旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二十七話 終戦

 グリードアイランドのランキング1位は全プレイヤーの共通の敵となる。それは呪文(スペル)攻撃だけではない。プレイヤー達の念による攻撃も始まる。

 原因は大富豪バッテラによる500億ジェニーという懸賞金。その欲望は殺人の免許証(ライセンス)でも得たかのようにプレイヤー達を豹変させる。クリアできない者は妨害し、攻略を進める者はそれを利用しカードを奪う。これは欲望に満ちたグリードアイランドによって生み出された因襲。

 

「ツェズゲラ組がヘイトを血眼で探してるらしいぞ。衝突(コリジョン)ですら高く買い取ってるらしい」

「俺はリストにヘイトの名前があればSランクのカードを出すって聞いたぜ?」

 

 魔法都市マサドラの呪文カードの店前では情報交換をする人で集まっている。

 

「どいつもこいつもヘイトの話ばかりしやがって」

 

 ミルキの耳に聞こえてくるのはヘイトを探す者達の会話。グリードアイランドの知らない多くのゲーム用語。呪文(スペル)カードは何種類存在するのだろうか。無知ほど愚かなものはない。盗み聞きでもなんでもいい。いまのミルキは情報が欲しいのだ。焦るミルキの表情を見てビスケは話しかける。

 

「そんなに焦る必要はないと思うわよ。呪文(スペル)カードを購入すれば私達にだって会話の意味は分かるはず、周りに聞かれても平気な情報なんて大したことじゃないわさ」

「まあ……そうだな」

 

 ビスケの言う通りでヘイトが所持していない番号にNO.080の浮遊石もあったのだ。プレイヤー達が独占している状況ではクリアは不可能。ヘイトも同じように浮遊石を所持するプレイヤーを探さなければいけないのだ。今のミルキがすべきことは存在する呪文(スペル)の把握。

 

衝突(コリジョン)――そうかッ! 衝突(コリジョン)はまだ出会っていないプレイヤーと出会うためのカードか!」

 

 落ち着けば会話の意味は分かる。リストは出会ったプレイヤー達を知る手段が存在するということだろう。このゲームで使うものといったら(バインダー)しかない。

 

「他人を知る手段に――出会うカード。調査に移動か」

 

 ミルキの頭の霧が消えていく。これまでの蓄積されたゲームの知識がグリードアイランドに存在する呪文(スペル)カードを言い当てる。このゲームはサバイバルではないのだ。

 

「ビスケ、呪文(スペル)カードの仕組みがなんとなく分かったぞ。他人の情報を得る調査型に移動型、それに攻撃呪文(スペル)に防御呪文(スペル)。たしかゲームを脱出するためのカードもあったな。(バインダー)にスピーカーも付いていたし連絡手段のカードもあるだろうな」

「たしかにありそうね。言われてみれば便利で必要な呪文(スペル)カードに思えるわさ」

「並んでいるプレイヤー人数を考えれば、それぞれの呪文(スペル)カードの上限枚数は多そうだな」

「そうね。それにしてもヘイトってどんなプレイヤーなのかしらね」

 

 ミルキとビスケは呪文(スペル)カードを購入する。防御呪文(スペル)に攻撃呪文(スペル)が大半を占める。面白そうな呪文(スペル)カードは宝籤(ロトリー)くらいなもの。ミルキとビスケは呪文(スペル)を確認していく。

 

 NO.1032宝籤(ロトリー)ランダムに1枚何かのアイテムカードに変身する。

 NO.1017衝突(コリジョン)会ったことのないプレイヤーのいる場所に飛ぶ(会ったことのないプレイヤーがゲーム内にいない場合、その場から動かずカードは破壊される)

 

 予想通りの呪文(スペル)カードをフリーポケットにしまうとミルキとビスケは街から離れ森に移動する。

 

衝突(コリジョン)が手に入ったしツェズゲラってやつと接触するのはありだな。今は少しでも情報が欲しい」

「ツェズゲラは星持ちのハンターだわさ。あたしはそいつに審査されてこのゲームに参加したのよね。こっちがゲーム初心者なのはバレちゃってるし呪文(スペル)カードを狙われたら対応できないと思うわ。呪文(スペル)カードはあんたが持っときなさいよ」

 

 ビスケは使えそうな呪文(スペル)カードをミルキに押し付ける。ミルキは受け取ったカードの一つを(バインダー)にセットする。

 

「出会ったプレイヤー全員が記録される仕組みか。ビスケも交信(コンタクト)(バインダー)にセットしてみてくれ」

「わかったわ、ブック!」

 

 二人は出会ったプレイヤー達を確認するが予想以上に人数が多い。魔法都市マサドラで出会ったのはビスケ以降、またはミルキ以降のプレイヤー達ということになる。

 

「100人は楽に越えてる、プレイヤーの判別は不可能だな。とりあえずツェズゲラを探すか」

 

 リストを確認するが名前は見当たらない。ランキング1位であるヘイトの名前も存在しない。手がかりすらつかめない二人に一つの道が開かれる。突如ミルキの(バインダー)から“他のプレイヤーがあなたに対して交信(コンタクト)をしようしました”というメッセージが流れる。

 

「誰だ、俺はビスケ以外のプレイヤーと接点がないはずだ。交信(コンタクト)を使用した者の目的があるとすれば所持している指定カードか?」

「ミルキ、とりあえずでてみたらどう?」

 

 驚くことに交信(コンタクト)を使用してきたのは目的であるツェズゲラ本人からだった。

 

『やあ、ミルキ君。サザンピースのオークション以来だね。私は賞金ハンターをしているツェズゲラという者だ、バッテラ氏の護衛をしていたといえば分かるだろうか?』

「覚えてるぜ、プレイヤーの審査も委託されてんだろ?」

 

 サザンピースオークションでバッテラに付き添っていた男。グリードアイランドの参加プレイヤー達を審査している人物。恐らくはサザンピースオークションに参加していたミルキとヘイトを調べたのもこの男。

 

『そこまで知っているのなら話が早い、時間を貰えるかな?』

 

 ミルキは接触してきた目的を何か考える。衝突(コリジョン)が手に入ったからにしてはコストがかかりすぎている。衝突(コリジョン)はFランクの上限200枚のゴミカード。金さえあればいくらでも手に入るはず。つまりは呪文(スペル)以外の情報。

 

「いいぜ、こっちは二人だけどいいか?」

『そちらの仲間はすでに確認済みだ。こちらから迎えに行くので待っていてくれ』

 

 ツェズゲラとの交信(コンタクト)がきれる。数分後、ミルキとビスケの前に現れたのは二人のプレイヤー。その内の一人である色黒の男はミルキ達に話しかける。

 

「俺がボードム、こいつがドッブルだ。リストに名前があると思うがこれはゲーム名だ。普通にロドリオットとケスーって呼んでくれ、それが俺達の本名だ」

「ランキング1位のヘイトについて知りたいんだろ?」

 

 ミルキの言葉を聞いて二人は互いに目を合わせる。理解しているなら話は早いとすぐに頭を切り替え二人は交渉にはいる。

 

「場所を変えたい。もちろん同行(アカンパニー)はこちらで用意したものを使わせてもらう。それじゃ、行くぜ――同行(アカンパニー)オン! ツェズゲラ!」

 

 移動した先で待っていたのはツェズゲラとバリーという男。ミルキとビスケは廃墟にある古びたソファーに腰を下ろす。

 

「先ほどはバリーの(バインダー)で会話をさせてもらった。これからは互いのリストに名前がある、用事がある時は直接私に連絡をしてくれて構わない」

 

 ツェズゲラは挨拶としてミルキ達にグリードアイランドの注意事項やいろいろな小技を教える。そして、争う意思のないことを伝え本題にはいる。

 

「君達は現在二人組。指定カードは二人合わせても31種、ミルキ君しか指定カードを所持していない。このように他人の情報を調べようと思えばいくらでも調べられるのが、このグリードアイランドというゲームだ。君達はもうすぐクリアしそうなプレイヤーがいるのは知っているかな?」

「さっき確認したぜ、ヘイトがランキング1位で90種だろ?」

 

 ミルキは交換店(トレードショップ)の情報を告げるがツェズゲラはそれを否定する。

 

「いや、事態はもっと深刻だ。すでに最終戦争も終わっていると言っていい。彼が持っていない指定カードの10種の内、8種は仲間であると思われる人物がすでに持っている。私達が確認した限りだと残りは2種、NO.000の支配者の祝福とNO.002の一坪の海岸線のみだ。NO.000の噂を考えれば実質1種といっていい」

 

 ミルキとビスケはその事実に驚愕する。

 

「1種だと!? どういう事だッ!」

「その反応を見て安心したよ、君は彼の仲間ではないようだな。彼が90種のままにしているのは、まだ時間があると見せかけるためのものだろう」

 

 ツェズゲラは強奪組の存在を告げる。古参プレイヤーが認知していない初心者達で構成されたカードを奪う専門のチーム。ハメ組で呪文(スペル)カードを集めていたメンバー達。そしてツェズゲラは被害報告と共に自分の愚かさを認める。

 

「初心者に入れ知恵をした者がいる。あの同時攻撃呪文(スペル)を防げるプレイヤーはいないだろう」

 

 被害とは裏腹にツェズゲラは内心喜んでいた。一つのSSランクの指定カードが入手できたことに。

 

「つまり、大天使の息吹を餌に釣られたってことか」

「ああ、油断したと言えばそれまでだが……。そいつらに私達が独占していた指定カードを奪われてしまった。交換店(トレードショップ)のランキング機能を使い確認したところ独占していたカードの行先はすべてニッケスという男だった。90種を持つ者の存在と的確に独占カードを狙った多くの被害、これは偶然ではない繋がりがあると考えるのが普通だ。そのニッケスという男は私達と同じ古参プレイヤーの一人、初心者連中に入れ知恵をしたのは間違いなくこいつの仕業だろう」

「それにしても“宝籤(ロトリー)で入手した”なんてよく信じたな。そもそも宝籤(ロトリー)でSSランクって出るものなのか?」

 

 ミルキはツェズゲラの言葉に疑問を持つ。ミルキも先ほど入手したばかりの宝籤(ロトリー)。こんなGランクの呪文(スペル)カードでSSランクのカードが入手できたらゲームバランスが壊れるはず。疑心に駆られるミルキにツェズゲラは過去に起きたグリードアイランドでの出来事を話す。

 

「それがいたのだよ。過去に宝籤(ロトリー)でSSランクであるNO.001一坪の密林を引き当てたプレイヤーがね。恥ずかしい話だが私が一坪の密林を入手した経緯でもある」

 

 ツェズゲラはNO.001一坪の密林を非正規ルートで入手していたことを告げる。

 

「ふーん、RMTか。ゲームじゃよくある話だな」

「ミルキ、RMTってなんだわさ?」

「人気ゲームには“リアルマネートレード”ってのがあるんだよ。現実の金を使って現実(リアル)で取引をする。アカウントを売ったり、ゲーム内の装備や金、経験値を販売ってのもある。基本はRMTを禁止してるゲームがほとんどだ。運営に利益は一つもないからな」

「なるほどね、バッテラの報酬を考えれば全然ありね」

 

 ゲームにはいろいろな方法があるとビスケは感心する。ツェズゲラは自身の慢心が招いた結果だと落ち込む姿を見せるも腐ることはない。ツェズゲラはシングルハンターを持つ男、強い眼差しでビスケを見つめる。

 

「私達を攻撃してきたのは君と同じ選考会の時にいた10名の初心者達、彼らは何故かカードを熟知していた。やられた後に確認をしたが彼らの(バインダー)には移動呪文(スペル)と攻撃呪文(スペル)しかなかった。完璧な攻撃呪文(スペル)部隊だったよ」

「初心者、という先入観にやられたってことね」  

「まったく恥ずかしい話だ、こんな状況ではクリアも難しいだろう。我々はすでにかなりの年月と金を使ってしまっている、さすがに成果がゼロとなると私達も辛いのだ。もし、ヘイト組より先にNO.002の一坪の海岸線を入手できたら知り合いであるミルキ君に交渉役を頼みたい。こちらが入手しても私達だけではまた狙われるだけだからな」

「残念だが……俺はヘイトにクリアされたくないから協力はできない。だが一坪の海岸線の入手なら手伝ってやってもいい、助けが必要なら声を掛けてくれ」

「そうか、その時は声を掛けさせてもらおう」

 

 ミルキとビスケは同行を使いこの場から去るとツェズゲラは安堵の表情を浮かべため息をつく。ツェズゲラが一番恐れていたのはゾルディックという闇側の人間がプレイしていたこと。抗戦主義のプレイヤーは確かに存在するのだ。

 

「これで一番の不安要素はなくなったな。彼が健全なプレイヤーで助かった」

「ふー、そうだな」

 

 ツェズゲラ組のメンバーは共に頷く。

 このグリードアイランドは既に末期、プレイヤー狩りが発生してしまうほどに。だがヘイトという共通の敵が君臨したことによって古参プレイヤー達は考えを改めたのだ。殺伐としたゲームから健全なゲームに僅かだが戻った。共に長くゲームを続けた古参プレイヤー達の意地。終わりの見えたことによる焦りもあるだろう。新参ものにクリアされまいと古参メンバー達が独占していた指定カードを放出したのだ。金はかかったがツェズゲラ達も独占されたカードを入手することができたのだ。

 

「これで条件はこちらも同じ、クリアまでNO.000とNO002のみ。じっくりと一坪の海岸線の入手を待とうじゃないか、彼しか一坪の海岸線のイベント発生条件を知らないしな。我々が勝つのも時間の問題だ!」

 

 ツェズゲラ組はもう一人の仲間を信じヘイトの攻略を願う。

 




読んでくれてありがとうございます。

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