大富豪バッテラと互いの意見の擦り合わせていく。
「バッテラさんは何かゲームをしたりしますか?」
「私はそういったものには疎くてね。情報はプロハンターから貰ってはいるが、正直なところよく分かっていない」
「ふむ」
これもクリア報酬500億の弊害なのか。
信頼しているプレイヤーが少ないのはゲーム内の情勢が分からないせいだろう。
巨万の富を築いた大富豪バッテラが無能なはずもなく、プレイヤーが非協力的なのはゲームシステムが原因か。
「ツェズゲラによればゲームから脱出するためにはある程度の強さがいるという事、100種のカードを集めればクリアできるということくらいしか知らされてはいない。そうだ、クリアに必要なカードのリストなら――」
最新のノートパソコンに映し出される情報。
大富豪バッテラが見せたのは詳細が書かれた100種のカードデータ。
クリアするのに必要な指定カードと呼ばれるNO.000からNO.099までのカードが表示される。
「ミルキ、どう思う?」
「ん、いいパソコンだよな」
「グリードアイランドについてだよ」
ミルキとカードの情報を確認していく。
単純だが10年以上もクリアはされていない。攻略を難しくするために運営がしそうなことは何か。
装備品と思われるリストで大事な情報を得る。
「ヘイト、見てみろよ。このNO.085の身代わりの鎧、“武器による攻撃”という文字がある。それにNO.087の信念の楯も、半径20m以内による左遷、初心、漂流、衝突の呪文が無効になるという説明だ」
「へー、見る限りだと呪文はゲーム特有の攻撃魔法あたりか。となるとゲームはクエスト型のPvPゲーム、ミルキは他に気になるところはあるか?」
「特にはないな、説明文以外にあるAやらSSの記号は入手難易度だろうし、記号により変化する数字はPvP要素を考えれば限度枚数ってところだろ」
「異論なし、他にも情報がないか残りのカードリストを確認するか」
目にしたNO.089の税務署の篭手とNO.094の盗賊の剣で確信を得る。
カード破壊にカードを奪う、これだけあれば情報は十分だろう。
「バッテラさん、概ねゲームの内容は理解できました。そこで少し説明をしたいのですが」
「何か気づいたことがあるのかね?」
「はい、このゲームは指定カードの奪い合いです。そうなるとカードの変化のない者、あきらめた者の認識が少し変わってきます。プレイヤー側の一つの作戦で、あえて集めていない可能性がでてきます。もし今回の依頼に、そういった作戦を実行しているプレイヤーを排除してしまったら、クリアが遠のくかもしれません」
「――そうか、だが私ではその判断はできない。そこはゲームに詳しい君たちに任せよう」
ゲームオタクのミルキが指摘したのはプレイヤーの単純思考だった。
「集めることができない時点で弱者だろ。このゲームは10年以上も停滞している、俺達もそれに乗っかってどうすんだよ?」
「停滞か、確かにそうだな。ゲームに変化を起こす必要はあるのかもしれないな。バッテラさん、こちらの方針は決まりました。停滞している者のリストを見せてもらえますか?」
標的は約70名で相手はプロやアマチュアのハンター達、念能力者ともなれば依頼料金もそこそこ高くなる。
大富豪なのだから心配はないと思うが、市場の開拓に初回ということで基本料金の三割引きで話は決まった。
「ツェズゲラ達は11日の午後5時に選考組と共に移動を開始する」
「分かりました、その翌日の朝にゲームを始めるという事ですね。では、選考組を考えて2時間後に突入することにしましょう」
目的の日――。
ミルキと共に車窓を流れる綺麗な風景を見つめる。ちょっとした男二人の列車旅。
「ミルキ、依頼は別としてもゲーム攻略はどうするんだ?」
「まあ、ソロプレイでいいだろ」
「へいへい、いつもと同じね」
チームを組まない孤独なプレイヤー。
ミルキはこういった多人数参加型のゲームの中ではソロ専という部類にはいる。
「ヘイト、グリードアイランドはシステム的にも課金要素はないはずだぜ?」
「なら、勝負だな」
今回のゲームはミルキと対等の立場。クリアできるならミルキより先にクリアしたいものである。
依頼を受けたもののハンター十か条をどうするか。
標的には多くのプロハンターが含まれる。このゲームはPvP前提のゲームで事前に互いの死も容認している。
「ゲームで起きた事故と思えば問題ないか」
列車を降りてからは案内人の車で移動をする。着いた場所は大きな古城だった。
「よく来てくれた」
大富豪バッテラは自慢の古城を案内する。すでに選考組は全員ゲームの世界に旅立ったらしい。
「ミルキ君、ヘイト君、ここは最新式の防犯システムを導入している。罠も多くあるから気をつけてくれたまえ」
「はい、分かりました」
飾られている多くの美術品や骨董品、どれも値の張るものなのだろう。案内され到着したのは一つの部屋。
「ここが君達の専用部屋だ」
個室に用意されたテレビモニターと一つのグリードアイランド。そして、大富豪バッテラから渡されたのはメモリーカード。
「それを差し、念でゲームがスタートする。クリアを目指して頑張ってくれたまえ、私はここで楽しみに待っているよ」
「では、行ってきます。ミルキ、行くぞ!」
「分かってるよ」
ミルキと共にジョイステーションに念をかざす。転移した場所は機械に包まれた空間。
「――これがバーチャル世界の中か」
転移した小さな部屋には一つの扉がある。
そこには先に行かせろと言わんばかりのオーラを出すミルキがいる。太っていたころと変わらない荒い鼻息が周囲を不快にする。
「ブヒブヒ、うるさいな」
扉の先は人数制限があるようで案内があるまでは待機しなければならない。
数分して扉が開くと部屋で待っていたのは一人の女性。簡単にグリードアイランドのゲーム説明がされる。
【ゲイン】に【ブック】といった初期魔法と目の前に出現する一つの指輪。
「ブック!」
指輪から出現する本はカードを収められるようになっている。
カードが9枚入る頁が全部で20枚、指定ポケットの11頁とフリーポケットの9頁。収納限界はクリアに必要な指定カード100枚にフリーのカードが45枚。
「クリア優先で考えると自由に使用できるのはフリーの45枚か」
これをいかにうまく使うかが攻略の鍵になってくるのだろう。
簡単な説明が終わると入口の扉が開かれる。そのまま外の世界に続く階段を踏みしめる。
「この気持ち、懐かしいな」
他人の創造した未知の世界。
緊張に興奮、ゲームスタート時にしか味わえない感覚。ゲーム内容はカード集めというシンプルなものだが、いろいろなクエストや敵が待っている。
「未知の世界、グリードアイランドのスタートだ!!」
見渡す限り何もない草原、すでにミルキの姿はない。
「これからどうするの?」
「うぉ!?」
足元を見ると
転移の間に個人の情報を抜き取ったのか。しかしその考えはすぐに否定される。
黒い人形はアイが勝手に創り出したもので、意思を読み取らない限りは複製できない。
念が使えるということは――。
「ヘイト様、どうかしましたか?」
やはりか、
念とは関係のない存在。意思の複製ならヘルは存在せずに
「ここは現実世界のどこかだな。暗黒大陸があるくらいだし、未発見の大陸があるのかもしれないな」
ミルキとの合作であるオーラで動く小さな三輪車、アイが一人でも探索できるように作ったもの。
「簡易出口も作ったし行くか」
「あいあい!」
あきらめた者の集まる場所を探す。
人口密度でいえば街だろうか、優先順位としては攻略よりも街を見つけること。
「視線は北と南か」
「ヘイト、こっち!」
悩んでいるとアイが北に向けて動き出す。
アイの意思に任せるべきか、欲望が集まる場所に人もいる。スタートから踏み出そうと空を見上げると光と共に何かが飛んでくる。
――ドンッ!! 辺りに響く衝撃音と宙を回転する男。
「あがぁぁあぁぁぁ!!」
ゲームシステムによって生まれた事故。
特製の合金で作られたアイ専用の三輪車の重さは500キロを楽に越える。それがプレイヤーであるラターザの足を直撃した。
「完全な当て逃げだな」
視線が消えた事を確認し街に向かう。
読んでくれてありがとうございます。