喧嘩と勝利と敵と永遠 作:kuryu
その少年は、とにかく喧嘩が好きだった。学校に行っては不良と拳を交え、街ではヤクザっぽい人とぎりぎりの喧嘩をして。そのおかげか、少年は警察官である塚内とは顔見知りになっていた。顔見知りとはいっても、お互い望んだ関係ではなく、少年からすれば「邪魔をするな」という怒り、塚内からすれば「また君か」という呆れがあった。
「あのねぇ、君。あれほど喧嘩はやめなさいって言ったのに、またやったのか?」
「あれほどやめなさいって言って聞かねぇなら言わなきゃいい」
取調室のような一室で向かい合うように座り、「喧嘩はやめなさい」「やめない」を繰り返すこと数十分。初めのうちは姿勢よく少年を諭していた塚内も段々背中が丸まってしまっていて、少年に関しては頬杖をついて明後日の方向を見ている始末。その態度の悪さに塚内が眉間に皺を寄せてもどこ吹く風。少年にとって、喧嘩が発生しない警察官との会話はほぼ無意味と言ってよかった。
ただ、この少年のタチの悪さは態度等ではなく、喧嘩の相手にある。
少年は喧嘩が好きで、勝つことも好きだが当然ただただ喧嘩をし続ければ立派な
つまり、少年が喧嘩をする相手は、いじめっ子であったり本物の敵であったり、「なんで手を出した」と言いづらい相手と喧嘩をしているのだ。更に、資格を持たず使用することを禁止されている個性は一切使わず、である。喧嘩をすることによって各所に迷惑をかけるのと同時に、確かに救われている人間もいるというタチの悪さが少年にはあった。
「君が喧嘩をすることで悪いことが起こるかもしれないんだぞ? 例えば、君が倒した相手が復讐しにくるとか」
「そうしねぇようにすんのがそっちの仕事だろ?」
「そうする手間をなくしてもらうと助かるんだけどな……」
塚内は頭を抱えた。これが確かな正義感を持って行われているものならまだしも、少年は喧嘩をしたいからこういう手段をとっているだけである。その思考はヒーローのものというより、敵のものに近い。それも、やり方の汚い狡猾な敵。塚内が危惧しているのは、まさにそれだった。15歳という若さでこれならば、成長したときこの少年はどうなるのか。
「……いっそ、ヒーローになってみるっていうのは」
塚内が考えたのは、敵になってほしくないならヒーローの道を示すこと。ヒーローの敵退治も言ってしまえば喧嘩であり、今とやっていることはそれほど変わらない。チンピラに勝てる腕っぷしもあるとなれば、ヒーローになれると考えてもおかしいことではなかった。
しかし、塚内は少年のことを何も知らなかった。度重なる補導で顔見知りになったとはいえ、少年がどこ吹く風の態度を続けてきた今までで、少年について知っていることはほとんどない。塚内が少年ついて知っていることは、『
そのため、それが少年の地雷であるということは当然のごとく知る由もなかった。
「……無個性がヒーローになれンのかよ?」
それはまさしく、獣。塚内を睨む少年……永遠の目は捕食者の眼光。
誰もが心躍らせて受ける個性診断。永遠も例に漏れず心躍らせて受けたその日、永遠は無個性と診断された。永遠はそのときのことを今でも覚えている。丸い眼鏡をかけ、白いひげを生やした医者から無個性と無慈悲につきつけられたその日のことを。あの時、永遠は周りの子どもと同じくヒーローに憧れていた。ただ、永遠のことを無個性と知った周りが、永遠を見下し始めたその時から憧れるのをやめただけである。
そして、永遠が喧嘩を好むようになったのもその時だ。
「無個性がヒーローになるっっつーと、周りは絶対バカにしてきた。そういうやつらは決まって個性持ち。だからそいつらを片っ端からぶっ飛ばしてきたんだ。そんで言ってやんだよ。無個性だと思って見下してきたやつに見下ろされる気分はどうだ? ってな」
永遠は、喧嘩が好きだった。正しくは、個性を持っている人間をぶちのめし、見下ろすことが好きだった。そのためならどれだけ傷つけられても立ち上がって、何度も倒してきた。
永遠と喧嘩をした者は皆、永遠のことを「不死身」だと表現する。
その後、いつものように永遠は親に連れて帰られ、ご飯を食べ、風呂に入り、眠りについた。そして、次に起きた時には体が一切動かず、激痛と熱さと焦げ臭さがあった。永遠はどこか他人事のように、「あぁ、家が燃えたか」とぼんやり考え、次に怒りが湧いてきた。
別に、親が燃えたからではなく、ただ単純に喧嘩もせず燃やされている自分に、喧嘩もせず燃やした相手に対してキレているだけである。永遠は炭になることも構わず、もはやどう力を入れているのかもわからないまま体を起き上がらせた。
「そうだ。君はそういう子だよね」
その炭になりかかっている永遠の隣には、いかにも怪しい男がいた。目と鼻がなく、数本管がついたマスクをつけたガタイのいい男。焼けている永遠にはその男の姿は見えなかったが、微かに声は聞こえていた。
「どうやら、これをやったのは君が喧嘩を売ったヤクザが死穢八斎會の一員らしくてね……もっとも、君に負けたやつは死穢八斎會の若頭にみっともない真似をした罰として殺されかけたらしいが……運よく逃げ出し、復讐として燃やされたんだろうね」
らしい、だろう、という言葉を使う割に、男の言葉はどこか確信めいたものがあった。まるで、そうなるのがわかっていたかのような。しかし永遠は、喧嘩で負かした相手に復讐されたという部分だけを意識し、激しく怒りに震えた。
「仕返ししてやろう。どうせなら、死穢八斎會全体に。僕がそれだけの力を君にあげよう」
君も、勝つのは好きだろう? という男の言葉に、永遠はかすれた声で「当たり前だろ」と返した。