそ――。

 

「マフィアの連中だろうな、電脳ネットに映像が流されていた。夜明けまで待つが戻らなければ予定を変更する」

 

 沈黙する団員達と同じくクロロも待つという可能性を提示する。

 偽物の映像を作ることは簡単だろう。だが今回の映像はマフィアが流している。ハッタリをする連中ではないのは周知の事実でウボォーギンの死はほぼ確実。

 それを聞いたノブナガはしぶしぶ怒りを収める。

 

「ねぇ、シャルナークは?」

 

 勘の働くマチは冷たい声をクロロに向ける。

 ウボォーギンの事は理解したがシャルナークは不在のまま。団員達は何も知らされていない。

 

「シャルナークには別の件を任せた。明日の朝には戻るだろう」

 

 情報収集の得意なシャルナーク、これまでも団長から個別に任されることは多い。

 珍しい事ではないが不吉な連鎖が胸騒ぎを引き起こす。マチが聞くのは必然だったのかもしれない。

 

「団長、あたし達に何か隠してない?」

 

 マチの勘は当たっていた。

 シャルナークは現在ミザイストムによって護送されている。クロロはそれを団員達に告げることはない。

 無言の空間、拠点(アジト)を照らす蝋燭の灯は時間と共に短くなっていく。

 団員達はウボォーギンが戻ってくると信じて苦い時間を噛みしめる、そして――。

 

「――予定を変更する」

 

 静寂を破ったクロロの言葉。

 これによりウボォーギンの死が団員達の共通認識となる。冷静さを取り戻した団員達に出された指示は狩りだった。

 

「手配書に載っている者は二人組(ペア)で鎖使いを探しこの場に連れてこい。残りは他にやってもらうことがある」

「なあ団長、俺も鎖野郎のチームでいいか?」

 

 クロロに対しフィンクスは提案をする。

 手配書の仲間はシャルナークを除けばフランクリン、シズク、マチ、ノブナガ、フェイタンの5名。二人組(ペア)での行動となると自ずと一人は待機となる。

 

「俺がフェイタンと動く。待つ時間が勿体ないし鎖野郎と戦闘前提なら俺がいたほうがいいだろ」

「それもそうだな。フィンクスはフェイタンとの行動を許可する」

「団長、助かるぜ!」

 

 クロロはフィンクスの提案を受け入れるとマフィアからのリーク情報を伝える。相手も一枚岩ではない。

 

「鎖使いの特徴だが、青の民族衣装に金髪の若い男とのことだ。偽名の可能性はあるが……クラピカと名乗っていたそうだ」

「――青い服に金髪か。すぐに会いに行くぜ、クラピカさんよォ!」

 

 ノブナガは刀を強く握りしめる。蜘蛛は動き出すクラピカを求めて――。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 9月3日の早朝、ヘイトはシャルナークの依頼を受けた場所にいた。

 ここは廃墟からも近く朝でも人はいない。ミザイストムはシャルナークの奪還を警戒し夜の間にヨークシンを出発している。

 

「さっさと終わらせますか」

『あいあい!』

 

 ヘイトはアイが確認したシャルナークの魂を引き寄せる。その一瞬の出来事を理解できる者は誰もいない。

 

 アイの力は強大ではあるものの幾つかの制約がある。

 自身のために力は使えない、指示がなければ強大な力も使うことができないといったものだ。

 ヘイトはその制約をなくすためだけに教育をしてきた。厄災の自立、これはアイのためであり自分のためでもある。

 

 ヘイトはシャルナークが身に付けている拘束具を外し、そこに発信機がないか念入りに調べる。

 

「シャルナークさん、発信機とか飲まされたりしてないですよね? って、喋れないか」

 

 首を上下に動かすシャルナーク。念の為にとミルキから電波妨害装置を借りたが杞憂に終わる。

 

「完全に治ってる、それにしても本当に便利な能力だ」

 

 シャルナークは凝り固まった体を確かめると岩陰に隠してあった携帯電話で報酬の準備をする。

 

「ヘイト、送金はしたよ。確認してくれるかな?」

「はい、しっかりと振り込まれてますね」

「団員に空きがあれば勧誘するんだけどなー! できないのが本当に残念だよ」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

 

 感謝を示し手を差し出すシャルナークにヘイトは応じる。

 信頼という盾に生まれる隙、手の平に走る僅かな痛みと奪われる意識。傀儡となったヘイトを確認したシャルナークは深いため息をつく。

 

「あー怖かった」

「見事だ、シャルナーク」

 

 この場に現れたのは手配書に載っていない幻影旅団の5名。

 団長のクロロはヒソカ、パクノダ、ボノレノフ、コルトピをヘイトの能力を盗むためだけに連れて来たのだ。

 

「――クロロ、君は随分と危ない橋を渡るね♠」

 

 ヒソカはシャルナークのアンテナが刺さったヘイトを見つめる。瞬きすら許されない操作されたヘイト。

 ヒソカの湧き上がる怒りはパクノダも同じだった。このことは団員に一切知らされていないのだ。

 

「ヒソカの言う通りよ、私も納得はしないわ」

 

 蜘蛛にとっての最大の危機を好機に変える。ヘイトの力を盗めば蜘蛛のためになるのかもしれない。

 納得いかないのはマチの怒りをクロロがまったく理解していなかったこと。これはマチを信用していないのと同義。

 

「さて始めるか」

 

 クロロは気にすることなく手に本を出現させる。

 ヘイトの能力はこの目で確認した。後はパクノダに念に関する記憶を調べさせてシャルナークの操作で受け答えをさせればいい。

 

 クロロの念能力である【盗賊の極意(スキルハンター)】。

 その厳しい制約が仲間の手によって簡単に終わる……はずだった。

 

 橋は渡れてなどいなかった。

 

 不穏な空気が辺りを包みマチの恐れが現実となる。

 その意味を最初に知ることになったのヒソカとパクノダ。その唖然とする仲間の表情を見てシャルナークは振り向く。

 

「ぐあぁぁ――!」

 

 シャルナークの叫び。

 見えたのは一瞬で、黒い眼とにやりと笑う黒い口はシャルナークの光を遮断する。

 足元に落る二つの眼球、操作された動かないはずのヘイトからの攻撃。未知の恐怖が幻影旅団を襲う。

 

「あいあい」

 

 幻影旅団から嫌な程の大量の汗が流れる。

 パクノダも結局のところ現実ではなく記憶を見ていただけにすぎなかった。

 この場にいる全員が分からないのは体が震えて動かないこと。唯一、分かることは死が確実に近づいている。その足音は余りにも近く絶望しか残されていない。

 

 シャルナークはアンテナという鍵でパンドラの箱を開けてしまった。そこから出てきたのはヘイトという制約の外れた厄災だった。

 

「ん、あれ?」

 

 突如として消えた意識にアイは姿を現す。

 ヘイトの体に流れ込んでくる他人のオーラ、しかしそこでアイは1つの難題にぶつかってしまう。

 

“交渉中の相手は殺してはいけない、敵対してきた者は殺していい”

 

 これはヘイトがアイに告げた言葉。

 握手と同時の攻撃によるアイの初めて知る矛盾、少し悩みアイは自分の意思で答えを導き出した。

 

「だめだから殺さないで殺す?」

 

 それがアイの出した答え。

 アイは眼球をくり抜いた指だけでシャルナークを持ち上げるとすごい速さで魂を削ぎ落していく。

 叫び狂うシャルナークから溢れ出す一生分の制御できないオーラは肉体をいとも簡単に滅ぼしていく。

 

 クロロの目に映るのは、厄災に触れた老化し衰弱していく仲間。

 

「シャル……」

 

 予想外の事態にクロロは疑問に苛まれていた。

 発は多ければ多いほど質は下がる。それを補うために制約や誓約などが存在する。

 念の常識で考えれば高度な能力は多くても二つがいいところ。

 例外はある、それはクロロのような一つの媒体から能力を派生させること。

 具現化系の得意とする技だがこれは明らかに違う。一つ一つが個別に、確かに存在している。

 

「疑うべきは自分だったか」

 

 自分の愚かさを知るクロロ。人の姿をした怪物なんて本の世界だけだと思っていた。

 人間の愚かさ、常識、推測、思い込み。

 ヘイトの持つ瞬間移動と治療の能力、その質を見て能力はそれだけだと勝手に認識してしまったのか。

 何のために本が存在するのか、それを一番に理解していたはずなのに――。

 

 投げ捨てられたシャルナーク、息はするも髪は全て抜け落ち枯れ果てた姿はまるで老人。

 これが念によるものなら除念も考えるが――。

 

「夢見る愚者、俺もその一つだったということか」

 

 死を受け入れたクロロは怪物の支配が消えていることに気付く。視線の先の怪物がじっとこちらを見つめていたのだ。

 全身の震えが止まるがクロロの体は動くことはない。蜘蛛の終わり、絶望が頭に過る瞬間に一人の仲間が叫ぶ。

 

「逃げろ――ッ!!!」

 

 覇気を纏った一人の戦士が怪物に挑む。

 ギュドンドンド族の生き残りにして舞闘士ボノレノフ=ンドンゴは体の包帯を脱ぎ捨て怪物に向かい突進した。

 ボノレノフの体中の穴から鳴り響く音、仲間を逃がすための全ての思いの込められた槍。

 

 【戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)】、それは奏でた音を戦闘力に変える。

 

序曲(プロローグ)

 

 輝きに包まれるボノレノフは全身に闘志を漲らせる。

 死ぬ事は分かっている、ならば戦士として死ぬまで。それが残された部族の誇り。ボノレノフは最後の演武を覚悟する。

 

 槍による一閃は怪物の体を貫いた。

 

「こいつは――ッ!?」

 

 そこに歓喜はなく不気味な感情だけがボノレノフの心を支配する。肉や内臓を貫く感覚がない素振りをしただけのような――。

 

 ブピャッ!

 

 体の中から無理やり押し出された空気、それがボノレノフから出された最後の音だった。

 厄災の足元には一つの肉塊。念を纏った者が捩じり殺される現実は念能力者に絶望だけを与える。

 

 ここに逃げ場はない、能力を奪わない限りシャルナークのように引き寄せられる。そんなことを忘れさせるほどクロロの脳は怪物を拒否していた。

 

 ヒソカ、クロロ、パクノダ、コルトピは厄災に挑んだ者の末路を目に焼き付けた。

 そこには僅かな希望もなく怪物を倒す以外に生きる道は残されていない。

 ボノレノフのように蜘蛛として戦うのか、小さな願いを否定するように鍵の開いたパンドラの箱は新たなものを生み出す。

 

 突如として現れた少女、青年、老人の三名。

 その全てが怪物のような不吉(オーラ)を纏っていた。幻影旅団にとってそれは希望かそれとも禍か――。

 




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