旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二十一話 幻影旅団

 クラピカを探していた幻影旅団は合流し拠点に向かう。収穫は“クラピカ”という言葉に反応を示した少年の二人組である。

 

 尾行を失敗した少年達を見てフィンクスはマチに問いかける。

 

「こいつらの意思は固そうだぜ?」

「関係ないよ、パクノダに調べてもらうから」

 

 マチに対しフェイタンはどこか嬉しそうな顔で否定をする。

 

「それ必要ないね。私、拷問で吐かせるよ」

「こいつら、餓鬼でも念使いなんだ。拷問なんて意味ないよ」

 

 マチが首を振るとフェイタンは立ち止まる。

 拷問の実績は趣味が高じたとしても十分な成果を上げている。仲間に否定される覚えもない。

 オーラを纏ったフェイタンを見てマチは呆れた表情になる。

 

「まったく、餓鬼が多いね。ノブナガ、あたしは裏だよ」

「なら、表ね」

 

 蜘蛛の対峙する意見にノブナガは指でコインを空中に弾き飛ばす。

 

「裏だ、フェイタン放してやれ」

「チッ」

 

 蜘蛛の掟にしたがいフェイタンは身を引く。

 安堵する少年達を見てノブナガはため息をつく。この世には念の才能だけではどうにもならない事もある。

 

「お前らが話さなくても俺達は必ず鎖野郎を見つけるぜ? 別にいいじゃねぇか、今話してもよ」

「へーんだ、死んでもしゃべるもんか!」

「そうかい」

 

 捨てるにはあまりにも惜しい才能。

 動いている人数を考えれば、鎖野郎に対する“執念”は相手も分かっているはず。

 ノブナガなりに諭したつもりだが、変わらないのなら無理に変える必要もない。

 

「お前、強化系だろ」

「え、なんで分かったの?」

 

 ノブナガは純粋な少年を見て笑みを浮かべる。

 仲間を裏切れば一生後悔すると理解しているのだろう。その選んだ道が間違っていたとしても――。

 

 

「フランクリン、他の皆は?」

 

 拠点に帰還したマチはいつもとは違う雰囲気に気づく。

 先に戻っていたフランクリン、シズク組と、別行動をしていたヒソカとコルトピ。見当たらないのは四名の団員。

 

「団長はまだやることがあるらしい」

「ふーん、なんか嫌な感じがするね」

 

 この胸騒ぎを感じるのはヒソカの視線のせいか。

 マチは視線を外したフランクリンの態度に違和感を感じるも、塞ぎ込んだシズクを見て確信する。

 

「ヒソカ、団長はどこにいる?」

「クロロなら……災いに触れたよ♠」

「――ッ!?」

 

 ヒソカの言葉にマチは目を見開く。

 最大限に警戒していたヘイト=オードブルに何かをしたクロロ。その代償はヒソカが指さす先にあった。

 

「何よ、これ……」

 

 マチは部屋の隅で蝋燭に囲まれている亡骸を見つける。

 頭部の離された老人と一つの肉塊。フランクリンの表情が全てを物語っていた。

 

「シャルとボノレノフだ。お前らも蝋燭を灯してやれ」

「ふざけるなッ!!」

 

 変わり果てた仲間の姿、最悪の現実にマチは怒りの感情を爆発させる。

 

 これは回避できた事態で最善も尽くした。

 

「――パクは!?」

 

 マチはパクノダを探すが見当たらない。死体すら消されたのか。

 フランクリンも精神にきているのか、疲れた様子で首を振る。

 

「パクは蜘蛛を抜けたらしい、それについては団長が話すだろ……で、その餓鬼達はなんだ?」

「鎖野郎に反応した餓鬼達だ。こいつら、鎖野郎のことを――」

 

 マチの言葉はそこで止まる。

 ここにパクノダはもういない。少年達からクラピカに関する記憶を引き出すことはできない。

 

「拷問しかないね、マチ」

 

 フェイタンは少年達に手をかける。フィンクスと共に部屋を移動しようとするがヒソカがそれを止めた。

 殺気を飛ばすフィンクスにヒソカは警告する。

 

「君達はもっと現実を見た方がいいよ♠」

「それはどういう意味だ、ヒソカ」

「シャルナークはもういないんだ。少しは自分達で調べなよ♠」

 

 四本の足がなくなった蜘蛛にヒソカの呆れた表情をする。

 これは少年達を助けるためではない。少年達が幻影旅団にとって猛毒になることをヒソカは知っている。

 そして、その猛毒はヒソカにも回る可能性がある。今の幻影旅団はそれを知らない。

 

「餓鬼、お前らの名前を教えろ。それくらいは言えるよなァ?」

 

 フィンクスは素直に助言を聞き入れると殺気を少年達に変える。

 

「ゴン=フリークス」

「キルア=ゾルディック」

 

 ゾルディックに反応した幻影旅団、その中でも一番動揺を見せたのはコルトピだった。

 

「ゾルディック――ッ!? そ、そいつらは絶対に返したほうがいい、悪魔が来たら僕達は終わりだ!!」

 

 声を荒げ全身を震わせるコルトピ。

 トラウマと分かるその症状は厄災から生還した者の証。しかし、証を持たないフィンクスが共感するはずもない。

 

「悪魔? 何だそりゃ。ゾルディックはただの殺し屋だろうが」

 

 怪物と一緒にいたミルキ=ゾルディック、この場でそれを知っているのはヒソカのみ。

 他の団員の認識はかつての仲間を殺したシルバ=ゾルディック。その重大な認識違いにフェイタンとフィンクスが気づくことはない。

 

「お前達、なぜ命令するか? それに従う必要ないね。始めは指ね、軽く爪をはぐ」

「俺もフェイタンに賛成だ。目的は鎖野郎で餓鬼を返すにしても情報を吐かせてからだ。てか、殺したところでバレなきゃいいだけだろ?」

 

 フィンクスの意見はもっともで隠蔽すればバレることはない。

 仲間を殺されたゾルディックへの恨みは幻影旅団の意見を殺す方針に変えていく。

 

「フィンクス、賭けに勝ったのはアタシだよ」

「状況が変わっただけだろ」

 

 フィンクスの冷たい一言は仲間同士の亀裂を生むも蜘蛛の行動としては正しい。

 蜘蛛の方針が絶対である以上はマチも認めるしかない。

 

「フェイタン、団長が戻るまで殺すんじゃないよ?」

 

 拠点にゴンの叫び声が響く。

 耳をそぎ落とし片目を潰す。拷問を黙って見ていたフィンクスもここまできたら後戻りはできない。

 

「たいした餓鬼達だな」

「そうね、次は手足切り落とすね」

 

 フェイタンが仕込み刀でキルアの手足を切り落とそうとした時、蜘蛛の頭クロロが現れる。

 拠点に戻ってきた団長クロロは拠点で行われている拷問を見て質問をする。

 

「こいつらは?」

「鎖野郎を知ってる餓鬼ね、話そうとしないよ」

「そうか、なら俺が調べよう」

 

 クロロは【盗賊の極意(スキルハンター)】を発動させる。使用した念能力は相手の記憶を読み取るサイコメトリー。

 少年達からクラピカに関する記憶が全て引き出される。鎖の念能力については知らされていない少年達。

 

「確認を終えた。こいつらは目的を知らない者達だ、ほっといてやれ」

「いいのかよ、団長。こいつはゾルディックの人間だぜ?」

「フィンクス、お前はゾルディックが恐いのか?」

「チッ、フェイタン団長命令だ。解放してやれ」

 

 ゴンとキルアは解放されるが拷問のダメージにより身動きが取れない。

 

「ボクが捨ててこよう♠」

 

 ヒソカは重症の少年二人を抱え拠点から姿を消す。 

 

「クロロ、パク達のことは全て話してもらうよ!!」

 

 マチの怒りは隠せない程に膨れ上がっていた。

 捜索組が一番知りたいことはヘイト=オードブルと何があったか。

 

「この能力はパクノダという女性のものだろう。増えていた――いや、押し付けられたというべきか。俺の制約を知っていた事には驚いたがな」

 

 パクノダを他人のように呼ぶクロロにマチは違和感を覚える。そして明かされる記憶の消去。

 

「なんで……パクは」

「マチ、何故そうなったかをコルトピが知っている。コルトピ、こっちに来てくれ」

 

 オーラの乱れたコルトピはゆっくりとクロロの元に向かう。

 消された厄災との出来事。コルトピに触れようとした瞬間、クロロの頭に一つの考えがよぎる。

 

「――消された記憶か。あの場には俺もいたな」

 

 記憶の存在を完全に消すことは果たして可能なのだろうか。

 脳の構造を理解し、ピンポイントで損傷を与えれば可能かもしれないが、博識でもない限りは難しいだろう。

 念で絶対なるものは創れない。あるとすれば思い出させないためのフィルター的なものか。

 

「やってみる価値はあるか」

 

 クロロは本を持っていない手で自分の頭に触れる。

 

「消された記憶はなんだ?」

 

 クロロは自分自身に問いかけると脳が熱を帯びていく。念能力によって脳の神経細胞が奥底にある記憶を呼び起こす。

 

 “まってよ、クロロ!”

 

 トラウマによる強い拒絶はクロロの顔を歪ませる。

 額に滲む汗、パクノダによって封じ込めらていた記憶の扉が開く。

 

 パクノダと過ごした子供の頃の記憶――。

 大蜘蛛、シュウエイ国、盗んだ本、額に刻まれた罪の刻印。記憶がフラッシュバックしていく。

 クロロの頭に流され続ける罪の映像、薔薇による大虐殺と毒で死んでいく生死すら選択できない者。

 流星街に響く絶叫に怒号、泣くだけの死を待つ子供達。埋葬されることのない数万の住人。

 

 “この本は大切に保管する。クロロ、お前はなにも気にすることはない。これは私達の罪だ、ほら同じ刻印があるだろう?”

 

 長老達の刻印、戦争によって消えた大蜘蛛。愚かな自分を支え続ける少女のパクノダ。

 

 “クロロ、あなただけに苦しい思いはさせないわ”

 

 罪の記憶は終わらない――。

 震える体、怪物と対峙する仲間達。ボノレノフの死、迫られる選択。シャルナークの血で染まった両手、彼女は何故そこまで――。

 

 “さようなら、クロロ”

 

 一番大切な人の泣き顔がそこにはあった。クロロの頬を静かに流れる涙、そこで罪の記憶は止まる。

 

「――パク」

 

 この名を最後に呼んだのはいつだろうか。

 許されることのない罪、クロロは額の刻印に手をあてる。大きな罪の刻印は消えることはない。

 

「話せば長くなる。聞いてくれるか?」

 

 クロロの表情は心の内を全て打ち明けているようだった。団員達はこれが本物のクロロ=ルシルフルなのだと受け入れる。

 

 最愛の宝を失った流星街の王クロロ=ルシルフルは蘇る。

 まずは仲間達の弔い、死んだ仲間が一番やりたがっていたこと。

 大暴れを望んだウボォーギン、誇り高き演武のボノレノフ、そして外の世界を夢見たシャルナーク。

 

「そうだな。償いを終え霊魂となり、再び会うことを許されるのならば……そこで旅の話をしよう」

 

 これから始まる幻影の旅物語を――。

 




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