旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第四十一話 選挙

 第13代会長総選挙。

 前会長であるアイザック=ネテロが出した最低条件は2つで、プロハンター全員による投票と投票率が95%未満なら無効再選挙というもの。

 

 選挙対策委員である十二支んの協議によって新たに2つのルールが追加される。

 プロハンター全員が候補者かつ投票者。

 最高得票率が全ハンター協会員の過半数を得なかった場合に、上位16名で再度選挙を行い、決まらなければ順次人数を半分とする。

 つまりは全ハンター協会員706名の95%以上の投票率かつ、その中の50%以上の支持票を集めなければ会長にはなれないことになる。

 

 第13代会長総選挙の1回目の結果がビーンズによって発表される。

 

「2位はパリストン=ヒル、129票。そして1位はヘイト=オードブル、149票です。ですが、投票率が過半数共に超えなかったため無効再選挙となります」

 

 ハンター協会に緊張が走る。笑顔であるパリストンも例外ではなかった。

 

「おやおや、ヘイトさんが1位でしたか。ハンターとしての功績はあまりないはずですが……随分と支持はされているようですね」

 

 ヘイトの得票率に十二支んは表情を曇らせる。

 パリストンよりも多い得票率は新たな敵が一人増えたようなもの。想定外の流れに会長の座を狙うチードルは冷静に票を分析する。

 

 救いがあるとすればパリストンとヘイトの票を合わせても過半数には届いていないことか。得票率からして偶然に浮動票が集中したとも思えない。

 考えるべきはヘイト=オードブルが会長になることで誰が得をするのか、対立するパリストンではないことはたしか。

 

「この数字が本人達の意思による支持なら納得するしかないでしょうね→全員」

 

 ヘイト=オードブルのハンター歴はたったの1年で十二支んのような功績と呼ばれる星もない。

 名声だけで考えれば上位の誰よりも低い。だからこそトリプルハンターでもあるパリストンを超える得票率は異常なのだ。

 

「私達が直面している違和感、この功績に見合わない得票率は後に疑念を生みます→全員」

 

 ネテロから事前に知らされていた十二支んでさえヘイトを調査したのは最近である。

 ならば投票した者達は何処でヘイトの事を知ったのか。その情報源は何処から得たというのだろうか。

 

 信頼するビーンズですら疑わなければならない状況の中でゲルは首を振りため息をつく。

 

「完全に裏目ね、情報がなさすぎるわ」

 

 ヘイトに干渉すると決めた子、亥、丑の3人ならば何か知っているかもしれない。チードルは踏み込む覚悟を決めると狙いをミザイストムに絞る。

 

「選挙対策委員会として不正がないか徹底的に調べるべきでは?→全員」

 

 ミザイストムの弁護士としての信念を利用する。そのチードルの思惑は成功する。

 

「チードル、何を不正とするかは決めていないはずだが? ルールに従っている以上は選挙に何も問題はないはずだ」

 

 公平な判断をするミザイストムなら当然の反応。

 

「――そうね、ミザイストムが正しいわ。不正を指摘するなら、まずはルールを追加する以外に方法はない。恐らくルールがあったとしても証明は不可能だけど」

「チードル、お前はヘイトを不正にするためのルールを追加したいのか? それは腐った政治家達と変わらんぞ!」

 

 チードルはゲルにアイコンタクトを送る。チードルの視線を感じ取ったゲルはすぐに思惑を理解する。

 

「チードルもミザイも落ち着きなさい。それにしても、最も嫌っていたあなたが肩を持つなんてどうしたのかしら……もしかして票のようにあなたも操作されてしまったの?」

 

 ゲルはより情報の絞り込む。操作なのか支持なのか、ヘイトの票の本質を探る。

 

「あまりにも馬鹿げているな。ゲル、お前は協会内の念操作を疑うのか? 少なくとも投票時には十二支んが最低3人は同席している。仮に念による操作だとして、そいつは選挙が終わるまで100人以上のプロハンターを操作し続けることになる。果たしてそれが可能だと思うか?」

「まあ、無理でしょうね」

 

 ミザイストムの言う通りで念能力による可能性は少ないだろう。だが、そうでもしなければ得られないヘイトの票。

 

「ヘイト=オードブルに会長を継ぐ意思はあるのかしら」

 

 ゲルの純粋な疑問。

 ヘイトがハンター協会の派閥や内部事情を知っているとは思えない。そもそも前会長であるアイザック=ネテロと繋がりがあるのなら利用すればいいだけである。

 

 この問題の確信を突いたのは十二支んでヘイトに最も近いジンだった。

 

「ミザイ、各国とのパイプがあるお前なら調べ終えてるんじゃないのか?」

 

 心当たりのあるミザイストムはジンを見つめると深いため息をつく。

 

「ここ最近の話だが、ヘイトの暗殺を狙った国が幾つかあったようだ。そのせいかはしらないが、各国の名だたる特殊部隊が解散したらしい」

 

 暗黒大陸を恐れた大国の厄災を知るが故の行動。

 十二支んの頭に浮かぶのは暗黒大陸という無限の可能性。危険因子を刺激する無知な国の多さにジンも呆れた表情を見せる。

 

「……解散じゃなくて全滅だろ?」

「否定はしない」

「要するに、大国の連中は利権から狙いをハンター協会に変えたってことだろ? ヘイトが会長になったらハンター協会は終わりってことだな」

 

 理解の追いついていないカンザイは思わずジンに聞き返す。

 

「ジン、なんでハンター協会が終わるんだ?」

 

 カンザイに対してチードルは分かるように補足をする。外部の票操作によって生まれる新たな問題。

 

「それはハンターライセンスの恩恵を考えれば分かるはずよ。他国の意思で会長が選ばれたとなればハンター協会は間違いなく信用を失う。中立であるはずのハンター協会は立場がなくなるってことよ→寅」

「なるほど、そういうことか!」

 

 チードルは問題の多さを理解し気持ちを切り替える。

 

「だけど過半数にはまだ達していない。選挙が長引けば不利になるのはハンター協会なのは確かね→全員」

 

 今回の無効選挙で票の流れを確認できたのは救いである。

 しかし、十二支んそれぞれの選挙をクリアするための条件は厳しくなっていく。場合によっては犠牲者がでる可能性も……。

 

 十二支んはこれからの選挙での戦い方を思案する。その中で意見の述べたのはパリストンだった。

 

「皆さん、僕に票を集めてくれませんか? 皆さんの少ない支持票でも集めればヘイト=オードブルに勝てるはずです!」

 

 会議室は殺気で包まれると多くの罵声がパリストンに向けられる。

 十二支んの支持票をパリストンに集めればヘイトに勝つことは可能だろう。ただしそれはパリストンだけの話であって、問題はパリストン以外の十二支ん達なのだ。

 ヘイトを除外し、さらにはパリストンという男を会長にしないための方法を考えなければならない。

 

「ハンター協会が崩れるよりはマシな提案だな」

 

 十二支んにも例外はいる。

 ジンは他人ごとのようにパリストンに賛同をする。その発言に誰よりも怒りの表情を見せたのはチードルだった。

 

「ふざけないで! 少なくともあなた以外の皆は、絶対にパリストンにだけは入れないわ!!!」

 

 チードルの怒りに驚く者はいない。

 ジン以外の十二支んにはパリストンに対して思うことは多くあり、ミザイストムも思いたったかのように静かに呟く。

 

「18人だ。パリストン、この数がなんの数か分かるか?」

 

 パリストンは考える素振りを見せるも答えることはない。

 それを分っていたかのようにミザイストムはパリストンの闇に切り込む。

 

「3年間、お前が副会長になってからの消息不明のハンターの数だ。それまでの年の平均人数の10倍以上だ!」

 

 電脳ネットに膨大な情報を持つハンターサイトが存在するのはハンターが常に命懸けであるからこそ。

 現状把握を怠らないハンターにとって、消息不明というのは変死よりも異常なことなのである。

 

「不幸な数だね、胸が痛むよ」

 

 パリストンの冷たい視線はミザイストムに向けられる。しかしミザイストムがパリストンを見つめることはなかった。

 

 なぜなら、それ以上のものを知ってしまったから――。

 

「――それよりも異常なのはヘイト=オードブルだ。たったの半年、今年のハンター試験の受験者達を含め、俺が知るだけであいつは罪に問われない方法で300人以上は殺している。俺は必ずあいつに罪を償わせる」

 

 子と亥以外の十二支んはミザイストムに反応することはない。アイザック=ネテロに任せると決めた以上は何もすることができないのだ。

 

 時は流れ、運命の選挙は第2回、第3回と無効選挙がただ繰り返される。

 

 十二支んは選挙におけるルールの追加の検討を始める。

 まずは選挙を成立させることが最優先、ある程度の票固めはできたが残された時間はない。

 

 チードルは率先して意見を述べる。

 

「意図的な棄権と無効の対策をしましょう。既にヘイト=オードブルの得票率は200票を超えています、250票がデットラインでしょうね」

 

 パリストンの支持票はヘイトに及ばずとも未だに2位をキープしている。現状、その支持票を操作すれば無効選挙を繰り返すことは可能なのである。

 

 ――損得だけで考えればパリストンは動く必要がない。

 

 チードルは打開策を見出だせずにいた。

 選挙が長引けば副会長のパリストンが会長代行として役目を続けることになる。パリストンにとっては勝たなくてもいい選挙でもあるのだ。

 問題はパリストンがこの提案に乗ってくるか。そんなパリストンだが棄権と無効の対策を自ら提案する。

 

「1、意図的な無効票を無くすためビーンズさんに投票直前の用紙を確認してもらう事。2、棄権と無効の両方を違反した者のハンター証を一定期間没収する事。ボクはこの2点を提案します!」

 

 パリストンは個人の信用を天秤に掛ける。

 プロハンターを名乗る者としては、これが一番の有効な方法であるのは間違いない。チードルはパリストンの提案に納得しつつも起こりえる問題を指摘する。

 

「証を没収された者は期間中プロハンターとは認めないとか、そんな馬鹿な理屈は……まさかないわよね?→子」

「当然ですよ! そんな小狡い理屈で票を操作しようなんて思ってないですよ、没収はただの没収です。それを認めてしまったらヘイトさんがすぐにでも会長になってしまいますからね。紛失も同様に投票の権利は失わないようにしましょう!」

 

 これでチードルが残された時間でやることは限られる。

 ヘイトとパリストンの合わせた得票率が50%を超える前に残りの票を全てまとめ上げる。

 

 プロハンターの半分も動かせないで何が会長か、チードルは自分にそう言い聞かす。

 




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