旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第二十九話 価値なき報酬

 海賊が仕切っている街ソウフラビ、その街の噂で広まっているレイザーと14人の悪魔。

 海賊たちの棲み家である灯台を改造した要塞。そこで一坪の海岸線を賭けた勝負が始まる。

 

 レイザーはヘイトの連れてきた面子を見て覚悟を決める。

 

「なかなか良い連中だな、これなら楽しめそうだ」

「やっと勝負してくれるんですね、また追い返されるかと思いましたよ」

「意地悪をしていたわけではないさ。こちらの競技をするのに人数が足りなかっただけだ」

 

 レイザーは競技で使うボールを取り出すと感触を確かめるように軽くバウンドさせる。

 

「競技のテーマは8人ずつで戦うドッジボール。さあ、メンバーを選んでくれ」

 

 レイザーの競技にゴレイヌは疑問を持つ。

 前回の勝利条件は1人1勝の形式、競技も個別で8勝でクリアだったはず。

 

「ちょっと待てよ!! 勝敗はどう決めるんだ?」

「もちろん、ルールは変わらない。勝った方に8勝入る、簡単だろう?」

「そんなのありかよ」

 

 一坪の海岸線のクリア条件はGM(ゲームマスター)であるレイザーに勝つこと。

 ゴレイヌは確認できていた幾つかの競技がなくなったことに不満の表情を見せるが、内容がシンプルなだけに認めざるを得なかった。

 幻影旅団は初参加ということもあり文句をいう者はいない。 

 そんな中、話を聞いていたフィンクスはレイザーの周りにいる面子を見てため息をつく。

 

「そっちで強そうなのはお前だけみてーだが、他の連中はビビってるようだぜ?」

「安心してくれ、相手をするのはこいつらだ」

 

 フィンクスは眉間に皺を寄せる。

 レイザーが出したのは審判を含めた数字を持つ9体の念獣。発言からしても数合わせの念獣ではないことは分かる。

 

「念獣ごときで俺達の相手をしようってのか?」

「舐めてるかどうかは勝ってからにしてほしいな」

 

 レイザーの視線はヘイトに向けられていた。

 競技ルールは1人だけ復帰できるワンバックとクッション制を採用したドッジボール。ルール上、参加できるのは8人と制限がある。

 ならば誰がレイザーと戦うのか。真っ先に手を上げたのはゴレイヌだった。

 

「俺は参加させてもらうぜ? 何もしないで報酬を貰うわけにはいかないからな」

「そうですね。自分とゴレイヌさんは決まりで、6名は残りの方達で決めてもらいましょうか」

 

 参加している幻影旅団はマチ、ノブナガ、フィンクス、フェイタン、シズク、フランクリン、偽りのヒソカを含めて7名。必然的に参加できない者が1名でてしまう。

 その者を選ぶわけだが、答えを知っていたかのように多くの視線がシズクに集まっている。

 

「え、なんで私を見てるの?」

 

 シズクは首を傾げながら不思議そうな顔で幻影旅団のメンバー達を見返す。

 そんな不機嫌なシズクを納得させるためにノブナガは肩を軽くたたく。

 

「悪いな、シズク。これはパクノダに会いたいってだけの俺達のわがままだ」

「私は参加するつもりだよ? パクノダには会いたいし気持ちは皆と同じだもん。ノブナガが見学してよ」

「まてまて、何でそうなる?」

 

 シズクの反論にメンバー達の視線はノブナガへと動く。

 他のメンバーからすれば自分さえ参加できれば正直どうでもいいのだ。

 

「なんで俺が見てなきゃいけねェんだよ!! 力だけでいえばシズクが一番弱ェんだから、必然的にお前しかいねェだろ!」

「力で決まるの? 聞いてないんだけど、ならノブナガだって腕相撲は弱い方でしょ?」

「言ったな、なら勝負しろやッ!!」

 

 ノブナガは強くもないし弱くもない。

 腕力勝負ならシズクと互角か少し上で、互いに下から数えた方が早い。コルトピ以外は正直団子状態なのだ。

 

 突如として始まるシズクとノブナガによる下位争いの腕相撲対決。そんな二人の周囲を無視した本気の勝負が始まる。

 

「ハァハァ――ほら、見ろッ……俺のが強いだろうがァ!!」

「うーん……コインにすれば良かった」

 

 シズクは悔しさを露わにする。

 ノブナガは自慢げな表情で仲間達を見るも待っていたのは冷たい視線と呆れた声だった。

 

 レイザーは参加メンバーを確認すると場を仕切り直す。

 

「決まったようだな、では始めようか!」

 

 念獣率いるレイザーチーム対ヘイトチームの試合が始まる。ジャンパーであるフェイタンと向き合う6の数字を持つ念獣。

 審判の上げたジャンプボールはレイザーの念獣が下がったことによりフェイタンが奪い取ることに成功する。

 そしてフェイタンの手よって弾かれたボールはフィンクスに渡る。

 

「気に食わねぇが、念獣の把握が先だな」

 

 フィンクスの投げた直線的なボールは2の数字を持つ念獣もろともコートの外に弾き飛ばす。

 フィンクスは念獣の強さを直観的に感じとると外野のフランクリンとの挟み撃ちを始める。

 

 全力で投げ合う念を纏った高速のボールは念弾と変わらない。

 

「こんなもんかよ、オラッ!」

 

 念獣の弾ける音が会場に響く。

 開始数分でレイザーチームの念獣は6と7の数字を持つ2体の念獣だけになっていた。

 終わることのないフランクリンとフィンクスの速球は線となりコートを行き来する。

 

「――ッ!?」

 

 フィンクスは相手の戦術を見て表情を変える。

 狙った6の数字を持つ念獣は、向かってきたボールを受けるのではなくガードをしながら突進したのだ。

 

「ギシェ――ッ!!」

 

 念獣による捨て身、ボールと衝突すると弾け飛ぶ。

 これによりボールを自身のコート内に残すことに成功する。

 

「レイザーチーム、6番アウトです!」

 

 転がったボールをゆっくりと拾い上げるとレイザーはニヤリと笑う。

 戦況はレイザーと7の数字を持つ念獣に対し、ヘイトチームは今だに無傷。

 

「さて、こちらの攻撃だな」

 

 人数だけでいえば圧倒的に不利ではあるもレイザーの余裕な表情は変わらない。

 

 この競技の本質は違う――。

 レイザーはコートの端でボールに念を込め小さく息を吸う。その行動はゴレイヌに疑問を抱かせた。

 

 ――パスか?

 

 それは一瞬、念を纏った禍々しいボールはゴレイヌをコートの外に弾き飛ばした。

 顔面は硬で守ったものの、脳の揺れと顔面の損傷によりゴレイヌは意識を失う。そのまま受け身すら取れずに地面に叩きつけられる。

 それを見たフィンクスはレイザーを称賛すると共に一つの確信を得る。

 

 ――こいつ放出系能力者か、フランクリンよりも強いな。

 

「ヒュー、いい球投げるじゃねェか! そういうことか」

 

 競技の相性でいえば攻撃は放出系で守備は強化系になる。

 念をボールに込め放つという作業、これが放出系能力者以外の者達に思わぬ不利な状態を発生させる。

 

 放出系ならオーラを球に100%乗せることができる。

 それに対し強化系は80%程度、6系統の正反対に位置する具現化系ともなると40%にも減少してしまう。

 

 “この強制デバフともいえる不平等な競技、これがドッジボールの実態である”

 

 さらにレイザーはこの競技の投球フォームも完璧に理解している。我流のフィンクスやフランクリンよりも圧倒的に速い球を出すことができる。

 地力がレイザーより勝っていない限り、一坪の海岸線は攻略不可能に設定されているのだ。

 

「――ほう、目で追えてはいるようだな。なら、死にはしないだろう」

 

 念系統で有利であるはずのレイザーの心には強い不安がつきまとっていた。

 

 嫌でも意識してしまうヘイトという存在。

 こちらの攻撃を見てもオーラすら纏わない不気味さ。酒場で見たボポボ達の死がレイザーに間違った思考を生ませる。

 

 ――可能性があるとすればカウンター型の念能力者か。最後に倒せばバックされる心配もない。

 

 ボールは外野の念獣により再びレイザーに戻される。

 

「言い忘れていたが、呪文(スペル)カードの使用は認められている。もちろん大天使の息吹を使うのもありだ。治したところでその男が使い物になるかはわからんがな」

 

 幻影旅団のメンバー達は念獣の真の意味を理解する。

 人間とは違い念獣なら破壊されても再び作り出せる。そして、硬でしか防げないであろうレイザーの攻撃は必然的にコートの外に出されてしまう。

 

 念獣のように捨て身でボールを残すのか。

 コート内に残されたメンバー達はレイザーからボールを奪う方法の模索する。

 

 フィンクスはヒソカに視線を送るとレイザーを挑発する。

 

「こいよ、てめーの球くらい楽に取ってやるよ!」

 

 挑発に乗ったかのようにボールはフィンクスを目掛けて向かってくる。

 フィンクスとヒソカによる共闘、狙いは伸縮自在の愛(バンジーガム)。その一瞬の衝撃を抑えるべくフィンクスは全集中をする。

 

 しかし、フィンクスの目の前で突如ボールの軌道が変わる。

 

 ――狙いはあたしか!

 

 瞬時に思考を切り替えるマチ。ボールを奪わなければ勝利はない。ならば避けずに試すしかない。

 

 ドンッ! 鈍い音と共に脇腹に衝撃が走る。

 マチは抱え込むような形でボールを抑えるが、脇腹に突き刺さったボールはマチをコートの外に押し出した。

 

「ごほッ、ごほッ……クソがッ!」

 

 口から血を滲ませるマチ。

 折れた骨が内臓を痛めたか、予想よりも遥に勝る威力。これでは外野に回っても捕球もままならない。

 

「さあ、次行くぞ!」

 

 空を切る球、外野の念獣を使った高速パス。

 次に狙われたのはノブナガ、しかし逃げ場のないコートという狭い空間がノブナガにとって有利に働く。

 ノブナガは目を閉じたまま小さく深呼吸をすると円で敵意あるボールを感じ取る。そこから放たれる精神統一からの一閃。

 

「――秘剣、星流れッ!」

 

 高速の居合術が生み出す一瞬の神業。

 ノブナガの鞘に納められていた念を纏った刀は流れ星のごとく一瞬の輝きを放つ。

 精密で濃密な周を纏った刀の一振りは相手のオーラに亀裂を作り押し広げるように圧し切る。

 

「ノブナガ選手、アウトです!!」

「すまねェ……」

 

 速球のボールを刀で真っ二つにしたノブナガ。しかし、身につけている物も体の一部であり当然アウトである。

 

「ボールが破損したため新しいものを用意します、しばらく待ちください。ボールの落下地点はヘイトチームの陣地内ですので、開始はヘイトチームからです!」

 

 しばしの休息――。

 外野に移動するノブナガは落ち込むどころか笑顔で座り込んでいるマチの横に座る。

 

「かっかっか! 役に立たない者同士、後は見守ろうじゃねェか!」

「嫌味のつもり?」

 

 ノブナガの貢献に対し不貞腐れるマチ。

 小言を覚悟したがそれはなかった。それどころか哀愁漂うノブナガはコート内の仲間達を見つめながら思いにふける。

 

「マチよ、運命は変わってたと思うか?」

 

 運命ではなく過去、過去が変わることは絶対にない。

 ノブナガの言いたいことは分かるが、マチは非力さに悩む仲間を突き放す。

 

「さあ、知らないね」

「シャルにパク、ウボォーだってそうだ。オレの知らねェとこで皆いなくなっちまう。思っちまうんだ、オレがその場にいたら変わってたかもしれねェってな。お前だってそうじゃねェのか?」

「くだらないね」

 

 ヘイトを知らない幸せ者をマチは鼻で笑う。

 団長やヒソカ、コルトピを見れば分かるだろう。信念すら捻じ曲げられる。

 

「団長が言ってたよ、蜘蛛とシャルの命を天秤に掛けられたってね。あいつにとってあたし達はその程度でしかないんだよ、何も変わらないさ」

 

 蜘蛛は頭と複数の足を失った。

 残りが抜け落ちるのも時間の問題かもしれない。所詮は大蜘蛛であるクート盗賊団の真似事、蜘蛛が死に残るのはただの幻影旅団。

 

 ノブナガとマチの視線に映るヘイト。

 

「気さくな兄ちゃんにしか見えねェがな」

「そう? あたしには化け物にしか見えないけどね」

 

 僅かな沈黙。審判である念獣が新しいボールを用意し戻ってくる。

 

「直に終わるな」

 

 ノブナガは勝利後の報酬に触れる。

 

「――パク、たぶんだが消えてるぜ?」

 

 ノブナガの問いにマチが表情を変えることはない。分かっていたかのようにマチは小さく呟く。

 

「だろうね」

 

 パクノダを知っている初期メンバー達なら覚悟はしているだろう。この報酬が無意味なことに――。

 

「団長の記憶を消せたってことは、自分の記憶も当然消せるだろうからな。そんなパクに会ってどうすんだよ?」

「1発ブン殴る、それだけだよ」

「嫉妬かよ、まあ気持ちは分かるけどよ。別にパクだって能力を隠してたわけじゃねェだろ?」

 

 記憶を読み取り記憶を消す。

 全てがクロロのために生まれた念能力。パクノダの一途な思いであり一言でいえば愛だろう。

 その一部である記憶を解く念能力()は団長が持っている。それがマチの怒りの根源なのだ。

 

「もう餓鬼じゃないんだ、それくらい分かってるよ」

 

 念の気持ちに偽りはない。

 パクノダがクロロを完全に見限っていたのなら念能力は渡す前に消滅しているはず。それが残っているということはパクノダも心のどこかでクロロのことを待っているということ。

 それに団長も気付いているはずなのだ。つまり、これはクロロとパクノダの茶番劇でしかない。

 

「どうせ、クロロはパクを迎えに行くからね」

「それなら、団長と一緒に鎖野郎の緋の目集めを手伝えばよかったんじゃねェのか?」

「やだね、あんな腑抜け」

「腑抜けってな……団長の話じゃ、緋の目はシュウエイ国が生み出した遺産で、蜘蛛が動くには十分な理由だろ?」

 

 幻影旅団に鎖野郎の脅威はない。

 団長が鎖野郎に掛けた呪いの言葉、ヘイトによって生み出された団長の消えることのない意思。

 

 “蜘蛛は死んだ”

 

 クラピカの導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)という嘘を見抜けてしまう念能力。その一言でクラピカは復讐を終えたのだ。

 

「――ッ!?」

 

 ノブナガとマチの会話は自分達の意思とは別に終わりを向かえる。

 気づけば本能がノブナガとマチをコートから退けていた――。




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