旅は道連れ世は情け。   作:赤薔薇ミニネコ

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第八話 おねだり 

 ハンター試験前にミルキを頼った事による“貸し一つ”。そのせいで数か月も修行に付きっきりだった。

 ミルキは能力を使うなと言ったのにアイの蘇生を何回も使わせた。

 己の欲ではない他人の蘇生だからとか、ご都合主義でしかない。お前、痩せたらイケメンだったのな。

 

「ちと、寝すぎたか」

 

 豚粛清日記を頭の中で書き終えると【愛のある部屋(パンドラボックス)】には静寂が戻っていた。

 起き上がり周囲を見渡すもアイの姿は見当たらない。

 

「暗黒大陸の準備としては正解だったな」

 

 自作のニ畳程の掘っ立て小屋。

 その小さな扉を開けると布団がもぞもぞと動き【黒い人形】が顔を覗かせる。

 

「まだ、ちょっと動けないかも……」

 

 ガス生命体のアイには存在しない身体疲労。

 未完成の念能力【黒い人形】に隠された一面。行動不能になる可能性を知れたのは大きな収穫である。

 

「暗黒大陸の前に知れてよかったな、恩恵は魂の消費が減少した事くらいか。それよりも……」

 

 視線は散乱した玩具に向けられる。マジカルステッキを手に取ると薄っすらと埃がつく。

 買った当時は毎日のように遊んでいたのだが……。

 

「さて、掃除するか」

 

 手を軽く叩き掃除用の手袋をはめる。

 知らない者も多いだろうが、念空間のメンテナンスは割と大変である。

 害虫は出ないが埃は無限に舞う。換気のできないトイレは以ての外である。

 

「もっと狭くしておけばよかったな」

 

 純粋な10代半ばで創造した念空間。

 大きい方が良い!! キルアくらいの年頃の発想ではそんなもの。当時よりも弱い感情では何も起きない。

 今だったら、温泉付き娯楽施設にアイ用の玩具屋くらいは気合いで創造するのだが。

 

「ミルキ達も常識がなさすぎるだろ」

 

 念空間にゴミ回収業者はいない。

 ゴミは持ち帰る。そんな当たり前が出てこない連中には暗黒大陸で掃除当番をさせるしかない。

 流星街へのゴミ出しも終わり、回復したアイに声を掛ける。

 

「アイ、たまには遊びにいくか?」

『いくー!』

 

 癒やしを求めて天空闘技場周辺の観光地を散策する。

 人が集まる場所は何処も似たようなもので、飲食店にお土産屋、少し豪華なホテルと相場は決まっている。

 天空闘技場に近づくにつれ活気の溢れる店は多くなる。

 

「木刀か、ジャポンにも似たような場所があったな」

 

 闘技場の観光地なだけあって、売られているのは武術に関係する物ばかりである。

 とあるお店の前でアイが何かを見つける。

 

『ヘイト、こころがあるよ!』

「おー、“生涯現役”もあるじゃん!」

 

 老人達に大人気のジャポン文字。それだけで商品になるのだから不思議なものである。

 見覚えのある文字達を物色するも“欲望”は需要がないのか売られていない。

 多くの陳列された中から、“巨”と“根”が書かれたTシャツを手に取る。

 

「ゼノさんとお揃いとか言えば、キルアも喜んで着るだろ」

 

 会計を済ませ散策に戻る。

 視線の先には多くの選手達の昇り旗。その中にはヒソカの顔もデカデカとプリントされている。

 暫くして薄暗い路地裏にある店前で足が止まる。

 

「ここは掘り出し物がありそうだな」

 

 ガラス張りの飾り棚にはフィギュアがずらりと並んでいる。

 この手のグッズ専門店にはミルキの代行で何度も訪れている。ヨークシン前に鑑定力でも身につけるのも悪くないだろう。

 

「首が動く人形とトランプか。どれも素人向けだな」

 

 許可なしと思われる物ばかりで違法性を疑う。

 特設コーナーにはヒソカの顔がプリントされたTシャツまで売られている。

 店内には数人の客しかおらず売り場を一周するにもそれほど時間はかからない。

 外に出ようとするとアイの“わがまま”が発動する。

 

『あれ、あれ買う! ヘイト、あれ!』

 

 アイの指す“あれ”とは何か。

 視界に映るのはあれ、これ、それの選手ブロマイドカードのコーナー。

 盗撮品だろうが元天空闘技場の選手としては気になる所である。

 

「へ、へ……あった。ヘイト=オードブル選手200ジェニー、やすっ!」

 

 ちょうど名刺代わりの物が欲しかったので全てカゴに入れる。ここならアイのお小遣いでも買えるので安心だろう。

 本題の“あれ”を探るべく、綺麗に並べられた選手達を一つ一つ指で辿っていく。

 

『うえ! もっと、うえ!』

「お、おっと」

 

 高さと比例して相場の値段は跳ね上がっていく。50階層選手に始まり、上は200階の選手と幅は広い。

 

「カストロ選……1、10万はさすがに高すぎだろ!!」

『まだうえ!』

 

 欲望の声に従い辿り着いた場所は、最上段のフロアマスターと書かれたコーナー。

 

『それ! それかう!』

「クロ……これか?」

 

 クロロ=ルシルフル。

 不気味に笑う青年の横顔はフロアマスターの中で一番のイケメンである。

 大人気の選手なのか他とは違い“特別価格”とだけ書かれている。

 

「恐ろしい表記だな、店主の気分次第ってやつか。どれも素材は同じだろうに」

 

 試しに、売れ残っている500ジェニーと書かれた1つのカードを指さしてみる。

 

『や、だっ!』

 

 即答、ぽっちゃりミルキは残念ながら却下された。

 これたがら需要を知らない素人は困る。こういう物が後にプレミアが付くのだ。

 

「うーん」

 

 さて、どう説明するか。

 アイのお小遣いは1000ジェニーしかない。悩んでいるとアイが心配そうにつぶやく。

 

『じゅっぴゃくジェニーは足りない?』

「じゅっぴゃく?」

 

 これまでにもあったアイの変な造語を思考する。

 

「ああ、そういうこと。百が十個でじゅっぴゃくか」

 

 アイの知能は人間に匹敵する。

 100までしか知らないアイが未知なる1000を自らの意思で導き出したのだ。

 アイは間違いなく天才、ネテロとミルキに自慢してやろう。 

 

「“じゅっぴゃく”じゃなくて、正解は“せん”だな。お小遣いじゃ買えないが今回は特別だ。俺が買ってやる!」  

『やったー!』

 

 さっそく店主の元に行き、大きな額縁に飾ってあるカードを出してもらう。

 

「あんちゃん、これを選ぶなんてセンスがあるよ。この商品は滅多にお目にかかれない希少品だ。1000万ジェニーでどうだ?」

「じゅ、じゅっぴゃく万ジェニーだと!?」 

 

 自分の5万倍の価値に驚きで鼻水が吹き出しそうになる。

 アイの成長に比べれば安い買い物、そう自分を納得させる。支払いを済ませると店主は顔を寄せて耳元で囁く。

 

「ここだけの話、この男はやばい組織のリーダーって噂だぜ。あまりファンって名乗らない方が身のためかもな」

 

 店主の忠告は当たっていた。

 店を出てからというもの、視界だけでこちらを意識している人物がいる。

 

「狙いは、俺のブロマイドカード……ではないよな」

 

 フロアマスターの追っかけだろうか。転売ヤーを装い人混みに紛れて様子を見る。

 

「振り切れないか。それに【絶】まで」

 

 尾行慣れ素人ではない。

 近場の宿にもまだ滞在する予定。隙をみせた所でこちらの誘いに乗っては来ないだろう。

 サングラスを取り出し開けた広場へと移動する。夕方になるというのに観光地は沢山の人で賑わっている。

 

「んじゃ、やるか」

 

 アイの半目を借りて周囲を見渡す。

 点々と散らばる魂の輝き。【絶】をしてようが魂までは偽れない。 

 

『ヘイト、椅子のあいつ』

 

 一等星のように輝く魂。その持ち主はピンク色の髪をした小柄の若い女性。

 白い丸テーブルが多く並ぶ中、その一つの椅子に腰掛け飲み物を手にしている。

 

「ま、接触してみるか」

 

 視線を向けたからだろう。【絶】を解き一般人に紛れている。

 念能力者という事は天空闘技場の上位選手だろうか。消すのは簡単だが無益な殺生はしたくない。

 標的に直視したまま近づく。

 逃げないということは、自信のある強気なタイプといったところだろう。

 

「どうも隣いいですか?」

「何、ナンパ?」

「一目惚れなら良かったんですけどね」

 

 クロロ=ルシルフルのカードを手に持ち腰を下ろす。

 年齢は20代前半といったところか。互いに念能力者なのは分かっているはず。

 

「そう睨まれても……そちらのアプローチが先だと思うんですが」

「へぇ、アンタ鋭いね。天空闘技場は嘘か」

 

 女性はオーラを纏う。どうやら挑発には挑発らしい。

 

「念のために、選手の方ですか?」

「あたしは呼ばれただけ、ヒソカって奴がいるだろ?」

「ああ、ヒソカさんの知り合いの方でしたか。俺も彼とは“同期”なんですよね」

「はぁ? 嘘じゃなさそうだけど、同期って何?」

 

 どうやら、この女性はヒソカがプロハンターになった事を知らないらしい。

 別に敵対するつもりもない。和解の可能性があるなら話すべきだろう。

 

「ちなみに、彼女さんですよね?」

「殺すぞ、てめーッ!!」

「えっ、違うんすか!?」

 

 髪の毛を逆立てる女性からの本気の殺気。

 プロハンター合格からの天空闘技場の大事な試合に女性を呼ぶ。ヒソカの行動を考えれば誰でもそう思うだろ。もはやフラッシュモブをやるレベル。

 

「気分を害されたのならすみません。ヒソカさんとは、ハンター試験で合格した仲間なんですよ」

「連絡を無視したのはそういうことか。ありがとね、謎が一つ解けたよ」

「いえいえ」

 

 互いに警戒が薄れたところで本題にはいる。

 狙っているのは手にあるものだろうが、あえて分からないふりをする。

 

「で、目的は何ですか?」

「つまんないこと聞くね。アンタ、それじゃモテないよ?」

「……くっ」

 

 痛い所を突かれた。

 普段話す女性といったら伯母のキキョウかツボネくらいだ。どうしても会話が古臭いものになる。

 

「これはプロハンターからの警告です。カードは譲れませんので諦めて下さい」

「勘違いしてるよ。あたしは盗賊、欲しい物は手に入れる。それだけさ」

「なら、交渉決裂ですね」

 

 相手も品定めを終えたのだろう。

 女性から放たれる素早い貫手はクロロのカードに向けられる。その貫手に反応したのはまさかのアイだった。

 

「指、ちょうだい?」

 

 アイのおねだりを前に女性の表情は豹変する。

 

「何、こいつ!」

 

 女性は全力ともいえるオーラを纏うが、その場から動くことはできない。

 

「手、ちょうだい?」

 

 女性の魂は輝きを失い黒く濁っていく。

 アイも“おねだり”の対策は学習してるようで逃がすつもりはないらしい。

 この女性は戦慄の時間をどう足掻くのか。

 女性の握られた手はメキメキと音を立て始める。関節からは骨が飛び出し肉片が飛び散る。

 これが心の中で学習したアイなりの交渉術なのだろう。結末を黙って見守るしかない。

 

「腕、ちょうだい?」

 

 三回目の死の宣告。

 純黒のオーラが溢れ出し、それと同時に辺りに血しぶきが飛ぶ。

 

「へー、念糸による切断と止血か」

 

 逃げという選択、初めから覚悟を決めていたのだろう。

 事前の準備がなければ出来ない判断。少しでも遅れていれば今頃は死んでいただろう。

 

『あいあい、交渉成立!』

「どうせ、それが言いたかっただけだろ」

 

 名も知らぬ女性の腕をリュックにしまう。そのまま宿屋に戻り、帰り道の売店で買った闘技場新聞を広げる。

 

「予想オッズは3倍か……ミルキは意外と人気なのか?」

 

 ヒソカ対ミルキの注目の一戦。ハンターライセンスを質屋から取り戻すための大博打が始まる。

 

「よし、入金完了」

 

 負ければ破産。ただ未来を信じて突き進むしかない。

 




読んでくれてありがとうございます。
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