旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第五十一話 可能性

 巣の特定を進めるブシドラ隊とヘイト隊はキメラアントの重要な手掛かりを見つける。

 ヘイトはアイが運んできた抜け殻を念空間に放り込んでいく。

 

「ヘイト、こっちにもおちてるよ!」

 

 NGLの生い茂った森に散らばる無数のキメラアント、疑問なのはこれだけ数が放置されていた事である。

 これまで確認できたのは10部隊程の蟻の死骸。暗殺者として生きてきたヘイトも死骸に違和感を感じていた。

 

「防御痕なしで、証拠を残しても問題のない存在か。統率の乱れにしては不自然すぎるな」

 

 共通点は致命傷になっている頭を狙った攻撃。

 国境付近の死骸は綺麗な致命傷なのに対して、NGLの奥地の蟻は頭部の損傷が酷いのである。

 違いを表すなら本能による殺しと感情的な殺し。精神面で考えれば正反対の行いだ。

 

殺し(キラー)は二人か?」 

 

 ヘイトがキメラアントを解体したように“見えない存在”も徹底的に調べて行動するだけの知能は間違いなくある。

 生物の突然変異でないとすれば、考えられるのはキメラアントの内部倒壊しかない。

 

「待たせたな、ヘイト」

 

 索敵を終えたブシドラ隊と再度集まり、ヘイトは一つの推測をする。

 

「ブシドラさん、女王は死んでるかもしれないですね」

「そんなことがありえるのか?」

 

 ヘイトは損傷の酷い蟻の死骸をブシドラに見せる。

 人間を餌としていたはずのキメラアント、女王の生存を否定する1つの結論。

 

「根拠でいえばキメラアントの死骸の多さでしょうか。女王という統率者がいて、共食いはあり得ないと思いませんか?」

「――ふむ、統率の乱れか」

 

 ポンズとポックルも心当たりがあったのかヘイトの意見に同意する。

 

「ブシドラ隊長、私もポックルと移動してましたけど、狙われているのはキメラアントだけなんですよね」

「そうそう、他の動物の死骸が一切ないんだ。仲間割れが起きてるってことは、女王の死の線が高いと思うぜ?」

 

 弟子の分野に関してはブシドラも隊長として意見を受け入れる。

 

「その可能性があるとして、女王が死ぬ理由はなんだ……? ヘイト隊の意見も聞きたい」

「人間を餌として考えた場合、より良い栄養価のある餌を求めた結果が……キメラアントだったのかもしれません。王が女王を喰らい、主食となってしまった。王ならば逆らう者は誰もいない、防御痕がないのも説明がつきます」

「別名、美食の蟻(グルメアント)か――」

 

 女王の討伐は人間からすれば理想の展開ではある。

 ただ、そこに隠されている情報があれば別の可能性も出てくるわけで……。

 

 ジンは現在の状況から問題ないと判断し口を開く。

 

「ヘイト、ブシドラ隊には伝えてもいいんじゃないか?」

「まあ、それもそうですね」

 

 困惑したブシドラ隊を尻目に、ヘイトはわざとらしく空を見つめて頷く。

 

「キメラアントには、人間の記憶を持った者が存在します」

「記憶……どういうことだ?」

 

 ブシドラ隊が情報に困惑するのも無理はない。テラデインからは何も聞かされていないのだ。

 

「キメラアントの資料、コードネームのジャイロがそうです」

「まさか、ジャイロとは存在そのものだったというのか!?」

「はい、暗号などではありません。最初に確認された記憶持ちのジャイロは、第一被害国であるNGLの建国者でした。女王に忠誠心はなく、蟻になっても単独で行動をしていました。記憶を持つ彼の情報では、王に使える護衛軍が既に生まれている……こちらはその情報を元に、王の討伐をネテロ隊に任せています」

 

 作戦は次の段階に進んでいる。

 ジャイロという存在を目にしない限り、この可能性は絶対に思い浮かぶことはない。

 忠誠心のない“記憶持ち”の存在は、キメラアントが内部倒壊するもっともな理由である。

 

「――俺も一つの駒に過ぎなかったということか。テラデインめ……奪われた者達から再び奪うというのか!!」

 

 キメラアントに殺された“記憶持ち”は人間からも殺される。

 二度の死、その残酷な運命にブシドラは依頼に討伐が含まれていない意味を知る。

 

「そう言うことか……クソッ!」

 

 テラデインは指導者としては正しいのだろう。

 これは戦争と何ら変わらない。知らぬ間に背負わされる十字架。

 

“そうだな、覚悟がなかったのは俺の方だったな”

 

 討伐を許されているのはヘイト隊とネテロ隊だけ。その殺人と変わらない行為にブシドラは唇を噛みしめる。

 ジンの苦悩、手に入るのは血にまみれた星という称号だけ。生きて酒を飲むと約束を交わしたジンに何と言葉をかけていいのか。

 一握りのプロハンターだけが持つ称号と重なる星の重み。師のボトバイも何かしらの闇を背負っていたのかもしれない。

 

 苦悩の表情を浮かべるのはポックルやポンズも同じ。

 ブシドラ隊に芽生えてしまったキメラアントに向けられた小さな同情は毒のように精神を蝕む。

 

 死骸の中には人間の面影を残すキメラアントも多くいた。

 争う必要性を考えるも、頭に浮かんでしまった疑問は消えない。人間とキメラアントの共存の道を探すも、そんな幻想は一瞬で崩れ去る。

 

「ブシドラ隊、下がれ!!」

 

 ジンの声が耳に届いた時には既に遅い。

 敵の円に気付いていないポックルとポンズは、同情がもたらした油断により死線を跨ぐ。

 凝をして気付く黒い霧は、キメラアントの死骸のあった場所を薄黒く染めている。

 

「罠か」

 

 円に触れたブシドラ隊は戦闘態勢に入る。

 まるでアメーバのように動く敵の円は、一瞬で周囲を包み込むとブシドラ隊に絡みつく。

 伝わる禍々しいオーラの波動、数秒後には凶悪な化け物がこの場に姿を現すだろう。

 

「燃え上がれ業火、敵を焼き尽くせ――ッ!!」

 

 ジンとの別れを直感で理解したブシドラは大きく叫ぶと自ら囮になる選択をする。

 迫る敵と目が合うも、理解し合えるという淡い期待は粉々に打ち砕かれる。

 

 

☆★☆★☆

 

 

 NGLに築城されたキメラアントの巣。

 他の生物の遺伝子を持たない建築蟻によって作られた巣の高さは300mを超える。

 その女王亡き巣では、生き残った僅かなキメラアントが生活していた。

 

「イカルゴからの通信だ。外の人間が6人、こっちに向かっているらしい」

 

 巣の頂上で監視をしていたコルトは仲間からの信号を受信する。

 

『了解した、コルトはそのまま外の連中を集めてくれ』

 

 巣の内部にある会議室。

 元師団長であるメレオロンと狼の風貌をしたウェルフィンは王の討伐に向けた作戦会議を行っていた。

 

 ――外の人間か……待てよ、これは利用できるぞ。

 

 カメレオンのような長い舌をチラつかせ、リーダーのメレオロンはにやりと笑みを浮かべる。

 周囲を見渡せる大きな目でウェルフィンを見つめると、人間の頃の名で作戦を伝える。

 

「ザイカハル、運が良い事に死骸を処理する必要がなくなったぞ!」

「ジェイル、それは本当だろうな?」

 

 次第に集まるキメラアントは30匹程。

 元師団長はメレオロン、ウェルフィン、コルトの3匹。その下に付くのが元兵隊長のイカルゴとコアラ、その他の残りは喋ることすらできないシドレのような雑務兵達。

 ここにいるキメラアントが生き残りであり、その全員が記憶持ち(・・・・)である。

 

「ジェイル、全員揃っているぞ」

 

 シドレを見つめていたコルトは視線をメレオロン(ジェイル)に向ける。

 

「よし、皆聞いてくれ! 我々、キメラ=ヒューマン(ネオ・ミュータント)は、これより王直属の護衛軍を討伐する――ッ!」

 

 歓喜を上げる兵隊長と驚く雑務兵。しかし、元師団長のウェルフィン(ザイカハル)は慎重だった。

 

「ジェイル、お前は正気なのか!? やっとこさ、部隊を壊滅させたってのに……さすがに疲れてるやつも多いぜ?」

「ザイカハル、護衛軍とは遅かれ早かれ戦うことになるんだ。今がそのチャンスなんだよ!」

 

 話を聞いていたコルトもウェルフィンと同じく慎重に事を考える。

 

「ザイカハルの言う通りだ。相手が護衛軍ともなれば話は変わるぞ? これまでの作戦が通用するかも分からない相手だ、今は慎重になるべきだと思う。まずはイカルゴに人間達の事を詳しく聞くのが先ではないか?」

 

 全員の視線は偵察部隊であるイカルゴに向けられる。

 イカルゴは寄生能力を持っており、死骸を利用して対象の念能力を使い分ける。

 偵察の場合は死んだフラッタに寄生し、監視能力を持つトンボ型の念獣を利用している。

 

「確認したのは6人で、行動的には2つの少数部隊だろう。最初は密猟者だと思っていたが……恐らくはプロのハンターだと思う。そいつらはキメラアントの回収とピトーのような円を使っていた。それもかなりの広範囲のな」

「何でプロハンターが……バレないように部隊はNGL内で始末したはずだろ!?」

 

 遠吠えのようなウェルフィン(ザイカハル)の叫び。

 ここにいる全員が念を覚えてから日は浅い。円という技術が、どれほど難しいものかを理解している。

 念を知れば知るほどプロハンターという存在が脅威に感じるのだ。

 

 敵になり得る存在にメレオロン(ジェイル)は静かに口を開く。

 

「オレ達は選別でジャイロを見つけられなかった。ジャイロが外でハンターを雇った可能性は十分に考えられる」

「そうだな、ジェイル。俺らの王、ジャイロは絶対に生きてるぜ!」

 

 ジャイロを知るウェルフィン(ザイカハル)も嬉しそうに頷く。

 一方、ジャイロを知らないコルトはメレオロン(ジェイル)同様にプロのハンター達の目的を考えていた。

 

「この時期にハンターの調査団か……。希望的観測にすぎないが、東ゴルトーにいる王がアクションを起こした可能性もあるな」

 

 ウェルフィン(ザイカハル)メレオロン(ジェイル)も互いに口には出さないものの、実際にはその可能性の方が高いと予想していた。

 “記憶持ち”の選別をしながら部隊を壊滅させるまでにかかった期間は約3か月であり、ジャイロが選別よりも早くに旅立っていたのなら、明らかに時間が経ちすぎているのだ。

 

「どちらにせよ、今のNGLを知ったら俺達は間違いなく駆除対象にされる。――なら、それを利用する方が得策だろう」

 

 コルトは少し考えメレオロン(ジェイル)の作戦に納得をする。

 

「ジェイル、まさかそいつらを護衛軍にぶつけるってことか?」

「その通りだ。護衛軍をハンターとオレ達で挟み撃ちにする。ジャイロの呼んだプロハンターなら、“記憶持ち”を明かせば理解をしてくれるはずだ」

 

 メレオロン(ジェイル)達の会話を聞きながらコルトは怯えた雑務兵を見つめていた。

 

「よし、やろう。俺なら王のいる東ゴルトーまで2日もあれば着くことは可能だ」

「はいはい、分かった、分かったよ! ジェイルもコルトも休暇って言葉を知らないらしい、こっちも休みなしで頑張りますよッ!」

 

 元師団長で多数決をすれば2対1、覚悟を決めたコルトを見てウェルフィン(ザイカハル)はしぶしぶと作戦を認める。

 囮を使った護衛軍の討伐作戦が決まり、メレオロン(ジェイル)達は綿密に計画を立てる。

 

「オレとザイカハルの能力を使った奇襲攻撃はいつもと同じ、理想の相手は飛行能力を持たないピトーだ。もし相手がプフかユピーなら、ザイカハルとコルトの役割は交代だ」

「了解した、極力頑張ってみよう」

 

 メレオロン(ジェイル)はコルトの肩を軽くたたく。

 その手に込められたキメラ=ヒューマン(ネオ・ミュータント)の思いをコルトは噛みしめる。 

 

「ま、まじでピトーで頼むぜ、コルト!」

 

 薄っぺらい感情しか籠っていない両手で拝むウェルフィン(ザイカハル)にコルトはそっけない態度をとる。

 

「――フンッ、安心しろ。どんなに悪くても確率は三分の一だ」

「コルト、鈴だけは忘れるなよ? 護衛軍とはいえ、争わずに味方になってくれるのが一番だからなッ!」

 

 コルトに向けてウェルフィン(ザイカハル)は手をひらひらと振る。

 

「相手が護衛軍だろうとシドレ(レイナ)は絶対に俺が守る」

 

 生き残りを賭けた最後の戦いが始まる。

 護衛軍の強さは百も承知。嘘で護衛軍を分断し、記憶持ちでなければ討伐をする。

 これまで30部隊以上あったキメラアントから記憶持ちの選別をしてきたのだ。その多くの経験が自信となりコルトを精神的に支えていた。

 

「それじゃ、行ってくる。戻るまでシドレを頼んだぞ……!」

 

 コルトはゆっくりと鈴を3回鳴らすと王のいる東ゴルトーに旅立つ。

 

 1つ目の音は王に、2つ目の音は支える民に、最後である3つ目の音は自然に――。

 それは子供でも知っているNGLの感謝の風習。

 




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