旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

23 / 69
第二十二話 大富豪バッテラ

 ヒソカは瀕死の少年二人を荒野の地に降ろす。

 今のヒソカができることは【伸縮自在の愛(バンジーガム)】で止血をすることくらいだ。

 

「さて、どうしたものか♠」

 

 携帯電話との睨めっこが続く。

 ヒソカから見てもこの少年達は美味しく熟していくだろうと分かる、ただ――。

 

「ミルキやネテロのようには育たない♠」

 

 ヒソカは天空闘技場で実感した。

 別次元の強さというものは確かに存在し、それに気づけない自分。あちら側に何故いないのだろうか。

 

 ヘイトと対峙した時に感じた虚無感。

 ミルキに未熟さを教えられ、さらにその上が存在するとネテロは見せつけた。

 そして、それを従わせるヘイト=オードブルという存在、緊迫した出来事の多さがヒソカを悩ませる。

 

 偽りの欲求と欲望。

 クロロとの一対一を望んだのも昔の話、今はミルキに感動しネテロを尊敬する自分がいる。

 

「ボクは強者に会いたかっただけなのかもしれないな♠」

 

 本物の強者との戦いを心の底から願っていたのならヘイトと交渉をしていたはず。

 

「これが恐怖か」

 

 勝ちたいとも思わない、思ってはいけない。

 ヒソカはその相手とこれから話さなければならない。ヘイトが幻影旅団による拷問をどうとるか。

 イルミの性格は知っている。ハンター試験で見せた弟を守るための歪んだ愛、ヘイトにも存在するなら残された道はない。

 

「やあ、ヘイト♠」

『ヒソカさん、どうかしましたか?』

 

 二度目の災いにヒソカは生唾を飲み込む。

 言葉の選択を間違えてはいけない。偽りの蜘蛛を伝え、目的を話し許しを願う。

 

 これが最善か――。

 

「――という訳なんだ」

『へー、なるほど』

 

 ヘイトの冷めた声にヒソカは生を実感していた。

 目の前に現れるヘイト=オードブルに驚きはない。そういう存在なのだと本能で理解してしまっている。

 

 ヒソカはヘイトの行動を黙って見守ることしかできない。

 

「ありがとうございます、ヒソカさん」

「いやいや、ボクもすまないとしか言えない♠」

 

 重傷を負い気絶しているキルアは胸が僅かに動くだけ。

 ヘイトによる一瞬の治療は傷を消え去るも怒りはキルアに残されていた。

 

「痛――ッ!?」

 

 平手による頬を叩く音が響く。

 キルアは頬の痛みよりも目の前にいるヘイトに驚く。その怒りに満ちた目は起こした愚行を思い知らせる。

 

 反省をする暇もなく、ヘイトから冷酷な言葉が告げられる。

 

「なんでそんな嘘つくんだよ!!」

 

 ヘイトの冷たい目は真っすぐにキルアを見つめるだけ。反発するも言葉とは裏腹にキルアの視界はゴンを遠ざける。

 

「ゴンを本当の友達だと思うならしっかり受け止めろ」

「嘘……じゃないのかよ」

 

 キルアの視界は涙で歪む。頭に浮かんだのはイルミの言葉。

 

 “勝ち目のない敵とは戦うな”

 

 全てが未熟。ハンター試験でゴンと生死を天秤にかけた時に気づけたはずなのだ。

 

「お前の本質は暗殺者だ、友達を作りたいなら一人前になってから作れ。それができないなら――」

 

 ヘイトが言いきる前にキルアは頷きゴンに寄り添う。

 見慣れたはずの息をしない者、死の重みをキルアは初めて受け止める。

 

「ゴン、ごめん……ごめんな」

 

 キルアの人生に深く刻まれる後悔の念。罪悪感に包まれたキルアはゾルディックの家に飛ばされる。

 

「恥ずかしいところを見せちゃいましたね。さてと――」

 

 ヘイトはそっとゴンに触れると傷は治り息を吹き返す。

 

「あ……あれ、ここは?」

「ゴン、ヒソカさんに感謝しろよ。もう少し遅かったら本当に死んでたぞ?」

 

 ヘイトはゴンが選択した道に説教はしない。

 起こした行動がどれだけ愚かなことだったか本人が一番に理解している。ゴンもそれを理解しているのか小さく頷く。

 

「ゴンはキルアみたいに騒がないんだな」

「うん、意地を張ったけど何も見えてなかった。……あの幻影旅団を倒したのはヘイトさんでしょ?」

「ん、何でそう思うんだ?」

「幻影旅団ですら俺達みたいに怯えてた。考えたらヘイトさんしか思い浮かばなかっただけ」

 

 限界を知ったゴンは思いつめた表情で思いにふける。

 無茶をするだけの理由があったとしても正しい道を選ばなければならない。これからもっと厳しい選択を迫られることだってある。

 

 これもその一つ。

 

「ゴン、お前には試練を与える。キルアにはお前が死んだと教えた。今から5年の間、何があってもキルアに見つからないようにしろ。もしキルアに生存がばれたら、その時は命は貰う。お前もプロのハンターならそのくらいはできるだろ?」

「分かった、やるよ。今度こそ、キルアの隣に立てるように」

「頑張れよ」

 

 頭を撫でて解放するとゴンは新天地を目指し旅立つ。荒野に残るヘイトとヒソカ。

 

「それで幻影旅団はどうするつもりだい?♠」

「どうもしないですよ、交渉は終わりましたので」

 

 ヒソカの心に一つの疑問が浮かぶ。

 神のような力を持つ者が望むものとは何なのか。ヘイトから告げられた暗黒大陸という聞いたことのない言葉。

 

「ミルキやネテロはその仲間ってことか♠」

 

 強者達が望む世界。死闘と違ったその好奇心はヒソカをハンターとして目覚めさせる。

 ヘイトはこの場から消えりヒソカは寂しい荒野で一人佇む。

 

「うーん、残念……♣」

 

 ヒソカを襲う喪失感、この誘われなかった悲しみは何処からくるのか。

 自身が最強だと思っていたから群れというものに属さなかった。だが自分より強い者達は群れをつくる。

 

 果たしてどちらが正しいのだろうか――。

 

「暗黒大陸、どんなところか楽しみだ♠」

 

 

☆★☆★☆

 

 

 9月6日、場所はサザンピースオークション会場。

 ミルキと共にスーツに身を包みながら戦場に向かう。狙うは当然、グリードアイランド。5日間で出品が確認されているのは7本である。

 

「それではこれより、サザンピースオークションを開催いたします!!!」

 

 会場は参加者の拍手で盛り上がる。

 コレクターの証とマニアの誇り、ここに集まる者の理由はそれぞれ。

 これから始まるのは札束の殴り合い、金が全ての戦場。

 

「さあ、これからが本番だ!」

『オークション! オークションだね!』

 

 欲望に満ちたこの会場の影響だろうか、アイも興奮している。

 

「では早速、一番目の品でございます!! デオドロザウルスの糞の化石!!」

 

 一品目はまさかのでかい化石(ウンコ)。どのジャンルにもマニアというものは存在し、会場には歓声が上がる。

 

「あんな物、誰が欲し――」

『ヘイト、あれほしい!!』

 

 ここにいた。

 個人資産である180億という大金はアイの頑張りが大きい。グリードアイランドの競売が始まれば数十億など微々たる差かもしれない。

 

「少しくらいならいいか」

 

 競りに参加するとマニア達との戦いが始まる。

 慣れない指での金額提示。化石(ウンコ)の奪い合いに参加していたマニア達は次第に減っていく。

 

「勝つのは俺だ!!」

 

 指を三本立てたことにより勝負が決まる。

 

「おめでとうございます。201番、20億で落札!!」

 

 奮発して5億上げたら落札できた。

 一品目ということもあって会場から多くの拍手が送られる。会場全ての頂点、その圧倒的な優越感は何ともいえないものがある。

 ミルキに睨まれようが気にはしない。アイの喜びようを考えれば拾った20億などどうでもいい。

 

「それでは10億ジェニーからお願いします!!」

 

 そして運命の時が訪れる。

 グリードアイランドの競りが始まった。幻のゲームということもあってか、物珍しさに参加する者も他よりも遥かに多い。

 指の応酬はプライドの闘いとなっていく。その跳ね上がっていく値段は想像を遥かに超えていく。

 

「まだまだ上がります!! 201番、160億です!!」

 

 グリードアイランドの出品は7本、その内の1本を取ればいい。

 大富豪バッテラに悟られないよう順調にミルキと共に値段を吊り上げていく。

 

 大富豪との本格的な指の戦いが続く――。

 

「おっと205番、ついに500億です!! いや、51番が510億だ!!」

 

 他を寄せ付けない強者、グリードアイランドに狂った老人。

 結果は惨敗、4日間で6本の全てが大富豪バッテラに競り落とされる。

 

 残すは最終日の1本のみ――。

 

「決まりましたーー、51番!! 602億でグリードアイランドを落札です!! 有難うございました!!」

 

 会場から大富豪バッテラに惜しみない拍手が送られる。

 5日間で倒せなかった大富豪バッテラ、こちらの資金もばれていたのだろう。

 このゲームとは縁がなかった、そう思うしかない。

 世界最大のオークションも終わり、ロビーでは金持ち達が人脈作りに奔走している。

 

「ヘイト、飯でも食いにいくか?」

「アイも化石と睨めっこだし、久々にグルメツアーでもいくか」

 

 ミルキとロビーを出ようとしたところで後ろから声を掛けられる。

 

「ミルキ君とヘイト君だね。オークションは楽しめたかな?」

 

 話しかけてきたのは大富豪バッテラ。

 大富豪バッテラからしたら邪魔でしかなかっただろう。名前を知っているということは既にサーチ済みか。

 

「これだから、ジジイは嫌いなんだよ」

「そう言わないでくれ、ミルキ君。これが私の唯一の楽しみなのだよ。君に相談があるのだが、少し時間を貰えるかな?」

 

 ミルキの視線を察したのか大富豪バッテラは動く。

 

「もちろんヘイト君も一緒に、だ。君の知り合いなら信用しよう」

 

 会談場所はとあるホテルの一室、大富豪バッテラを守るボディーガードは外で待機している。

 ゾルディックを前にしても動じないのは金の力をそれだけ信用しているのだろう。

 

 大富豪バッテラが持ち掛けたのは一つの依頼。

 

「そちらに何度も依頼を出したのだが……理由もなく断られてしまってね」

 

 困った顔を見せる大富豪バッテラにミルキはため息まじりで睨みつける。

 

「親父が断る理由は分からない、どんな殺しの依頼だ?」

「これはビジネスだ。言葉は選んでほしいな、ミルキ君」

 

 不機嫌そうに愚痴をこぼすミルキだが、愚痴をこぼすのは金持ちも同じ。

 

「依頼はゲームの中のプレイヤーを減らしてほしいというものだ」

「ゲームのプレイヤーだと……?」

「ああ、私が所有するグリードアイランドは今日の分を合わせれば32本になる。私が雇ったハンターのプロ・アマ含めて100名ほどプレイしているが……その半分、いやそれ以上の参加プレイヤーがあきらめ投げている」

「調べた限り、10年以上もクリアされてないんだろ?」

「その通りだ。何か月、何年もの間、データの変化のない者がいる。そのあきらめた者達がターゲットだ」

「なるほど、それは悪質プレイヤーだ」

 

 ゲームの中という環境、それがゾルディックの断る理由だろう。

 ゼノもシルバも完全なアナログ人間である。ゲームの中と言われたら絶対に信用しない。

 

「別会場でプレイヤーの選考会が行われているところだ。君たちは無条件でグリードアイランドの参加を認めよう。どうだろうか?」

 

 数百億が無料(タダ)になる。暗黒大陸にいくまでの暇つぶしなのだから悪い話ではない。

 大富豪バッテラも数百億の価値あるゲームを数年間不法占拠されているのはさすがにつらいだろう。

 

「ミルキ、バッテラさんを手伝ってもいいんじゃないか?」

「俺はゲームで殺しはしない。やるならヘイトが勝手にやれよ」

「へへ、そうですか。ならバッテラさん話を進めましょうか」

 

 殺すといっても条件はもちろんある。相手のプレイヤーも募集する際に条件は付けているはず。

 

「バッテラさん、プレイヤー達の契約書を確認しても?」

「もちろんだ。まずはゲームのクリア報酬に500億、その他はゲーム内から持ち帰った物の所有権譲渡。それと……ゲーム参加中に死んでもこちらは責任を負わない、そんなところだよ」

「死んでも責任を負わない契約……さすがは大富豪ですね」

 

 大富豪バッテラは裏の顔を見せる。これだけの財産を持つ人間なら当然だろう。

 

「ヘイト君、では細かい話を進めようじゃないか」

 




読んでくれてありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。