旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二話 トリックタワー攻略

 受験者を下ろし終えると、飛行船は青空へと静かに去っていく。

 ビーンズの指示は単純で、この円柱型の建物トリックタワーの屋上から、生きて下まで降りてくることらしい。

 

「制限時間は72時間か」

 

 このハンター試験は何時まで続くか。

 活気の溢れていた受験者達も第二次試験で半分程に減っている。

 

「ってことは、今度の試験官はあいつか」

 

 この場所には過去に仕事で来たことがある。

 ハンター試験に合格したら、キルアもモヒカン所長のようになると思うと心苦しい。

 

「利権絡みってとこか、さて……」

 

 ハンター協会の闇を見た所で試験に意識を向ける。

 トリックタワーの屋上では、大道芸人とギタラクルが何やら話し込んでいる。

 ギタラクルの反応からしてゾルディック家のお得意様といった所だろう。

 残りの参加者を確認していると話を終えた大道芸人が近づいてくる。

 

「やあ、ボクはヒソカ♠ 君がヘイトか……イルミが推すのも納得だ♦」

「どうも、そんなヒソカさんは“変化”に興味があるとか?」

 

 ヒソカは凝を宿した鋭い瞳をこちらに向ける。

 イルミを疑わない所から察するに、他人は信用するタイプではあるようだ。

 

「……へー、君はやっぱり面白い♠」

 

 ヒソカは輝きのある魂の持ち主。

 鍛えられた筋肉と周囲を気にしない性格は自己顕示欲からくるのか。

 嘘を得意とするタイプのようだが、意識はされているようなので、あえて指摘をしてみる。

 

「狂人のフリは疲れませんか?」

 

 ヒソカの気分を害するつもりはない。ただ、相手の本性を探るには望まない変化が必要なのだ。

 輝く魂を持つヒソカが“狂人”を演じる理由は気になる所ではある。

 

「もしかして、それが君の能力かい?♠」

「いえ、少し興味があったので。人間には色々な欲望を持つ方がいるので」

「うーん、狂人である理由か……人を楽しませたいが僕の本心だろうね。何かを悟らせようとする君だってそうなんだろ?♠」

「まあ、そうかもしれません。人間は欲望に忠実なので」

 

 韜晦からくる顕示欲。

 それがヒソカが持つ欲望のようだ。アイが理解するには少し難しいかもしれない。

 そんなヒソカも興味があるのか、ニヤニヤしながらこちらの顔を見つめてくる。

 

「そうだ、依頼を受けてくれて助かったよ。君の正確さはイルミ同様に信用するよ♠」

「あ、あざますッ!」

 

 独立してからの初仕事の記憶が鮮明に蘇る。

 ヒソカは大切なクライアントだったようで、即座にジャポン式“90度お辞儀”で返す。

 

「腐った果実ほど纏わり付く、困ったものだよ♠」

「そっすよね、ヒソカさん! 気晴らしに大乱闘やっちゃいますか!!」

 

 サクッと20人程の受験者を減らそう。

 そう思っていると、ギタラクルがカタカタと音を立てながら歩いてくる。

 

「ヘイト、ヒソカ、そろそろ行こうよ。残りは僕達だけだ」

 

 気付けば辺りには誰もいない。後方腕組みスタートで隠し扉から内部へと侵入する。

 入口が近かったせいだろう。まさかの同じ部屋からのスタートとなる。

 

「ヒソカさん、即席パーティの出来上がりですね!」

 

 制限時間の表示された腕時計を手に取り部屋を調べて回る。

 ◯と✕の表示された鉄の扉に注意書きを見つける。どうやら多数決で進行方向を決めていくらしい。

 

「じゃ、次は右にしましょうか」

 

 問題なく進んでいくと、これまでにない広い空間にでる。

 部屋の真ん中には約10m四方程の床があり、その周囲は奈落である。

 視線を上げた先にはフードを目深にかぶった人影が見える。

 

「三人か……なら、チームバトルですかね?」

 

 服装と腕輪からして相手は受刑者だろう。

 フードを脱ぎ捨てた受刑者の男は試験の説明を始める。この試験で最も重要な脱落条件。

 

「なるほど、賭けるのは時間か」

 

 負ければ腕時計に表示された時間が削られ、制限時間である72時間が経たなくても強制失格となる。

 

「なら、相手が逃だす事はなさそうですね。誰からいきますか?」

 

 ヒソカとギタラクルは向き合うも興味がないのか熱意は感じられない。

 この場に指示するリーダーがいるはずもなく、その場の雰囲気で決めていく。

 

「先にいくよ」

 

 ギタラクルは小さく手を挙げる。

 対面にいる褐色肌の筋肉質の男は、拘束されていた腕輪が外すれると雄叫びをあげる。

 

「がはは、今回の勝負ルールはデスマッチだ!! 単純でいいだろ?」

 

 ギタラクルと向かい合う対戦者。

 見たところ裏の経験者ではあるようだが、元プロの立場からすると所詮は趣味程度の熱量でしかない。

 技量を磨かず殺しに呑まれた素人。

 ギタラクルもそれは分かっているようなので、特に口出しをすることはない。

 

「安心しろ針男、負けの宣言だけは認めてやるぞ?」

「オッケー、殺し合いね」

 

 ゾルディック家の暗技なんて、大金を払ってもなかなか見れない。

 ギタラクルの仕事捌きは見た事が無かったので真剣に見つめる。

 

「――あひッ!」

 

 開始と同時、ギラクタルの投げた三本の針が相手の頭に刺る。

 顔の歪んだ受刑者は虚ろな目で敗北と宣言すると、ギタラクルは軽い足取りで自陣に戻る。

 

「残りも雑魚だ。好きな方が行きなよ」

「なら、次鋒は俺が行きますよ。ヒソカさんは休憩していてください!」

 

 顧客に仕事をさせるビジネスマンはいない。

 対戦者はガタイの良い金髪の大男で、壁を毟り取ると何やらニヤニヤしている。

 本来ルールは敗北した側が指定するのだが、金髪の大男は気にしていないのか、こちら側で決めて良いとの事。

 

「肉さえ掴めれば、ですか。そうですね……」

 

 ここが人生のターニングポイントの可能性すらある。

 ヒソカには生涯養ってもらう事になるかもしれないので、ここは盛大にアピールをしたい所だ。

 

「よし、デスマッチは同じでいきましょう! 再審はなしの……勝敗だけは変えますね。“死んだ方の勝ち”ってのはどうでしょうか? まあ、公平に負け宣言はありにしておきますね!」

 

 その決められルールに場の空気は静まり返る。

 疑問の表情を浮かべる金髪の大男は顎に手を置き何やら考えている。

 

「死んだ方の……保険のつもりか? まあいい、感触さえ味わえれば」

「では、よろしく」

 

 指殺の構えを取ると金髪の大男は両腕で頭をクロスガードする。先程の試合が怖かったのか。

 頭から顔にかけてのガードは悪くないが、自ら視界を減らすのは悪手である。

 

「癖になってんだ、静かに歩くの」

 

 これはヒソカに向けた演舞。

 無音歩行に緩急をつけた足運びで相手に残像を見せる。これは相手を幻惑する暗歩と呼ばれる歩行技術。

 さらに瞬きに合わせて体の重心をずらすと、相手はより多くの残像を見ることになる。

 

「……な、どうなってやがる!?」

 

 狙うのは一点。

 本来は心臓なのだが、それだと相手を勝たせてしまうので狙いは変更する。

 空気を切り裂く流線。

 丸太のような両腕を弾き上げ、左右交互の開手で下顎の関節円板をずらす。その流れで喉輪による口封じも忘れない。

 

「ガハッ……」

 

 金髪の大男は口をだらんと開けたまま喉を押さえ片膝をつく。

 ギタラクルのような針で秘孔をつくとか人間離れの技はできないので、出来る事だけで精一杯のアピールをする。

 

「後は逃げないように、と」

 

 太腿と腕に軽く手刀を当てると、厚い筋肉に覆われたはずの骨の折れる音が木霊する。

 

「ぁぁ……!」

 

 時間差でやってくる四肢の破裂音。

 金髪の大男を中心に血池はじわじわと広がる。ヒューヒューという呼吸音と涙を浮かべ、虫のように悶える変わり果てた姿。

 

「残り時間は70時間か……ああ、そうだ」

 

 難癖をつけられても困るので、金髪の大男の手を取りニギニギしておく。

 これを選択したのは金髪の大男。舌を噛み切ることすら無理であり、勝利があるとすれば出血死くらいだろう。

 敵の仲間からの悲鳴はあるが、勝負が始まったからには棄権は受け入れられない。

 

「さて、どうしようか。喜びそうな事……」

 

 喉を潰し四肢をもいだ程度では拷問としてもアピールは弱い。

 人を楽しませるのが好きなヒソカなら、打ち上げ花火のような派手なパフォーマンスを好むだろうか。

 

「戦意喪失したみたいなので、そろそろ終わりにしますか」

 

 金髪の大男がまだ動いている事を確認し、腕の筋肉を意図的に操作する。

 すると手先は一時的にナイフに勝る鋭利な武器となる。その一瞬に黒く染まった手を自身の胸に突き立てる。

 

『アイ、蘇生をよろしく』

『あいあい、まかせて!』

 

 胸には鮮血すらない綺麗な切り口。

 手に握られている心臓は僅かにドクン、ドクンと動いた後、静かに鼓動を止める。

 デスマッチを見ていた誰もが思わず息を呑む。

 

「彼は生粋の狂人かい?♦」

「まあ、ヘイトだしね」

 

 ギタラクルは物珍しそうな顔で視線を向ける。

 残された赤髪の女受刑者により心肺停止が確認されると、電子掲示板には勝敗が表示される。

 その勝敗が決定してから数秒後――。

 

「あいあい」

 

 アイは起き上がり、手に握られている心臓を元の位置に戻す。すると、青白かった体はみるみる血色を取り戻していく。

 アイと入れ替わり勝利を確認する。

 失禁し絶命した金髪の大男の魂を待ちつつ、赤髪の女受刑者に選択を迫る。

 

「敗北側がルールを決めて良かったはずですけど、次はどうしますか?」

 

 赤髪の女受刑者は額に汗を滲ませ次の扉を指さす。

 

「あ、あんたらの勝ちだ。先に進みな!」

「では先に進みましょうか、ヒソカさん」

 

 死んだ者は生き返らせることはできない。

 それはアイが持つ特別な力でも不可能。これは試して理解した知識である。

 

 “人間は死という認識を間違えている”

 

 死とは、魂が抜けて初めて死となるのだ。

 実際には、体の機能が停止をしてから少しの間は魂が体に残っている。

 アイ曰く、体を絞ると魂は早く出るらしいのだが、そんな力技はアイにしかできない。

 魂が抜けなければアイはいくらでも蘇生ができる。たとえ、体がバラバラにされたとしてもだ。

 もちろん、見えない対価は必要なのだが――。

 

「実に驚いたよ。君はショーの天才だね♠」

「喜んでもらえて何よりです」

 

 念能力ではない未知の力。

 【凝】をする程にはヒソカやギタラクルの興味を引けたようだ。

 アイという存在を知らなければ、その力を見抜くことは不可能。

 

「不死……いや、何かタネがあるのかい?♠」

「企業秘密ですね。これでも個人で活動しているので」

 

 デスマッチの二勝により先に進むと、何度となく現れた扉の前に着く。

 

「どうやら最後の選択みたいですね」

 

 一人はゴールまで遠いルート、残りの二人は近いルート。

 トリックタワーの攻略時間は72時間までと決められてる。ここまでの時間が6時間程度と残りの時間はまだまだある。

 ヒソカの鼻息がやけに荒いがするが気する者はいない。

 

「ここからは一人にさせてもらうよ。ボクだけ何もしてないからね♦ それに静めなきゃ――」

 

 各自の腕時計にあるボタンを押すと最終判断は認可される。ギタラタルと共に進むと、視線は暗闇へと続く長い滑り台に向けられる。

 

「この歳になってもヘイトと滑り台をすることになるとはね」

「自分はカルト以来ですかね」

 

 無表情で向かい風を感じ、そのまま無事に6時間17分でゴール。暫くして傷を負ったヒソカも到着した。

 

「暇だな……」

 

 最速攻略の弊害。

 特にやる事もなく、寝袋を敷きマットの代わりにして寝転がる。たまに壁隅で三角座りをしながらおにぎりを食べる。

 

『そろそろプリンが食べたい!』

「ハンター試験が終わったらな」

 

 目的のない時間はアイとの会話に費やす。

 時間が経つごとに増えていく参加者。ギタラクルはヒソカと会話し、キルアはツンツン頭の少年と楽しそうに話している。

 何処かに隙間があるのか背中に冷たい風が流れる。

 

『ヘイトが一人なのうれしい!』

「暇すぎる」

 

 時折みせるキルアのドヤ顔は何だろうか。寝袋に籠もりながら視線を送る。

 全参加者が終わるまで計71時間57分、長かった第三次試験が終わった。

 




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