旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第六十話 悪と巨悪

 プロハンター達はそれぞれの道を歩みだす。

 人間大陸に残る者、蟻から逃れるためにカキン帝国や大富豪バッテラの屋敷に向う者。

 

 脱出経路として用意されたのは主に二つ。

 B・W1号巨大輸送船による渡航とシェルターとして準備されていたグリードアイランドからのGM(ゲームマスター)権限を使ったスペルによる脱出である。

 どちらも目的地は限界海境線付近の不干渉協定エリア内にある無人島である。

 

 そんな中、カキン帝国に到着した十二支んは脱出ではなく1つの目的のために行動していた。

 

 それは――“パリストンの狩り(ハント)

 

 見つけ出しキメラ=アント事件の解明をする。

 パリストンが主謀者だとしても、壊滅したNGLや東ゴルトー共和国が訴えることはない。

 現実問題としてパリストンを裁けるのはハンター十ヶ条だけなのだ。

 

 カキン帝国の首都から離れた田舎町に十二支んは集っていた。

 辰のルーペ=ハイランドはテーブルに置かれた地図の一点を指さす。

 

「皆さん、パリストンはこの建物に潜伏しているようです」

 

 ロストハンターでもあるルーペは念能力を使い、カンザイとサイユウの血に含まれていた遺留品(オーラ)からパリストンの居場所を特定する。

 巳のゲルは用意された建物の図面と地図を照らし合せる。

 

「チードル、この建物は地下水道の丁度真上にある。つながっている可能性もあるわね」

「そうね、元はマフィアの拠点のようだし逃走ルートも考えられる。けど、パリストンは間違いなく選ばないでしょうね」

「それは同感、では正面からいくのね」

 

 標的を目指し街を駆け抜ける十二支んに緊張がはしる。

 潜伏拠点には操作された蟻が護衛している可能性も十分に考えられるからだ。

 だが、この場に返り討ちを恐れる者は誰もいない。巨漢の割に素早い動きをする未のギンタもその一人。

 

「そろそろだ。皆、注意してね!」

 

 別行動をするルーペとイルミは外からの監視で、残りの志願者はパリストン捕獲に向け動き出す。

 チードルは苦悩の表情を浮かべつつも、十二支んの最初で最後となる小隊のリーダーとして指揮をとる。

 

「ミザイ、発見次第すぐに拘束をお願い。犠牲は覚悟の上よ!」

「了解した!!」

 

 警告カードを手にしたミザイストムは建物に進入すると、慎重に部屋を一つずつ調べていく。

 十二支んで説得できれば御の字だが、破滅に舵をきったパリストンを止めるだけのものを用意できてはいない。

 

「オールクリア。ギンタ、これで残りは地下だけだ」

「蟻が出ようと時間は稼ぐさ。サッチョウ、円を切らすなよ」

 

 囮役であるサッチョウとギンタはミザイストムを守るように先陣を切る。

 

 最善とは――、選挙の最終演説でヘイト=オードブルが告げた暗黒大陸に向けた改革案。

 

“念能力は隠さずに公表をする”

 

 プロハンター同士の小隊構成での部隊行動。それが暗黒大陸の第一歩、だがパリストンはそれを反対した。

 結果からすればチードルが選択したのはヘイトの方針であり、パリストンが最も嫌うやり方で狩りをしているのだから現実とは非情である。

 

 その少数部隊の足音は確実にパリストンに近付いていた。

 ミザイストムの後方は女性陣の巳のゲル、卯のピヨン、酉のクルック、戌のチードルによって守られる。

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 錆びれた一室でジン=フリークスは静かに来るべき時を待つ。

 

“ジンさん、ヘイト=オードブルはボクらの共通の敵ですよ?”

 

「お前まで、こちら側に来る必要はねェよ」

 

“おや、こちらとは……もしや死後の世界ですか?”

 

「あいつの事は悪かったと思ってる、オレの甘さで巻き込んじまったからな。三度(・・)は言わねぇ、シーラのように人間らしく生きろよ」

 

“……皆さんの方が人間らしく生きるべきだと思いますが。まさか、ボクから遺言がでると思いました? 言っておきますけど、勝算はありますよ”

 

 ――厄災(ヘイト)相手にそんなもんはねェんだよ。

 

「ゆっくり休め、パリストン。直にチードル達が来る」

 

 錆びれた扉がゆっくりと開かれると、ジンはチードルと目が合う。

 

「よう」

「ジン、これはどういうこと?」

 

 この場いたのはジンと血で染まったパリストンだけ。

 部屋には多くの血だまりがあり、口を閉ざしたサッチョウだけが先に事実を理解していた。

 ジンはパリストンを膝枕し優しく髪を撫でている。状況からみてハンター協会で起きた襲撃と同じ。

 

 十二支んが見つめる中、虚無の目をしたジンは静かに口を開く。

 

「こいつの収監場所は用意した。場所は国際渡航機関、蟻の件もそれでケリがつく」

「ジン……これだけは教えて、私の選択が間違っていたの?」

「自分で考えろ」

 

 ジンの言葉に沈黙するチードルだが、罪を嫌うミザイストムは違った。

 

「ジン、一国を破壊したパリストンの大罪は許されない。お前は十二支んを抜けた身だ、渡航課(トッコー)に引き渡すかはこちらの判断で決めさせてもらう」

「……大罪か」

「パリストンが喋れないならそうせざるを得ない。こちらで情報の確認はさせてもらうぞ!」

「ミザイ、頭の中を覗こうってんならやめとけ。死ぬだけだぜ?」

 

 何かを悟るジンの口調にミザイストムは苛立ちを覚える。

 

「何故だか分からんが自分に腹が立つ。きっとお前が正しいのだろうな」

 

 ミザイストムは警告のカードをしまう。

 それはジンを信用しての行動であり判断は忠告を確認してからでも遅くはない。

 

「ジン、お前は何でパリストンに優しくできるんだ? 俺には理解ができん」

「――なら、それが何か教えてやる。ミザイ、お前は操作系の弱点を知っているか?」

 

 ジンからでたのは念能力者なら当たり前の言葉。

 

「操作系能力者は操作対象と繋がっている、だと?」

 

 念の扱いにおいて世界の5本指に入るとまで言われたジンからの教え。

 ミザイストムは自然とパリストンの念能力について考える。

 

“対象の血に混ぜたオーラで思考を操作する念能力”

 

 では、弱点とは何か。

 死んだ者達と少なからずオーラでの繋がりは分かる。だが、それだけだとパリストンが行動不能になるにはおかしい点が幾つかある。

 

「……思考の一時的な共有、逆もありえるということか」

「これはオレの推測になるが、暗黒大陸渡航者の99%はパリストンのような形で死を迎える。誰しもがミザイのような考えで原因を調べ、無知故に結果として道連れにされる」

「道連れ……何を言っているか分からないが。暗黒大陸とどういう繋がりだ?」

 

 パリストンと暗黒大陸。

 ミザイストムはまだ見ぬ暗黒大陸に考えを巡らせるが答えを見つけることはできない。

 分からないのも当然であり、分かる者がいるとすればそれを経験した者でしかない。

 

「簡単な話だ、暗黒大陸の生物は()を攻撃する」

 

 ジンの確信めいた表情に黙っていた十二支んにも動揺がはしる。

 

「……魂、だと?」

 

 魂という明確な表現。

 魂を信じるか? と聞かれたら、ほとんどの人間はそれを否定するだろう。魂を見たことがないミザイストムもその一人ではある。

 知らないだけなのか、それともオカルト的な話なのか。困惑しつつもミザイストムは真実を探る。

 

「ジン、魂と聞いただけでは死後の念くらいしかイメージはできないが……」

「呪詛、といえば分かるか?」

「――呪詛か。そう言われれば確かに納得はできる」

 

 念の攻撃による念未習得者にも見られる現象。

 呪詛は何を対象に攻撃しているのか。その核となるものをジンは魂と表現しているのだろう。

 ミザイストムは導かれるように未知への探求を進めていく。

 

「パリストンも間接的にではあるが攻撃を受けてしまった、ということか?」

「そうだな、今のパリストンは“死者の走馬灯”を見ちまってるんだよ」

 

 経験者のように語る姿にミザイストムは思わず目を細める。

 弁護士としての顔も持つミザイストムだが、その語りに偽りは感じられない。だからこそ不気味に感じてしまう。

 

「死ぬ間際に見ると言われる人生の記憶か。それを信じるにしても、まずは根拠が欲しいところだな」

「確認されている根拠なら死後の念になるだろうな。ミザイは死後の念がどういう形で生まれるのかを考えたことはあるか?」

 

 ミザイストムはネテロを思い出す。

 以前に、ハンター協会を訪れたアイザック=ネテロからも死後の念を魂の力と聞いていたのだ。

 

「実際に念を凌駕する力を目にしてはいるが……偽りのない願いと死の淵に立つ者だけが知ることのできるもの、だったか」

 

 恐らくこれは念の存在を知った時と同じで未知の領域の話。ミザイストムは考えを改めると魂の存在を受け入れる。

 

「死後の念のプロセスまでは考えたことはないが、強い未練の元を辿れば記憶に繋がる可能性は確かにある」

「魂には記憶が刻まれている。死ぬ間際の人間ならいいが、パリストンは壊れされずに生きている。残酷にもな……」

 

 ミザイストムに生まれる疑問。

 ジンの言葉が真実ならば操作系能力者は他人の走馬灯の経験をするはずである。だが、そのような人物は未だに聞いたことがない。

 矛盾を感じるミザイストムに対し、ジンは真実という名の絶望を教える。

 

「ミザイ、重要なのは死ぬ順番だ」

 

 “暗黒大陸の生物は魂を攻撃する”

 

 ミザイストムも実際にそれを目撃している。

 肉体の消滅したカンザイとサイユウ、思考を巡らせるミザイストムは思わず口に手をあてる。

 

「あれが魂の破壊だとしたら……あり得るのか」

「破壊された肉体から魂が抜けるか、魂から破壊され肉体が消滅するかの些細な違いだ。それが安全策のない操作系の弱点だ」

「確かに、肉体的に死を迎えれば対象者のオーラは無くなり操作の念は先に切れる。抜け殻の死者を傀儡にしたところで魂に干渉することはない、か」

 

 ミザイストムも暗黒大陸の渡航者の数はデータとして頭には入っている。死因のほとんどが精神破壊なのも理解はしている。

 

「……ふむ、可能性までは否定できない。まさかパリストンは繋がりのある死者の数だけ死に際を見させられているということか?」

「そんな優しいもんじゃねェよ。魂に刻まれた記憶……死者の人生まるごとだ。現実時間にしたら一瞬だろうが、精神世界で他人の人生を経験することになる」

「他人の人生を……」

 

 そのような状態の人間を調べれば何か影響がでてもおかしくはない。

 暗黒大陸がそのような場所だとしたら誰もが逃げ出したくなるだろう。外来生物である蟻が可愛く見えてしまうくらいに。

 

「確定しているサイユウとカンザイだけでも60年程か、生存確認のできていない協専メンバーを含めれば300人を超えるな。平均30年としても単純計算で9000年か」

「これから蟻として死んでいく者の数だけ、こいつは人生という名の悪夢を見ることになる。蟻の血(オーラ)を受け継いだ王兵達が魂から破壊されれば、人間としては永久ともとれる数十万年の時を罪として課せられることになる。パリストンの人格は残っていないだろう」

 

 十二支んが知ることのない死よりも恐ろしい他人の人生を彷徨う煉獄。黙っていたチードルは惨酷な真実に口を開く。

 

「ジン、念を纏わないパリストンは何故生きていられるの?」

 

 暗黒大陸で起きる精神破壊なら少なくとも念未習得者のような異常が体にでているはず。だがパリストンはそんな変化は一切見られない。

 

“国際渡航機関”

 

 その意味に他の十二支んは理解を示すも、チードルだけは難病ハンターとしてジンの答えを拒む。

 

「ねぇ、ジン。あなた達はゾバエ病を克服したのね?」

 

 厄災の克服。

 本来ならハンターとして最大の功績ともとれる出来事、機密にされている意味を考えればハンターの直感がなくとも分かる。

 チードルの信念はそれを許さない。暗黒大陸への原動力、ただの負けず嫌いといえばそれまでなのだが。

 

「――で、被験者(・・・)は誰なの?」

 

 鬼の形相をしたチードルはジンを問い詰める。冷気を放つチードルの声にジンは体が小刻みに震える。

 

「お前らの目的はパリストンだろッ!」

「そんな男は知らないわ! 被験者が誰なのかを言いなさい!!」

 

 チードルはジンの胸倉を掴み持ち上げると支えのなくなったパリストンはそのまま床にずり落ちる。

 決して、チードルに圧倒された訳ではない。いずれ世界は知ることになるのだから。

 

「天に誓うぜ、ゾバエ病の第一被験者はアイザック=ネテロだ!!」

 

 チードルの夢を知っていた者なら一生恨まれるのは覚悟しなければならない。ネテロもチードルに声を掛けなかったのだから同罪ではある。

 ジンが責められても止める者は誰一人いない。

 チードルの夢のように語られる熱弁を聞いていたのだからしかたのないことではある。その時には既にゾバエ病は克服されていたのだから。

 

「用は済んだだろ、お前らもパリストンを引き渡したらさっさと逃げろよ。相手はゾバエの蟻だからな?」

 

 十二支んの思考は高速回転する。

 悪はパリストン=ヒルか? 否、巨悪はそれ以上の厄災を作り出したアイザック=ネテロだろう。

 ハンター協会に生まれた新しい闇。その日、十二支んのネテロへの尊敬の念は消える。

 

 新人類と旧人類の会談の日。

 ヘイト=オードブルは厄災と化したキメラ=アントと会うために、再びミテネ連邦に降り立つ。

 




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