旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第五十話 星の資格

 ミテネ連邦、ロカリオ共和国にある田舎町。

 亥のジン=フリークスと子のブシドラ=アンビシャスは、最終打ち合わせのため小さな酒場を訪れる。

 ジンは常連客から向けられる険悪な視線を気にせず両手を大きく上げる。

 

「今日は俺の奢りだ、みんな好きなだけ飲んでくれッ!!」

 

 ジンの一声で酒場の雰囲気は一瞬にして変わる。

 酒飲みの単純な思考、不味い酒が美味い酒に変われば誰も文句は言わないのである。

 ジンとブシドラは小さなバーカウンターの席に腰を下ろすと安い酒を注文する。

 

「予想はルーペ=ハイランドだったが」

「無理もない。オレが賞金首(ブラックリスト)ハンターで、今回の作戦にはゾルディックが関わっていたからな」

 

 ジンは小さく笑うと黙って酒を飲む。

 噂通りの性格の悪さ、宴の席での沈黙は御法度である。その卑怯ともいえる行動にブシドラはしぶしぶと心の壁を壊す。

 誰も出陣式で不味い酒は飲みたくはない。腹の探り合いは戦闘の時だけで十分である。

 

「――降参だ。お前が気にしているのは、オレの師がボトバイ=ギガンテだからだろ?」

「それもあるが相手は巨大な蟻だ。勇敢と無謀は違う、ボトバイの件はパリストンあたりから聞いてはいたんだろ?」 

「まあな、師は行方不明扱いにされたみたいだが……それが協会の判断なら従うまでだ」

「従うか……ブシドラ、今の協会にそんな価値はない」

「分っている、だからこそオレは誠凛隊としての道を選んだ。テラデインと共に少しずつでも変えていく。協会の悩みの種でもあるヘイトについてもな……やつを知るお前の事だ、師を止めはしたのだろ?」

 

 ジンは悲しげな表情で小さく頷く。

 

「手は打ったつもりだったがな……」

「責めるつもりはない、他の十二支んも干渉はしないと言っていたからな。それなりの理由があるのは分かる」

 

 ブシドラはボトバイと同じ道を選ぶ可能性がある。

 ジンに出来ることがあるとすれば、ヘイト=オードブルという存在を正しく認識させることくらいだろう。

 

「堅苦しいところはボトバイにそっくりだな。酒の席くらいは素直になれよ」

 

 ブシドラも部隊同士の蟠りはない方が良いとは思っている。だが、本人(ヘイト)のいない場で吐き出したところで意味はないのだ。

 

「――素直になるべきはお前だ、ジン」

 

 ブシドラは酒を一口飲むと小さく笑う。

 誘われた時に薄々と気付いてはいた。ここは個室すらない民衆酒場だ。

 最初から打ち合わせをする気はなく、酒の相手をしろということなのだろう。

 

「オレは賞金首(ブラックリスト)ハンターとして、償いをしてきた者を多く見て来た。今のお前のような者達をな」

「償い……か、たしかにな」

 

 ブシドラもジンの噂は多く耳にしていた。

 噂とは違い、暗黒大陸の問題に関しては十二支んの誰よりも率先して議論していた。

 時折見せるジンの表情は、未知の暗黒大陸に期待するハンター達とはまるっきり正反対だったのだ。

 

「ジン、お前はいったい何を抱えている?」

「――俺は何を抱えちまったんだろうな」

 

 ジンは全ての作戦を終えたかのような表情をする。

 人類の存亡に関わる作戦前夜だというのに、いい歳をした男の相手をしなければならないのか。

 ブシドラは酒の席での女は嫌いだが、今ほど望むことはない。周りの常連客のように美味い酒を飲みたいのが本音である。

 

「ジンよ、己で償いを選んだからには終わりはないぞ?」

「――そうだな、覚悟がなかったのは俺の方だったな」

「フンッ、今度はオレの奢りで付き合ってもらうからな?」

 

 互いに生きるための約束する。

 忠告をするつもりだったのだろうが、分かれば話題にする必要はない。ハンターなんてのは互いの行動を読み合う生き物なのだ。

 

「ああ、楽しみにしてるぜ」

 

 若かりし頃に名声のために選んだクート盗賊団の壊滅。

 ヘイト=オードブルという復讐の輪廻に呑まれ、終わることのない償いが刻まれる。

 ジンは酒を一気に飲み干すと気持ちを切り替える。

 

「ブシドラ、新人の2人にはどこまで教えたんだ?」

「今のところは纏と練だ。堅の修行をさせたいところだが、敵の生息地ではまず無理だろうな」

「となると、やれることは絶の修行くらいか」

 

 ブシドラは頷くと顔を外に向ける。

 

「こちら側の能力はテラデインから伝えてると思うが、こちらもお前の能力を把握しておきたい。いったん外にでよう」

「ブシドラ、その必要はねェよ」

 

 ブシドラは思わず振り返る。キメラアントの危険性は互いに認識しているはずである。

 

「舐めるなよ、ジン!」

 

 一方的な拒否にブシドラはジンの胸倉を掴む。

 情報は等価交換が基本であり、これは生存率に関わる重要な問題。ブシドラは新人2人の命も背負っているのだ。

 

「まあ、落ちつけよ」

 

 ジンはブシドラの腕を掴むと目を真っすぐ見つめる。

 

「俺に発はないんだ」

 

 ジンの言葉にブシドラは目を見開く。

 常識だけで考えればそんな馬鹿な話はないのだが、ブシドラを掴むジンのオーラに乱れは一切なかった。

 

「……それは本当なのか?」

 

 考えつくとすれば純粋な強化系か。

 そう考えるも実際は強化系の方が、どの系統よりも発の必要性を考えるはずである。

 ならば能力を封じられたか奪われたと考えるのが普通。

 だが、この男ならば発を必要としない僅かな可能性もある。そこに嘘がないとしたら、知らない念の概念が存在するというのか。

 

 二人の時間は静かに終わりを迎える――。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 『ポックル君、ポンズ君。この作戦が成功したら、君達には星を約束しよう!』

 

 出世街道まっしぐらな新人ハンター。

 成功すれば、その師である隊長ブシドラもダブルハンターの称号を得ることになる。

 

 そんな部隊が目指すのはNGLの国境。

 道すらない荒野で討伐部隊を荷台に乗せた車は砂煙をあげながらひた走る。

 

 ジンは揺れに身をまかせ黙って目を閉じ、ブシドラは視線を外に向け警戒をする。

 新人ハンターのポックルとポンズに役割はなく、視線はヘイトの隣に座る謎の少女に向けられていた。

 

 ――なんで、十二支んの2人は何も言わないんだろ……。

 

 ポックルとポンズは同じ疑問に包まれる。

 部隊構成はブシドラ隊と同じで三人組。他には前会長であるネテロの部隊があるとだけしか聞かされていない。

 

「ねぇ、ポックル。あの子、私達より……」

 

 ポンズはポックルの袖を軽く引っ張る。視線の先にはキメラアントの鎧に身を包む謎の少女。

 警戒心もなく年齢は間違いなく年下。暇があれば天空闘技場バトルチップスを食べ散らかしている。

 

 ――なんで、スリッパなのよ!!

 

 ポンズは湧き上がるツッコミを必死に心に留める。

 絶の修行をする2人には邪魔でしかない。そんな修行の最中に緊張が走る。

 

「運転手、止めてくれっ! 3時方向、距離200にキメラアントだ!」

 

 乾いた空気に響くジンの一声。

 円による索敵で部隊を乗せた車は緊迫した状況になる。その最中、荷台の違和感に気付いたのはブシドラだった。

 

「――馬鹿なッ!」

 

 別部隊のヘイトと少女の姿がないのだ。

 ブシドラはジンの指定した位置に目を向けると岩陰から何かを引きずっている少女が見える。

 ブシドラ隊が目にしたのは、後頭部を抉られたネコ科のキメラアントだった。

 

「……え、瞬間移動?」

 

 唖然とするポンズも何が起こったのか理解できず、敵のキメラアントを見て震えてしまう。

 それはポックルも同様で、目の前にいる2人はキメラアントよりもやばいと直観で感じ取ってしまったのだ。

 

 キメラアントの死体を車側に投げ捨てると、興味を無くした少女は再び荷台に乗り込む。

 

「からっぽだった」

 

 空っぽの意味が分からずブシドラは返す言葉が見つからない。少女の通訳でもするかのように隊長のヘイトは状況を説明する。

 

「もとから死んでいたようです。この素材(・・)はこちらで回収しておきますが、ブシドラ隊は何か確認したいことはありますか?」

「い……いや、ない」

 

 ブシドラの精一杯の言葉、状況確認よりもヘイトの言葉に恐怖を覚えてしまう。

 ポックルとポンズも萎縮してしまい、質問が頭の中でまとまらない。その中、ジンだけが冷静に事の重大さを理解していた。

 

 車はNGLの国境に到着する。国境には川が流れ巨大な樹木が橋の役割をしていた。

 その巨大な樹木の中は空洞になっており大使館と検問所の役割を果たしている。

 ブシドラは人気のなさに違和感を覚えると最新機器の近くでそれを見つける。

 

「――白骨化か。この地の気温を考えれば、2週間以上は経っているな」

 

 2つの部隊が見たものは後頭部を丸ごと喰われた人間の死体。ジンも死体に情報がないか確認をしていく。

 

「頭蓋骨に綺麗な歯形が残っているな。牙の特徴からして、ネコ科のキメラアントだろうな」

 

 ネコ科のキメラアントという言葉にポックルは疑問の表情を浮かべる。

 

「ここを襲ったのはネコ科のキメラアント……ってことは、あのキメラアントのことじゃねェか! どうなってんだよッ!!」

 

 国境の近くで見つけたキメラアントの死体。

 チーターのような特徴を持ったキメラアントも死体と同じように後頭部を抉られていた。

 その状況にポンズはある可能性を提示する。 

 

「――これって、キメラアントの共食いかしら? 私の飼っているシビレヤリバチにも成体同士の共食いはあるのよね。頭部や翅を切り落として栄養のある胸部だけを餌とするわ。同じ脳を狙っているところを見ると可能性はあるかも」

 

 キメラアントの死体についての議論。ジンは単純な視点でポンズに同意をする。

 

「硬質なキメラアントの頭を嚙み砕いている時点で共食いは確定だな。蟻にハチの特徴があればポンズの可能性もあるだろうが、共食いは別の理由だろう。ポックル、お前ならどう考える?」

「うーん、縄張り争いとかかな?」

「違うな、先程のキメラアントの死体には争った形跡はなかった」

「なら……ただの仲間割れか? 絶を使った奇襲攻撃なら争った形跡ものこらないぜ!」

 

 絶の修行をしていた者の自然な発想。ポックルが得意とする狩り(ハント)の方法でもある。

 だがそれには矛盾が多くあり、ジンはこれから起こり得る可能性を伝える。

 

「ポックル、相手はあらゆる野生生物を吸収するキメラアントだ。僅かな振動を感知する敵に、超音波や人間の何百倍という嗅覚で感知するやつもいるだろう。お前はそんな相手に絶だけで奇襲ができるのか?」

 

 ジンの助言にポックルは自身の未熟さを思い知る。

 今までの狩り(ハント)が成功していたのは、格下の生物を相手にしてたからにすぎない。絶はあくまでも回復目的でしかないということ。

 

 ポンズはブシドラから教えられていた念の概念である発を思い出す。

 

「――だとしたら、発を使った念の攻撃?」

「それが自然だろうな。発による金縛りや操作、認識のできない攻撃……考えつくだけでも同じ状況を作り出す方法は幾らでもある。キメラアントが発を使えるのは間違いない、状況からして念能力の実験の可能性が高いな」

 

 ポックルの顔は引きつる。

 そんな対策のしようのない未知の攻撃があったら死を待つだけである。

 発を習得していないことがどれだけ念能力者にとって不利なのかが分かる。

 

「僅かだが……この人間達のように、抵抗ができない程の強さを持つ格上のキメラアントが襲った可能性もある」

 

 部隊兵の切り捨て、ポックルとポンズはそちらの可能性で合ってほしいと切に願うが、現実はそんなに甘くはない。

 ハンターは常に最悪を考えて行動しなければならない。

 

「気を抜くな、その両方の可能性もあるということだ!」

 

 ブシドラは鋭い眼光でポックルとポンズを睨む。

 強者で念能力者、それが何百匹といる可能性。新人ハンターの二人はキメラアント討伐作戦の無謀さを改めて思い知る。

 

「星一つじゃ足りねぇよ!」

「……そ、そうね」

 

 星の約束された討伐作戦。

 ポックルとポンズは一部のプロハンターしか許されない星という称号の重さを理解する。

 




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