三人が草原を歩くこと30分。
遂に前方にちらっと森が見えてきた。
二人を抱えたマルドクは活力を取り戻してペースを上げて歩いていく。
「やっと着いた!」
「結構深い森だね…」
「相変わらず心臓に悪い移動方法だ…」
三人は森の中に足を踏み入れる。
鬱蒼としたその森は上空からの光をほとんど通しておらず薄暗い。
それに、藪も多くモンスターの奇襲攻撃に向いた地形だ。
「私が守ってあげるよー!」
「本当、誰より頼りになるよ」
「メイプルがやられる=ほぼムリゲーだからな」
楓がやられる攻撃ならば誰だって耐えることは出来ないだろう。理沙と斯波も周りを警戒しつつ楓の陰に隠れるようにして森を進んでいく。
その後三十分。
三人が危惧した奇襲攻撃は結局一度もなく、平和な探索が続いていた。
「何も出てこないね?」
「もう、出てこなさ過ぎて不気味」
「あはは…確かに…」
「ここまでくるとなんか裏がありそうだよな」
しん、と静まり返った森は理沙の言うように不気味だった。
奥に行くにつれて本当に物音一つしなくなっていく。
「な、何か話さない!?」
言い表せない不安から理沙が叫ぶ。
「えっ!?い、いいけど?えーっと…」
この空気を変えるために楓が無理やり話し始めようとしたその時。
三人にはボッという発火音が聞こえた。
ここにきて初めての物音だったため、三人は敏感に反応して音のした方を向く。
そして、二人には青い人魂が数個ゆらゆらと近づいて来ているのが見えた。
「ここはゲームここはゲームここはゲームっ……!よし、大丈夫、大丈夫……」
理沙がぶつぶつと呟く。
「ハハッ、馬鹿だなー理沙は。あれはプラズマに決まってるだろ?」
「二人とも全然大丈夫じゃないよね!?」
「逃げる?逃げよう?そうしよう?」
「そうだな!逃げたほうがよさそうだ!」
大丈夫でない事は証明された。
「まあ、【悪食】使うのもったいないし…」
「じゃ、じゃあ装備外して!斯波に背負ってもらいな!ち、近づいてきてるから!」
「そ、そうだな!任せろ!」
楓は念のためにと新月だけを装備した状態で斯波の背に乗る。
その瞬間理沙を抱えて斯波が無言で走り出した。
あの人魂が現れてからはモンスターも活気づいてきた様子で。
浮遊する髑髏や、色とりどりの人魂や、ゾンビや半透明の人間など、よりどりみどりの亡霊や幽霊が現れ始めた。
「くうっ……!こんな森入るんじゃなかったっ!」
「おー!綺麗な炎!緑色とかもあるよ!」
「仏説・摩訶般若波羅蜜多心経…」
「ちょっ!お経唱えるのやめて!」
砂漠とツンドラ程に温度差の激しい三人は戦闘をすること無く森を駆け回る。
そして、楓がボロボロの廃屋を見つけると斯波は緊急避難とばかりに飛び込んだ。
「ボロボロだね…探索しておく?」
「任せた」
「昔っから幽霊駄目だもんね〜」
「あれに慣れるのは無理。ゲーム内なら逃げ切れるだけマシだけど……。それを言うなら斯波もじゃない?」
「未知コワイ未知コワイ未知コワイ未知コワイ」
「戻って…こい!」
意識が飛びかけている斯波の背中を背中理沙は蹴飛ばす。
「痛っ!ハッ!?ここは一体?」
「メイプルが見つけてくれた廃屋よ」
理沙と斯波は疲れ切った様子で廃屋にあった椅子に座る。楓は探索を始めるが、そもそもこの廃屋内にはほとんど家具が無いのだ。
あるのはボロボロのテーブルと、理沙が使っているこれまたボロボロの椅子。
テーブル下に敷かれた薄汚れた絨毯。
それに古びた箪笥くらいである。
ベッドすらないこの部屋には、人は住んではいないだろう。
窓には所々ひび割れたり、欠けたりしているガラスがかろうじてはまっている。
「箪笥の中身はっと…何もないかぁ」
少しだけメダルがあるかと期待した楓だったがそこまで都合よくはいかなかった。
楓がステータスを開き、付随している時計で現在時間を確認する。
「どうする?ゲーム内時間が六時を過ぎてるし…もうすぐ夜になっちゃうね」
「あー…だから幽霊が出てきたのかも…入るタイミング間違えた……食料はある程度持ち込んだから何とかなるけど。ここに泊まるのは嫌だなぁ……でもなぁ」
「背に腹は代えられない、か」
窓から外を見ると明らかにプレイヤーではない人影がうようよといる。
廃屋内にモンスターが入ってこないことからここは安全そうだ。
しかし外に出れば理沙と斯波にとって阿鼻叫喚の地獄であることは間違いない。
「仕方ない…我慢するか……」
探索を終えた楓も座る。椅子は無いため斯波の膝の上に。
「え、なんでそこに座るん?」
「ハッ!?いつの間に!?」
「ちょっとメイプル!椅子がないなら代わってあげたのに!」
「ごめんごめん、なんかマルドクの上が自然にフィットするから…」
「俺は低反発枕か」
「とりあえず楓はこっちの椅子に座って」
理沙の言葉に従って楓は先ほどまで理沙が座っていた椅子に座る。
「で、マルドク。分かってるわよね?」
「ん?膝の上に座るんじゃないのか?」
「ハハハ、何を言ってるのかな?ここに決まってるじゃない?」
そう言う理沙の人差し指は床を差している。
「え、なんで俺がお前の言うことを「ロッカーの扉」聞いてもいい気がしてきた」
「分かればよし」
床に直接座ることになった斯波に若干不憫な目線を向けながら楓が提案する。
「一応装備は戻しておいてと…大盾は白雪でいいかな……後は、トランプでもする?」
ゲーム内にも簡単な娯楽アイテムは幾つか存在するのだ。これはそのうちの一つである。
「ちょっとは気も紛れるかもしれないけど…三人じゃ何をやってもすぐ終わるよ?」
「あっ!そ、そっか!考えてなかった!」
「いや、ポーカーとかなら成立するんじゃないか?」
多少は調子も戻ってきたようで、ぐっと伸びをすると理沙は楓の持っていたトランプを受け取って配り始める。
夜はまだ始まったばかりだ。
「よーし…こっちだっ!」
「はい残念、ジョーカーです」
「ぐぐぐ……」
「顔に出てるぞ」
楓が唸る。
三人は、トランプや双六など楓が出したゲームで遊んでいた。
途中に夕食を挟んで、ゲームを続ける。
ゲーム内のため食事は摂らなくても問題は無いのだが、理沙はゲーム内で時間を過ごす時もリアルと同じように食事を摂らないと調子が出ないとのことで、食料を大量に持ち込んでいた。
理沙は楓と斯波にも食料を渡して二人で食べた。
楓が持ち込んだのは娯楽アイテムくらいである。
「んー…こっち!よし、勝った!」
「くそぉ…」
「メイプルポーカーフェイス苦手なのか?」
修学旅行の一室を切り取ったかのような光景ではあるが、周りは樹海、いるのは廃屋である。
「結構時間経ったね…もう十時だよ」
楓が時間を確認し、トランプなどをインベントリにしまう。
「外は相変わらず元気に動き回ってるし…これはここで一泊かなぁ…」
「多分それが最善なんだろうな、非常に不本意だが」
「ごめんね探索出来なくて」
「いいって!ただし、明日は頑張って活躍すること!」
「了解!」
「イェス!マム!」
三人は寝袋を出すと床に広げる。
互いに挨拶を交わして床につく。
モンスターが襲ってくる可能性がゼロではないため交互に二時間ずつ眠る。
まずは楓が眠る番だ。
「静かだなぁ…」
楓と斯波の寝息しか聞こえない廃屋で理沙は一人椅子に座って周りを警戒する。
心配も杞憂のようでモンスターは襲ってこなかった。
そして十二時になりそろそろ楓を起こそうと立ち上がった時。
テーブル付近からノイズのかかった低い声が聞こえた。
それは断続的に、しかし確かに聞こえる。
「うううわぁあああっ!」
楓を起こそうと立ち上がった理沙が楓の方へ崩れるように倒れ込む。
楓は持ち前の防御力でそんなことは意に介さず眠っていたが、鎧と床がぶつかって派手に音を立てたのと、叫びを上げる理沙と、低い声のトリプルコンボで目を覚ました。
当然その音で斯波も目覚めた。
「どうしたの……?」
「で、出た!テーブルに!テーブルに!」
「何故に倒置法」
恐怖と焦りで語彙が貧困になっている理沙をひとまず置いておいて楓がテーブルに近づいていく。
そこからは確かに低い声が聞こえる。
楓は音の出所を突き止めようとして耳を澄ませる。
「テーブルの…真下?」
「テーブルの…真下?」
そこにはボロボロの絨毯が敷いてある。
理沙とうめき声に気付いた斯波が隅っこで丸まってしまっているためテーブルを全力で動かす。
【STR 0】とはそういうものだ。
そして絨毯をめくって下を確認する。
「これは…地下がある?」
そこには切れ込みの入った床があり、取っ手が付いていた。
楓は早速それを開けてみる。
「簡単に開いたね!…階段か」
声は大きくなっている、元凶は間違いなくこの下にいる。
「探索行ってくるね?」
「私も…いく。楓がやられたらまずいし…」
理沙がゆっくりと立ち上がって楓の後ろにぴったりひっつく。
「俺も…、ここで一人だけ残ったら男として大事な何かをなくす気がする…」
斯波も理沙の後ろにぴったりついていく。
「前は任せなさーい!」
「ありがとう…よしっ…!行こう!」
「このまま一人でビビってるのもあれか…気合入れるか!」
他の二人も気合いを入れ直し、目指すは地下から響く声の主のところだ。
三人は階段を下っていった。
科学者系キャラってお化け苦手なイメージがある…。
科学的に証明できないものが怖い的な。
マルドクの武器変形先は?
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大鎌
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大鋏
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大剣
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アンカー
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斬馬刀