旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二十五話 進化

 拠点(アジト)の洞窟で(バインダー)を広げる。その(バインダー)には81種類の指定カード。

 

「ハメ組が集めた指定カードは全部で90種類だったな、残りの指定カードはゲンスルーが持つ9種か」

 

 ゲンスルーが来るまでの暇つぶしにアドリブブックを読み始める。その隣ではアイがせっせと愛車の練習をしている。

 

「アイ、練習するなら拠点(アジト)の外でやれよ」

 

 激突音が拠点(アジト)に響くと天井からパラパラと砂が降り注ぐ。

 

 ジスパーから貰ったアドリブブックも読み続けて残り数頁、終わりの見えた本を読み進めていく。

 

「二人一役か、やはり双子が犯人なのか?」

 

 物語の内容はミステリー。

 もともとアドリブブックは冒険もので似たような内容が多い。今回のランダム生成されたミステリーはレアな部類にはいるだろう。

 

「念創作も人工知能を持つヘルなら作ることが可能なのかもしれないな」

 

 静かになった拠点(アジト)に響く新たな音。

 気にせずに読み進めるが集中力を妨げる黒い人形(アイ)はその小さい手で体を揺さぶってくる。

 

「ヘイト、だいきょうがでた!」

「大……んっ!?」

 

 アドリブブックから視線を移すとリスキーダイスが転がっている。

 

 NO.025のリスキーダイス。

 鬼周回で貯めて買った貴重なカードで値段は1枚1500万ジェニーもする高額商品。それが大凶で4個も転がっている。

 

 突如として崩れる拠点(アジト)

 迫りくる岩の雨に咄嗟の判断で愛のある部屋(パンドラボックス)に逃げ込む。

 

「ビックリしたわ……って、アドリブブックが――ッ!!」

 

 栞を挟まず、埋もれた拠点に置いてきてしまった。取りに戻っても次に開いたときは別の物語になっている。

 諦めの表情で元凶であるアイを待つ。黒い人形(アイ)が持ってきたのは本ではなくハンドルがポッキリと折れた三輪車だった。

 

「デザイヤがこわれた!」

「壊したの間違いだろ!」

 

 僅か3か月で大破した愛車デザイヤはフレームとタイヤが歪み潰れている。

 アイは愛車デザイヤを元に戻そうとするも、歪んだパーツがピカピカになるだけで、再生意思のない鉄塊は人間のようには戻らない。

 

「うーん、ミルキが怒りそうだしな……」

 

 仕方なく愛のある部屋(パンドラボックス)から簡易出口のあるグリードアイランドのスタート地点に戻る。

 デザイヤはミルキにとっても立派な愛車であり何とかしなければならない。

 

「リサイクルルーム、ゲイン!」

 

 しぶしぶ指定ポケットのカードを使用する。

 NO.036リサイクルルーム、部屋に壊れた物を入れると24時間後には修理され新品同様になっているというもの。

 注意としては時間が来るまで絶対に扉を開けてはならないこと。

 

「今はこの世界の力に頼るしかないか」

 

 出現した扉に愛車デザイヤの歪んだパーツを放り込んだ後、ぼーっとしている黒い人形(アイ)に空っぽになった一つの指輪を放り投げる。

 

「アイ、(バインダー)を一つやるからそれで遊んでくれ。俺の(バインダー)からは勝手に使わないようにな!」

「あいあい!」

 

 指輪を握りしめ喜んでいるところを見るとアイもどうやらグリードアイランドを楽しみたかったようだ。

 毟った草や拾った石、アイはカード化したそれらを(バインダー)に詰めこんでいる。

 ゲームの内容は理解しているようで、(バインダー)も考え方によってはアイの勉強になるかもしれない。

 

 思いに耽っていると、見慣れた一つの光がこの場に飛んでくる。

 

「ここはシソの木か……俺はニッケスの元に飛んだはずだが?」

 

 黒い人形とヘイトを見てゲンスルーは念を纏う。呪文(スペル)エラーはゲンスルーも初めての出来事。

 

「待ってましたよ、ゲンスルーさん」

「雑用が黒か。ヘイト、俺を舐めるなよ?」

 

 ゲンスルーは呪文(スペル)範囲外に立つと、ヘイトにつけた爆弾の作動を考える。

 悩む理由としては謎の念獣の性質が分からないことと、【命の音(カウントダウン)】の作動はそれほど難しくないことが上げられる。

 

 発動にはある“キーワード”が必要で、自分が“爆弾魔(ボマー)”であることと解除条件である“爆弾魔(ボマー) 捕まえた”を相手に知らせる必要がある。

 そして、自身の念能力である“一握りの火薬(リトルフラワー)”での解除阻止の意思を伝えること。

 

 その3つのキーワードが揃って初めて【命の音(カウントダウン)】が作動する。

 

「ヘイト、お前に良いことを教えてやろう。爆弾魔(ボマー)につけられた爆弾は対象に触れて“爆弾魔(ボマー) 捕まえた”と言えば解除できるらしいぞ」

 

 ゲンスルーは一部の条件を達成するとヘイトの念獣の性質を見極める。

 

「ではゲンスルーさん、こちらも一つ良いことを教えます」

「挑発にしては面白い、その黒い念獣のことでも教えてくれるのか?」

「ああ、黒い人形(アイ)は気にしないでください。ただ遊んでいるだけなので」

「……ほう、自信家か。信用してやる」

 

 ゲンスルーが見つめる先の黒い人形は蝶を追いかけてここから離れていく。

 ヘイトは指から(バインダー)を出すとゲンスルーも同じように(バインダー)を出す。

 

「ゲンスルーさん、分かってると思いますが(バインダー)の頁は全て堅牢(プリズン)で守られています。呪文(スペル)カードは一切効きません。これは交渉です、あなたの意思で指定カードを渡してくれるのなら見逃しましょう」

「見逃す? 俺はな……このくだらないゲームに5年以上の歳月を使ったんだ! いまさら降りることはできないんだよ!!」

「ニッケスさんやジスパーさんと同じ意見ですか。その欲望に満ちた目、好きですよ?」

 

 ヘイトはポケットから何かを取り出し口に入れる。そこでゲンスルーはこの短期間の異常事態を理解する。

 

「頼む、カードをヘイトに託してくれ。これは皆の願いなんだ!!」

「ゲンスルー、そんな顔をするなよ。アドリブブックでも読んで落ち着けよ」

 

 NO.032ウグイスキャンディーを使った簡単なトリック。

 この場にいないニッケスとジスパーの声にゲンスルーは息を呑む。

 この飴をなめると、次に何かを飲食するまでの間はどんな声でも自在に出すことができるようになる。

 このアイテムの一番の問題は誰でも買えてしまうBランクの指定カードということ。

 

「ゲンスルーさん、最初の説明で“ブック”って言わされるでしょ?」

 

 ブックと言えば出現する単純な仕掛け。

 ゲンスルーも指輪の説明時に“ブック”と言った記憶はある。長年のゲームプレイヤーほど認識しなくなるBランクの指定カード。

 何より“信頼した集団”という特殊な条件があったからこそ成立した作戦は、柵のない初心者だからこそ思いつくことができたのだろう。

 

「この作戦はとあるミステリーからヒントを得ました。ほんと便利ですよね」

「変装ではなくウグイスキャンディーか。ではあの念獣の持っている(バインダー)は何だ?」

 

 ウグイスキャンディーで声を変えることができても、(バインダー)を複数所持することゲームのシステム上できない。

 複数の指輪をはめればデータが上書きされることは実証済み。

 

「保管組の(バインダー)の一つですよ」

 

 ヘイトは腰についている袋の中から一つの指輪を取り出す。それを見たゲンスルーは初めてヘイトという人間の本質を知る。

 

「――指がついたままの指輪か。監禁するにしても、あの人数相手にするのは難しいはず」

 

 ヘイトがゲンスルーに見せたのは、同じBランクの指定カードであるNO.062クラブ王様。

 この店にいる間は店内の誰もがあなたの命令を聞いてくれる。ただし、この店での1時間は店外での1日を意味する。

 

「カードの本質を理解すればもっとグリードアイランドを楽しめますよ。延命の可能な特殊念空間の牢獄は誰でも購入できるBランクカードの極悪コンボです」

「交渉……本当にやばいのは白い表示の拘束された人間、ということか」

「さすが、古参組は理解がはやいですね」

「ヘイト、いろいろと勉強になった。まずは礼を言わせてほしい、俺は爆弾魔(ボマー)だ。これから、この一握りの火薬(リトルフラワー)でお相手しよう!」

 

 ゲンスルーの手にヘイトから絶対にカードを奪うという強い意思が表れる。

 

 イカれた人間に対抗する手段。

 最後のキーワードである【一握りの火薬(リトルフラワー)】が爆発した瞬間に【命の音(カウントダウン)】も発動する。

 

 ゲンスルーが選択したのはゲームクリアという欲望だった。

 

「では交渉決裂ですね、ブック!!」

 

 ヘイトは声だけでゲンスルーの指輪から(バインダー)を消す。

 移動呪文(スペル)封じられたゲンスルーは戦闘の構えをとるも次の瞬間に衝撃で顔が吹き飛ぶ。その認識できないヘイトの攻撃に思わずゲンスルーは下がる。

 

 何が起きたのか、戸惑うゲンスルーは口からでた血を拭う。

 

「――感触は確かにあった」

 

 念ではなく実体の攻撃で間違いない。

 認識できなくとも軽い攻撃なら防御に重点を置けばいい。ただチャンスを待つ、相手は防御の薄い所を的確に狙う。

 

 ヘイトの攻撃はゲンスルーを答えに導く。

 

「こいつ、ノーモーションか」

 

 動作と攻撃の同時、それは脳が勝手に動作と認識するため対応が自然と遅れる。

 そのノーモーションにもリスクはある。

 武道家に型が存在するのは、体の動作を利用し最大限に威力や速さを上げるためで、それがないということは威力も激減する。

 自然な動作を無視した攻撃は、実践となると靭帯や筋を痛める諸刃の剣となる。

 

 ゲンスルーは腕の防御薄くすることで好機(チャンス)を作り出す。

 

「捕まえたぞ! 悟らせてやろう、お前の攻撃がいかに無意味なのかをな――ッ!!」

 

 攻守の逆転。

 ゲンスルーは最大限の威力でヘイトの腕を吹き飛ばすと【命の音(カウントダウン)】を発動させる。

 

命の音(カウントダウン)は発動した。俺も鬼ではない交渉くらいはしてやる。素直にカードを寄こせば命だけは保証する、それとも鬼ごっこでもはじめるか?」

「狙うなら指輪にしないと……ね、ゲンスルーさん」

 

 ヘイトの残った片手には一つの指のついた指輪。ゲンスルーは自分の指がないことに気付く。

 

「いつの間に俺の指を!」

 

 ゲンスルーの体の異常はそれだけではなかった。

 体温が急激に下がったような感覚と止まらない体の震え。焦るゲンスルーの目には爆破したはずの腕が黒い霧となり元に戻る。

 

「こいつ、何者だ……!」

 

 ヘイトはゲンスルーの指を袋にしまうと、別の指を取り出だし寂しい声でゲンスルーに問いかける。

 

「なんで人間は“進化”してしまうんですかね」

 

 ヘイトとアイの魂の均衡、その崩れから起きた変化。

 得体のしれない存在となったヘイトの純黒の虚無の目にゲンスルーは死を悟る。

 

「――クラブ王様、ゲイン!」

 

 静かに牢獄の扉が開く――。

 顎や四肢の関節を外されたゲンスルーは指輪と共に牢獄の中に放り込まれる。

 ゲンスルーの虚ろな目には黒い化物とゆっくりと閉まっていく扉。誰にも知られることなくゲンスルーの名前表示は黒くなる。

 




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