旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第五十九話 表と裏

 何も分からず死を向かえたサイユウとカンザイ。

 鮮血の香りが漂う会議室では、悲痛な表情をしたチードルが震える手で携帯電話を握りしめる。

 

「でて、お願い。お願いだから……」

 

 暗黒大陸の片鱗を見てしまった十二支ん。

 残された者の使命と、頭では誰もが分かっている。ただ無気力さで動くことが出来ないのだ。

 

『最初はミザイだと思っていたが』

 

 いつもと変わらぬジンの声にチードルは人目を気にせず号泣する。

 

「何を考えているかわからないの……」

 

 助けを求める衰弱した子犬のような遠吠え。

 他人に答えを求めるのはプロハンターならば失格。いつもの日常なら否定する十二支んもいただろう。

 しかし、そんなものはハンターの誇り(プライド)でしかなく、終末の世界なら否定できる者は誰もいない。

 

 抑えつけていた感情は湯水のように溢れ出すも、プロハンターとして身につけてしまった感情抑制により消滅する。

 客観視するチードルの思考は奥底にある本心を見つけ出す。

 

 ――馬鹿ね……幻想は疾うの昔に捨てたはずなのに。

 

 ジンから慰めの言葉がでるはずがない。

 全ては世界から置いて行かれた焦りなのだ。チードルはジンにただ感謝をする。

 

『知るのは勝手だが、お前の判断で切ってくれ』

 

 電話を切られてもおかしくはなかった。

 切る選択を託すということはプロハンターとしてまだ見てくれている。それだけで今の気持ちを切り替えるには十分だった。

 

 チードルは再び瞳に強い意志を宿すと絶望からの脱出を試みる。

 

『第13代会長総選挙、あの日にXデーは始まっていた』

「あの日のことは、夢に見るくらいに覚えているわ」

 

 違和感は確かにあった。

 テラデインが会長となりパリストンが権力を捨てた会長選挙の最終日。チードルが誰よりも敗北を味わった日である。

 

 “Xデー”

 

 あの日、何かすると十二支んの誰もが直感していた。ジンの言葉が本当なら感じて当然だったのだ。

 今起きている蟻の騒動と会長選挙が繋がっているのだとしたら――。

 

 始まりがあるのならどこで仕掛けたのか。

 プロハンターの集る不自然の許されない場所で、意識が一つになる瞬間――。

 

“選挙最終日”

“候補者4人の最終演説”

“不敵に笑うパリストン”

 

「――それって、私」

 

 チードルの拳に自然と力が宿る。

 あの日、利用された本当の意味に気づかなければいけなかった。チードルこそが意識を一つに集中させた張本人なのだから。

 

「全ては……パリストンなのね」

『ああ』

「パリストンを深く知る必要があった。きっと、ネテロ前会長も」

 

 敗北の先にチードルが会長になる方法は確かに残されていた。

 今なら分かる。ネテロがパリストンを副会長に選び監視下に置いた理由。世界の破壊を決めたパリストンなら納得の答えである。

 もし、全てがパリストンのシナリオだったのなら……。

 

「蟻との1対1……人類の命運をかけた蟻との会談も」

『想定内だろうな』

 

 3日という期間があれば異論がでるのは必然。

 代表となればテラデイン会長だが、誰しも最終選挙のマイナスイメージが強く残っている。

 人類の存亡を賭けた一発勝負で、プロハンター達が話し合うことになれば、選ばれるのは誰よりも話術の優れる者。

 

「人類代表の席は、権力を捨てたはずのパリストン」

 

 誰にも疑われずに人類代表の席に着く、それが十二支んの望みであるかのように。

 

「全てはパリストンの手の平の上……」

 

 しかし、チードルに一つの疑問が浮かぶ。

 

「ジンはどこでパリストンの目的に気付いたの?」

『気付いたのはヘイトだ』

「ヘイト=オードブル……」

 

 つまり、パリストンのシナリオをヘイトが破壊したのだ。踏みこんではいけない領域にチードルは思わず息をのむ。

 パリストンを捨ててまでついて行ったネテロを考えれば、本当に危険なのはヘイト=オードブルである。

 

『無理に知る必要はない、ミザイと変わってもいいんだぞ?』

「――大丈夫よ、教えて」

 

 ジンはしばし沈黙する。

 関わらなければサイユウやカンザイのように喰われることはない。自ら終わらない絶望を知る必要はないのだ。

 平穏を捨てるか否かの最終警告、チードルの決意を感じ取るとジンはゆっくりと話始める。

 

『ヘイトは“ジャイロ”という蟻から血に混じった違うオーラを見つけた。これは偶然ではなく他の蟻にも痕跡を確認している。それはパリストンが女王を操る為に仕込んだものだ』

「待って、それがパリストンの念能力なの!?」

 

 チードルは咄嗟に凝でカンザイとサイユウの血だまりを見る。その言葉通り死んだ2人の血には微細なオーラを確認できる。

 

『自身の血を凝で見る者はまずいない』

「体内を巡る主要な液体、浸食されたら打つ手のない念能力ね」

『最悪なのは子孫である蟻達にも血縁という形で引き継がれちまってることだ。寄生範囲からして要請型、狙いは意識や記憶の改竄ってところだろうな』

「……操作系なら誰かが気づくはずよ。操作系は早いもの勝ちなはずでしょ?」

『だからパリストンは頭がいいんだよ。見た目では誰も分からない、僅かな思考だけを操作して肉体の操作権利は捨てている。あいつの話術が加われば、操作されていることに気づける人間はまずいない』

 

 会長選挙でのパリストンの票操作。ジンの言葉にチードルは思考を巡らせる。

 

『全ての順序がおかしいんだよ』

「順序?」

『蟻となったNGLの創設者ジャイロは人間兵器を求めた。本来ならジャイロが向うべきは東ゴルトー共和国だ。女王から孤立し、自身の意思であるかのように操作されたジャイロは、わざわざ海を渡り流星街へと導かれた。それは何故か、東ゴルトー共和国がまだ生まれていない蟻の王にとって必要な場所だったからだ』

「そんな事って……」

『そして、蟻の存在を流星街出身のヘイト=オードブルに知らせるための駒として利用した』

 

 東ゴルトー共和国はパリストンによって決められていた繁殖地。

 

『チードル、お前はどっちを信じるんだ?』

 

 ジンはチードルに選択を迫る。

 ネテロから与えられた十二支んとしての戌、ハンター協会副会長としてチードルの意思は決まっていた。

 

「ジン、あなたを信じるわ!」

 

 チードルの迷いない答え。しかし、ジンから返ってきたのは絶望を知る低い声だった。

 

『この物語りを描けるのは、パリストンかヘイトのどちらかだ』

 

 ジンの2択にチードルの背筋は凍る。気づかされる内に秘めた私怨、敵がどちらかなんて分からない。

 

『薄々は気づいてるんだろ? あのパリストンがそうせざるを得ない理由に』

「ヘイト=オードブルの改革案……かしらね」

 

 暗黒大陸を見据えた念能力の組織化。

 もし実現したらプロハンターの必要性すらもなくなる可能性がでてくる。

 ハンター協会を維持してきたパリストンからすれば、それはハンター協会の破壊ともとれる。

 

『パリストンは見ちまったんだろうな、ハンター達が絶望する未来を』

「……今起きていることが、ハンター協会のためだとしたら歪んだ愛ね」

 

 そう言ったもののチードルの本心は違った。それは本当のパリストンを知ってしまったから。

 

 何故に嫌悪していたのか。パリストンの視点に立って初めて気づく。

 

 ――ネテロ会長の意志を継いでいたのは、あいつだけだったのかもしれないわね……。

 

 パリストンには最終候補の者達がどう見えたのだろうか。

 最終演説のチードルとテラデイン、そこにハンター協会への愛はあったのか。

 あるはずがない。ヘイトの破壊宣言に行った演説は暗黒大陸の対策と清凛隊だ。

 結局は自分のための票集めでしかない。会長代行としてハンター協会を守ってきたパリストンは絶望しただろう。

 

 ただの憶測にすぎないのかもしれない。

 だがもしパリストンが十二支んに見切りをつけ、1人でヘイト=オードブルに挑んでいるのだとしたら余りにも惨い話である。

 

 チードルは答えを出すことができなかった。だがそれはジンも同じ。

 

『パリストンは女王蟻を使い仕事の斡旋をしようとしていた。良し悪しがあるとはいえ、ネテロのように多くプロハンターを支えてきたのは事実だ。ハンター協会の存続を誰よりも望んでいたとオレは思うぜ?』

「そうかもしれないわね……」

 

 蟻との戦争、生存率を上げる唯一の方法。ジンはチードルに指示を出し電話を切る。

 

「クルック、すぐに伝えて! カキン帝国はハンターライセンスを見せれば直ぐに舟に乗せてくれるそうよ。出港は2日後、とにかく急いで!!」

 

 誰もが考えていなかった人間大陸を捨てる選択。

 世界が蟻に支配されたとしても未来の人類が取り戻す僅かな可能性。

 

 ――目指すは地図にない未知の土地。

 




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