今日は記念すべき学園卒業の日。
豪華絢爛に装飾されたホールの中で私は多くの人々に囲まれている。
ひそひそと囁くよう悪意が私を襲ってくるのだ。
そう、これは断罪。卒業を祝う宴から悪いことをした人を裁く宴になったのだ。
目線の先の殿下からの刺すような視線を受けふとこの言葉を思い出した。
『貴族社会は失敗は許されない。』ええ、そうです。だって失敗したら一瞬で失墜しますから・・・・・今の私の様に。
殿下に守られている私の大切な妹からは私を気遣うような優しい視線。
あの子は優しいからきっとこのことで心を病んでしまうかもしれない・・・・・
私を囲むご令嬢様、ご令息様の嬲るような視線。
ああ、やっぱりこれだから貴族社会は油断できない。だって油断してなくてもどこから敵意が予想しえない形で不幸な事柄として明確な一つの悪意になって襲ってくるのですもの。
どうしてこうなってしまったんでしょう・・・・・私があまりにも殿下へのお小言が多かったから?それともほかのご令嬢様方へのご指摘の仕方が悪かったから?
理由を考えても考えても明確にこの様な催しで裁くようなれっきとした罪にはなりえるようには思えない。
殿下がこちらを睨みながら口を開く。
「アリス・リデルハート。お前が彼女にしたことは到底許されることではない。」
「・・・・・殿下。」
でも少なくとも殿下は愚かではないはず・・・・・愛する人のために行動する御人だ。きっと妹を一番に思っての事だろう。
「アリス。お前は悪意を持ってアイリス・リデルハートを虐げてきた。間違いないか?」
「殿下!違います!お姉さまは私を虐げてなんていません!」
「いいんだ。アイリス。心優しいお前は姉を気遣っているのだろう。」
「確かに気遣ってはいますが庇ってるんじゃないんです!姉は私に酷い事なんて一切してないんです!むしろ私を私を守ってくれたんです!」
声を荒げる妹を諫める。
「アイリス・・・・・いいわ。」
「お姉さまっ・・・・・」
「確かに私は彼女に心無い言葉で虐げてきたわ。」
「言葉だけではないだろう。いくつもの証言が上がっている。」
「確かにその場に私も居たわね。」
私は妹に対する悪意があるのを知っていた。把握できる範囲ではそれを諫めて守ってもいたのだ。時に厳しく妹に躾けることもあった。
彼女は私からの言葉の意味を考え理解しそれを行動に移してきた。今では殿下の隣に居ても問題ない立派な令嬢になったのだ。今まで不幸であった妹に対する最後の幸せのお裾分けとして申し分ないでしょう。
私が全ての悪意をこの身に受け舞台から去ればあとは後々の国の危機に対する対策だけ。勇ましく聡い妹ならきっとそれも解決するでしょう。私は助言を授けるのみでその役目も終わったのです。
「認めたな。だがお前にしてはひとつだけ疑問が残っている。」
「疑問・・・・・ですか?」
「ああ、いくらお前が婚約者に留まろうと必死であったとしてもだ。アイリスに暗殺者を仕向けるのは疑問が残る。」
「アイリスに暗殺者が・・・・・」
おそらくその暗殺者は私と敵対している父の可能性が高いだろう。妹の事も自らの権力を高めるための道具にしか見てないのだから。
いらなくなった玩具は壊す父の事だ。私に罪を擦り付け妹を殺害し心を痛めたふりをして更に上にいこうとしたのだろう。すべて陛下には把握されているのに。
「ああ、計画書も押収したがそれの筆跡はお前のもので間違いないと判断された・・・・・のだがな。そもそもこんなやり方をしたらお前の立場が悪くなるだけだ。それが分からないお前ではないだろう。」
「はい。暗殺者は私には一切覚えがありません。」
「やはりか・・・・・これは公爵家も絡んでるだろう。」
やはりですか・・・・・ここは私がひと押しするべきところでしょうか・・・・・
はぁ・・・・・とため息をつきながらこれからの予定に思いを馳せる殿下。
殿下・・・・・いくらこれが茶番の断罪であってもそれはダメですよ。
ついつい殿下をじとっとした目で見てしまう。殿下と目が合う。慌てて取り繕う殿下の姿がそこにはあった。
「ともかくだ。お前のアリシアに対する行いそれは貴族として好ましいものではない。それも公爵という上の立場の人間としても恥ずべき行為だ。」
「はい。確かに公爵令嬢として失格と言っても良いほどの愚行でしたね。」
「賢いお前ならこれから私が言おうとしてることも分かるだろう。」
「ええ、私と婚約を破棄し妹と結ぶのですね。ですが婚約は陛下のお考えでもありますから一度話し合われてはいかがでしょうか。」
「陛下にも話は通した。その結果がお前との婚約破棄だ。」
「陛下が納得しておられるなら臣下である私には従うほかありませんね。」
「はぁ・・・・・お前は昔から・・・・・」
殿下それはいけませんよ・・・・・30点です。
ええ、私は婚約者である殿下の事は好いてはいなかったのです。なので妹がその恋を私に打ち明けた時に既にこうなると悟っていました。
そう、私は
例え偽りの罪であろうとも愛する妹の幸せのためでしたら私は・・・・・
「今一度ここに宣言する。私。アーサー・ブリタニアはアリス・リデルハートとの婚約を破棄することを。」
「承りました。殿下。」
「そして殺人未遂の罪で容疑者であるアリス・リデルハートを拘束する。」
今日、私は栄誉ある第一王子の婚約者から殺人未遂の犯人に転落した。
そう、これは誰かに仕組まれた陰謀である。父が私をいや、王国を滅亡させる最後のピースが揃ったのだとその時私には理解したのだ。
尚、これは全て私たち姉妹と殿下による茶番のはずだった。敵をあぶりだすための茶番劇。
実際殿下は妹を正妃としたあと私を侍女もしくは妾として置いておく予定みたいなのです。だってそうしないと妹が寂しがりますので。
まぁ殿下が私にも手を出すかはあずかり知らないところではありますが。というか私が妹を虐げるとかありえません。これが終わった後にも実はこっそり妹と二人でお出かけする予定もありますもの。
でもそれは私の予想しえない形で覆される。
殿下の目の前から去ろうとした時、私を拘束しようと動く騎士たちの中で一つだけ違和感を覚えた。明らかに様子のおかしい騎士が居たのだ。
目は血走り、ぶつぶつと言葉を紡いでいる。その手には剣がある。それを見た私にひとつの光景が映し出される。
血に染まった床、そこに倒れる最愛の妹。殿下と私は何が起きたかを理解できずに立ち尽くしている。それから更に時間が進む。数か月後の結婚披露会、そこで王都は・・・・・
――炎に包まれた。灰と化した町、至る所にある黒い人であったもの。動いているものは私以外いなかった。それを見てしまった私はついつい体が動いてしまった。
私に集う騎士たちを押しのけ、妹を突き飛ばし迫っていた危機を私が代わりに請け負う。胸から刃が飛び出した。殿下から怒りに染まった声が聞こえる。ああ、でもその内容が一切聞こえてこないのだ。
ばたりと床に倒れる。殿下と妹が倒れた私に必死な表情で何かを訴えている。人生最後の予知の光景を見る。
これは禁じられた贄の術が学校全体にかけられてたみたい・・・・・私か妹がここで消されることによって開けてはいけない
――古に封じられた邪悪なる神の棺を
――ああ、災厄が訪れてしまう
最後の力を振り絞って多くの民を救うための希望を未来に託して魂は私の
――あとは妹であるあの子が成すことです、どうかこの国を民を救ってあげてください・・・・・父から。
最後に私が思い残したことはただひとつ。妹が殿下と結ばれる一番の幸せな光景をその目で見れなかったことだった。
ああ・・・・・妹の晴れ姿みたかったなぁ・・・・・
まず1話はお試しになりますのでしばらくはこのままになるかと思います。
ある程度書き溜めができましたら順次更新していきますのでご期待ください。
悪役令嬢をただの性格が悪い悪役にしたくないという方針ですのでおそらく悪役令嬢・・・・?え?となると思います。