旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第四話 厄災

 ハンター協会会長であるアイザック=ネテロは、頭を軽く掻きながら第四次試験の報告書に目を通していく。

 

「ふむ、どうやら鬼が潜んでおるな」

 

 裏試験をクリアしている者の仕業。

 発信機の同時故障と参加者の想定外の行動。予定していた試験内容と大幅に違っている。 

 ハンター試験での荒らし行為は別に問題ではない。

 

「プロハンターとあろう者が、聞いて呆れるわい」

 

 ネテロが気になったのは、そのライセンスを持った監視員達である。

 全ては責任者である試験官の力量不足か。

 狙い通りに獲物を動かすというハンターの基本ができていない。

 

「監視すら碌にできないとはのォ……」

 

 ネテロにしては珍しく愚痴を漏らす。

 試験での念能力。使用方法さえ間違えなければむしろ好都合である。

 自ら能力を開示してくれるのだから、ハンター協会としても助かるのだ。

 

「受験者の方がよっぽど優秀じゃな。残った者の7人が新人とは、これまた……」

 

 これだけ有望な若者が集まるのは、ネテロが会長になってから数える程しかない。今年はそれだけ珍しい年。

 

「行動を確認できていないのは……44番、99番、294番、301番、406番の5名か。さて鬼は誰やら、話を聞いてみるしかないかのォ」

 

 ネテロは最終試験に向けて面談の準備を始める。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 飛空船内にビーンズのアナウンスが鳴り響く。

 

『406番の方は応接室におこし下さい』

「さて、順番が来たみたいだな」

 

 事前に面談内容をギタラクルに聞いてみたが、興味のある受験者について質問をされるようだ。

 これが最終試験の参考になるのなら、キルアとその取り巻きを答えるのが無難だろう。

 

「たしか、ハンゾーとポドロ……レオリオにクラピカ、釣り竿のゴンだったか」

 

 受験者を頭に浮かべながら移動をする。試験官程度の相手なら話術で誘導するのも難しくはない。

 飛空船内の2階にある扉を開けると、そこは和室のような空間で“心”と書かれた掛軸がかかっている。

 畳に座る予想外の人物にアイが反応をする。

 

『ヘイト、この魂しってる』

『それは閉じ込められるよりも前か?』

『うん』

 

 本気で警戒するのは何年ぶりだろうか。

 相手は二次試験で姿を見せたネテロ会長。注意すべきはアイの“特性”を知りながらも生きている事。

 

『アイ、ネテロは同じ力を宿している可能性がある。その時は分かるな?』

『あいあい』

「どうした? まあ、座わりなされ」

「はい」

 

 相容れないならと、試しに“纏”に見せかけた欲望だけの念を纏う。

 アイという謎の生物の成長方法を知らなければ、相手は制御できずに漆黒の瞳を晒すはず。

 

『反応はなしか』

『ヘイト、目だけ変わる?』

『いや、わざわざこちらの手を見せる必要はない』

『あいあい』

 

 相手の初動から推測するに、アイのような生物は宿してはいないと結論付ける。

 

『しかし、ネテロがリンネの関係者なのは間違いない』

 

 アイの“特性”を知る方法は限られる。

 欲望者の魂と同化する未知の生物。アイの封印を選んだネテロとリンネが宿主でないのなら“特性”を観測した寄生対象が何処かにいるはず。

 そして、なにより問題なのはアイが魂と同化せずに封印されていた事。

 

『リンネが“特性”を知ってるのは確実なのに』

『ヘイト、ミルキと同じじゃない?』

『ああ、確かに。知ってはいるが、ごく一部って事か』

 

 おそらく、封印を選んだリンネは間違って認識している。

 アイは同化した魂と共に死ぬと知っていた。つまり、アイは何処かで宿主が犠牲になった所を見ている。

 そして、それは観測者も同じ。

 聞いた事ならまだしも、人間は自分の目で見たものを否定するのは難しい。

 

「では、失礼します」

 

 警戒を緩め腰を下ろすと、何か見透かしたような目でネテロはゆっくりと視線を動かす。

 

「思ったよりも、可愛らしい小鬼じゃな」

「小鬼、何のことでしょうか?」

 

 ネテロの指摘に心臓の鼓動が高鳴る。脳裏を過るのは僅かな誤算。

 これは可能性としてたが、複数人の力を合わせた観測方法があってもおかしくはない。

 念を見せた以上はネテロも何かしらの指摘はしてくるだろう。

 

「405番がお主から貰ったと言っておったぞ?」

「ああ、番号プレートですか。他言しないようにと言ったのにな、どうやら彼のプライドが邪魔したようですね」

「プライドとはのォ、そのようには見えんかったが」

「彼の才能には興味があったので番号プレートを渡しました」

 

 ネテロは気づいていない。

 ということは“特性”も最低限のものしか知らないのだろう。ゴンだけの情報ならアイと結び付く事はない。

 

「ふむ」

 

 ネテロは諦めたのか、わざとらしく困った表情を見せる。

 

「まあよいわ、ちょいと質問させてもらうぞ。お主がプロハンターを目指す目的は何かのォ?」

「お金と情報ですね」

「迷いなき即答か、からかいようのない奴め。……情報となると、何か探しておるのか?」

「はい、暗黒大陸について調べています」

 

 僅かな沈黙と張り詰めた空気が広がる。

 ゆっくりと目線を上げたネテロは、先程とは別人のような鬼神のような形相で黄色に輝くオーラを纏う。

 

「暗黒……のォ。それは想定してなかったわい」

 

 ここからは互いの探り合いのようだ。先に動いたのはまさかのネテロだった。

 

「その情報をやっても良いが……交換条件として、ワシもお主の情報が欲しいのォ。うまく隠れて生きてるようだが、ハンター試験よりも前の情報が一切ないお主は何者だ?」

「オードブル、といえば分かりますか?」

「――オードブル、か」

 

 ネテロはこちらの目をじっくり見た後に何かを思い出す。

 

「似とる、お主はリンネのひ孫あたりか?」

「いえ、玄孫にあたります」

「や、玄孫となッ!! 久々に歳を実感したわい。時が経つのは早いのォ、悪いことは言わん、暗黒大陸はやめておけ。人間の行くべき場所ではない」

 

 ネテロの言葉は経験者のそれである。長いものに巻かれる訳ではないが感謝を込めて頷く。

 

「たしかに、これだけ情報が無いのは先人達の忠告なのかもしれないですね」

 

 ネテロに向けてわざとらしく深い溜め息をしておく。

 実際の所、暗黒大陸が寓話でない事を確認できただけでも十分な収穫である。

 

「ネテロさんの言葉に従います」

 

 詮索した所で、ネテロが否定的な立場である以上は今後の信憑性も薄い。

 引き時かと、これまでの受験者達を参考に新人らしく振る舞う。

 

「でもね、ネテロさん。知的探求心は人間だけに許された真理だとは思いませんか? 俺は未知というものが好きなだけです。もしプロハンターになれたら“未知ハンター”って名乗ろうかと思ってるくらいですから。最終試験は絶対に合格して見せますよ!」

 

 返答を聞いたネテロの表情はまったくの別物に変わる。

 静かに顎に手を置き、ニヤリと笑う姿は偽りのない本心なのだろう。

 

「嘘が下手だな、言葉に魂がこもってねーぜ?」

「嘘……本心なんですが」

「さっきの【纏】、ワシではない何かを試したろ? 情報が欲しけりゃくれてやる。てめぇは何者だ、三度は言わねェぞ?」

 

 プロハンターの勘か。

 経験のしたことのない威圧感。殺気とは違う武人の闘気。ネテロの目からは揺るぎのない強さを感じる。

 

「うーん、そうですね……」

 

 僅かに悩むもアイを天秤に掛ければ答えは既に決まっている。周囲に気配がないか視線を送るとネテロは僅かに頷く。

 

「安心しな、外から聞かれることはない」

「なら、交渉成立で。俺は未知の生物との共存体です」

「共存体、まさか……」

 

 ネテロは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。魔獣といわれた方がまだ救いだっただろう。

 

「驚かないんですね。今度はそちらの番ですよ?」

「ったく、面倒を押し付けやがって……。まあいい、ワシは暗黒大陸には二度足を踏み入れている。一度目はビビっちまって何もできなかったが、二度目は安全なルートの確保だ。ついてねーぜ、突いた藪が“厄災”とはな」

「ほうほう、厄災ですか」

 

 ネテロの的確な表現に思わず頷く。

 欲のある者の願いを叶えその種族の魂を喰らう。憑いた種族を滅ぼす呪い、まさに厄災である。

 ネテロは再び尋問でもしているかのような鋭い視線を向ける。

 

「こちらの質問だ、お前は人間の味方か?」

「俯瞰で見れば、敵になると思いますよ」

「味方と言われたら信じる事はなかったが……最悪ではないみたいだな」

「俺の中にいる厄災は、人間の魂を必要としますので」

「魂……どうやら嘘じゃないらしい」

 

 ネテロも心当たりがあるのか神妙に頷く。

 敵意を持たれても良い事はないので、マイナスになるような発言は控える事にする。

 

「人間からすれば死神。ただ、こちらも好きで魂を集めているわけではないので……」

 

 ネテロも嘘が見抜けるのなら真実として受け止めてくれるだろう。

 こちらも望んで死神になったわけでは無い。

 あの場所にアイがいなければ、今頃はのんびりと気楽な暗殺業をしていたはずだ。ん、どっちにしろ死神だった。

 

「俺も半分は人間なので節度は守っているつもりですよ?」

「だろうよ。でなけりゃ、人類は既に滅んでる」

「ネテロさん、次はそちらの番です」

「いいだろう。暗黒大陸の渡航はV5の圧力によって禁止されている」

「政治的、圧力ですか」

「正確には、暗黒大陸不可侵条約なるもので、V5直轄運営の外来渡行許可庁航課への申請が必要になる。その申請をするにしてもV5各国の外務省で特別渡航課での手続き、申請者の国の国会議員の紹介状が3枚と……まあ、契約と称した説明で半年程の拘束と監視がある。普通の人間では受理すらされず海を渡る事すら無理だ」

 

 ネテロは顎先で次の番だと主張してくる。

 重要な情報はそれなりに出したつもりだが納得はしていないらしい。他に何かあっただろうか……。

 

「俺はこいつを“アイ”と呼んでいます。出会ったのは十二の時ですね」

 

 同じように顎先でネテロに返すと、それだけ? と言わんばかりにキョトンとした表情になる。

 

「ただ、別に行く方法はある。ワシを殺すか、ワシが暗黒大陸を再び目指すかだ。二択ではあるが、片方はお前さんにとっちゃ案外と簡単かもしれねェがな」

「へー、いいですね。ネテロさんも一緒に暗黒大陸に行きましょうよ!」

「……そうだったな。リンネも怖いもの知らずの女だったぜ」

 

 ネテロは口元を緩めると、何かを決心したかのような表情になる。

 

「こんな年寄りに共に行く道を進めるとはな、最高に面白いじゃねーか! お前がいれば暗黒大陸を攻略できるかもしれねェ、三度、三度か……!」

 

 限られた中での暗黒大陸へ行く道筋。

 ハンター試験を受けていなければ道は閉ざされたままだったかもしれない。この出会いには感謝だろう。

 

「それじゃ、いつ行きます?」

 

 あっさりとした返事にネテロは呆れた表情をする。先程までの闘気も消え普段の姿へと戻っている。

 

「待て待て、ヘイトよ。まずは暗黒大陸の情報をしっかり頭に叩き込んでからだ。ワシらの責任でもあるアイは何としても暗黒大陸には返したい。それに、お主が暗黒大陸で死んでくれたら嬉しいしのォ。まあ、これは会長の立場としての意見じゃがな! ふぉッ、ふぉッ、ふぉッ!」

「ぶっちゃけますね、ネテロさん」

 

 幸せそうに笑うネテロは誰かに誘われるのを待っていたのだろう。

 仕事で何度か同じ者を見たことがある。死に場所を探す人間を――。

 

「ヘイト、ワシは会長をやめる。だが、辞めるにはちと時間がかかるのだ。それまでにやりたい事を済ませておけ、暗黒大陸に行ったらもう常識は通用せん。久々に息子とおいしい酒が飲めそうじゃ」

 

 ネテロの言葉で真っ先に頭に浮かんだのはやる事の出来なかったとあるゲーム。今も売られているか分からない。

 

「たしか、グリード……暇つぶしにやってみるか」

 

 ネテロに疑念を持たれてはいけないのでアイという確証を見せる。

 

「それじゃ、握手ということで」

 

 心に存在する漆黒の目をした共存体。

 アイと入れ替わりネテロと握手を済ませる。すんなり手を出して応じるもネテロの表情は曇る。

 

「嘘である事を信じたかったが……アイ、よろしくのォ」

「あいあい、ネテロよろしくね!」

 

 ドンドンと、外から扉を叩く音が部屋に響く。お互い最終試験の面談を忘れていた。

 

「……ワシも人の事は言えんな。ヘイトよ、最終試験で――」

 

 ネテロは頭を掻きながら紙に筆をはしらせる。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 ハンター試験の最終試験が発表される。

 1対1の逆トーナメント形式で、負けた者が勝者のごとく上がっていくシステム。

 そこで一勝さえすればハンター試験は合格。不合格者は最後まで残った一名のみ。

 

「殺さずに負けを認めさせる、か」

 

 シード枠に名前見つける。ネテロに視線を向けるとウインクをされる。

 

「うお」

 

 最終試験は技術よりも言葉での説得力。これまで歩んだ人生、個性が最も出る戦いになるだろう。

 初戦はゴンとハンゾーが対戦をする。つまり、その敗者と戦うことになる。

 

「芯の強そうなゴンと対戦してみたいところではあるな」

 

 しかし、初戦の結果はハンゾーの負け。

 対戦相手がゴンにならなかったので、負けを認めてキルアと対戦することを選ぶ。

 

「ヘイト、俺を選ぶなんて余裕あるね! 言っとくけど、お前にだけは絶対に負けを認めない」

「絶好調だな、キルア。お気に入りのスケボーをぶっ壊して、お前を公開処刑にしてやるよ!」

「ハンゾーの方がよかったんじゃない? ヘイトもブタくんの手伝いばかりじゃ鈍るでしょ」

「少しは兄を敬えよ。まあいい、さっさと始めようか」

 

 合格を決める試合が始まる。互いに拷問を知り尽くしているので無駄な事はしない。

 開始と同時、本物の殺気というものを会場全体にぶちまける。その誰しもが経験したことのない悪寒を魂に刻み萎縮させる。

 

「か、体が動かない……」

 

 ネテロなら本気を出せば動けるだろうが他の者は無理だろう。

 キルアは近づく足音に怯え目の焦点が定まらなくなっていく。そして、静かに耳元で囁く。

 

「お前、ビリビリ娘が好みなんだってな。ミルキのフィギュアを熱心に下から覗いてた事が友達に知られたらどうなるか、試してみるか? もちろん、鼻の下が伸びたキルア君の映像付きだ」

 

 伯母のキキョウは念能力で見たものを愚痴のように喋る。それがゾルディック家なのだから仕方がない。

 これで少しは引きこもっていたミルキの気持ちも分かるだろう。

 

「……ヘイト。お、俺の負けでいい」

 

 殺気に包まれたキルアは涙を流し小さくつぶやく。瞬時に殺気を止めてキルアを抱き寄せる。

 

「泣くなよ、キルア。ただの冗談だって!」

「いつか、ブッ殺してやるからな!」

「良い社会勉強になったじゃないか。とはいえ、お前の家族は旅行すら行けずに頑張ってるのに、気まぐれでハンター試験なんか受けるなよ。ツボネさんを見てみろ、毎日が忙しいんだから少しは手伝えよな?」

 

 残るはキルア対ギタラクル。

 ギタラクルから姿を元に戻したイルミもゴンを標的にした揺さぶりでキルアに勝利する。

 

「ほんと、ゾルディック家は教育熱心だね」

『あいあい』

 

 キルアは我慢の限界だったのか暴れて不合格になった。

 ゾルディック家の依頼も終わりハンター試験の全てが終了した。




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