旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第三十話 復讐者

 時を刻む音すら聞こえてきそうな静寂の空間。

 そこに現れた黒いオーラを纏った怪物。この場の誰もがその怪物をじっと見つめている。

 

「脱帽だな」

 

 レイザーはゆっくりと呼吸を整える。

 生まれ持っての本能か、気づけばレイザーはコートの外に立っていた。

 無意識による体力の激しい消耗、体中から極度の緊張による汗が噴き出すと審判である念獣の声が響く。

 

「レイザー選手、守備中によるオーバーラインによりアウトです!」

 

 反射とはいえ無益な反則行為にレイザーは唇を嚙みしめる。

 僅かに残る幸運としては自動操作型の念獣に救われたことか。操作型の念獣ならゲームは終わっていた。

 

「――バック!!」

「レーザー選手バックを宣言!! 内野へ残留です!!」

 

 反則行為を犯したのはレイザーだけではなかった。

 

「ヒソカ選手、フェイタン選手、フィンクス選手のオーバーラインにより、リスタートはレイザーチームからです!!」

 

 聞こえてくるヘイトの小さなため息。レイザーは生まれて初めて敵に対し同情をする。

 怪物の邪魔をした幻影旅団の背筋は凍り、強い劣等感が襲う。

 悪意のない妨害行為を犯した三人の足は動かない。そんな3人に助け船を出したのは以外にもヘイトだった。

 

「ああ、そっか」

 

 人間にとってはこれが普通の反応。

 オーラの乱れ、萎縮してしまっては邪魔になるだけ。タイムを取るヘイトは審判に質問をする。

 

「内野選手が自分の意思で外野に移動するのはアリですか?」

「ルール上は問題ありません……が、もう内野に戻れませんよ?」

「だそうですよ、皆さん。後は自分がやりますので」

 

 ヘイトによる戦力外通告はレイザーにとっては有難い申し出、1人だけならバックされることもないのだ。

 

 状況は変わりヘイトを倒せば終わりという図。

 レイザーはヘイトをじっと見据える。異質な凶々しいオーラは不吉な未来を暗示させ、ジンの死を可能性から確信へと変えさせる。

 

「ヘイト、ジンは強かったか?」

 

 レイザーの目に宿る強い意思。ヘイトの表情に初めて変化が現れる。

 

「ジン=フリークスですか? 強いというよりは面白い人でしたよ、復讐をしにきた自分を仲間にしようとしてましたから」

「あいつらしいな」

 

 レイザーは微笑む。

 ジンは望まないだろうが、人として生かされた恩くらいは返さなければならない。

 

 これはジンの敵討ち。

 仲間を思う感情が憎しみを生み復讐という負の連鎖を作り出す。だがそれが人というもの、許すなんてのは聖人にでもやらせておけばいい。

 

「さあ、終わりにしようか」

 

 レイザーの復讐が始まる。

 コートの念獣が消え分散していたオーラが元の体に戻る。そしてレイザーは一つの禁忌なるカードを取り出す。

 

「まさかコレを使うことになるとはな。ゲイン!!」

 

 レイザーの手には液体の入った小さな瓶、それは――。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 製作途中のグリードアイランド、それは11人の仲間達の思いで作られていた。しかし、その思いも強ければ強いほど衝突も起きるわけで――。

 

 仲間のRであるリストとDであるドゥーンが1つのアイテムについて議論をしていた。

 それは相互協力型(ジョイントタイプ)の念についての探求心。

 

「ドゥーンさん、さすがに危険すぎませんか?」

「しょうがねェだろ!! あいつが作れっていったんだぞ!?」

 

 そこに現れるジン=フリークス、自己中で破天荒である責任者。

 グリードアイランドは完成間近だというのにジンの思いつきで遠のく。その好奇心により制作期間も四年目である。

 

「アイテムはできたのか?」

「ええ、ジンさん。ですが皆さんの承認は得られないと思いますよ?」

 

 リストは液体の入った小さな瓶を提示するとジンはそれを受け取り眺める。

 傍から見れば危険薬、最高責任者であるジンに言われれば作らざるを得ない。

 

 ガサツなドゥーンですら気持ちはリストと同じ。

 

「イータとエレナは絶対に認めないぜ? 当然、俺とリストも反対だからな!」

 

 アイテムの承認は11人の多数決によって決められる。リストは分かっていながらもジンに指摘をする。

 

「神秘の秘薬、このアイテムは性能を考えればSSランクのアイテムにはなるでしょう。ですがジンさん、プレイヤーの寿命を強制的に奪うのはよくないと思いますよ?」

 

 楽しければそれで良いと言わんばかりにジンはリストとドゥーンの票を取りに行く。

 

「寿命なんてゲームをプレイした時点で奪ってるようなもんだろ。それに俺達のグリードアイランドに命を懸けてくれるなら、制作者としてこれほど嬉しいことはねェだろ?」

 

 前提あっての理屈。ボサボサ頭を掻きながらドゥーンはジンの目を見て話す。

 

「ゴンが成長するまでクリアされたくないのが本音だろ? ったく、ゲームの延命なんて考えればいくらでもあるだろうが」

 

 ドゥーンの指摘にジンはそっぽを向く。リストは笑いながら意見を伝える。

 

「僕もドゥーンさんに同意ですね。例えばですが――そう、多人数参加型の仲間割れイベントとかはどうでしょうか?」

「そうそう、シンプルなのでいいんだよなッ! もうアイテム制作は十分だぜ、なあリスト。こんなんじゃ、グリードアイランドがいつまでたっても完成しない、しない」

 

 面白いアイテムからイベントを考える、それがジンという男。

 しかし、それだけではジンが楽しいだけでゲームはすぐに飽きられてしまう。最高のゲームにするためにはバランスというものが大切なのだ。

 

 ジンは不貞腐れた様子でこの場を去っていく。

 

「ジンの野郎、他の票を取りに行ったな。リスト、このアイテムは採用されると思うか?」

「まず無理でしょうね、イックションペさんもバランスの崩れるアイテムは嫌いますから。賛成派はシーラとレイザーがいいとこじゃないでしょうか」

「まあ、そんなところだよな。またジンが変な考え起こす前にさっさとイベントを作っちまおうぜ!」

 

 ドゥーンは思い出したかのように手をトンと叩く。

 

「そうそう、ちょうど良い場所があんだよ! 朝、ションベンしてたらたまたま見つけてよ。昇る朝日に輝く水面、さらに綺麗な海岸線と来たもんだ! 聞いただけでもイベントにはもってこいの場所だろ? あそこなら皆も賛成してくれるとおもうぜ!!」

「ドゥーンさん、女性陣もいるのですから発言には気をつけてくださいね?」

 

 ジンの向かった場所、それはレイザーの所だった。

 

「どうした、ジン。俺が逃げないか監視に来たのか?」

「冗談を言えるくらいには元気になったみてーだな」

 

 ジンは笑いながら小さな瓶をレイザーに渡す。

 

「また新しいアイテムか。お前も好きだな、わざわざに聞きに来なくたって俺は賛成してやる。雇い主はお前だからな」

「レイザー、一度負けたくらいで拗ねるなよ。油断したお前が悪い」

 

 イベント採用予定の競技に負けたレイザー。

 練習中とはいえ放出系で有利な競技で負けた悔しさは忘れることはない。そう感じられるのもジンのおかげなのだが――。

 死刑が確定した死刑囚、そんな自分を人として信じてくれた恩人。雇われていなければ罪の意識すらなく死んでいた。

 

 レイザーにとって人としていられる僅かな時間――。

 

「ジン、これはどういうアイテムなんだ?」

「飲んだ者に制約を刻ませる薬だ。寿命と引き換えにオーラを増大させる」

「半強制型の操作薬か。まさか――ゴン相手にこれを使えってのか!?」

 

 レイザーはジンの恐ろしさを改めて思い知る、しかし――。

 

「ちげーよ、馬鹿かッ!? これは保険だ、使わないに越したことはないがな」

「親心に毒されたか。お前から保険なんて言葉がでるとはな、怖いもの知らずだと思ってたぜ?」

「怖いもの、か。レイザー、世界は広いんだぜ?」

 

 保険の意味は不明だがレイザーが追求することはない。自身の役目はゴンを待ち成長を見届けること、それだけだ。 

 

「この薬を最大限に生かせるのは強化系か放出系、だからお前に渡しておく。頼りにしてるぜ、レイザー!!」

 

 

☆★☆★☆

 

 

 レイザーはGM(ゲームマスター)にだけ許された液体を飲み干す。

 これも一つの相互協力型(ジョイントタイプ)、刻まれた制約がレイザーの魂を燃え上がらせる。

 

「……くくく、久々にいい感じだぜ!!」

 

 レイザーに残された時間が加速する。

 ヘイトが闇の怪物であるなら今のレイザーは光の怪物。限界(リミッター)解除された肉体から溢れ出る生命エネルギーがレイザーを一段と輝かせる。

 

「――もっと、威力を!! もっとだ!!!」

 

 レイザーは輝くオーラを全てボールに込める。もはやボールは単なる飾りで強大な輝く球体が出来上がる。

 

 レイザーは作り上げたオーラの塊を上空に投げる。

 それはまさにバレーのスパイク、レイザーは全力でオーラの球体を弾くと強大なオーラが一瞬の閃光となりヘイトを襲う。

 

「ヘイト、ここに逃げ場なんてないぜ?」

 

 光と闇の激突。衝撃でコートは陥没し辺りは砂煙が舞い上がる。

 

「――これでゲームは終わりだ」

 

 復讐を終えた達成感、得るものはなにもない。

 勝利の余韻に浸る間もなくレイザーの体に異変が起こる。薬の効果が切れたことによる副作用、激しい動悸と悲鳴をあげる肉体。

 

 レイザーはそのまま崩れ落ち膝をつく。

 弱った体に追い打ちをかけるように何かが体を伝う。呼吸ができなくなり全身が締め付けられる。

 

「ば、馬鹿な!」

 

 何かがある。レイザーの目に映るのはあるはずのないもの。

 砂煙が消え破壊した場所から現れた黒い手、その手はしっかりとボールを掴んでいる。

 

「まさか――死後強まる念か!?」

 

 光があれば闇もある。

 相互協力型(ジョイントタイプ)とは違った未知の可能性を秘めた死念。相互協力という光を追い求めるジン達がいたように闇を追求した存在がいた。

 

 僅か十二歳で人間をやめることになったヘイトである。

 闇に溺れ厄災と共に愛のある部屋(パンドラボックス)で実験を繰り返す。そこで得た知識は厄災であるアイを成長させた。

 

 “人間は肉体を再生し維持をするのだろうか”

 

 肉体を持たないアイにとっては理解することは難しい。

 そのため、おねだりするときは必ず人体の一部。その魂の箱は不思議と欲望に満ち溢れていた。

 魂という生命エネルギーがあるのに他人の意思が入る(肉体)は必要なのだろうか。

 

 そしてアイはまた一つ成長する――。

 

「レイザーさん、今度はこちらの攻撃ですね」

 

 黒い霧が集まるとヘイトの肉体は復元される。

 死後の念で創られた肉体。不気味に笑う死神はボールに黒いオーラを込めていく。

 既にコートは壊滅状態だがルールに違反はない。ここにいる誰もが死刑を待ちだけの囚人を見守る。

 

 もはやレイザーにヘイトを見る気力すら残っていなかった。

 

 ――死んだとしても残りの仲間がゲームを維持してくれるだろう。

 

 レイザーは最後の気力を振り絞る。罪の意識、そして仲間達に感謝を……。

 

「俺を人として――」

 

 レイザーの遺言を遮るように死神の鎌は振り下ろす。その輝く魂は天に昇ることなく愛憎の棺に飲み込まれる。

 




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