旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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読者さん、あけましてましておめでとう! 今年ものんびり更新ですがよろしくお願いします。誤字報告してくれる方、いつも感謝です!


第六十一話 メメントモリ

 プフは会談に向けた資料を王に手渡す。そこには蟻となったビゼフ長官の纏めた答弁が記載されている。

 

「王、ビゼフによれば人間が望むのはこのあたりかと」

 

 人類代表との対話にメルエムは自ら望む。

 元人間である王妃コムギがいなければ、そのような思考も生まれることはなかっただろう。

 人間と蟻の未来を決めるべく、手に取った資料に目を通していく。

 

「呑むのは、こちらの提示した6割といったところか」

 

 メルエムは珍しく人間に対し思考を巡らせる。

 力でねじ伏せることは可能だが慎重になるのも理由がある。念は無限の可能性があり、その強さを計り知るまでは時間を稼がなければならない。

 きっかけとなったネテロやミルキという例外もその一つであり、人間が対等になりえる力を持つのが現状。

 念の全てが個人単位なのだから、人間を真の意味で知るには膨大な時間と労力が必要となる。

 

「ビゼフに伝えろ、会談のギリギリまで待つと」

 

 メルエムは珍しくため息をつくと新たに始めた念という終りなき研究の道を進む。

 

「コムギ、そなたの意見も聞きたい。遠慮なく申せ」

「は、はいな!」

 

 コムギは緊張した様子でプフの読みあげた内容を一字一句、逃さずに頭へと詰めこんでいく。

 

「え~と……うーん?」

 

 初めての外交に慌てふためくコムギの姿を見てメルエムは笑みを浮かべる。

 軍儀以外は無知のコムギだが、人間の感性は強く残っており旧キメラ=アントよりは共感はできる。

 

「メルエム、会談後の“異文化交流”とは、どういうものでしょうか?」

「名目上は交流だが、やる事は選別と変わらない」

「せんべつ……馬鹿ですいません!! ワダし、いまいちピンとこなくて……」

「かまわぬ。まずは平和という虚像から目を覚まさせるために人間を半分にする。生息域は新たに開拓した領土で覆い管理をする」

「ふむふむ」

 

 頷くだけの王妃コムギにプフも分かるように補足をしていく。

 

「コムギ様、人間側が提案を拒否しても変わることはありませんよ。家畜として生きるのか、それとも“神人”として共に歩むかの問い、それだけのこと。進化を望む者ならば、自らこの地に赴くことになるでしょう」

「なるほど! 家族が増えるということですね!」

 

 蟻の王妃でもあるコムギは未来を見つめ思いに耽る。

 人間から蟻になった王兵も戦争が終ればかけがえのない大切な国民である。

 人間時代に不遇の人生を送ったコムギだからこそ、その想いは強いのかもしれない。

 

“自然のままに”

 

 コムギが蟻に溶け込むのに時間はかからなかった。自然の流れのままに最善の策を軍儀のように組み立てていく。

 王兵達の眼を通して見たネテロやミルキは敵でしかなく、人間は仲間を殺す憎悪の対象でしかない。

 

 今の蟻は人間に対しては圧倒的な優勢ではある。

 そんなコムギに不安があるとすれば、念能力である【軍儀の王】が発動しなくなったことか。

 王妃としてできることはなく、メルエムを信じて内なる感情を押し殺すしかない。

 

「案ずるな、何かあればこちらで対処する」

「分かりますた」

 

 何故に共鳴の力が発動しなくなったのか。

 メルエムと協議するも問題は未だに解明されていない。念の修行不足、それとも条件付きで発動するかはコムギ自身にも分からないのである。

 

 “王兵の全てがメルエムをも越える集団相互強制強化”

 

 コムギの強大な力はメルエムも“帥”として恩恵を授かる。

 最強の“帥”と王妃の共鳴はキメラ=アントにとっての最終兵器である。

 その切り札を持たず、会談に挑むのはメルエムにとっても不安要素であることはたしか。

 

「用意するもので人間の底も知れよう」

 

 コムギがいなければネテロ隊の襲撃で全滅していた可能性も十分にあり得たのだ。

 実際にピトーやユピーは数秒でも遅れていれば死んでいた。その襲撃者も人間の強さの頂点とは限らない。

 軍儀で例えるなら今は見の状態であり、互いを出し抜く極限での心理戦と変わらない。

 

 だからこその会談である。

 過ぎていく戦況の変化、メルエムは苦悩の表情を浮かべ重い腰を上げる。

 

「ピトーを瀕死に追いやった者が人間の王となるのか、または別の存在か。この目で確かめさせてもらう!」

 

 メルエムは指定場所である旧女王の巣に向かう。

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 キメラ=アント、実際にその脅威を感じている者は少ない。

 プロハンター以外に関心を持つ者がいるとすれば、各国の政治家や軍関係者くらいなもので、NGLに押し寄せた取材陣の態度をみればそれは明らかである。

 

「見てみろよ。あの樹木がNGLの入口らしいぜ!」

「ホントだ、すごーい!」

 

 この場にいる数千人は未開の地に興味のある連中でしかない。その中にはゾルディックの二人も含まれていた。

 

「母様、ヘイトさんの話しだと200キロはあるらしいけど」

「カルト、ひさびさの旅行なのだからのんびりといきましょう」

 

 

 果たしてNGLの奥地まで何人が辿りつけるのか。

 各国が知らされているのは、会談場所が“女王の巣”という事だけである。

 

「アマチュアかな」

 

 辺りにはハンターを雇っている者もいるが、カルトは人目を気にすることなく生い茂る道を歩き出す。

 

「――統率はとれている。どこの国だろ?」

 

 ここはキメラアントに支配されていた場所であり危険であることに変わりはない。

 そのような環境でカルトとキキョウに付いてこられる人間は限られる。

 

 予想通りというべきか。

 数百はいた個々のチームは目的地の半分で分散し4チームまでに減少している。残ったチームもカルト達を追い越すことは無く一定の距離を保っている。

 その全てがメディアではなく別の存在であるのは明らか、目的地まで一定間隔で振り向くが敵意は感じられない。

 

「イルミ兄さんの話だと、プロハンターには退避命令が出されているはず。軍人か、情報を知らない小国かな」

 

 しかしカルトの予想は外れる。

 

「キキョウ夫人、誠に感謝致します!」

 

 目的地に着くと挨拶してきたのは顔に大きな傷跡を持つ男で、礼だけ言うとすぐに部隊へと戻っていく。

 

「母様の依頼なの?」

「カキン帝国のね」

「へー、カキンか」

 

 会談の開始までは得にする事もなく、カルトとキキョウは青空の下で一息つく。

 NGLの奥地では机や椅子もない自然という名の会談場所がだけが広がる。

 

「これって……ヘイトさんの念能力?」

 

 カルトは冷え固まった溶岩で黒く染まった女王の巣を見上げる。

 

「溶岩地帯も近くになさそうだし、状況から見てヘイトちゃんでしょうね」

「ボクじゃ勝てそうにないな」

「追えない目標は自分をダメにするだけよ。ヘイトちゃんに勝ちたいならミルのようにゲームだけにしときなさい」

「はい、母様。……あ、アルカからだ」

 

 とある動画共有サイトにはライブ配信が行われていた。

 ゾルディックが持つ世界に向けた“暗黒大陸料理ch”。その100人程度だったchは爆発的な速度で登録者を増やしていく。

 

 人間の形をした紙の切り絵からは聞きなれた声が流れる。

 

『すごい、数字が増えてるよ!! カルト、もっと臨場感を出してね!!』

 

「――いちいち、うるさいなぁ」

 

 カルトからすればアルカの趣味など知ったことではない。

 ただでさえ仕事と関係のない動画のために、謎の食材を使ったプリンを何種類も作り、好きでもない料理を永遠とやらされているのだ。

 今日くらいは好き勝手にやる、それがカルトの本心である。

 

「キメラアントだけは絶対に許さない」

 

 ミルキを殺したキメラ=アント達とこれから対峙をするのだ。この会談で何か起きれば生きて帰ることできないのだから。

 

 時刻が近づくにつれカルトの緊張は高まる。

 人類の代表を聞かされてはいないが、ハンター協会から選ばれるとなればその存在も限られる。

 

 そして――念空間から人類の代表が現れる。

 

「ヘイトさん……じゃない」

 

 カルトはその存在を見ると一目で敗北を悟る。

 ミルキと同じ黒いオーラを宿した一人の女性。全人類の代表として現れたのはカキン新国王のカミーラ=ホイコーロ。

 

「あら、聞いていたより辺境のようね」

 

 同刻に新人類の代表であるメルエムが同じ形で姿を現す。

 辺りに漂う不穏な空気は会談の予定時刻を知らせる。ここで双方の代表であるカミーラとメルエムは初めて対峙をする。

 

「ビゼフ長官ではないようだけど、あなたが代表なの?」

「ほう、余を見ても動じぬか。貴様を対話の相手と認めよう」

「あらそう」

 

 互いが持つは黒いオーラ。しばしの沈黙と地に座るまでの一瞬で互いは力量を図る。

 

「余は名はメルエムだ。貴様の名を聞こう」

「カキン帝国、国王のカミーラ=ホイコーロよ」

「カキン帝国か、名は知っている。襲撃者のような屈強な男を想像していたが」

「あら、強さの違いくらいはご存じでしょう?」

 

 草むらに座る国王同士の対話、カミーラとメルエムはしばしの雑談を楽しむ。

 

「国の方向性か、王ではなく民を優先というのは平等を好む人間らしい発想よ。思想も増えるがリスクも多くなる」

「そうね。危機に直面した時の可能性を広げておくという意味ならありだとは思わない?」

「兵器を生み出す人間らしい思考ではあるな。つまり、其の方は余を越える存在が現れたら終わりと言いたいのだろう? いや、既に存在しているというべきか」

 

 カミーラはメルエムの思考速度に驚きを隠すことができなかった。

 対話して分かるのは、兄弟達よりも遥かにこの者は上にいる、前国王であるナスビ=ホイコーロよりも。

 

 メルエムはカミーラの驚きの表情を気にすることはない。

 

「兵器を生み出す人間ならば、人類を消すことのできるだけの力があってもおかしくはない。対話を選んだということは、お主らがそれで済むと判断したに等しい」

「……さすがね、人間である私たちはそれを厄災と呼んでいるわ。これまでに確認されているのは5種類だけど、そのどれもが世界を終らせるだけの力を持つ」

「其の方は、厄災と余を見比べてどう思う?」

 

 カミーラは一瞬止まるも一点を見つめ口を開く。それはメルエムにとって死の宣告に等しかった。

 

「あなたは対処のできる厄災でしかないわ。その黒いオーラ、アイザック=ネテロとミルキ=ゾルディックを食べてしまった(・・・・・・・)のでしょう?」

 

 カミーラの意味ありげな言い方にメルエムは思わず口に手を当てる。

 

 ――まさか、毒……期間を考えれば操作系の類か?

 

 ネテロ隊、少人数という不自然な襲撃であったのも事実。

 キメラ=アントを壊滅できるだけの力があったからこそ、疑うことをしなかった。

 

 “人間を食しても毒はない”

 

 そんな仮説をどこで作りあげてしまったのか。

 当り前のように食べていたからか、人類よりも遥かに浅い食の歴史で。

 

 これはキメラ=アントの本能を利用された戦術。

 相手はこちらの知りえない情報を持っている。それでいて相手の一手を読めない最悪の情況。

 

「カミーラよ、念とは何なのだ? 余はそれが知りたいのだ」

 

 念に無限の可能性があるのなら驚くことではない。

 しかし、念の性質を知っているメルエムからすれば、それはないに等しいはずなのだ。

 

「残念だけど、私も念には詳しくはない。ただ言えることは、人間が持つ念の知識は間違っているということ」

 

 つまりはメルエムの持つ念の知識も間違っている。

 カミーラのオーラに乱れはなく、黒いオーラを持つメルエムから見てもそれは同じ。

 

「この黒いオーラ……本来は死者が持つはずの力だ。なぜに襲撃者や其の方は使えるのだ?」

「その答はすぐに分かるわ。この場にビゼフがいたなら、あなたは知っていたのだけど」

 

 それは会談が始まってから僅か1時間の出来事――。

 突如としてメルエムの黒いオーラが膨れ上がる。カミーラの視線の先にそれはいた。

 

「無駄足だったみたいね、彼が蟻の王よ」

 

 振り返ったメルエムは眼を見開く。

 そこにいたのは得体の知れない黒いガス状の生物。人型の手に握られた3つの頭部を見てメルエムは怒りを露わにし襲い掛かる。

 

「き、貴様ァァ――ッ!!!」

 

 役目の終えた護衛軍は熟した果実のように地に落ちる。

 




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