旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二十八話 グリードアイランド

 グリードアイランドのGM(ゲームマスター)である一人の男に緊急連絡が入る。

 

『レイザー、聞こえますか? エリア002の1でイベント障害が発生しました。至急、確認をお願いします』

「わかった、すぐに向かう」

 

 同じGM(ゲームマスター)であるの入国管理人のイータからの要請、場所は一坪の海岸線に挑むだけの力量があるかを確認するための簡単なイベント。

 そこで起きる障害といったら雇われの囚人達が消える事くらいか。

 

「さて、どちらかな」

 

 逃げ出したか、殺されたかの二択。

 退屈という感情に支配されていたレイザーの表情に笑みが浮かぶ。

 

 グリードアイランドは外界から隔離された空間ではあるが完璧ではない。島に侵入する者や意図的にグリードアイランドを破壊しようとする者も少なからず存在する。

 その対策としてGM(ゲームマスター)だけが許される特殊な呪文(スペル)も存在する。

 

「プレイヤーの襲撃を受けても、ボポボ達が簡単に死ぬ事はないはずだが――」

 

 囚人達もシステムの大事な一部で、支障をきたす大怪我を負えば大天使の息吹と同等の効果を受けられるようにはなっている。

 

 レイザーは海辺の街ソウフラビにある一つの酒場に移動する。

 そこで見たのは血で染まった酒場。血溜まりは椅子に3つとバーカウンターに1つ、そして燃え跡の側に1つ。

 

「ヘイト、あれも食べる?」

 

 レイザーの細目が最大限に開かれる。

 視線は黒い人形に誘導され緊張と驚きにより呼吸が止まる。硬直した体は言葉の意味を理解していた。

 

 ――動くことすら許されずに殺されたか。

 

 レイザーはヘイトを見つめると軽く両手を上げる。

 ボポボ達に大天使の息吹が発動してないことを考えれば全員即死。一つだけ分かるのは、黒い人形を生み出したプレイヤーが異常な精神の持ち主ということ。

 

「船長さんですかね、あなたを倒せばここはクリアですか?」

 

 軽い言葉とは裏腹に意味の重さがレイザーに伸し掛かる。

 

 ――返答次第でこのプレイヤーは躊躇なく殺してくるだろう。

 

 GM(ゲームマスター)である以上は死ぬ事が許されていない。頼りにしてくれた友人との約束もある。

 レイザーが選択したのは返事をせずに時間を作ることだった。

 

「ここは挑戦資格を確認する場所だよ。君は十分な資格を持っているようだ、場所を変えようか」

 

 レイザーは思慮深い顔であらゆる可能性を考える。

 一坪の海岸線は15人以上で同行(アカンパニー)を使用した場合のみに発生する特殊なイベント。

 

 システムに障害が発生したのか、それとも別の方法か――。

 

「君は1人で挑戦に来たのかな?」

「そうですね」

「ほう、それはすごいな」

 

 レイザーは遠回しな質問をしながら情報というパーツを集めていく。

 

「はははっ、3か月で指定カード90種とは恐れ入ったな!」

「運が良かっただけですよ」

「このゲームは運ごときでどうにかなるものではないよ。それは君が一番に知っていることだろ?」

 

 システムを突破されたからなのか。

 ヘイトに他とは違う何かを感じ取ったレイザーは不思議と過去の話をしていた。

 

“頼んだぜ、レイザー!!”

 

 何処かジンに似ている男。

 恩人の息子ではなく、目の前の男にクリアされてしまうかもしれないという背信的な気持ちが心に渦巻く。

 

呪文(スペル)カードにレイザーさんを感じたのはそういうことか」

「俺もこのゲームの製作者の一人だ」

「へー、レイザーさん()GM(ゲームマスター)だったんですね」

 

 ヘイトの言葉にレイザーから笑みが消える。

 毎年、ジンは仲間にメッセージを必ず送っていた。そのメッセージも数年前から途絶え、イータとエレナだけが騒いではいたものの、他の仲間は一切信じなかった。

 

 ――いや、信じたくはなかった。

 

 ジンに限ってそれはないと、死から一番遠い存在だと誰もが認めていた。

 

「信仰心はないが、今日だけは神に感謝しよう」

 

 ゲームが終われば死ぬ運命――。

 レイザーは本来の目的である密航船を監視するための灯台に移動する。灯台の中は改造がされており、多くの競技が可能な会場となっている。

 レイザーは会場にいた数名の仲間を集めると規定通りに一坪の海岸線のイベントを開始する。

 

「勝負のやり方はオレ達で決める。勝負形式はスポーツ、先に8勝したほうの勝ち。君には悪いが1人1勝、もちろん1人で勝ち続けることはできない。君の念獣と合わせても残り6人は必要だ」

「マジですか?」

「これもゲームの決まりだ、仲間を集めてまた挑戦してくれ!」

 

 レイザーはオーラを研ぎ澄ませる。今ではないと心に言い聞かせ、完全な状態でヘイトを潰すと心に誓う。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 グリードアイランドの交信以外の唯一の交流機能。

 それは各街にある交換店(トレードショップ)の前にある掲示板。多くの張り紙があり使い方は人それぞれである。

 

 そこに注目を集める一つの依頼があった。

 

“参加メンバー募集。NO.002一坪の海岸線、クリア目的。主催側、複製持ち、その他は要相談。依頼主:ヘイト”

 

 ランキング1位の募集依頼。目にした者からは愚痴や嫉妬がでるばかりだが、中には違う者もいる。

 

「探す手間は省けたが……」

 

 探し人の情報を手に入れたゴレイヌは目的の人物であるヘイトとの接触に成功する。

 

 その出会いまでは順調だった――。

 ゴレイヌに待っていたのはプレイヤーの嫉妬に欲望、人間の醜さだった。

 

「いやー、ゴレイヌさん。また集まってもらったのに他の参加希望者がいないみたいで……すいません」

「ヘイト、疑う気持ちはないんだが、他の仲間が1人でも変われば参加は可能なんだよな?」

「はい、8人以上いないとシステム的に敗北する仕組みになってるんですよね」

「オレ達の念獣を含めた5勝でもメンバー不足の不戦敗で8敗か。最低でも他に3人は必要ってことだもんな……ほんと、えげつねぇ。一坪の海岸線のイベント発生条件が指定カード90種以上所持ってものきついよな」

「そうなんですよね。うーん、また募集してみます」

 

 ゴレイヌはヘイトの異常性を少しずつだが理解していた。

 現在参加しているグリードアイランドのプレイヤーでイベントを発生させられるのはヘイトのみ。その偽りの発生条件にゴレイヌは手が出せずにいた。

 

「ツェズゲラ、今回も失敗だ」

『分かった、焦らずいこう』

 

 ツェズゲラ組で指定カード90種所持という条件を既に試している。しかし一坪の海岸線のイベントは発生しなかった。

 他にいろいろな方法を模索したが条件を見つけることはできなかったのだ。

 唯一、ゴレイヌが事実として確認できたのは、ヘイトが二人でも一坪の海岸線のイベントを発生させたこと。

 

「どうしてヘイトと同じ条件で発生しないんだ……ランキング1位が条件なのか?」

 

 二週間後、ヘイトの再募集が終わりゴレイヌはいつものように指定場所を訪れる。

 

 ――こいつらは参加者か?

 

 いつもとは違う光景。ゴレイヌにとって待ちわびた瞬間だったが感情はまるっきり別のものだった。

 

 隙の無い強者の集まり弱者を退ける威圧。

 指定場所にいたのは一部の幻影旅団のメンバー達。その一人であるノブナガは胡坐を掻いた状態でニヤニヤしながらゴレイヌを見つめる。

 

「てめェがヘイトか?」

「いや、俺は君達と同じ参加希望者のゴレイヌだ。このイベントの挑戦は2回目になる」

「なんだァ、違うのかよ」

 

 ノブナガの目は別人と分かった瞬間に鋭くなる。それを見たマチがノブナガに殺気を向ける。

 

「落ち着きなよ、ノブナガ。相手がヘイトってことを忘れんじゃないよ?」

「うっせェな、俺は見たことがないから分からねェんだよ!! フィンクスとフェイタンもそうだろ?」

「まあ、強ェやつなら気にはなるな」

「だろ? 男なら当然よ!」

「フッ、お前達片思いか? 乙女ちくね」

「なんだと、フェイタン! もっぺん言ってみろ!!」

 

 ゴレイヌを他所に幻影旅団のヘイトに対する感情が入り乱れる。

 

「ヘイトが来たよ♠」

 

 ヒソカの言葉で参加希望者達の視線が動く。殺伐とした幻影旅団の雰囲気がヘイトの登場で変わる。

 

「今日はたくさん集まってますね。一坪の海岸線、攻略主催のヘイトです。今日は皆さんよろしくお願いします」

「お、お前がヘイトかッ!! 団長から聞いたぜ、トガシさんとリキョウさんの息子なんだってな! シャルやボノレノフもやられちまうわけだ。わっはっは!」

 

 ノブナガは膝を叩きながら上機嫌で笑う。

 

「へー、知っている人間が長老以外にいるのは驚きですね」

「あたりめェよ!! 俺の刀はトガシさんから貰ったもんだぜ? それにリキョウといえば英雄の中の英雄、長老のクソ爺達にも口だしできる唯一の人物だからな!」

 

 ノブナガは故郷の話を嬉しそうに話すも、ヘイトは幼少期しか流星街にいなかったため理解することはない。

 

 それを見かねたマチはノブナガを殴りつける。

 

「馬鹿がうるさくて悪いね。ヘイト、仲間を探してんだろ? あたし達が手伝うかわりに、報酬として一つ頼みごとを聞いてほしいんだ」

「頼みですか、マチさんそれはなんでしょうか?」

 

 幻影旅団にとって納得できていないこと。

 それは本人の言葉で理解したいという強い気持ち。幻影旅団、初期メンバーのわがままでもある。

 

「パクに合わせてほしい。金髪の――」

「ああ、パクノダさんですか。いいですよ、クリア報酬がそれでいいなら」

 

 マチはあっさりとした返事に驚くがすぐに冷静さを取り戻す。

 恐怖の存在が同じ流星街の仲間だったと分かり幻影旅団のメンバー達は複雑な心境である。

 

「助かるよ、ヘイト」

 

 マチはヘイトに微笑む。

 同郷という見えない力がマチの心にゆとりを作ったのはたしか。幻影旅団との交渉が終わりヘイトの視線はゴレイヌに向かう。

 

「ゴレイヌさんはどうしますか?」

「オレの報酬は変わらす一坪の海岸線で頼む。もちろん複製(クローン)でかまわない」

「ゴレイヌさんは一坪の海岸線ですね、分かりました」

 

 ヘイトの簡単な説明が終わり、決まった作戦は行き当たりばったりというものである。

 参加者の中でゴレイヌだけが納得しなかったが、多数決の結果でしぶしぶ認めることになる。

 

「皆さん、行きますか。同行(アカンパニー)オン、ソウフラビ!」

 

 人間から生み出される終わりのない欲望。

 復讐、懇意、達成、全ては己を満たすため。一坪の海岸線は底のない欲望の渦となる。

 




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