グリードアイランドというゲームは販売されてから10年以上の年月が経っている。
故に、初心者を狩る方法は考え尽くされている。
ミルキが考えたのは後発組としての交渉材料である。
考えとしては入手しにくい指定カードを探すというもの、理想は指定ポケットカードの独占だ。
「堅牢を考えれば、上限枚数7枚の浮遊石が無難だな」
NO.080浮遊石、その名の通り宙に浮く石。
1カラットほどの大きさの石で人間1人を浮かすことができる。太陽の光を当てないと浮力を得られない。
NPCの情報を元にミルキが訪れたのは
両岸が険しい崖になっており谷底には深い川が流れている。この高さから落ちれば一般人ならまず助からない。
「あれが浮遊石か、距離にして30mってとこだな」
谷底に見えるのは激流。
足場の悪い崖上と谷底の中間、小さな石は青い光を放ち無数に宙を浮いている。
踏み込みと同時にオーラ集中しなければ届かない距離。
必要になる空間認識能力、浮遊石は1cmに満たないため入手するには高い跳躍と精度が必要となる。
「これだけじゃないだろうな」
ゲームオタクであるミルキは開発側の視点で考える。
難易度Sランクで運営が考えそうな嫌がらせ。飛び降り前提の状況で念を使える人間ならどうするか。
「間違いなくオーラを纏う、なら答えはその逆か」
ミルキは試しに浮遊石に向け小さな念弾を飛ばす。すると浮遊石は光を失い消滅する。
「絶状態がカード化の条件ね」
崖上から凝による跳躍と絶状態での入手、飛び込みと念の技術の融合したゲーム。
浮遊石は手に宿っている黒いオーラにも反応する可能性がある。ならば足を使うのが無難だろう。
ミルキは靴を脱ぐと崖先から跳躍をする。
目の前に迫る小さな青い光、飛び込み角度と精度は完璧。そして小さな足場である浮遊石の上に着地する。
浮遊石の浮力で落下衝撃は和らげられ、速度を徐々に落としながら降下していく。
「絶での入手がクリア条件のはず、となると――」
ミルキを乗せた浮遊石は川の水に触れると光を失い消滅する。
カード化されない浮遊石、ミルキは指定カードを31種類入手している。
今までの指定カードはクリア条件を満たせばカード化されていた。考えられるのは上限に達している指定カードということ。
「さすがに制限7枚じゃ無理か」
先行組なら思いついて当然か。難易度Sではあるが一度攻略できてしまえば独占は簡単にできてしまう。
「Sランクがだめなら狙いはSSランクしかないな」
街のNPCからは指定カードに関する情報はもうない。
ミルキは川の水を含んだ道着を脱ぎ絞る。
「あんた、たいしたもんだわさ! 狂いのない見事な跳躍、オーラの流れもすごく綺麗よ」
完璧な凝と褒めるのは金髪ツインテールの少女。
プレイヤーの証である指輪をしていることを考えれば目的は同じか。
「浮遊石ならカード化はされないぜ?」
「あんな創り物の浮遊石より、あたしが欲しいのはここにしか存在しないブループラネットだわさ」
「お前、街からずっとつけてただろ?」
「へー、あたしの尾行に気付くなんてたいしたものね。あたしはビスケット=クルーガー、プロのハンターだわさ。ミルキ=ゾルディック、あんたにちょっと聞きたいことがあってね」
きっかけは天空闘技場にいる弟子からの連絡、その映像には1人の男が映っていた。
それを見たビスケット=クルーガーは息を呑む。
開始と同時に相手が吹き飛んだのだ。その試合後の姿が知っている人物とあまりのも似ていた――。
「見えなかった、あたしの目をもってしてもね」
天空闘技場で最後となるミルキの試合。
大歓声の中で行われた硬に突き刺さった拳、ビスケット=クルーガーは人生で初めて完成された技というものを知った。
「あんたの師匠はネテロでしょ?」
あの人物以外にあり得ない。
湧き上がる感情、これは嫉妬心なのだろうか。昔に一度だけ見たことがある。
「ジイさんの知り合いか」
「やっぱりね。でも、あの
「やだね。俺はジイさんのやっていることに興味はない」
「あらそう、この姿じゃ説得力に欠けるわね」
ビスケは少女の姿から真の姿を見せる。
その身長は2m以上、大柄で筋肉隆々とした体にビスケは洗練されたオーラを纏う。
「へー、やるじゃん」
「少しは認めてくれたみたいね、これがあたしの真の姿よ。ったく、ゴツイったらありゃしない」
武に精通していることを考えればヒソカ以上の可能性、これはミルキにとって戦闘経験を積む機会である。
念はその者の性格や心情を映し出す。
相手の間合いや体つき、目の動きやオーラの質。あらゆる情報から相手の攻撃を予測する。
これはネテロに何度も言われてきたこと。だが、ミルキは初見で見抜く千里眼はまだない。
「切っ掛けが掴めればなんでもいい。俺は攻撃しないから全力で打ってこいよ」
「あたしが試されるなんていつ以来だろうね。ネテロの直弟子なら手加減はしないよ」
ビスケはミルキに感心する。この発言がただの過信でないことは目を見れば分かる。
念の攻防において防御はまったくの別物。
打ちこむだけの攻撃とは違い、防御は刹那の時間で相手の念能力やオーラを分析し対応しなければならない。
堅や硬、回避といった使い分けと戦いのセンスが必要になってくる。
ビスケは念の技術、武術ともに達人の域に達している。
プロハンターの中でも対応できる人物はほんの一握りだろう。そのような人物が全力で挑むのだ、ただで済むはずがない。
初動から推測される攻撃をミルキは見逃さないように集中する。
――オーラの量を考えれば純粋な正拳突きか。
踏み込みによる地面の亀裂、念を纏ったビスケの本気の一撃。
それはネテロに比べれば遥に遅いが、全ての基礎が詰まった感謝の正拳突きそのもの。
防御側に回ったからこそ見えた景色、ヒソカとの戦いでは見えなかったものがそこにはあった。
ミルキの見た刹那の世界。
相手のオーラの流れ、表情、動作、その全てが見えていた。武人ネテロに通用しないだけで、既に千里眼と呼ばれる技能を身につけていたのかもしれない。
「痛――ったいわねッ!! あたしの拳が壊れるとこだったわさ!!」
「悪いな、俺の堅はジイさん用だからな」
少女の姿に戻ったビスケは手を大げさにさする。
ミルキは気にすることなく地図を取り出すと魔法都市マサドラに向けて歩き出す。
「こら、姉弟子が困ってるんだから助けなさいよ! ちょっと――待ちなさい!! あたし、ゲームのこと全然わからないんだからッ!!」
ビスケはミルキの後を追いかける。
☆★☆★☆
魔法都市マサドラ、グリードアイランド内で
ミルキが食事をしていると怒りの表情をしたビスケがやってくる。
「探したわよ、ミルキ! あたしだけ置いてさっさと行くなんてひどいじゃないのよ!」
「うるさい女だな、お前が勝手についてきてるだけだろ」
「まったく、物覚えの悪い子ね。あたしのことはビスケって教えたでしょ! それよりあんた、お金はどうしたのよ。あたしと同じで盗賊に全部取られたでしょ?」
「モンスターで金策とか馬鹿のやることだぞ? 特定の指定カードを売った方が楽に稼げるからな」
「だから、そういうことはあたしにも教えなさいよ! 素直にモンスターを倒してた私が馬鹿みたいじゃないのよ!」
ミルキはビスケにゲームの基礎である等価交換を教える。吊り合う情報を持っていなければそこで交渉は終わりなのだ。
「むかつくクソガキだわさ! まあいいわ、岩石地帯でプレイヤーから情報は貰ったわよ。なにやら
ビスケからの助言に腕組みをしたミルキは食事を中断する。
「なるほどな、逆に所持していない指定カードを把握できるのか。それなら浮遊石のような無駄足をせずに済むな」
「どうやら良い情報だったみたいね」
ミルキとビスケは昼食を終えると魔法都市マサドラにある
「毎度――ッ! これが現在のプレイヤーランキングだ。さらに詳しい情報が欲しければ教えてやるが10万ジェニーだ!」
ランキング1位、指定カード90種……ミルキの目に入ったのは見慣れた名前だった。
「1位がヘイトだと!? 金は払う、すぐに指定カードの番号を教えてくれ!!」
「毎度!!」
ミルキは店員に目もくれずカウンターに用意されたリストに目を通していく。
ヘイトの持つ指定カード。
その中で黒く表示されたのはNO.000、NO.001、NO.002、NO.005、NO.009、NO.036、NO.051、NO.075、NO.080、NO.085。
ミルキは5つあるはずの最高難易度の番号がないことに気づく。
「まさか、SSランクの大天使の息吹とブループラネットまで持っているのか!」
「へー、そのヘイトってやつは誰よ?」
「俺と同時にゲームを始めたやつだ」
「あたし達と同じ期間で90種も集めたって……その子、化け物じゃないのよ」
ヘイトは交渉材料を持っている。
つまりクリアまでの時間がない。SSランクである大天使の息吹やブループラネットを交換材料にすればすぐにでも集まる可能性がある。
「ソロなんて言ってる暇は無くなった。ビスケ、協力しろ!」
「いいけど、べつに。どうしたのよ、そんな思いつめたような顔して」
ゲームだけはヘイトに負けたくないという小さな
「ビスケ、クリアしそうなやつが一番嫌がることはなんだ?」
「うーん、それはカードを奪われることじゃないの? この街で買える攻撃
「たしかにそうだ。そうか、持っていない10種の指定カードの枠……頁を堅牢で守っている可能性があるな」
NO.088不死の大金槌に書かれていた。
攻撃呪文と防御呪文の存在。そして“堅牢、聖騎士の首飾りの使用者には無効”という文。
ヘイトが堅牢や指定カードである聖騎士の首飾りを使用していたら攻撃呪文は効かない可能性が高い。
「所持していないカードの独占しかない。ビスケ、
「まったく忙しい子、ちゃんと説明しなさいよね!!」
しかしミルキ達を待っていたのは
その並んでいるプレイヤー達からは聞こえてくるのはランキング1位である“ヘイト”という言葉だった。
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