旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二話 トリックタワー攻略

 飛行船が静かに去っていく。

 第三次試験の始まり。1つ恐れることは試験官がいなくなったということ。大道芸人がこれを機にルールの穴をついてトリックタワーの屋上で大乱闘を始めないか心配である。

 大道芸人はギタラクルと話をしている。しばらくして大道芸人がこちらに近づいてくる。芸のお披露目か?

 

「やあ、ボクはヒソカ♠ 君がヘイトか、イルミがすすめるのもわかるよ♦」

「どうも初めまして」

 

 雰囲気からして自己顕示欲の塊。殺気をばら撒く狂人。

 他の参加者のようにおどおどした方がヒソカ的には喜ぶのだろう。だからこそ俺はそっけない態度をとる。相手の本性を知るにはこのような望まない変化が必要なのだ。

 

 ヒソカはニヤニヤしながら俺の顔を見つめている。

 

「そうだ、そうだ。依頼を受けてくれて助かったよ。正確さはイルミ同様に信用するよ♥ イルミが忙しい時は、またヘイトに頼もうかな♠」

「ありがとうございますッ!」

 

 俺は即座にジャポン式“90度お辞儀”で返す。ヒソカは大切なクライアントだったようだ。

 

「ほんと腐った果実ほど纏わり付く、困ったものだよ♠」

「そっすよね、ヒソカさん! 気晴らしに大乱闘やっちゃいますか?」

 

 ギタラクルはカタカタと音を立てながらこちらに歩いてくる。

 

「ヘイト、ヒソカ、そろそろ行こうよ。残りは俺らだけだよ?」

 

 気付けば辺りには誰もいない。後方腕組みスタートで隠し扉から内部に侵入する。トリックタワー攻略の始まり。三人とも近かったせいか同じ部屋からのスタート。どうやら即席野良パーティの出来上がりのようだ。

 

 残り時間の表示された腕時計をはめて部屋を調べて回る。まるでゲームのダンジョン攻略。多数決で進行方向を決めていくシンプルなゲームスタイル。

 進行に従い多数決で決めて扉を開くと広い空間にでる。部屋の真ん中には約10m四方程の床。その周囲は奈落。下が見えないほどの高さで一般人なら落ちれば死は免れないだろう。

 

 扉の反対側にはフードをかぶった三人の人影が見える。こちらも三人となればチームバトルと推測できる。

 フードを脱ぎ捨てた男が説明を始めるとゲームの内容が鮮明になる。先に二勝した方の勝ち。負ければ制限時間を削られる、つまりは制限時間を奪うのが相手の第一目的ということ。

 

 

「長引かせるのが目的みたいですね、誰からいきます?」

 

 指示するリーダーがいるはずもなく、その場の雰囲気で決めていく。

 

「先にいこうかな」

 

 先方のギタラクルが中央に進む。相手によって決められたルールはデスマッチ。負けを認めるか死ぬまでだ。

 勝負の開始と同時にギラクタルの投げた三本の針は相手の頭に刺さる。次第に針の刺さった相手の顔が歪んでいく。相手の意思なのかは分からないが「負けました」と宣言。開始わずか十秒。さすがの早業である。

 

「つまらないな。次はどうする? ヘイトとヒソカ好きなほう行きなよ」

「次鋒は俺が行きますね。ヒソカさんは休憩していてください」

 

 対戦の相手は筋肉質の男。

 勝負方法はこちら側が決めていいとのこと。制限なしの何でもありは寛大すぎる。ここは依頼が増えるかもしれないヒソカにさらなるアピールをしたいところ。人生のターニングポイント。生涯養ってもらう事にかもしれないのだから。

 

「デスマッチは同じでいきましょうか。再審はなしの勝敗だけ変えますね。死んだ方の勝ちってのはどうでしょうか? まあ公平に負け宣言はありにしておきますね」

 

 その言葉に場の空気は静まり返る。疑問の表情を浮かべる相手。

 

「死んだら勝ち……なんだそれは。まあいい、お前に負けを認めさせればいいだけだ」

「ではよろしく」

 

 構えると相手は両腕で頭をクロスガードしている。

 俺は針なんて持っていないが。先程の試合が余程怖かったのだろう。頭から顔にかけてのガードは悪くないが自ら視界を減らすのは悪手である。

 俺は暗殺術である暗歩で相手との間合いを詰める。無音歩行に緩急をつけた足運び。相手に残像が見えるように幻惑する。さらに相手の瞬きに合わせて重心をずらす。これにより相手は多くの残像を見ることになる。

 

「なんだ……。どうなってやがる」

 

 心の声が出過ぎの男。狙うのは一点。

 相手の懐に入り込み左右交互に開手で下顎頭を関節円板からずらす。さらに流れるように喉輪で喋れないようにする。苦しむ相手は口をだらんと開けたまま片膝をつく。

 

「手足も折っておくか」

 

 会場には飛び散る血と骨の折れる音がダイレクトに響く。気合もあいまって四肢をもいでしまったが気はにしない。ギタラクルのような秘孔をつくとか人間離れした技できないので出来ることでアピールしなければいけないのだ。

 

「かはッ、ぁぁ……」

 

 ヒューヒューという呼吸音、相手は目から涙を流し虫のように悶えている。

 

「残り時間は70時間か。どうしよっかな」

 

 相手は負けの宣言もできないし移動もできない。舌を噛み切ることすら無理だ。あるとすれば時間による出血死くらいか。

 相手の仲間の悲鳴。一人は針で顔が歪みもう一人はこれだ。これはデスマッチ。勝負が始まったからにはやめてくれなんてのは受け入れられない。

 

 喉を潰し四肢をもいだ程度では拷問としてもアピールは弱い。大道芸人なら、打ち上げ花火のような派手なパフォーマンスのほうが心を掴めるだろう。

 

「相手も戦意喪失したみたいなので、そろそろ終わりにしますかね」

 

 俺は手の筋肉を操作し一時的にナイフに勝る鋭利な武器にする。その手を胸に突き立て心臓を抜き取る。ここで血をださないのが高評価のポイント。

 

『アイ、魂が抜ける前に蘇生しろ』

『あいあい、まかせて!』

 

 俺の手には心臓が握られている。その心臓は僅かにドクン、ドクンと動いて鼓動を止める。

 ギタラクルとヒソカは思わず息を呑む。

 動けない相手と心臓を抜いた俺。勝敗は誰の目にでもわかるだろう。電子掲示板にマルとバツの勝敗が表示される。こちら側の勝利が確定する。

 

「すばらしい♦」

「まあヘイトだしね。ちょっと頭のおかしなとこあるし」

「彼は狂人か。うーん、もったいないな♦」

 

 試合を見ている全員が驚愕する。それは勝敗が決定してからほんの数秒後、地に伏している俺の目が黒く染まる。まるでホラー映画の殺人鬼のように下を向いたまま不気味に起き上がると手に握られた心臓を元の位置に戻す。青白い肌は次第に血色を取り戻していく。

 床に転がっている対戦相手は俺の目を見ると失禁し絶命した。蘇生を終えるとアイは心の中に戻っていく。

 

『あいあい、ヘイト治った!』

「あと残る一試合もオマケでやりますか?」

 

 死んだ者は生き返らせることはできない。それはアイの能力でも不可能。これはアイと試して理解した知識である。しかし人間は死という認識を間違えて理解している。

 死とは魂が抜けて初めて死なのだ。体の機能が停止してから少しの間は魂が体に残っている。アイ曰く、体を絞ると早く魂がでるらしいのだが、そんな技はアイくらいしかできない。魂さえ抜けなければアイはいくらでも蘇生できる。たとえ体がバラバラにされたとしてもだ。もちろん見えない対価は必要なのだが――。

 

「うーん、実に驚きだ♠」

「喜んでもらえて何よりですよ」

 

 念能力ではないアイの力にヒソカとギタラクルは興味津々のようだ。アイという生物を知らなければ見抜くことは不可能。

 

「ヘイト、死んだように見えたけどタネがあるのかい?♠」

「それは企業秘密ですね。これでも個人で活動しているので」

 

 二勝により先に進む。イベントを終え幾つかの罠を抜ける。しばらくすると何度となく現れた多数決で開く扉の前に着く。

 最後の判断。一人はゴールまで遠いルート、他の二人は近いルート。この塔の攻略時間は72時間までと決められてる。ここまでかかった時間が6時間程度。時間はまだ十分にある。

 

「ここからは一人にさせてもらうよ。ボクだけ何もしてないからね♦ それに静めなきゃ――」

 

 ヒソカの鼻息がやけに荒いがするがここに気する者はいない。各自のマルとバツの腕時計にあるボタンを押すと最終判断は音をたて認可される。

 ギタラタルと進んだ先には先の見えない滑り台。この歳になってギタラクルと一緒に滑り台をすることになるとは思いもしなかった。無表情で向かい風を感じる。そのまま無事に6時間17分でゴール。しばらくして傷を負ったヒソカも到着した。

 

 最速攻略したことによる弊害。

 やることがない俺はリュックから寝袋をだし敷きマットの代わりにする。ニートなみのゴロ寝。壁隅で三角座りをしながら食べるおにぎり。目的のない無駄な時間。

 その時間が経つごとに増えていく参加者。ギタラクルはヒソカと会話。キルアは楽しそうにツンツン頭の少年と仲良く話している。

 

『みんな冷たいよな』

『ヘイトが一人うれしい!』

『アイ、お前もか』

 

 時折みせるキルアのドヤ顔。友達出来ましたアピールがウザいのでキルアに視線を送る。寝袋に籠りながらのガン見。

 全参加者が終わるまで計71時間57分。第三次試験が終わった。

 




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