旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第三十二話 傭兵

 とある駅前にあるディックサクラ。

 鋭い目をした銀髪の少年は一つのカードを女性店員に提示する。

 

「お客様、こちらへどうぞ!」

 

 銀髪の少年にとって二度目となるハンター試験である。

 己の欲を捨て修行に全てを注ぎ込んだ。天性である暗殺に磨きをかけ、再び強い後悔と共に挑戦する。

 

 驕りや傲慢といった子供の背伸び、一年前に気付けていれば友達が死ぬことはなかった。

 

「へー、ここが今年の会場ね」

 

 試験会場であるビースカフマロ。

 エレベーターは長い時間をかけ目的の場所に到達する。扉が開くと共に受験者達の多くの視線がキルアに向けられる。

 

 キルアが感じ取ったのは参加者に紛れた念能力者。

 その質の違う視線にキルアは何食わぬ顔で参加者達を見て回る。

 

「トンパのおっさんでも探すか」

 

 目に映るカモフラージュが出来ていない念能力者達、一次試験に関わるハンター協会側の人間とみるべきか。

 

 ――こいつらはまだ警戒に値しないな。

 

 祖父ゼノに修行をつけてもらわなければ自分もその一人になっていただろう。

 

 キルアは祖父ゼノとの修行を思い出す――。

 

「注意すべきは、頭から立ち昇っているオーラと手の流れ。自然に垂れ流すことじゃな」

 

 ゼノは偽る技術をキルアに実践して見せる。

 基礎である纏に練、すなわち堅の修行をすればするほど難しくなる自然なオーラの放出。

 

 “念の習得者が未修得者のフリをする”

 

 この一言はキルアにとって目から鱗が落ちる思いだった。

 

「なら、ジイちゃん」

「どう見破るか、じゃろ? 一番分かりやすいのは相手の目、眼球周辺の揺らぎじゃな」

「揺らぎ……?」

「そうじゃ、隠による歪みのようなものじゃな」

 

 目に隠された蜃気楼のような歪み。キルアは眉間に皺を寄せるもゼノの偽りは見抜けない。

 

「見つめすぎじゃな。偽れたとしても、それではバレてしまうぞい」

 

 高度な観察眼、念を習得して初めて分かる格の違い。

 その中でも一番に愚かだった事はミルキに対する思いだろう。だが、それはゼノも同じだった――。

 

「今のミルキはワシよりも遥かに強い、あやつの伸びしろは恐ろしい程じゃ。才能に気付けなかったワシらもまだまだ未熟じゃな」

 

 ゼノの言葉にキルアが反論など出来るはずがない。

 馬鹿にしていた兄が祖父よりも強くなっている。あまりにも早すぎる成長をキルアは天空闘技場で見てしまったのだ。

 シルバから譲り受けた道着を着てヒソカを赤子のように弄ぶミルキを――。

 

 本来なら、それは期待されていたキルアの役目であり、宿ってしまった兄を超えたいという強い意思はキルアを苦しめる。

 

「組手の時間じゃな、好きに打ち込んできてええぞ」

 

 攻防の基礎である凝と攻防力の変化である流をキルアは全力で打ち込んでいく。

 

「良い動きじゃ、だが――」

 

 その場から一歩も動くことなくゼノは攻撃を受け流していく。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 キルアの体から大量の汗が流れ出る。

 スタミナが切れてからのオーラの底上げ、修行という名の地獄。

 ゼノは堅を確認してから攻撃を始めると少しずつ速度を上げていく。

 

 ――残りは3分かのォ。

 

 ゼノに対する攻防比の計算、キルアの乱れる息は修行の濃密さを物語る。

 

「キル、これで最後じゃ」

 

 集中するゼノは孫を信じて最後の一撃を放つ。

 ゆっくりと動くゼノの拳は制限時間の全て使った最後の一撃。そのあまりにも遅い正拳突きにキルアの意識は途絶える。

 

 知っている夢――。

 

“ねェ君、年いくつ?”

“もうすぐ12歳!”

 

 闇には強い光――。

 

“同い年……ね。オレ、キルア”

“オレはゴン!”

 

 何度見れば許されるのだろうか。

 キルアはベッドで目を覚ます。そのすぐ横ではにやけたアルカが寝ている。

 

「アルカ、起きてるんだろ?」

 

 キルアは優しくアルカの頭を撫でる。

 

「えへへ! 寝てるよー!」

「そっか、ならこれはお兄ちゃんの独り言だ。誰にも負けないくらい強くなるから――」

 

 大切なものを失うのはもう嫌だ。

 キルアは何百回と見返したビデオを取り出す。それはミルキとヒソカの試合、時間にして数分の攻防。

 

「クソッ、何が起きてるんだ!」

 

 ミルキの蹴りによる瞬間、再生しては同じところで停止をかける。

 

「間違いなくオーラは全身を纏っている」

 

 これは明らかな堅であり硬のような破壊力はない。凝での攻防力は間違いなくヒソカの方が上回っている。

 ミルキの合金靴を考慮しても過剰な威力で、矛盾するヒソカの手が弾け飛ぶ結果。

 

 同じ事がゼノとの組手で起きたのだ――。

 

「正拳突きはジイちゃんの戦闘スタイルじゃない。何か意味があるはずだ」

 

 キルアは画面に映るミルキのオーラを直視する。

 隠による歪みは一切ない、だがこれしか考えられないのだ。

 

 正解を求めキルアはゼノの元に向かう。修行のためではない、さらなる成長のために……。

 

「ジイちゃん、ミルキの攻撃は隠による偽りだと思う。それもありえない程の精度で」

「――ふむ、気付いたようじゃな。だが、実践なら死んでおるのォ」

 

 ゼノの一言は今のキルアにとって何よりも重い言葉。

 ヒソカがそうだったように気付いてからでは遅い。考えてみれば修行は隠に始まり隠で終わっている。

 

「キルよ、ベストの状態で堅はどのくらい維持ができる?」

「今は30分……かな」

「戦闘を想定すれば半分の15分といったところかのォ。さらにミルと同じ事をすればどのくらいになるのか……試してみるといいじゃろ」

 

 ゼノに言われたことをキルアは実践する。

 それはミルキの秘密である念の技術、纏と練の応用技である堅の一部を隠で隠す。

 

「――不可能だ、一秒すら持たないぞ!?」

 

 実践して分かるその技術の難しさ。

 発とは違い堅のオーラは感情のない生き物のようなもの。気を高める堅に対して気を静める隠、真逆の事を同時に行う高等技術。

 

「残念じゃがこれは才能、天性と言ってもいいのォ。実践となればワシでも無理じゃな」

 

 戦闘において命取りになりかねない纏、練、凝、隠の複合技術。何故にミルキは合理的ではない技術を身につけたのか。

 

「試合を見たが歪みすらない完璧な隠じゃ。孫ながら恐ろしい……普通の者なら100年はかかるぞい」

 

 なにより、ゼノが戦慄したのはミルキの最後の一撃である感謝の正拳突きである。

 

 纏、練、凝、隠だけならまだしも、ミルキは纏、絶、練、発、凝の全てを複合した硬にも同じ技術を使ったのだ。

 

「オーラの確認できない瞬撃はもはや武人の極致。刹那の戦いでアレを使われたら防ぐことはまず不可能じゃな。最高峰の技術、ゾルディック暗殺術“隠殺”とでも呼ぶべきか」

 

 憧れて当然。そんな者を追うとなれば一人くらいは味方になってやるべきだろう。

 

「キル、ハンター試験は受けるんじゃろ?」

 

 ゼノの言葉はキルアを奮起させる。

 念を身につけたのだから念による精神破壊の心配はない。キルアの修行の意気込みを見てれば分かる。しっかりと線引きはできている。

 

 あとは本人次第と、ゼノはキルアの頭を優しく撫でると共にイルミの針を抜く――。

 

 

 人混みの中でキルアの足が本能的に止まる。

 長い耳と長い髪、服装は黒いブーツと戦闘服。それを見たキルアの心拍数が跳ね上がる。

 

 暗殺者とは違う殺し屋、戦争屋と呼ばれる傭兵ミュヘル。

 ハンター試験に何故傭兵がいるのか。ハンター協会に雇われたのか、それともハンターライセンスが目的か。どちらにせよ危険人物に変わりはない。

 

「よォ、ゾルディックの落ちこぼれじゃねーか」

 

 キルアの心情は怒りよりも焦りだった。

 考えればいくらでも思い当たる。戦闘スタイルや技能、情報が知れ渡るくらいに表に出過ぎてしまっている。

 

「傭兵のアンタが、なんで試験なんて受けてんの?」

 

 キルアは子供の特権を利用する。その純粋な質問にミュヘルが応じることはない。

 

「ざっと1500人ってとこか。ハンター試験の受験生ってのはこんなにも多いものなのか?」

 

 ミュヘルは力の差を示すように質問で返す。キルアは背中に流れる汗を感じながら噓なく質問に答える。

 

「去年は406人、今年は多いほうだね」

「そうか」

 

 ミュヘルは口に手を当て辺りを見渡すと愚痴をこぼし始める。

 読唇術の警戒か、それとも傭兵としての癖なのか。その動作の全てが一流に感じる。

 

 キルアの警戒とは裏腹にミュヘルは先程の質問に答える。

 

「こっちの目的はハンターの資格だ」

 

 信用を大切にする傭兵、情報は常に等価交換。

 借りは作らないと言わんばかりにミュヘルはキルアを見つめながら笑う。

 

「さっきは侮辱して悪かったな。ちょっと反応を確かめたかった」

「別に気にしてねーよ」

 

 態度をコロコロと変えるミュヘルにキルアは怒りの表情を僅かに見せる。

 

「詫びとして一つ良いことを教えてやろう。偽るならもっとうまくやらないとダメだ、感情とオーラの流れがチグハグすぎて不自然だぞ?」

 

 念能力者を見破る方法は一つではない。それを聞いたキルアはきょとんとした顔になる。

 

 感情によってオーラの流れは変化する。

 考えれば当然のことで、オーラを垂れ流すことに集中しすぎて頭が回っていなかった。

 

 キルアは実感する。自分には足りないものが多すぎると……。

 

「なあ、取引をしないか?」

 

 ミュヘルはキルアと交渉を始める。

 傭兵が得意とする信用を得てからの交渉術。障害となる試験が来るまでは互いに干渉しない。

 

「無駄な争いはしないってことね」

 

 ミュヘルの大人の対応にキルアは自身の幼稚さを思い知る。

 念能力者が自分だけだったら好き勝手に暴れていたかもしれない。

 

「そろそろ試験が始まるみたいだな」

「そうみたいだね」

 

 一次試験官により試験が始まる。

 試験内容は5人分の番号プレートを集めるというもの、試験の中でも最も簡単な選別である。

 

 取り引きをしていなければ真っ先に狙われていたかもしれない。それは仲間を守る相手も同じなのだろう。

 

 キルアは慎重の重要性を思い知る。

 

 




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