旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第四十話 師と弟子

 開拓されていない自然の地。プロハンターに依頼された生態調査により、数年で多くの新種生物が発見されている。

 半年前、このカキンの奥地でカイトが見つけたのは師ではなく息子のゴン=フリークスだった。

 

「カイト、次の修行はなにをするの?」

 

 カイトの指示をゴンは忠実に行う。

 互いに同じ目的を持つ二人が師弟関係を結ぶのに時間はかからなかった。

 

「――さすがはジンさんの息子だな」

 

 師から学んだことを一つ残らずゴンに伝える、カイトはそれが自身の役目であるかのように感じていた。

 ゴンの念に対する飲み込みの早さは、多くの念能力者を知るカイトからしても驚く程の才能を感じさせた。

 

「ゴン、次は纏、絶、練、発、凝を複合した硬をやってみろ!」

 

 念の鍛錬、それはカイトにとっても有意義な時間だった。

 

 “カイトの最終目標は師に認めてもらうこと”

 

 最終試験である“彼を探し当てる”ことが未だに出来ていない。その劣等感を忘れるには丁度良かったのである。

 

「ゴン、戻るぞ。今日の修行はここまでだ」

「わかったよ、カイト」

 

 ゴンとの生活はカイトの念に対する思いも変えていた。

 狩りを目的とした念が生態や新種生物を発見するためのものになっている。念は使い方次第であらゆる可能性を生み出す。

 

 巨木の上に作られた秘密基地ともいえる小さな空間で二人は食事をとる。

 

「お前に言われていた288期ハンター試験だが――」

 

 ゴンはごくりと唾を飲み込む。

 とある理由によりこの地から出ることができないゴン。そのため外の情報収集はカイトが担当している。これは2人で決めた役割分担である。

 

「キルア=ゾルディックはハンター試験に合格していたぞ」

「さすがキルアだ!」

 

 ゴンは拳を握りしめ素直な感情を表に出す。

 自分のせいで諦めてしまったかもしれないという友達の悩みは消えていく。

 

「よかった」

 

 幻影旅団に対する愚かな行動で別れることになってしまった友達。互いに干渉することも許されない。

 

「ゴン、相手がハンターライセンスを手に入れたとなると……今以上に慎重に動く必要がある。まあ、この場所なら見つかる可能性はほぼないと思うが――」

「分かってるよ、カイト。ハンターになれば他とも繋がりができるからね。たったの半年だけど、ここでの生活は苦じゃないよ。気付けたことも沢山あるし、自然での暮らしはクジラ島でも慣れてるから」

「クジラ島か、お前との出会いもそこだったな」

 

 カイトとゴンの出会いは四年前――。

 ジンの手がかりを探しにクジラ島を訪れていた時、巨獣であるキツネグマに襲われていた少年を見つけた。

 その念を知らなかった少年が今ではプロのハンター、時の流れとは一瞬である。時による心の変化はカイトが一番に感じていた。

 

「ジンさんの情報も手に入ったが聞きたいか?」

「えっ、ジンの!?」

 

 待ち望んだ者の目的ならば驚きは普通である。しかし、ゴンとは違いカイトの表情は曇っていた。

 

「どうやら会長選挙の運営として参加しているらしい。ハンター協会にいけば会えるが……」

 

 カイトの言葉はゴンの欲望を刺激する。

 キルアに生存が知られてしまう可能性とジンに会えるという心の天秤。

 

「ジンには会いたいけど、今じゃない気がするんだ」

 

 ゴンの予想外の返事にカイトが驚くことはなかった。

 

「カイトはジンに会ったの?」

「――いや、俺はまだジンさんには会っていない」

 

 カイトの返事の僅かな遅れには多くの積み上げた選択が詰まっていた。

 

 “見つける、ただそれだけ”

 

 カイトはその目的の為に数年間を全力で生きてきた。

 何度挫折しそうになったか、ハンターライセンスを破り捨てようとしたこともある。カイトにとって、この数年間は地獄であり苦悩でしかなかった。

 

 やる事、できる事は全てやったのだ。

 結果としてジンは見つからなかった。ハンターとしての才能はなかったのかもしれない。それでも出来ることはまだ残されている。

 

 不思議そうな顔をするゴンはカイトを黙って見つめ静かに呟く。

 

「そっか、カイトも悩む事があるんだね」

 

 ゴンは静かな目をした師の感情を読み間違えていた。カイトは既に悩み終えていたのだ。

 

「ああ、悩むことで生まれる道もある」

 

 ゴンを育て終えたらハンターをやめる。

 それがカイトの選択だった。カイトにとってゴンは都合の良い存在で自分を納得させるには十分な理由になる。

 

 最終目標であり喉から手が出るほど欲しかったジンという情報。しかし手に入れた時には高揚感もなく何も感じなかったのだ。

 全力で挑んだからこそなのか、カイトのハンターとしての心は燃え尽きていた。

 

「ゴン、ジンさんとは別に気になることが一つある」

 

 カイトは仕入れたもう一つの情報をゴンに伝える。

 

「ヘイト=オードブル、会長選挙の影響かもしれんが色々と噂が出始めているな。深入りはしない方がよさそうだ」

 

 カイトの深入りという言葉にゴンは拒否反応を示す。

 

「カイトは知らないんだよ。ヘイトさんはすごいんだから!」

 

 命の恩人という意味では同じなのだが、ゴンが最も興味のある念については全く違う。

 ゴンがここまで執着するのはオーラを全身に利用する強化系だからなのかもしれない。

 

「全力でヘイトさんと腕相撲したけど表情一つ変えることができなかった。傷はすぐ治しちゃうし、幻影旅団もやっつけちゃうんだ。すごいでしょ?」

「幻影旅団か、聞いたことくらいはある。たしかA級賞金首の集まりだったか……念の相性もあるだろうが、複数の念能力者を同時に相手にするというのは念の達人でも難しい。凄腕の連中とは聞いてはいるが、それよりも強いというのは興味が湧くな」

「キルアと同じ元暗殺者らしいけど……念は他の誰よりもすごいよ!」

「ほう、ヘイト=オードブルは暗殺者か……」

 

 カイトの眉間に皺が寄る。

 闇の者を調べるというのはプロハンターにとっても禁忌である。なぜなら闇との関りは永遠を意味するからだ。

 

 その切っ掛けを作ってしまった可能性がある。

 最高ランクA級以上の危険性をもつ元暗殺者、闇が光になることは絶対にない。

 

 ――危険なのはゾルディックよりもヘイト=オードブルか。

 

 カイトは善悪の区別がないゴンに忠告すべきか悩む。

 既に闇との関りがある者に忠告したところで意味はないのかもしれない。

 

「ヘイトさんに言われて自分の弱さも分かったし、念の鍛錬はこのまま続けたい。念のことだけをずっと考えられる今の時間はすごく大切な気がするんだ」

 

 天賦の才を持つゴンの欲望にも似た熱意、それはカイトから見ても異質なものに感じる。

 念に対する強い興味と高みを目指す向上心、これは尊敬よりも信仰に近いか。

 

「まるでジンさんのようだな。修行で俺の念は全て見せたつもりだが、それでもヘイト=オードブルに憧れるとは」

 

 嫉妬したところで意味はない。

 初めて持った弟子くらいには尊敬される人間でありたい。それが今のカイトの願いだった。

 その願いを無視するかのようにカイトの心に強い劣等感が襲う。反応、行動、理解、一流のハンターとして必要とされるその全てが遅かった。

 

「――何故、ここに」

 

 目の前にいるゴンの変貌、それも当然で目の前に現れたのはジン=フリークスだったからだ。

 

「元気だったか、カイト」

「ジンさん――」

 

 カイトは思わず息を呑む。

 心の底から溢れ出す多くの感情、話したいことは幾らでもあったはず……だが言葉が続かない。

 これはプロハンターをやめるという師に対する後ろめたさなのか。

 

「合格を言いに来たつもりだったが、心は折れちまったみたいだな」

 

 久しぶりにジンの優しい目を見たカイトはうっすらと涙が浮かべる。

 ジンならばオーラの流れで簡単に感情を読み取ることくらいはしてきそうである。

 

「カイト、まだオレを師だと思ってくれているなら一つだけ言っておく。お前のせいじゃない、全てはオレの甘さが原因だ」

 

 カイトが理解できないのも無理はない。ジンはヘイトに魂を喰われこの世にいなかったのだ。

 

「同じですよ、ジンさん。その甘さに辿り着けなかったのですから」

 

 カイトは存在しない人物をずっと探し続けていた。

 弟子の成長を見届けることのできなかった哀れな師、それがここにいるジン=フリークス。

 

「カイト、そっちの餓鬼はお前の弟子か?」

「――ゴンはあんたの息子だろッ!」

 

 目を見開くカイトは溢れ出ていた全ての感情が収まるのを感じる。

 澄み切った頭に疑心が過りカイトは全身にオーラを纏い戦闘態勢に入る。

 

「ゴン、注意しろ! こいつはジンの姿をした偽物かもしれん!!」

 

 カイトは発をする間もなく視界は暗転する。

 

「――くっ、なにが起きた!?」

 

 カイトは気付けば床に寝ていた。体にダメージはなく意識だけを刈り取られたのだろう。

 カイトの耳に聞えてくるのは笑い声で、薄っすらと開けた目に映ったのはゴンとジンが楽しそうに会話をしている姿だった。

 

「カイト、随分と腑抜けになったな。弟子の前で恥ずかしくないのかよ?」

「ジンさんの本気に勝てるほど成長はしてないですよ」

 

 嫌味の一つでも言いたいカイトだったがゴンの表情を見てやめる。それはゴンの初めて見る心の底から笑う姿だったからだ。

 恐らく今の自分もそうなのだろう。偽りやプライドを捨てて心の底から笑っている。ジンがいるから安心して笑えるのだ。

 

「カイト、大丈夫?」

 

 ゴンはカイトの僅かに赤く腫れた顎先を心配しながらも楽しそうに話す。

 

「ジンは過去の記憶がすっぽり無いみたいなんだ。ミトさんやクジラ島の事を話しても全然分からないし」

 

 カイトは記憶喪失という言葉に驚きの表情を浮かべる。

 

「ジンさん、適当な嘘ではなく本当に記憶喪失なんですか?」

「ああ、本当だ」

 

 師の強さを知っているカイトだからこそ信じることできなかった。ジンならば偶然起こりえる事故くらいなら余裕で回避は可能なはず。

 そんなジンが記憶を失うということは、一種の病か念能力の攻撃を受けた可能性が高い。

 もし念によるものだとしたら人物は限られる。ハンター協会の幹部、又はどこかの国の特殊部隊くらいか。

 

 ジンは記憶喪失という事実を気にすることなく会話を続ける。

 

「過去を振り返る性格じゃないが、息子を忘れるほど落ちぶれちゃいねェよ。息子も生ませた女も思い出せないってことは記憶が無いんだろうな。まあ、原因は分かっているから平気だ、恐らくオレの記憶が戻ることもない。ゴンが息子って言うならオレはこいつの言う事を信じる、それだけだ」

 

 カイトは追求したいという気持ちが溢れ出すも必死に抑え込む。ジンが話さないということはそれに触れてはいけないと言う事なのだろう。

 

「ゴン、お前がオレの息子なら忠告しておく。カイトにもだ、ヘイト=オードブルというハンターには絶対に近づくな」

 

 ジンの力強い真剣な目は、二人にまるで誓約のような感情を植え付ける。

 

「ジンさん、残念ですがゴンは既にヘイト=オードブルと関りがあります。条件付きですが命を握られています、ここにいるのもそのためです」

 

 ゴンは黙って頷くとジンにヘイトとの関係を伝える。

 

「5年の間、キルアに生存がばれないことがヘイトさんとの条件なんだ」

 

 ジンは息子の置かれている最悪の状況を理解する。

 キルアは288期ハンター試験に参加していたのでジンも少なからず情報を持っている。

 

「……キルア=ゾルディックか」

 

 ジンはヘイトの行動を考える。

 恐らくは相性、ゴンの性格を考えれば闇を生きるキルアの成長の邪魔になる。5年という期間は念に対する成長を見越した時間だろう。

 

「――5年か、となると生存率はほぼゼロに近いな。キルアが探索系の念能力者ではないとしても、弔いの気持ちが生まれた時点でアウトだな。死体のフェイクは作ったのか?」

 

 可能性、それに対する対策。

 思いつく限りのことはしておくべきだろう。だが、キルアから逃げるように去ったゴンにとって、出来る対策というのは限られてる。

 

「死体のフェイク……全然考えてなかった」

「フェイクの作れる念能力者を探してキルアを誘導させれば時間は稼げるかもな。ハンター協会にはロストハンターをやってるやつもいる、生死の判断なんてのは意外とすぐにバレちまうぞ?」

 

 ハンターの数だけ念能力は存在する。

 もしも見つかってしまったら……それはゴンも考えていたこと。そのための制約と誓約もカイトと相談して既に作ってある。

 

 ゴンはジンに向けて拳を力強く握りしめる。

 

「その時は戦うよ、全力で。クラピカに聞いたんだ、制約や誓約を使った命を削った方法でオーラを増大できるって」

「戦うだけ無駄だ。そんなものがあったところで未熟なお前じゃあいつには勝てねェよ」

 

 ヘイトの戦いを知っているジンだからこそ分かる。人間ではあいつには勝てない、出来ることは関わらないことくらいだ。

 

 納得のできない顔をするゴンにジンは何処か寂しそうな顔で静かに語り始める。

 

「レイザー、シーラ=ヒル、ボトバイ=ギガンテ……オレの仲間と呼べる3人もあいつに殺されている。念の扱いだけでいえばカイトよりも上の連中だ」

 

 ジンの言葉はゴンの浅はかな考えを打ち消すには十分だった。

 

「ヘイトを中心に世界は動きだしている、暗黒大陸という場所に向けてな。ヘイトの暗殺を狙った反対派の名のある部隊も聞いた話じゃ一つ残らず壊滅したらしい。各国も今じゃ報復を恐れて、さっさと暗黒大陸に送る事に力を入れている」

「……なるほど」

 

 カイトはヘイトに関する情報の意味を理解する。

 ほとんど無名だった人物に何故もあんなに二極化した情報が多くでていたのか。

 

 カイトの前で初めてジンは苦悩の表情を見せる。

 

「世界はあいつを恐れている、オレを含めてな。今やっている会長選挙も、各国が媚びを売るためにヘイトを無理やり会長にしようと圧力をかけて票を操作させてる。阻止するためか嫌がらせなのかは知らないが反対派のパリストンが頑張ってるみたいだがな」

 

 ジンの情報はゴンとカイトの想像を遥かに超えていた。

 国家レベルでの戦いは既に終わっており、ヘイト=オードブルには触れてはいけないという暗黙のルールが作られていたのだ。

 

「カイト、グリードアイランドはまだ持ってるか?」

「はい、貸金庫に預けてありますが――」

 

 カイトは直に理解する。

 グリードアイランドはこの世界から隔離された空間、逃げるという条件ならここよりも遥かに安全である。

 

「ゴン、お前はカイトと共にグリードアイランドに行け。クリアされて最低限の機能しか使えないが、シェルターとしての役割なら十分に果たしてくれるはずだ」

 

 カイトはシェルターという言葉がジンから出たことに驚く。

 それだけ暗黒大陸という言葉は重い。世界が滅びに向かっていることは容易に理解できた。

 




読んでくれてありがとうございます。
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