旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第七話 修行

 相対稽古は激しさを増す。

 ゾルディック暗殺術があるように、ネテロにも心源流拳法という武術がある。

 型は違うが、互いの目的は同じ――。

 

「1ミリも勝てる気がしねぇ……。こいつ、親父達よりも」

 

 ミルキは肩を大きく上下に揺らす。

 全盛期のネテロに弱点らしきものは見られない。全ての技を使い、がむしゃらに挑み続ける。

 圧倒的な力の差に時間が無意味とさえ思える。普通の念能力者なら、その高みに触れただけで心が折れるだろう。

 

「ゾルディックの小僧、お前さんにゃ暗黒大陸は無理だ。諦めの早さも才能だぜ?」

 

 弟子をいなすのが師匠であるネテロの役目。

 普段なら誰に頼まれようが弟子を取ることはない。磨けば光る原石であってもだ。

 それは既に育てた弟子達の役目であり、心源流はネテロの手を離れている。

 今は武人の頂を目指す者。なら、何故にミルキを直弟子と認めたのか。

 それは過去、頂に届かなかった自身を見つめ直すため。

 

「痩せたいなら手数を増やせ。何時まで経っても、その姿は変わらねェーぜ?」

 

 そうは言うネテロだが、珍しく修行に没頭できないでいた。

 突如として、ネテロの前に現れた過去を思い出す二人の存在。これは本当に偶然なのか。

 ネテロはヘイトと出会ってから殺す事だけを考えていた。

 

 “暗黒大陸で道連れにする”

 

 それは、ハンター協会会長として、人類として当然の選択。

 厄災を招いた者の最後の仕事。そんなネテロの心情に変化が起きたのはヘイトからのお願いにあった。

 

 “厄災との繋がり”

 

 暗黒大陸を旅したかつての仲間達。リンネの血筋だけでなくゾルディックも関わっていた。

 言うなればハンターの勘か。これは呪いではない、むしろ運命とすら感じた。

 

「黙れジジイ! 俺は諦めない、絶対にだ!!」

「威勢だけは一人前だな」

 

 これは人類の歴史の中で最大のリターン。

 ネテロですら成し遂げる事のできなかった厄災のコントロール。

 プロハンターのプライドか。心の奥底に眠る嫉妬に近い感情が呼び起こされる。

 目の前にある別の道。あの時の選択が間違っていたのか。

 自分を問いただしても答えはでない。知る者は封印を選び、無知なる者は共存の道を選んだだけ。

 

「暗黒大陸は甘くはねェーぞ!」

 

 今あるのは人間と厄災の共存。

 それが正解だとは思わない。ネテロにとってもヘイトは未知数。ミルキが死んだら人類が滅亡する可能性すらある。

 つまり、ネテロはミルキを直弟子として認めるしかなかったのだ。

 

「次だ、次。さっさと起きろ!」

 

 そんなネテロだが暗黒大陸で知った事がある。

 自然界から見れば“人間”という種は能力に差のない生き物である。

 そのため、意思や身体強化という僅かな積み重ねで差をつけるしかない。

 ネテロが大切にしているのもその積み重ねの一つ。

 

 “心という揺るぎない信念”

 

 念の基本。全ての源は心であり、それが技に伝わり強さを生み出す。

 

「ったく、隙だらけじゃねェかッ!!」

 

 魂の宿っていない技はネテロに当たる事はない。

 平手や足払い、心源流ですらない技にミルキは崩れ落ち両膝をつく。

 ネテロはただ限界というものをミルキに押し付ける。

 

「ま、だだ。まだ……やれる」

「虫の息だな。まあ、休んでも差はなくならねェが」

 

 その冷徹な言葉とは裏腹にネテロは関心していた。

 他者が持つ揺るぎない別の信念。限界を超えても心を映す目に光は失われていない。

 気付けばネテロは薄っすらと笑みを浮かべていた。

 師範として挫折する者も多く見てきたからこそ、ミルキを強者と認識する。

 個を極める者、昔の自分がそうだったように――。

 

「小細工にしては上出来だ、闇に生きるゾルディックと言ったところだな」

 

 ミルキのような【隠】に固執する念能力者はネテロの人生の中でも珍しい。

 そのオーラを隠す戦術もネテロの前では通じない。所詮は付け焼き刃のその場しのぎ。

 ミルキは命に等しい切り札が破られた焦りで思わず立ち止まる。

 

「完全に消したはず……クソッ」

「どんなものでも極めさえすれば技になる。それが勘でもな」

 

 ネテロからすれば、オーラなんてのは殺気や筋肉の動きだけで分かってしまうもの。感覚を研ぎ澄ませるために目隠しでの修行もした。

 そんな修行馬鹿のネテロだ。ミルキの浅知恵など数十年も昔に通過している。

 

「ほれ小僧、どんどん撃ち込んてこい」

 

 起き上がっては空を切るだけの手刀。力を振り絞るだけのミルキは知らない。

 ネテロは高度な【隠】すら情報源の一つにしてしまう。

 相手の行動一つで、念系統や【発】を自然と理解してしまう。故に百戦錬磨の武人なのだ。

 

「それで攻撃か、止まって見えるぜ?」

「……馬鹿にしやがって!」

 

 ネテロは避ける度に隙のある部位を突いていく。

 あっけなく倒されたミルキは、全身から汗を垂れ流し仰向けで拳を握りしめる。

 

「く……そ、が」

 

 最後の力を振り絞るも力尽き目を閉じる。ネテロからすれば見慣れた光景だ。

 

「最後まで愚痴がでるなら安心だな」

 

 ミルキは念能力者の中では中堅程度。

 今は弱くとも磨けば光る努力のできる才能ある人間。ネテロが足りない部分さえ埋めれば化ける逸材である。

 

「ミルキの稽古、お疲れさまでした」

「おうよ、こんなもんは朝飯前だ」

 

 稽古が終わっても演武に勤しむ姿は終わりなき探求者。

 ネテロの表情からして、光と闇の混ざった者がどのような成長を遂げるのか楽しみなようだ。

 

「ヘイト、ミルキが起きたら伝えてくれ。 【堅】を最低半日は維持できるようにしとけってな。それだけでオーラの量は跳ね上がる。アイなら体内のオーラを使い切っても問題はねェんだろ?」

 

 ネテロが去ってから数日――。

 ミルキは【堅】の維持に時間を費やすことになる。オーラが枯渇したらアイが強制的に肉体を元に戻す。

 

「ミルキ、次はそのまま走り込みだってさ」

 

 欲望のままにミルキの魂を磨き続ける。

 体内修行の後は外である肉体のトレーニング。アイがいなければ、ミルキは数百回は死んでいるだろう。

 

「だいぶ、痩せたんじゃないか?」

 

 地獄の修行を終えたミルキは劇的な変化を遂げていた。

 常に肉体を意識した念修行により、引き締まった理想の体型を手に入れる。

 脳裏に焼き付け続けたネテロの武神体。

 数日振りに姿を見せたネテロですら、ミルキのやり遂げた努力に関心をする。

 

「ほう、武人らしくなったな」

「ジイさん、稽古をつけてくれるのか?」

「何言ってんだ、若僧が。たった半日の【堅】くらい誰にでも出来る。 ほれ、次の修行だ」

 

 ネテロからポイッと渡されたのは手頃な石と束になっている爪楊枝。

 ミルキは目を細めるも、師匠からの基礎鍛練を続ける。

 

「その石に観音像をひたすらに彫れ。ただし、途中で爪楊枝が折れたり、石が崩れたりしたらやり直しだ。正確に彫ることが出来れば、次の稽古をつけてやる」

「いいぜ、やってやるよ!」

 

 ミルキは来る日も師匠の指示を忠実に守る。

 体内の精孔から溢れ出ているオーラを肉体の周りにとどめる【纏】。その応用技であるオーラを物に纏わせる【周】。

 隔離された念空間で繰り返される練度上げ。

 時は経ち、偽りの会長姿で現れたネテロは修行の進行状況を確認する。

 

「なんじゃ、これはッ! これのどこが観音像なんじゃ!!」

 

 老いた手に握られる無数の小さな石像。

 操作系であるミルキには得意な分野だったようで、多くの石が好きなフィギュアを意識して作り上げられていた。

 

「ふむ……しかし、まあ」

 

 ネテロはフリフリのメイド服を着た少女の石像をじっくりと見る。

 もはや観音像よりも難しい技術か。複雑な人体構造と服の細部までしっかりと再現されている。

 

「どうだ、完璧だろ?」

「良いじゃろ……」

 

 これによりネテロとの実践稽古が始まる。

 ミルキは残りの基礎である【凝】、【流】、【硬】の修行を実践で学んでいく。

 それから数ヶ月が経ち、残された天空闘技場の準備期限も迫る。そして――。

 

 パン――ッ!! 音を置き去りにする武人の拳。

 ネテロから放たれる渾身の正拳突きは、初めてミルキによって封じられる。

 

「へー、上出来じゃねェか」

「やった……やったぞ!!」

 

 気付けばミルキは静寂のオーラに包まれていた。

 これまでに肉体が何度爆散したことか。これでアイの役目もようやく終わりを迎える。

 

「ミルキ、教えられるのはここまでだ。後はお前さん次第だぜ、頑張りな!」

 

 ネテロは弟子の肩を優しく叩き、ミルキは嬉しさのあまり涙を流す。

 しかし、これは念の基礎が終わったに過ぎない。

 ここからは、操作系としての性質をミルキ自身が考えなければならない。

 残るは【発】の開発。こればかりは師匠のネテロも助言はできない。

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

「ミルキ君、サダソのようにオレにも1勝を分けて欲しかったよ」

 

 駒使いのギドは不敵に笑う。

 ミルキの天空闘技場での戦績は、結果だけでみれば一敗という欠場による不戦負。

 つまり、ミルキにとってはこれが初となる200階の実戦になる。

 

「悪かったな、修行が思ったよりも早めに終わったんでな」

「フッ……貯まった脂肪を落とすだけでは生き残れないぞ?」

「ああ、それは死ぬほど理解してる」

 

 選手達の賭け率が電子掲示板に表示される。

 倍率はミルキの2.3倍に対し、駒使いのギドが1.2倍と優勢。

 会場の観客達は推しの選手を盛り上げる。

 

「駒使いのギド、評判は随分といいようだな。どうやら、選別だけは得意らしい」

「選別か、褒め言葉として受け取ってやる。お前も後が無くなれば同じ事をするようになる」

 

 選手紹介のVTRが映されると会場の歓声はどよめきに変わる。

 ミルキに対する不穏な声。駒使いのギドは観客を見て舌打ちをする。

 

「替え玉だと? 馬鹿な観客共が……選手なら分かる、その血の滲む努力が。ミルキ、200階層の先輩として忠告してやる。力だけが全てではない、全ては相性だ」

「相性ね。生憎だが、その先に進まないと行けないんでな」

 

 ミルキは駒使いのギドにお辞儀をする。

 動きやすさに特化した紫色の特注の道着で、心源流とゾルディック暗殺術の合わさった構えをとる。

 そして――、睨み合うギドとミルキの試合が始まる。

 

「ポイント&KO制!! 時間無制限の一本勝負!! 始め!!」

 

 パン――ッ!! 

 振り下ろされた審判の手と同時、1つの破裂音が観客達を静寂へと包み込む。

 先程まで駒使いのギドの立っていたはずの場所、ミルキが正拳突きをした姿で止まっている。

 壁に激突した駒使いのギドに、審判が寄り添うも起き上がる事はない。

 

「――しょ、勝負あり!!」

 

 審判が手をクロスさせると沈黙していた観客達が一斉に大歓声を沸き起こす。

 ミルキはギドを見つめ、お辞儀をすると静かに去っていく。

 

「ジイさんには感謝だな」

 

 【心武】、ミルキが身につけた新しい【発】。

 相手の身体能力を真似るミルキの自己操作型念能力。制約の条件は既にネテロとの修行で済ませている。

 唯一の欠点は、更新をしなければ成長しないこと。

 オリジナルのネテロはさらなる進化をするが、ミルキは今のネテロどまり。しかし、それでも完成された動きであるのは間違いない。

 

「天空闘技場にジイさんの相手ができる奴がいるかは疑問だな。経験は欲しいが――」

 

 勝利したミルキは次の試合を申し込みに行く。

 ネテロの速さを手に入れたとしても、長年の戦闘経験による知識や【発】のような念能力までは真似できない。

 猿真似からの進化。ここから成長するにはさらなるオリジナルのスタイルを確立しなければいけない。

 悩むミルキに一人の男が声をかける。

 

「やあ、先程の試合は思わず身を乗り出したよ♠ ミルキ、次はボクとやらないか?」

「誰だ、お前?」

「ボクはヒソカ、ここではギドよりも人気はあるんだけどなぁ♠」

「ヒソカ……ああ、イル兄の知り合いか。いいぜ、やるなら早い方がいい」

「それなら、7月11日はどうだい?♥」

 

 ミルキとヒソカは対戦日時を用紙に記入をする。

 




読んでくれてありがとうございます。
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