旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第五話 仲間

 ハンター試験も終わりを迎え、合格したプロハンター達は残された裏試験を挑む事になる。

 ネテロの話しだと、イルミやヒソカと同じく裏試験は免除されるらしいので、パキドア共和国に向けて飛行船でのんびりと移動をする。

 

「ようやく、デントラ地区か」

 

 見慣れた風景も増え、ゾルディック家の最寄りの街に向けていつもの観光列車に乗り換える。

 聞き慣れたアナウンスと変わらないお土産品。

 車窓からの見えるククルーマウンテンを背景に、手に入れた新品の手の平ほどのカードを見つめる。

 

「それにしてもハンターライセンスはすごいな」

『すごい、すごい!』

 

 使用して分かる偉大な価値。何と言っても公的施設の95%をタダで使用可能。

 売れば、人生7回くらいは遊んで暮らせるというチートカードである。

 

「これだけ移動しても、たったの100ジェニーかよ。これはアイとの互いの宝物だな」

 

 ハンターライセンスを懐にしまい車窓のカーテンを閉める。

 豪華な個室にて、ネテロから渡された分厚い書類に目を通していく。

 

「親切にゾルディック家の暗号文か。この情報だけでいくらになるのやら……」

 

 全てが暗黒大陸に関わる極秘資料。

 この機密文書は、ネテロがハンター試験の僅かな時間でまとめ上げたもの。

 それだけ、本人もやる気に満ち溢れているのだろう。

 

「ん、偶然か……?」

 

 自然と止まる頁を捲る手。目に止まったのは“アイ”という文字。

 ネテロがこちらの話しをすんなりと受け入れたのも納得がいく。資料には謎の黒い生物の事も書かれている。

 

「確かに一致してるな」

 

 ガス状生物アイについて――。

 一度だけ念空間でアイの実態を見たことがある。どうやら暗黒大陸の先人達も“あい”をそうとう連呼されたのだろう。

 

「他に心当たりはあるか?」

『しらない。ヘイトと一緒になるまで魂しか見えなかったし』

「暗闇に輝く魂か。なんか宇宙に広がる星みたいだな」

 

 何処の世界でも無いもの強請りは同じようだ。

 人間が夜空の星に惹かれるように、厄災もまた魂の光に導かれる。

 

『宇宙は見てもつまんないよ?』

「まあ、見るだけならな」

 

 人間の心に広がる永遠の闇。その心の中から覗く景色は孤独を感じさせる。

 古写真のような黒と白だけの世界。魂だけが色づき輝いて見える。

 

「アイは黒と白しか知らないだろ? 認識できないだけで色はもっとあるからな」

『そうなの? ヘイトはいろいろ見せてくれるからうれしい!』

「いつか暗闇じゃない本当の故郷が見れるかもな」

 

 ネテロの情報だけなら暗黒大陸は大自然なのだろう。

 ただ情報がこれだけあるのに“未踏の地”なのは、未知の生物達の楽園なのか。

 

「これが確認されている厄災か」

 

 記述されている五大厄災。

 殺意の蛇ヘルベル、植物兵器ブリオン、快楽の獣パプ、不死のゾバエ病とガス生命体のアイ。

 ふと、読んでいる内に気になる事がでてくる。

 

「殺意に快楽……そして、アイの欲望か」

 

 厄災が進化の過程で身につけた“知性”を意識した能力。

 生存本能があるという事は、厄災も何かしらの存在を警戒していた事になる。

 厄災の天敵になり得る、それが何なのか――。

 

「未知が恐れる強大かつ知性を持つ存在か。いったい、どんな化け物だよ」

 

 その存在と出会ってしまったら――。

 逃げきれるのか。ネテロやアイの能力でどれだけ立ち向かえるのか分からない。

 

「行く前にやれることは多そうだな。その時は頼むな、アイ」

『あいあい、まかせて!』

 

 暗黒大陸の情報は全て頭に叩き込んだ。

 残された時間で出来る事があるとすれば、厄災に対する準備くらいか。

 

「力も極力節約したいところだな」

 

 恐らく暗黒大陸には人の魂はない。ならば、人間世界で多く集めておかなければならない。

 やり残した事と仕事の両立が出来れば良いのだが……。

 ククルーマウンテンの最寄りの駅に到着し、数名の荒くれ者と共に見慣れたバス停に向かう。

 

「さてと、おねだりするか」

 

 

☆★☆★☆

 

 

 脂肪で膨れ上がったミルキのお腹を優しくさする。

 

「ミルキー! 合格祝いにグリードアイランドを買ってよ!!」

 

 お互いの手段を知っているせいかミルキは嫌な顔でため息をつく。

 

「ヘイト、あれが高いのは知ってるだろ?」

「当時の販売価格で60億くらいだったか。忘れもしない、子供の頃に一緒にやろうって誓の儀もしたよな?」

「勝手に思い出を捏造するな。買うにしてもヘイトも金だせよ? それよりもこの前のリベンジが先だ。ボコボコにしてやる!」

 

 部屋に広がる聞き慣れた鼻息。

 小さな頃から慣れ親しんだ部屋でゲームをしながら時間を潰す。そんな大切な空間も、今では半分がフィギュアで埋め尽くされている。

 

「キルアは引きこもってないか?」

「平気だよ、なんか継ぐ自覚も持ったみたいだし」

「へー、以外だな。もっと拗らせるかと思ったが」

 

 ハンター試験でキルアも少しは成長したという事か。 

 負け続きで嫌気がさした所に、何時になく真剣な顔をしたミルキが見つめてくる。

 

「お前、試験で力を使っただろ?」

「ん、影響のない程度にはな」

「なあ、もうアイの力は使うなよ。お前が化け物になっていくような気がして嫌なんだ」

「俺は“ナニカ”じゃないぞ?」

 

 ミルキは二つの宿主を知っている。

 ガス生命体アイの力を一番に知っている人間。それがミルキ=ゾルディック。

 だからこそ、なのだろう――。

 

「ヘイト、人間に唯一与えられた平等は死だ。それがなくなったら人間でいられなくなる。苦しみあってこその人間だぜ?」

「今、お前にゲームで散々ボコられて苦しんでるが?」

 

 ミルキはアルカの事がトラウマになっているのだろう。

 どこから来たのか分からない“ナニカ”という存在に、昔のゾルディック家は危機感を抱いていた。

 

「ヘイト、お前はまだ人間だよな?」

 

 その質問に即答はできなかった。

 ミルキからナニカの存在を聞かされた時に、アイが持つ本当の力を知ってしまった。

 そして、誰よりも欲望の深淵を見た。これはゾルディック家も知らない事。

 

「ミルキに見せたい物がある」

 

 ミルキに手渡したのはネテロから貰った暗黒大陸の資料。

 アイが心の中にいる時点で人間ではないのかもしれない。だからこそ、相棒には知って貰う必要がある。

 

「この分厚さ……まさか、グリードアイランドの情報か?」

 

 ミルキはすぐに勘違いに気付き、無言のまま資料に目を通していく。

 極一部の人間にだけ許された知識。ゾルディック家の当主シルバ=ゾルディックですら知り得ない情報。

 

「このヤバい資料は何処で手に入れたんだ?」

「ハンター協会のネテロ会長からだ。それにガス生命体ってあるだろ? たぶん、それがアイだ。そう遠くない未来に、俺はネテロ会長とその場所に行くつもりだ」

「これを見せたってことは、誘ってるんだよな?」

「強制はしない」

「なら、答えるまでもないな」

 

 ミルキは親指の先を噛むとそれを差し出す。

 ゾルディック家における誓の儀。ミルキとは何度か交わした破ってはいけない鉄の掟。

 

「アルカの時だってそうだ。俺ら家族だけが救われて、お前だけが呪いに苦しむ。ヘイトの事は誰も救えない。そんな悲しいことはないだろ。やっと……恩を返せるチャンスが巡って来たんだ」

「随分と大袈裟だな。心配してくれるのは嬉しいがアイは呪いじゃないぞ?」

「ヘイト、人類を滅ぼせる力を人間だと思うか? 化け物以外の何ものでもないだろ。アイがナニカより安全なのは知ってる。でもな、欲望に飲まれたら……何時かお前も厄災になるぞ?」

「――厄災、か」

 

 未来を真剣に考えたことはなかった。

 相棒の方が心配をしてくれている。これなら厄災になったとしても幸せ者でいられるだろう。

 

「ミルキ、ゲームのように一緒に人外をやるのも案外と楽しいかもしれんぞ?」

「いやいい、一度きりの人生だからな。信念を曲げるつもりはない」

「なら、器のでかい宿主でも探してくれよ。見つからなかった時は……その時にでも考える」

 

 アイを知っているからこそ分かる事がある。

 たとえ、別の宿主を見つけたとしても未来は変わることはない。

 ミルキは椅子から立ち上がると満面の笑みを見せる。

 

「安心しろ、ヘイトが化け物になったら俺様が殺してやる! ゾルディック家の依頼達成率は100%だからな!」

 

 本音と建前はミルキなりの気遣いなのだろう。

 人類のために依頼くらいはしておくべきか。これで人類が滅んだらミルキのせいだからな。

 

「その時は頼むわ、ミルキ=ゾルディック。これで互いに後戻りはできないな」

「そうだな、最期まで暗黒大陸の旅を楽しもうぜ!」

 

 僅かに心が軽くなった気がする。相棒といえど、言葉にしなければ伝わらない事もある。

 

「ミルキ、家族にはしっかりと伝えろよ?」

「ああ、そのつもりだ」

 

 暫くしたらミルキはゾルディック家と絶縁状態になる。

 これはミルキの選択。円満とまでは言わないが悔いのない道を進んで欲しい。

 

「そうと決まれば、キルアを次期当主として鍛えないとだな。キルアの事はゼノさん辺りにお願いしとくか?」

「放っといても、キルは爺ちゃんにしがみつくさ」

 

 内輪事なので口出しはしない。

 ミルキもアルカの事を黙っていなければ、キルアとは不仲になる事はなかっただろうに……。

 ミルキは背を向けると複数あるパソコンの電源を起動していく。

 

「ヘイト、ハンターライセンスはあるんだろ? 貸してみろ、グリードアイランドについて調べてやるよ」

「ほい、これが宝箱物のハンターライセンスだ」

 

 ミルキはハンターライセンスを部屋の明かりにかざすと興味津々に眺める。

 

「3Dホログラムに高精細すき入れか。それにマイクロ文字と特殊発光、パール加工まで付いてるのか。最新の偽造防止技術が使われてるな」

 

 ミルキはハンターライセンスを机に置くと凄い速さでタイピングを始める。

 ぶつぶつと文句を垂れながらパソコンの画面と睨めっこは続き、三十分程が経過するとミルキの手は止まる。

 

「ヘイト、まずは良い情報からだ。今年の9月に行われるヨークシンオークション、それにグリードアイランドが数本出回る噂がある。さらにゲームのクリア報酬として500億って馬鹿げた懸賞金をつけた者までいる」

「ゲームクリアで500億……まじかよ」

「ここからは悪い情報だ。その懸賞金を出してるのがバッテラっていう大富豪の爺さんで、今回のグリードアイランドを全て狙ってるらしい。これも噂の範囲だが、クリアすればゲーム内のアイテムを持ち帰る事ができるらしいぞ」

「ゲーム内のアイテム……報酬に見合う価値があるってことか?」

 

 ミルキは頷くと一つの提案をする。

 それはヨークシンオークションにて、グリードアイランドを競合達から競り落とすための作戦。

 

「大富豪バッテラなら、最初の1本目はどんなに高くても必ず落札してくる」

「競りに良くある御祝儀ってやつか?」

「単なる下らない金持ちのプライドだ。それを逆手にとって最高値まで吊り上げる。大富豪といえど予想外の出費が発生すれば1本くらいは手放すかもしれない。過去の最低落札価格は89億、確実に落とすなら3倍は欲しいところだな」

「良い考えだな、と言いたいところだが……馬鹿だろ。そんな金をどう用意するんだ?」

 

 約300億ジェニー。

 そんな大金をアイの力で願ったら魂が一瞬で枯渇する。対価を求めるアイが許可するはずもない。

 ミルキは知らないだろう。

 人間の魂なんてのは、アイからすれば600万ジェニーくらいの価値しかない。

 

「残りの7か月で300億も稼げる自信はないぞ? ゾルディック家の仕事でも良くて1000万だしな」

「ヘイトにそこまで期待はしてない。親父に頼めば、手持ちの130億と同額くらいは借りられると思う。俺は残りの期間でトータル300億を目指す!」

「アイ、自宅警備員のデブに期待していないと言われたぞ。どうする?」

「おい、心の声がでてるぞ?」

 

 ミルキは何やら答えを得ているような顔をする。

 心の奥底に眠る衝動を駆り立てる表情。簡単にいえばイラつく顔だ。

 

「ヘイトは知らないだろうが、この大陸には天空闘技場って場所がある。注目選手になればファイトマネーだけで数億は簡単に手に入る。二人でやれば目標金額だって狙えるぜ?」

「おいおい、ジャポンとはえらい違いだな……」

「俺はリハビリもかねて200階以上を目指す。ヘイトはファイトマネー狙いで適度に頑張ってくれよ」

 

 数日後、ミルキと共に天空闘技場へ足を踏み入れる。

 




読んでくれてありがとうございます。
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