旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二十話 消された記憶

 1500年以上昔から無人の地、それが世界から認識されている流星街。

 一人の独裁者によって作られた場所であり、罪人の行きつく鎖の無い牢獄。

 

 “ここには何を捨てても許される”

 

 流星街の仕事は子供と大人で別れている。

 子供は廃棄物の中から使えそうなものを探すこと。大人はそれらを修理、分解といった方法で使える物にし、金品や食べ物と交換していた。

 

 流星街の子供達はいつものように仕事をする。

 夜は視界が悪く飛行船からの落下物があるため、仕事は必ず日が昇ってからだ。

 

 ふと空を見上げた少女はそれを見つける。

 

「ねぇ、あれ見て!」

 

 大人たちが隠す紋章、いつもなら人が多く集まる場所のはず。

 子供の頭に浮かぶのはその程度、パラシュートで落ちてくる箱に集まる子供達。

 

「きっと食べ物だ。大人にはだまってようぜ!」

 

 一人の少年の意見に子供達は納得する。

 大人に言えば全て持って行かれてしまう。だが内緒にすればここにいる全員で山分けにできる。

 任された仕事場に大人達はこない。箱はばらして廃棄物と一緒にしてしまえば見つかることはない。

 

 そんな浅はかな考えでリーダー格の少年は箱を開ける。入っていたのは一つの種だった。

 

「なんだよ、これ。食い――」

 

 カッ!! っと、強い閃光が辺りを照らす。

 その種は開花し轟音と黒煙を上げる。黒い煙はまるで薔薇のような姿をしていた。それはすぐに流星街の住人全員に知れ渡る。

 

「まさか、薔薇――」

 

 長老達は黒煙の位置を見て子供達の末路を理解した。

 あれには毒がある。すぐにでも動かなければ流星街は本当に無人の地となる。

 避難指示と招集された大蜘蛛と長老達。選んだのは世界の歴史に残ることのない小さな戦争。

 

「蜘蛛よ、共に死んでくれるか?」

 

 いつかは来るこの時を長老は覚悟していた。

 罪はあっても生まれた子供達に罪はない。長老達は顔を隠していたマスクを外す。その額にはクロロと同じ刻印が刻まれている。

 

「罪の刻印を押されたが間違ってはいなかった。今こそ、この悪夢を終わらせる!」

 

 長老達も元はシュウエイ国の住人。聖典に書かれている悪魔達を倒す目的で作られた薔薇は知っている。

 

「いつからあの国は狂ったのか、悪魔ではなく人間を殺すための兵器に――」

 

 故郷を自らの手で滅ぼす。大蜘蛛のクート=ルシルフルによりその扉は開かれる。

 大蜘蛛を筆頭に念能力者である長老達と国落としが始まった。

 

「さすがは暗黒大陸専属部隊か」

 

 大蜘蛛が最初に驚いたのは念能力者の数である。

 敵対する全ての人間が念を使用してくる。だがこの国は平和すぎた。兵士達に適応能力があっても戦闘経験はないのだろう。

 大蜘蛛はシュウエイ国の兵士を虫のように潰していく。しかし、一つのある力が事態は急変させる。

 

「おいおい、こいつら不死身かよ!」

 

 予期せぬ力、何度倒れても傷が修復され蘇る兵士達。長期戦に大蜘蛛達も疲弊をする。

 次第に焦りの表情に変わる大蜘蛛、戦争が終わるとしたら自分達が負けることくらいか。

 

 幸運なことに一人の長老が武器庫で薔薇を見つける。

 空気の震えと黒煙、複数の場所で開花する薔薇。衝撃波と爆発に巻き込まれた大蜘蛛もいたが悲しむ者はいない。

 これは戦争であり悲しむのはいまではない。

 複数の場所で凶悪な黒煙を生み続ける薔薇。生み出した熱により辺り一帯は灼熱となる。

 爆発後も多くの命を奪う毒の薔薇は不死身の兵士達を道連れにした。

 

 平和だったシュウエイ国が滅んでいく。

 互いに悪と決めつけた身勝手な人間同士の末路、そこは地獄そのものだった。

 そんな中、クート=ルシルフルは目的の場所を見つける。遺跡のような建物、それは1500年続いた国の王墓の真実。

 

 トガシとクートは勝手に開く扉を進んでいく。

 

「クート、他の国でもこんなのは見たことねーぜ?」

「ああ、ここは暗黒文明と同じ」

 

 シュウエイ国の地下にあったのは暗黒大陸の技術を使った神字の刻まれた施設。

 そこには棺のような謎のカプセル装置が複数存在するだけ。

 中には頭からヒモのようなものが伸び、幸せそうな顔をした人間が収納されている。

 

「トガシ、これが元凶だ」

「こいつら死念か。どうすんだよ、王様」

「お前……知っていたのか」

「ああ、これでも隠密従者の末裔だからな。最後まで付き合うぜ?」

「ならトガシ、これは命令だ。共に王族の責務を見届けろ」

 

 クートとトガシはカプセルの中にあるしなびた歴代の王族達を取り出していく。

 1500年も続いた国の秘密。施設の中枢には僅かにオーラを纏う謎の生物がいた。

 

「数百年も王族のいなくなった地を守護していた厄災。聖典では人飼いのパプといったか、利用された哀れな怪物……それも終わりだ」

 

 パプは衰弱し敵意は感じない。クートは快楽を与え続けた怪物にそっと触れる。

 

「この国に繁栄をもたらしたことを感謝する。礼として永遠の快楽を与えてやる。パプよ、この地で静かに眠れ」

 

 人飼いのパプはクートの念に触れると静かに目を閉じる。どんな生き物も1500年も生きれば生が苦痛となる。

 そして王族達の快楽が消えると戦争は終わる。生き残ったのは数名の長老と四本足となった大蜘蛛。

 

「クート、息子とお揃いだな!」

「ふむ、刻印は消えないのか。まあ、故郷が存在した証か」

 

 最後の王族クート=ルシルフルは小さく微笑む。それを見たトガシは自分の刻印を指さす。

 

「おいおい、俺なんか嫁さんとお揃いのペアルッ――」

 

 トガシの背中に冷たい視線、それと同時に腰に痛みが走る。

 

「私とお揃いは嫌か? 息子の面倒すら見れないポンコツ亭主がッ!!」

 

 強烈なリキョウの蹴り。妹のキキョウはキュインと音を立てながら機械の眼でトガシを見つめている。

 罪の刻印の刻まれた大蜘蛛達。罪を科したシュウエイ国の崩壊により大蜘蛛という組織の必要はなくなった。

 

「だが、まだやることはある」

 

 世界には理由が必要、罪の刻印を刻まれた者として最後の償いをしなければならない。

 

 クートはトガシを思い出の地に連れていく。

 

「クート、二人には言わないでいいのか?」

「ああ、俺とお前で終わらせる」

 

 国を失った王と従者の最後の役目。残された二本足。

 

「なあクート、生まれ変わっても仲間だといいな」

「……フッ、お前は霊魂否定派だっただろう。それに従者の間違いじゃないのか?」

「そういうなよ、親友。国は滅んだが、俺達はこの世界に存在することができた。それだけで十分だろ?」

「そうだな、流星街はこれから変わっていくだろう。これで無人の地という呪いは無くなった。子供達も真実の世界を知ることができるだろう」

 

 クートは崩れ去った国をトガシと見つめる。

 

「クロロと新しい時代が見れないのは少し残念だがな……」

「それは俺も同じだぜ? リキョウはしっかりとヘイトを育てるだろう、クロロも長老達が面倒をみてくれる。流星街が大きな国になる日も案外近いかもな!」

「クロロが新たな王様か、それは面白そうだな」

「親馬鹿かよ、ヘイトが王様になるかも知れねーぜ?」

「お前も十分、親馬鹿だよ」

 

 空を見つめる親友の二人、そこには大きな入道雲。誰の記憶にも残らないその雲も今は確かに存在している。

 

「おっ、ヒーロー様の到着みたいだな。拝んでおきますか、聖典様ってな、はっはっは!!」

「ジン=フリークスか。新人ハンターには荷が重そうだが、楽しめそうではあるな」

 

 その日、一人のハンターによって小国を滅ぼした大蜘蛛は討伐された。そして、多くの国から支援されシュウエイ国は復興していく。

 この歴史により世界は流星街の存在を知ることとなる。

 捨て子や犯罪者、そして居場所を奪われた民族。長老達はそれらを全て受け入れる。それは今も昔も変わらない。

 

 咎人の街、それが今の流星街。

 世代が変わればその呪いもなくなる。彼らの(きずな)は他人よりも細く家族より強い。

 




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