旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

34 / 69
第三十三話 資質

 ハンター試験の選別は試験官に一任されている。その試験官に必要とされるものは力よりも見極める力。

 

 一次試験官の男は腕時計を見つめる。

 

「昼飯まであと2時間……か。よし、その間に5人ぶっ倒せ!」

 

 一次試験により受験者は最低でも300人に絞られる。

 ハンターとして()は最低限必要で、それはハンター十か条にも書かれていること。

 しかし、それはプロハンターになってからのことで、参加者のほとんどが念を未修得である。

 念能力者と一般人、武の心得があろうとそこには越えられない絶対的な壁がある。

 

「あの馬鹿が試験官なのか?」

 

 ミュヘルは危機管理と意識の低さに唖然とする。

 この試験官は受験者達を観察することなく試験を始めたのだ。常に死と隣り合わせの傭兵だからこそ、人一倍に感じてしまうのかもしれない。

 

 “運が悪かった”にならないようにするのが上に立つ者の役目。

 

「真の敵は無能な味方とはよく言ったものだが……使い方次第ということか」

 

 この一次試験官はハンター協会副会長であるパリストンの推薦で選ばれた男。

 都合の良い駒でしかなく、この緩さが続くならハンターの資格は楽に取れるだろう。

 

「才あるものは狙うな」

 

 これは今年の試験官を“無能”にしてしまったミュヘルなりの情け。

 

 ミュヘルの掛け声で一斉に念能力者が番号プレートを求めて動き出す。一人一人が自身の役割を果たし、格下相手にも関わらず編成を崩すことなくプレートを集めていく。

 傭兵基準の判断にはなるが、僅か数分で精鋭部隊は必要最低限の番号プレートを集め終える。

 そんなミュヘル達に手を出す者がいるはずもなく、一次試験のゴールである非常口の扉が開かれる。

 

 精鋭部隊というものを目の当たりにしたキルアは奮起する。

 

「へー、かっけーじゃん!!」

 

 同じ殺し屋でも個と集団でこうも違うものなのか。

 互いに信頼し合える仲間だからこそできる一つの芸術。ならばと、負けず嫌いのキルアも個のできる芸術を披露する。

 

「これで5枚だな」

 

 戦争ならプレートではなく命のやり取り、そんなことを思いながら条件を満たしたキルアも非常口の扉を開ける。

 そこで待っていたのは、まさかの一次試験官の怒号だった。

 

「おいおい、連絡がないってなんだそりゃ。日時は決まっていただろがよォ、試験はとっくにもう始めちまったぞ!! ったく、意識低すぎんだろ。これだからルーキーは――」

 

 階段に座っている一次試験官は電話で愚痴をこぼしている。

 キルアは気にすることなく奪った5枚の番号プレートを提示すると一次試験官は階段に目線を向ける。

 

「へー、次はルーキーが試験官か。面白そうじゃん」

 

 去年の合格者の7名はキルアもハッキリと覚えている。

 真っ先に思い浮かんだのは友人であるクラピカとレオリオ。だが、この二人の可能性は薄いだろう。

 クラピカは幻影旅団の頭と和解してから緋の目を求めて世界を飛び回っている。医者志望のレオリオはキルアから見ても技量不足、とても試験官という柄ではない。

 

「まさか、ヒソカか?」 

 

 消去法という訳ではないが可能性として高い人物。去年は試験官ごっこをやっていた合格者で性格は狂人で気まぐれ。

 試験官の仕事をすっぽかす、ヒソカの性格を考えれば可能性は十分にある。

 その反面、ハンゾーは性格から遅れることはまずないだろうし、イルミにヘイトは素性を探れば採用はされない暗殺者。

 

「誰が来ても落ちる気はないけどね!」

 

 地上に着くとハンター協会の飛行船が用意されている。そこで待っていたのはミュヘルだった。

 

「血の匂いはなしか、てっきり皆殺しにでもするのかと思っていたんだがな。ゾルディック――噂と違い随分と優しいんだな」

「殺しは選ぶことにしてんだ」

 

 祖父を見習ってキルア自身が決めた一番の成長ともいえる。

 ミュヘルは缶ジュースをキルアに投げ渡す。一次試験の突破の祝いのつもりか。

 

「知らない奴からの貰い物だがお前にやるよ」

「ああ、あいつね」

 

 キルアとミュヘルはしばしの雑談をする。

 今思えばミュヘルが監視役で残りの念能力者達は囮だったのだろう。キルアと同じように念能力者の有無を確認していたというわけだ。

 

「修行はしてるようだが、この道を進んでどうするんだ?」

 

 気遣いや指摘をしてくれるミュヘルは悪いやつではないようで、次第にキルアの警戒心もなくなっていく。

 

「今後の事はライセンスを取ってから考えるよ」

「やることがないなら傭兵でもやってみるか? 才能あるやつは歓迎するぞ」

 

 まさかの傭兵の誘い。それはキルア自身も分からない心臓の高鳴りを感じさせる。

 

 想像のできない未来の進路。

 殺しが天職なのはキルア自身も認めている。そのように育てられてしまったのだから、今更もがいたところで変わることはないだろう。

 

「傭兵……ね、考えとくよ」

 

 ハンターになったところで求めるものはない。ただ友達(ゴン)と同じになりたかった、それだけだ。

 

「外は冷えるな、そろそろ中に入るか」

 

 ミュヘルとキルアは飛行船に向けて歩き出す。飛行船に乗り込むと一次試験の合格者以外の存在がいることに気付く。

 

 キルアを見つめていたのはボトバイ=ギガンテ。

 次第に集まる視線はキルアが念能力者だということがばれている証拠でもある。一言で表すなら動物のコスプレ集団か。

 

 ――何でオレしか見てないんだ。

 

 念に精通する者なら子供が念を使ったとしても驚きはないはず。参加の不自然さでいえば、傭兵であり念能力者であるミュヘル達だろう。

 

 その疑問はすぐに解ける。

 傭兵の全員が完璧なカモフラージュをしていたのだ。先程まで話していたミュヘルでさえも――。

 

 ――こいつ、囮にしたのか!

 

 誘いや指摘に嘘がないだけで利用はするということ。

 今年の試験は明らかにおかしい。試験の段取りもそうだがハンター協会で何かが起こっている。

 

 ハンターライセンスの便利さは知っている。価値は確かにあるが執着する程の物でもない。

 

「別に関係ねーや、考えたところで分からねーし」

 

 キルアは飛行船の窓から階段を上がってくる残りの合格者達を見つめる。

 

「相打ちを考えればもう少し減るだろうな」

 

 二時間程が経過し飛行船にアナウンスが流れる。

 

「一次試験がただいま終了しました。これより二次試験の会場に移動します」

 

 合格した者は信念、武器、知恵を持つ才能ある者。

 一次試験を突破できたのは234名で、軍人や傭兵、ハンター試験の経験者達と戦闘のスペシャリストが多い。

 違和感でいえばキルアも暗殺者としてそれに含まれるだろう。

 

「去年なら試練の連続だったはず――やけに長いな」

 

 移動が始まってからかなりの時間が経過している。

 三日は寝なくても問題のないキルアだが、既に2回目の朝日が昇り昼になろうとしている。

 

「一次試験官の焦りを考えれば二次試験官の時間稼ぎか。たしかルーキーって言ってたっけ」

 

 キルアの目に映るのは見慣れた景色、樹海に聳え立つ標高3000mは超えている巨大な山。

 

「へー、まるでククルーマウンテンじゃん」

 

 まさにククルーマウンテンだった。

 受験者の降り立った場所はククルーマウンテンの中腹、頂上まで行けばキルアの家である。

 

 ここはキルアにとっての庭でしかない。

 

「あの野郎、許さねェ!」

 

 こんな舐めたことをするやつは一人しかいない。

 姿を現した二次試験官に受験者達はどよめく。すごい寝ぐせとパジャマの姿、何故か裸足の男。

 

「……ヒッヒッヒ、今年は粒揃いでゲスね! このヘイト=オードブル、未知(アンノウン)ハンターのあっしが才能を見極めてさしあげやしょう! 未知、未知、るんるん!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべたヘイトは受験者達を見渡す。

 ヘイトが短時間で出来たことはククルーマウンテンの使用許可とキャラ作りだけだった。

 

「ヒッヒッ……ひぇ、キルア?」

「ひぇ、じゃねェよ。馬鹿が!」

 

 ヘイトとキルアの目が合い胸騒ぎと動悸が共存する。

 馬鹿をさらけ出している身内と晒される身内、互いに反応しない方が幸せになれただろう。

 

「えーと、ではさっそく二次試験始めましょうか」

 

 二次試験官のヘイトはあっさりと作ったキャラを捨てる。

 その見慣れたふざけた態度にキルアは安堵する。この生まれてくる安堵は二次の試験官がヒソカではないからか。

 

 身内には甘すぎる試験官――。

 

 ――いや、こいつは……。

 

 キルアの表情は豹変する。

 近すぎて気付かなかったのか、それとも気付けない程の異常な存在なのか。

 気付けたのは友人であるクラピカからの電話だった。

 

『蜘蛛は死んだ、嘘はないから安心してくれ。ゴンにはキルアから知らせてくれると助かる』

 

 クラピカの言葉にキルアの心音が跳ね上がる。

 

「わかった、オレから伝えとくよ」

 

 ハンターならおかしな事ではない。念を覚えた者でも死ぬ事はある。

 

 “ゴンは死んだ”

 

 何故かその一言がでない。

 キルア自身でさえも分からない。友人(クラピカ)に嘘を付く必要などないのに。

 

『それと……ヘイトにもお願いしたい。私の復讐を終わらせてくれたことに感謝していると』

「ヘイトに?」

 

 キルアの思考に疑念が生まれる。

 幻影旅団に拘束された時に団員の亡骸は見ている。殺しの残忍さは復讐に取りつかれた者によるものが一番しっくりくる。

 

 当初キルアはクラピカによるものだと思っていたがヒソカの発言がそれを否定した。

 

“クロロが災いに触れた”

 

 幻影旅団の会話にでてきた鎖野郎は間違いなくクラピカ、ではヒソカの言っていた団員二名を殺した“災い”とは誰なのか。

 

 キルアはクラピカから信じられない発言を聞く。

 

『蜘蛛の頭は既に心が折れていた』

 

 狂人達の心を折る、それがどれだけ難しいことなのか。

 ハンター試験で見せたゴンの生き様がまさにそれを物語っている。

 相手は死を恐れない危険度Aクラスの賞金首だ。

 その集団はゴンよりも鋼の意思を持っている。鋼の意思すら破壊する存在。

 

 キルアは二次試験で知ることになる。プロハンターとして必要な資質を……。




読んでくれてありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。