旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第五十三話 連携

 視界に映るのは大地に聳え立つ拠点。

 NGLの上空を飛ぶコルトは1匹の見慣れたトンボを見つけると安堵の表情になる。

 

「ピトー殿、巣が見えてきました!」

 

 第一目標である護衛軍の孤立に成功、後はネフェルピトーをハンターのいる戦地に運ぶだけ。

 索敵班のイカルゴにより、位置情報と標的の護衛軍が誰なのかは伝わったはずである。

 

「で、目的のハンターはどこかにゃ?」

 

 ピトーは笑みを浮かべ地上に凶々しいオーラを垂れ流す。

 円で感知したキメラアントの死骸は数百を越えている。コルトの信憑性は高まるもピトーの考えは変わることはない。

 

 コルトは(裏切者)、ピトーがそう直感したのはコルトが使った“蟻”という言葉だった。

 殺すのは容易だが、不要因子がどれだけいるのかが分からない。ハンターよりも先に、生き残りのキメラアントを正確に把握する必要がある。

 

 ピトーは過去の記憶を辿る。

 シャウアプフが何匹かの師団長に忠誠を見返りに念能力のコツを伝授したことがある。その教えるより前に、前世の記憶を持っていたとしたら、王の忠誠は偽りのものとなる。

 

 ――にゃるほど、狩りの方法は同じか。

 

 ピトーの勘は当たっていた。

 記憶持ちは念能力を使ってキメラアントを壊滅させるのではないのか。

 

 王兵は既に万全の準備で脅威を感じることはない。

 ピトーが護衛軍として知りたいのは、記憶持ちの女王兵が人間と共にどういう行動をとるのか、という事である。

 それが今後の侵略において最も重要な情報となるのだ。

 

 ピトーはアメーバ状の円を変化させ標的の人間を発見する。そのままコルトに合図を送ると空中に放たれる。

 

 ――2……いや、3人かにゃ?

 

 敵までの距離は約2キロ、円に反応できた人間は1人。ピトーが敵の分析を終えるのには十分な時間だった。

 

「この匂い……鼻を利かなくさせるのが狙いか」

 

 焦げ臭い煤の匂いがピトーの鼻を刺激する。

 多くの人間を見てきたピトーは真っ先に逃げを選択しない弱者に違和感を覚える。

 

 その時間稼ぎともとれる行動、敵は本当に3人なのか。

 着地し、風を切りながら不規則に並ぶ樹木の間を最短の道筋で向かう。

 刹那に行われる自問自答、燃え上がる炎とブシドラ隊を認識したピトーはやはりと確信する。

 

 ――4人目、こいつのほうが厄介かにゃ。

 

 横目に映るのは高速の念弾、ジンが放った死角から攻撃である。

 咄嗟に腕を交差し頭を守る。腕の隙間から見える念弾の軌道をピトーが見逃すことはなかった。

 完全な不意打ちでなければ、オーラの攻防比を考えるだけの余裕は十分にある。

 

 ピトーは洗練された堅で念弾の威力を相殺する。

 鋭い目でしっかりとジンを捕らえると、狙いを定めていた獲物から重心を僅かにずらしていく。

 標的をジンに変える、そう考えていたピトーだが……。

 

「――これは!?」

 

 ピトーは相殺したはずの念弾に押される形で体制を崩す。

 メキメキと悲鳴をあげる体に抉られるような強烈な痛みが全身を襲う。

 念弾から発生した強烈な衝撃波に、ピトーの体は旋回運動する弾丸のように多くの樹木を薙ぎ倒していく。

 

 一部始終を見ていたブシドラは驚愕していた。酒場で交わしたジンの言葉を完全に勘違いしていたのだ。

 

『俺に発はない』

 

 正確には発である必要がない。

 ジンならば他者が使う“発”と呼ばれる打撃系念能力は簡単にマネできる。個の持つ技術の高さ、念能力者としての才能はもはや神の領域である。

 

「念弾1つでここまでとは……」

 

 遅効性、それがジンの放った念弾である。

 最初に作ったのは中身のない巨大な球体の念弾。その中に手を入れたジンは、濃度を変えたオーラを絶妙なバランスで中に留めたのだ。

 まさに水と油、それを一瞬で手の平程の大きさまで圧縮。

 殻が破れたら中に渦巻く膨大なオーラが爆発的に放出される仕組みとなっている。

 

 ――思い付くだけなら簡単だが。

 

 ブシドラが一番に驚いたのは、一瞬で行われた遅効性の念弾を作るのに必要な過程である。

 四大行の応用技が前提であり、多くの念系統を同時に行う高度な技術。

 

 実際は変化、放出、強化、操作の性質を持った念弾。

 その遅効性を持つ攻撃は念の攻防比を管理できる熟練者ほど、自ら防御(オーラ)を下げることになる恐ろしい攻撃。

 

 ――来て、正解だった……。

 

 ジンの攻撃にピトーは苦痛と共に焦りの表情を浮かべる。

 王に殴られた時よりも重い一撃。堅の状態でこれだ、警戒していなければ今頃は死んでいただろう。

 実戦の違いにピトーは戦闘で自身が成長していくことを直に感じていた。

 

 死骸の残した多くの情報、頭を狙ってくる者はいまだにいない。

 ピトーが考えるにブシドラとジンはどちらかといえばサポートのような動きに近い。付き添いの雑魚の2人を除けば5人目の可能性すらある。

 

 岩盤に叩きつけられ、吐血したピトーに絶望が迫る。

 

 ――追撃の念弾か!?

 

 不規則な動きをする2つの念弾。

 ピトーは鈍った体で避けようとするが起き上がれず体制を崩す。

 避けることを諦め、体を丸め最大のオーラで全身を守りに入る。しかし、2つの念弾はピトーに当たることなく顔の前でぶつかり合う。

 

 ――バンッ!!! と、強烈な風圧と破裂音が響く。

 咄嗟に耳を抑えるピトーだが、念弾に圧縮されていた空気によってさらに吹き飛ばされる。

 キーンと難聴を起こしたピトーの耳は他の音を全て遮断する。

 遅効性の攻撃に鼻、耳といった器官を狙ったハンター達による攻撃。

 相手は確実に殺しに来ている。だが、ピトーを襲ったのはそれだけではなかった。

 

「……今度はミサイルか」

 

 本命の攻撃とピトーは認識する。

 目の前にはさらなる追撃である小さな複数の具現化したミサイル。疲弊状態のピトーは敵の連携に心から感服する。

 

『――よし、ピトーに卵男(ミサイルマン)が命中したぞ!』

 

 メレオロン達は小さく拳を握る。

 呼吸を止めることで発動する念能力、敵に認識されなくなるメレオロンの“神の不在証明(パーフェクトプラン)”。

 手で触れることにより、同じ効果を与える“(かみ)共犯者(きょうはんしゃ)”を使ったウェルフィンとの念の連携攻撃。

 

メレオロン(ジェイル)、条件は整った。コルトと合流するぞ!』

 

 卵男(ミサイルマン)はピトーの頭に黒百足の卵を植え付ける。

 その卵はウェルフィンに対する反抗心により成長し、孵化した黒百足は宿り主に激痛を与え、最終的には体を突き破り死に至らしめる。

 

 ハンター達との挟み撃ちに成功。

 呼吸を止めているメレオロンは頷きウェルフィンに対し親指を立てる。メレオロンを背負ったウェルフィンは全速力で森を駆け抜ける。

 

 ハァ、ハァ……! 荒い息をするウェルフィンはコルトと合流を目指す。

 

『コルト、応答しろ! やったぜ、作戦は成功だ!! あとはピトーを――』

 

 返事がないことに苛立ちを募らせるウェルフィンに追い打ちをかけるような森を焼く煙は嗅覚を鈍らせる。

 僅かに残る匂いを頼りにピトーの着地点に向かう。キョロキョロと信号を送りながら空を見渡すがコルトの姿は何処にもない。

 

 ――ん、何の音だ?

 

 バリ、バキャ……ドン、ブシャ。

 異質な音のする方角を見たウェルフィン達は上空にいるはずのコルトを見つける。

 まだ新しい血の匂いと樹木の隙間から見える地に伏すコルトの下半身。咄嗟に声を上げようとしたウェルフィンを止めたのはメレオロンだった。

 

「――ッ!?」

 

 肩を強く叩くメレオロン。

 本来は呼吸が必要な合図であるが呼吸はしたばかり。異変に気付いたウェルフィンは認識されない姿でゆっくりと近づく。

 コルトの下半身の先にいたのは、イカルゴの情報にあったハンターと思われる2人。

 

 黒く染まった目のヘイトとアイ。コルトの側にいたのは人間に紛れた厄災だった。

 

「ヘイト、なかなか出てこないよ!!」

 

 グチャグチャで上半身を失ったコルトの体。今にも千切れそうな腕が無理やり上下に揺らされている。

 ピトーを運んだことによる悲劇。

 情報を最も多く持つキメラアントとして標的にされてしまったコルトはヘイトの投擲で即死させられていた。

 

 ――駄目だ、呼吸したら殺される。

 

 メレオロンは戦慄し、震えるウェルフィンもゆっくりと後退る。だが、敵の放った一言で足は自然と止まる。

 

ジャイロ(・・・・)もそこそこ時間がかかったからな」

 

 ヘイトの言葉はキメラ=ヒューマン(ネオ・ミュータント)に絶望を与える。

 嘘が存在しないこの場所で、ウェルフィンとメレオロンはジャイロが死んでいる事実を知る。

 陽気なウェルフィンなら即座に否定しそうだが、そんなことは一切ない。現状は挟み撃ちにあっているのはキメラアントではなく自分達なのだ。

 

 メレオロン達は思考を巡らせるも打つ手はない。

 記憶持ちだと話せば殺され寝返るにもピトーを攻撃してしまった。

 生存の最も高い可能性、窮地の判断がウェルフィンを動かす。

 

メレオロン(ジェイル)、ピトーの死体を奪うぞ! オレはイカルゴを連れてくる!』

 

 二手に分かれる提案に、メレオロンも助かる方法はそれしかないことを理解していた。

 ピトーの死体が破壊されればイカルゴが乗っ取ることは不可能になる。破壊される前に“(かみ)共犯者(きょうはんしゃ)”で死体を隠す以外に方法はないのだ。

 

 厄災(ヘイト)との距離を取るとメレオロンは戦場に戻り、ウェルフィンは全速力でイカルゴのいる巣に向かう。

 

 

 ――この人間は恐ろしく強い……!

 

 疲弊したピトーはジンと対峙していた。人間が秘める個の可能性に、これほどの脅威を感じたことはなかった。

 本気で戦う時に発動する黒子舞想(テレプシコーラ)を使っているのに相手は今だに生存している。

 自分自身を操る事によって戦闘能力を極限にまで高めている自分にだ。

 

 ジンとピトーの高速で行われる一つの失敗(ミス)も許されない攻防――。

 

 ――こいつは……王に届き得る!

 

 打つ手なし、それがピトーの心情だった。

 戦えば戦う程に相手は強くなっていく。攻撃行動(パターン)は差ほど多くはないのに、不気味な程にオーラ量が跳ね上がっていく。

 

 護衛軍が師団長と変わらない。

 精神的に追い詰められたピトーのオーラに揺らぎが表れる。膝をつくピトーはジンの拳に宿る輝くオーラを見て死を覚悟する。

 

「恨むなら好きに怨め。蟻は殲滅するように隊長(ヘイト)に言われてるんでな」

「……違うね、殲滅されるのは人間の方さ。ボクが死んだとしてもそれは変わらない。王は必ず人間を殲滅する!」

 

 鋭い目でピトーは睨みつけるもジンは気にすることなく輝く拳を振り下ろす――。

 

 生命エネルギーであるオーラの源、魂からオーラを引き出すにはいくつかの方法がある。

 四大行である基礎的な練、またはネテロやミルキのような深思の境地の知ることで生まれる黒いオーラ。さらにはヘイトのような魂を強制的に使う厄災の力も存在する。

 

 ならばジンはどうだろうか。

 制約と誓約もその1つであり、念能力者なら広く知られている知識。思考のみで心理と深いかかわりがある念のオーラ量は跳ね上がる。

 ジンはピトーとの戦闘において、その全ての行動に対して制約と誓約を行っていた。

 そのコツコツと積み上げた数えきれないほどの制約と誓約は膨大な量のオーラを生み出し続けた。

 

“次の攻撃は拳のみで蹴りはしない、蹴りをしたら絶状態になる。次の攻撃にも制約と誓約を”

 

 護衛軍(ピトー)を凌ぐほどの圧倒的な力は制約と誓約の連鎖を切らさずに繋げる。

 戦闘が終わるまで永遠と制約と誓約を繰り返す。

 縛りプレイともいえる能力制限解除法(リミッター外し)。それができるのはジンの持つ天賦の才。獲物の行動を先読みできる先見の明があってのことだが……。

 

 ジンの纏っていた輝くオーラが消える。

 

「――ッ!?」

 

 瀕死だったピトーの消失。

 ジンは困惑しながら手応えを感じなかった拳を見つめる。獲物の分析はしっかりとしたつもりだった。

 念空間の入口も確認できてはいない。考えられるのは敵が能力を隠していたかヘイトのような他者による瞬間移動か、だ。

 

 ジンは深追いをすることなくブシドラ隊と共に燃える森から脱出をする。

 




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