旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

67 / 69
第六十六話 混乱

 カキン帝国の港に停泊しているB・W(ブラック・ホエール)1号、その船内に集う十二支んは出港までの時間を共にする。

 本来なら、暗黒大陸に向けた最終調整と欠けた干支について話し合うべきだが、世界配信されていた映像に釘づけにされてしまう。

 

 宙を舞う首と七色に輝くオーラを纏った蟻の王(メルエム)に十二支んは息を呑む。

 カミーラ=ホイコーロの死から連想されるものは多く、映像の停止と共にチードルは口を開く。

 

「蟻との再協議は不可能でしょうね」

 

 蟻との会談は最悪の展開で終わる。

 今後起きるであろう、恐怖の象徴から逃れるための人類の暴走は、秩序を一瞬にして倒壊させるだろう。

 こればかりは政治家の仕事であり、星を持つプロハンターでもお手上げである。

 

 沈黙していたミザイストムは静かに意見を述べる。

 

「正直なところ、俺はカミーラ=ホイコーロが殺されたことに安堵している。繁殖相手に彼女が選ばなかったことは、人類として考えれば救いなのかもしれない」

 

 ミザイストムの発言に反論する者はいない。

 かつてのNGLのように、従属化されてしまえば餌か働き蟻の道しかない。

 この非人道的な発言が許されたのは、人類が最も自由に生きられる残された道だと誰もが理解しているからである。

 

「だが……種のサイクルから外れた人類は家畜以下の扱いにはなるだろうな」

「そうね」

 

 頷くチードルも行き着く答えは同じ。

 これは人類の自然回帰でしかなく、暗黒大陸に着けばまったくの同じ状況なのだ。

 ミザイストムは絶望的な状況に分かっていながらも希望に縋る。

 

「――なった所で、蟻の王(メルエム)も70億を超える一つの種を絶滅させるような事はしないだろう」

「文明レベルを下げるだけで人間は簡単に力を失う。蟻もそれは分かっているはず」

 

 否定は幾らでもできるがする者はいない。

 プロハンターは文明に関係なく、念を持つが故に捕食される可能性は高いからだ。

 

「人類に見切りをつけたとなれば、彼もまた私達と同じ暗黒大陸を目指すのかしら」

 

 巳のゲルは苦悩の表情を浮かべるも、力を持つ者の宿命と割り切る。

 野性動物のように威嚇しても、蟻の王(メルエム)には通じないのだから。

 

「その気があるなら、カキンは最も危険な場所になるけど」

 

 そうなればカキン帝国は餌場となり間違いなく血の海になる。

 深刻さに口を閉じる十二支んが殆どの中、亥のイルミは小さく首を横に振ると狂信者の如く否定をする。

 

「それは強者にしか分からない、だろ?」

 

 イルミの意見もまた正解である。

 所詮はプロハンターの勘でしかない。チードルやミザイストムの意見は人類が歩んできた道でしかないのだ。

 

 不敵に笑うイルミは人類の残された選択肢を改めて問う。

 

「蟻の娯楽なんて誰にも分からない。それに……暗黒大陸の生物からすれば、蟻の王ですら虫扱いなんだからさ♠」

 

 大陸を捨てるか大陸に残るか。

 カキンに集まっているプロハンターは‘‘捨てる派’’に属する訳だが、何もできずに出港の準備を待つしかない。

 心の焦りを消せないのは、虫扱されるであろう蟻の王(メルエム)を誰一人として討伐できないと分かっているからである。

 一言でいえば非力。その状況で冷静にいられる者は、他よりも情報を持つ者だけなのである。

 

「待つ事も役目、怯えた所で意味はない♠」

 

 イルミの不自然さにミザイストムは不快感を覚える。

 十二支んの誰よりもヘイト=オードブルを追ってきた。ここまでそぎ落とされた道ならば迷うことはない。

 

「イルミのフリ(・・)をするのを止めたらどうだ?」

 

 ミザイストムはじっとイルミの顔を見つめるが、それが嘘か本当かは分からない。

 

「もっと早くに気づいて欲しかったよ。姿を変化させるのは、けっこう大変なんだ♠」

 

 変装していたヒソカは、全身に貼っていた【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)】を解く。

 

「……サプライズなんだけどな」

 

 期待よりも薄い反応に、ヒソカは若干の呆れた表情を見せる。

 それもそのはずで、十二支んの間では念の共有は既に済ませてあり、能力開示は今更なのである。

 なにより、ヒソカに対し誰一人として興味がないのが本音である。

 

「ヒソカ、何故に今なんだ?」

 

 ミザイストムが言うように今の十二支んに価値はない。

 だからこそヒソカの行動は疑問なのだ。この質問はミザイストムしか聞ける者はいない。

 

「焦っているのは十二支んだけじゃない。ボクも必死ってことさ、キミらの怯える存在(・・)にね」

 

 狂人ヒソカの思わぬ本音に十二支んは共感を覚える。

 ヒソカだけではない、B・W1号にいる全ての乗客が疑心暗鬼にも似た同じ危機感を持っている。

 

 ヒソカの言葉に十二支んの視線が集中する。

 

「――まあ、いいや。本物のイルミはテラデインを演じているよ」

 

 ミザイストムから僅かに吐息が漏れる。

 それはこの場にいる誰もが求めていた安堵だったからなのかもしれない。

 

「テラデイン会長も不運だな」

 

 ミザイストムは静かに目を閉じる。

 カンザイやサイユウがそうだったように、テラデインも災いに巻き込まれた。

 決して他人事ではなく、僅かに道が逸れていれば誰もが同じ運命を辿る事になっていただろう。

 

「暇だから、他に聞きたい事があれば答えるよ♠」

 

 世界がどこまで動いているのか。

 パソコンをいじるマイペースの卯のピヨンでさえ危険を承知で情報を求める。

 

「ねぇ、ヒソカ~。今の協会はゾルディックが裏から操っているってことか~?」

「ゾルディックは好んでそんなことはしないだろうね。今は後始末を手伝っているだけで、落ちついたら彼ら(・・)も手を引くと思うよ。そうでないとボクも困るからね」

「へ~、それじゃヒソカの言葉が本当なら、これは‘‘茶番’’ってことになるね~」

 

 ピヨンの指摘にヒソカは思わず笑みを浮かべる。それはヒソカ自身も感じていたこと。

 

「だってさ~、蟻に勝てるかも分からないのに、情報屋がいるのがおかしいよね。あいつにだけは踏みこみたくはないんだけどさ……凡人に扮した非凡、それが何よりも怖いよ」

 

 ピヨンの視線は僅かに揺らぐ。

 確信に踏みこむことだけは絶対にしない。越えてはいけない死線(デッドライン)だけは間違えてはならない。

 

 一流の念を纏ったプロハンターが、一瞬で判別不可能な程にまで解体される。

 十二支んの心に刻まれてしまったハンター協会を半壊させた対処の不可能な念獣。

 だが、ピヨンもアイザック=ネテロが授けた十二支んの名を持つ者、そう簡単に折れたりはしない。

 

「ネテロ前会長は蟻に倒されて、テラデインもあいつの念獣にぶっ殺されたんだろ? それってさ、プロハンターじゃなくても疑うよ」

「半分正解、情報屋を連れてきたのは間違いなくヘイトだろうね。残りの半分はボクでも分からないんだ。ここにいるのはジンの指示だから」

「……ジンの?」

 

 元仲間である十二支んと聞いてピヨンは審議をするかのようにふーんと、軽く返事をする。

 

「何かあれば、イルミから直接コールが来ることになっているから‘‘今のところはない’’とだけ言っておくよ♠」

 

 ピヨンは最終通告があることを知ると姿勢を崩す。そのだらけた姿勢のまま視線をチードルに向ける。

 

「ヒソカを信じるなら、チードルが会長代理になるんだけど〜、成りすましって重罪じゃないのかな~?」

 

 これが真実ならチードルの立ち位置は複雑になる。

 世界が混乱する中では会長選挙を行うこともできない。立場を理解したチードルはピヨンに鋭い視線を向ける。

 

「ピヨン、私を副会長でも会長代行でも好きなように呼んでくれてかまわないわ」

 

 最終選挙で戦った(ライバル)はもういない。

 会長の席は確約されたというのに、チードルの心に渦巻く胸騒ぎは収まることはない。

 会長と死がイメージとして強く結びついてしまっているからなのか。その不吉な席がヘイト=オードブルに用意されたものなら尚更である。

 

 ピヨンは覚悟を決めたチードルを見てため息をつく。

 

「初めからそうしてよ〜。じゃあ~、十二支んとしては“会長代行”としての指示が欲しいんだよね~」

「仲間だけど、思想は違うと言いたいんでしょ?」

「そうそう。バラバラに行動してたら、いつかは殺し合いになりそうだからさ~」

 

 互いの監視による裏切りの防止、派閥の違いはチードルも分かっている。

 サイユウとカンザイ、パリストンがそうだったように秩序の倒壊は十二支んも恐れること。アイザック=ネテロとまでは言わないが精神的な柱は必要。

 

「では、私からの指示はテラデイン=ニュートラルが本当に死んでいるのなら、イルミを交渉役として承認するだけです」

「チードル、それってずるくない~?」

 

 現状維持しかできないのがハンター協会の現実。

 どんな形であれ、会長と名の付く立場になる以上は、プロハンターのあるべき姿をネテロのように導いていかなければならない。

 

 チードルは手で口を覆いながらゆっくりと息を吐く。

 

「まずは私達ができる事をしましょう!」

 

 そう言ったものの、カキン帝国の次期国王が決まるまでは交渉すら行なえない。

 その張り詰めた空気感に誰もが嫌気を差す。

 それを壊すかのように鳴り響く電話のコールは絶望だけを十二支んに想像させる。

 

「驚かせてごめんなさい、私の電話だわ」

 

 平常心を装うチードル、ヒソカでさえ最悪を予想した音色からの解放は十二支んの全てに深い溜息をつかせる。

 

「ええ、ヒソカならいるけど……分かったわ」

「おや、ボクかい?」

 

 不思議そうな顔をするヒソカにチードルは僅かに嫉妬心を見せる。

 

「ジンからよ、確認したいことがあるみたい。あなた、G・I(グリードアイランド)のゲーム経験はあるわよね?」

「……G・I(グリードアイランド)。ああ、そういえば彼はGM(ゲームマスター)だったね」

 

 ヒソカは電話を受けるとグリードアイランドで使用していたプレイヤー名を告げる。

 

「そう、クロロ=ルシルフル。特に意味はないよ♠」

 

 電話を切った僅か数分後に現れたジンは過去の自分と姿を重ねる。

 

「お前ら、暇なのか?」

 

 立場の逆転した元十二支んに言い返せる者は誰もいない。

 ジンは避難所であるグリードアイランドでの多忙な仕事を終え、収容した者達の名簿をチードルに渡す。

 

G・I(グリードアイランド)内に回収できたプロハンターは65名だ。他のアマチュア連中も含めて、念能力者はざっと500人だな」

「ジン、協力に感謝するわ」

 

 チードルは人目を気にせずお茶を差し出す。

 サボってばかりいたジンを知っている十二支んも行動力に驚きを隠せない。

 ただ、それだけ世界の運命は押し迫っているということ。ジンは一息することなく必要な準備を淡々と進めていく。

 

G・I(グリードアイランド)の防衛システムは作動させた。ゲーム機を持っていても今後の出入りは不可能になる。クルック、残りの生存者に通達をお願いできるか?」

「ええ、分かったわ」

 

 クルックが席を外すとヒソカはジンに歩み寄る。

 

「現実でも同行(アカンパニー)か、随分と便利だね」

GM(ゲームマスター)の特権だな。ちょっとばかりスペルはいじったがな」

「それで、何か目的があるんだろ?」 

 

 ジンは頷くと神字で装飾された小さな箱を取り出す。

 それはヒソカが初めて見るゲーム内アイテムで、グリードアイランドのクリア報酬である指定ポケットカードを3枚入れることのできる(バインダー)だった。

 

 【No.023 アドリブブック】

 【No.031 死者への往復葉書】

 【No.090 記憶の兜】

 

 ジンは指定ポケットカード3枚が納められた(バインダー)を側に置くと1人の男を十二支んに紹介する。

 

「ビヨンド=ネテロだ。お前らも映像を見て知ってると思うが、数少ない暗黒大陸を知る生き証人だ。これからオレが話す真実をビヨンドと共に聞いてもらう」

「よォ、一緒に()をさせてもらうぜ。警戒するなとは言わねェーが、奴に仲間を殺された者同士、仲良く行こうじゃねェーか!」

 

 ネテロの面影を見せるビヨンドに、演説を知っている十二支んは感銘を受ける。

 




読んでくれてありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。