季節は三月の下旬、第13代会長総選挙の4回目。
長引く選挙を終わらせるべく、数名を除いたプロハンター達の全てがハンター協会ビルに招集される。
これは選挙対策委員会である十二支んが決めた会長を確実に決める方法である。
「これより13代会長が決定いたしますまで~!! この会場に残っていただきます~!!」
会場でざわめくプロハンター達に進行役である卯のピヨンは忠告をする。
その発言に焦る者は一人もいない。
仮設トイレに食事の手配、この会場にはパソコン等のあらゆる必需品が用意されている。
前回の失敗を生かし、十二支んが念入りに調整したためである。
3回目の総選挙から既に1か月は経っている。見えない操作票によってヘイトが有利になる期間だったが――。
「第13代会長総選挙ですが、前回の投票で投票率が95%を超えました!! よって、次回の第5回選挙は上位16名による選挙となりますので十分に御注意下さい!!」
会場の電子パネルに映し出されたビーンズは投票数の多い者から順に読み上げていく。
「――以上が16名になります。当サイトに演説動画もございますので、併せて御覧いただき投票の参考にして下さい!!」
チードルは会長が決まらなかったことに安堵する。
得票率1位のヘイトに対して、短期決戦を望まなかった十二支んの思惑通りに事は進む。
「この1か月という期間は無駄ではなかったようね」
十二支んが行ったのは他国の操作票を炙り出しである。
関係していた者のほとんどは、仕事の保証と地位を貰うがための行動。圧力で動く不純な意思など、星持ちの十二支んからすれば更生は容易い。
チードルはヘイトの票が大幅に減ったことに安心しつつも、パリストンの票が想像よりも増えていないことに気付く。
――パリストンが私達に協力するはずね。ヘイト=オードブルが持っていた操作票はパリストンが持つべき票だったってことか……ここからが本当の勝負ね。
監禁という対策により投票率は95%以上が維持され、選挙は会長が決まらないまま上位4名に絞られる。
1位パリストン=ヒル、2位チードル=ヨークシャー、3位テラデイン=ニュートラル、4位ヘイト=オードブル。
真の得票率を見たチードルは会長になるための思考を巡らせる。
――4位のヘイト=オードブルは問題ない。これまでの票の対比からして、パリストンの操作票によって生かされているだけ。2人の票を合わせても過半数には達しない。3位のテラデインの票と浮動票を奪えれば私が会長になれる。互いの敵はテラデインね。
休憩が終わりピヨンの進行が再開される。
「これより〜、4名の主張を聞いていただきまして〜、立候補者への質疑応答のあとに投票していただく予定です~!」
会場は緊張感に包まれる。なぜなら、次の投票で会長が決まるかもしれないのだ。
「それでは〜、獲得投票数4位のヘイト=オードブルさんから主張演説をお願いいたします~~!」
ヘイトはゆっくりと椅子から立ち上がり演台に向かう。
クラピカにヒソカ、ギタラクルの姿であるイルミ達の拍手が会場に響く。
「演説動画にも載せましたが、見ていない方にもう一度だけ言わせてもらいます。自分が会長に
ネテロ前会長とは真逆の考えに会場一番のどよめきが起こる。その言葉はステージにいた他の候補者すら表情を変えさせる。
やる気のなさそうな態度とは真逆の発言にチードルは虚を衝かれることになる。
「まさか、ここにきて完全な組織化を宣言するなんて……これはパリストンにもできないわ」
選挙において票を捨てる者にしかできない発言。
念能力は隠すのが常識、ヘイトはハンターの概念を変えると宣言したのだ。
この発言の恐ろしい所はプロハンター全員を人質することができる点である。
この改革案の意味を知るために選挙委員である十二支んでさえ、ヘイトの演説動画を確認している。
――ハンター協会の体制に納得していない者なら、この発言はかなり響くわね。
発言からの思考誘導、その知略ともいえる戦略にチードルは驚愕する。だが、本当に恐ろしいのはヘイトの後出しである。
「暗黒大陸、これが今回の会長選挙の一番の焦点だと思います。知らない方もいると思いますが、この選挙が終われば暗黒大陸について全世界のメディアが一斉に報道するようになっています。成功と失敗、その両方の対策が今後のハンター協会に求められるでしょう。ハンターとして何ができるのかを考えてください。自分からは以上です」
舐めていた、それがチードルの正直な感想だった。
世界を動かすだけの力を持つヘイトが本気で選挙に臨んでいたなら、他国の力がなくとも会長になるだけのポテンシャルを秘めている。
――暗黒大陸の起点であることを自ら宣言か……これならパリストンすら簡単に潰せるわね。彼が敵にならなくて本当によかったわ。
意味を考えれば会長選挙に繋がることぐらい誰でも分かる。
そして、裏にいるのは前会長であるアイザック=ネテロまで見えるはず、むしろ発言を抑えてくれたのだろう。
ざわめきが収まらない中、得票率3位のテラデインの演説が始まる。
チードルは悪魔的な順番のテラデインに情けを感じつつも、得票率2位という演説の順番に安堵する。
――不意打ちで重すぎるけど会長になれば当然の責任。何の準備もしていないテラデインなんて頭が真っ白になってるわよ。
「私は……せ、せいりん、そう! 前会長が過去に所属し八面六臂を成した伝説のハンター集団、清凛隊を再結成してルーペとブシドラと共に、あ……暗黒大陸の調査をしていきます――ッ! ヘイト君と同様に私も改革案を出していきます、ハイ! 一致団結して知恵と良心に満ちたハンター協会を再構築しようではありませんか――ッ!!」
ルーペとブシドラは意思とは関係なく暗黒大陸行が決まってしまう。
誰が見ても失態と分かる演説に笑い声すら聞こえる。しかしチードルは一切笑うことはできなかった。
演台の前でチードルはゆっくりと深呼吸をする。
以前の会議でジンの発言がなければチードルも準備はできていなかっただろう。
「協会の運命を左右する暗黒大陸、皆さんは暗黒大陸と聞いて不安に駆られている方も多くいるも思います。私からは失敗にあたる部分を話していきたいと思います。既に十二支んでは暗黒大陸の対策として科学班、防衛班、情報班、生物班のチームに分かれて行動を開始しています。一例として巨大なシェルター、どこの国にも属さない隔離された土地を確保しています。グリードアイランドというゲームを聞いたことがある人なら分かるかもしれません。ジャポンという国の四分の一ほどの大きさで収容人数は数千万人が問題なく暮らせる広さとなっています。今後も各国と協力し、そのような場所を増やしていく予定です。ハンター協会として、世界に負けないだけの情報は用意できるかと思います。私が会長として選ばれれば、ハンター協会の頭脳となって皆さんを導きます!」
投票者達の心に蔓延る暗黒大陸の不安を取り除いたチードル。
テラデインの流れもあったせいか、会場で一番の拍手が沸き起こる。
そして、最後に得票率1位であるパリストンの演説が始まる。
ハンターにとって情報は命よりも価値がある。ここから浮動票の支持を得られるだけの情報は残されていない。
対策チームの話もパリストンには一切話していない。これはチードルの隠し玉なのだ。
チードルはパリストンに冷たい視線を向けるが……。
――この状況で、なんでそんな笑いができるのよ。
何度も見て来たはずの笑顔だが、ここまで不気味に笑ったパリストンをチードルは見たことがなかった。
まるで何かの勝利を確信したかのような表情にチードルの胸騒ぎが収まることはない。
――先手は取った……大丈夫なはず。パリストン、会長になるのは私よ!
パリストンの主張、それはとてもシンプルなものだった。
「いやー、皆さん素晴らしいですね。ヘイトさんもそう思いませんか?」
「そうですね、さすがは先輩ハンターって感じです。それにしても清凛隊には笑っちゃいました、笑ったのはテラデインさんの事じゃないですよ? あれはジャポンに住んだことのある人しか元ネタ知らんでしょ、ネテロさんのジャポン文字が好きな理由も分かった気がしますよ」
「へー、それは私も気になりますね」
ヘイトを見つめるパリストンは仕切り直すようにパンッと手を1回叩く。
「さて、チードルさんが話していたように十二支んであるはずの私も、恥ずかしながら会長代行という忙しさで対策には全然関与できていません。そう、会長になると会長本人が必要になってしまう場面が多くあるのです!! 素晴らしい頭脳であるはずのチードルさんが会長になってしまうと、最大限の力が発揮できなくなってしまうのです!! 考えてみてください、チードルさんのような美しい人が、他国の政治家や権力者達と無理やり食事をしなければいけない状況を――ッ!! ここ、笑うところですよ? 今の私がまさにそうなのです!!」
チードルは目を見開き、自分の発言を利用されたことに気付く。そして、全てはパリストンの手の平の上で行われていたということに。
「副会長の私から言わせていただければ、能力を最大限に生かせるのは副会長であると思います。立場は違いますが、トップに立つという意味では似たようなものです。私が副会長というだけでこれだけの支持がされているのも、そう感じている方が多いからでしょう!」
パリストンの納得だけを繋ぎ合わせた主張。
チードルは不気味な不安の正体を完全に理解してしまう。その終わりが見えてしまったチードルだけが下を向いている。
――負けた、負けた、負けた、負けた。私はこいつに負けた……。
負け、完敗という文字でチードルの思考は埋め尽くされていく。そして、パリストンは笑顔で全てを利用していく。
「皆さん、こうしませんか? ヘイトさんの良いと思われる意見だけをテラデインさんに取り入れてもらい、チードルさんに副会長としてサポートをして貰う。清凛隊の強い意思を見せたテラデインさんに、素晴らしい頭脳を発揮できる副会長のチードルさん、まさに鬼に金棒ですよ!」
反論できる者はいない、すればその発言を利用される。
それがパリストンという男、先程のテラデインの失態がまるでなかったように会場が一致団結していく。
暗黒大陸という言葉を一言も出さずに浮動票を全てパリストンに喰われたのだ。
“副会長であるべき”という強い印象を烙印のように押され、皆はそれに納得してしまっている。
――せめて発言がもう一度でも残されていれば違うかも……ただの負け惜しみね。もう、私に票が集まることはない……。
なにがいけなかったのか。いまのチードルの心には反省しか残されていない。そして勝ち戦しかないパリストンは演説を続ける。
「ですが、テラデインさんは――」
チードルはぐっと拳を握りしめる。
既にパリストンの主張はチードルの耳には届いていない。これからパリストンによってハンター協会は私物化されるだろう。
「――悔しいけど、あなたが13代目会長よ」
これから襲い掛かるであろう暗黒大陸。今のチードルにこれからの事など考える余裕はなかった。
――早く帰ってシャワーを浴びたいわ。
集計が終わり結果が発表される。そして、ついに――。
「第13代目会長はテラデイン=ニュートラルさんに決まりました!!」
チードルの思考は完全に停止する。
勝ったはずのパリストンはどこに行ったのか。魂の抜けたチードルにテラデインから告げられる副会長という使命。
「チードル君、これから副会長としてよろしく頼むよ。他の十二支んは既に集めているから、副会長として挨拶して来てくれ!」
豊満な笑みを浮かべるテラデインにチードルの全身の毛が逆立つ。
剛炎のように心の底から沸き起こる怒り、それだけがチードルを激しく動かした。
――パリストンを1発本気で、いや、殺す気でブン殴る。ハンター十か条なんて知ったことか、クソ鼠が――ッ!!
「パリストンはどこッ!!!」
チードルの怒号に驚く十二支ん。
そこにパリストンの姿はなく、新辰のルーペ=ハイランドと新子となったブシドラ=アンビシャスがいるだけだった。
読んでくれてありがとうございます。