追放されし者たちの話   作:J坊

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盗賊の場合

 

「盗賊! 今日限りでキミをパーティーから追放する!」

 

 ――すべては勇者のこの一言が始まりだった。

 

「なんでだよ⁉ 理由を言ってくれ!」

「理由なら簡単だ。キミはもう戦闘では足手まといなんだ」

 

 部屋に集まったパーティーメンバーが見守る中、盗賊は勇者に食ってかかる。

 だが、勇者は冷徹に突き放した。

 

「……みんなの意見を尊重した結果だ。分かってくれ」

「そ、そんな……嘘だろ……」

 

 足元が崩れていくような感覚に囚われながらも、盗賊は仲間たちを見渡す。

 すると全員が勇者と同意見だと頷く。

 

 戦闘では足手まとい。

 確かにそれは、自分でも感じていた。

 魔王軍の本拠地に近づくにつれて、敵も強大になり、故に今の自分では戦闘面では役に立たないのは事実だった。

 それでもパーティーに貢献しようと、少しでもみんなの役に立とうと、斥候・情報収集・各村での交渉は勿論、炊事洗濯裁縫に装備の手入れ、果ては荷物持ちや夜間の見張りまで、こなしてきたというのに……

 

(お払い箱というのか……)

 

 今まで、仲間だと思っていたのは自分だけで、実際は都合のいい雑用係としか思っていなかったのか……

 悔しさで溢れる涙を拭い、盗賊は仲間との溝は修復不可能と感じ、その場を後にしようとする。

 

「待て! 盗賊!」

「なんだよ⁉ 俺はもう、お払い箱なんだろ⁉ それともなにか⁉ 装備一式置いて行けとでもいうのか!」

「なにを言うんだ! キミはお払い箱なんかじゃない! まだ、僕たちにはキミの力が必要なんだ!」

「はぁ⁉ 馬鹿にしてんのか⁉ お前が今、俺を追放するって言ったんじゃないか!」

「あぁ、そうだ! しかし、それは形だけだ!」

「は?」

 

 言っている意味を理解できず、首を傾げる盗賊。

 すると勇者は「例のものを」と武道家に指示をだす。

 そして、武道家は道具袋から“あるもの”を取り出した。

 

「………………それは?」

 

 うん、ホントなんだこれ?

 取り出されたのは動物の毛皮……いや、よく見れば着ぐるみだ。

 緑色のカバだかロバだか、なんだかよくわからない生物の着ぐるみを、武道家は盗賊に手渡した。

 

「それは勇者パーティーのマスコットキャラ、その名も『ゆっくん』だ!」

「ゆっくん」

「そう! キミは今日限りで勇者パーティーを追放する! そして、ゆっくんの中の人として生きてもらう!」

「訳が分からないよ⁉」

 

 手渡されたそれを、勇者に突き返す盗賊。

 うん。ホントに意味が分からない。どゆこと?

 混乱する盗賊に「あ~……あたしが説明するわ……」と、成り行きを伺っていた魔法使いが挙手発言。

 こうなった経緯を説明しだした。

 

「知ってると思うけど、私たちより以前に、過去に二度、勇者パーティーは結成されているわよね?」

「あ、あぁ、それは知ってる」

「で、今回で三代目になる勇者パーティーだけどね……その……初代と二代目がやらかしてくれてね……」

「あー……」

 

 額を抑え、項垂れる魔法使い。その様子に盗賊は思い至る節がある。

 

「初代・先代の勇者パーティーは共に、魔王との戦いの果てに殉職した」

 

 ……と言うのは表向きの話。事実は全く異なる。

 

「確か、初代勇者パーティーは勇者って秘密裏に処刑されたんだっけ?」

「そう。国の支援金を使って贅沢三昧に飽き足らず、立ち寄った村々から、金品を強奪同然に徴収するわ、他にも強姦・人身売買の余罪まで出てきて、最悪だったのよ」

 

 その結果、被害者たちは暴動を起こし、一部地域で内乱状態に。

 魔王軍と戦っている最中にこれは不味い。王国は和解のための賠償金を払い、初代パーティーを“勇者パーティーの名を語る不届きもの”として処罰した。

 

「んで、二代目は勇者支援国の有力者である公爵家の跡取り息子の婚約者を寝取った上に、事故に見せかけて殺害しようとしたんだっけ」

「そーよ。『俺のパーティーに男はいらねぇ!』ってハーレムパーティー作ってたのよ」

 

 後にとあるエルフの少女に助けられた跡取りは、この事実を実家に公表。

 各勇者支援組織も「顔に泥を塗られた!」とぶち切れ、王国を非難。

 二代目勇者パーティーは奴隷に落とされ、勇者は鉱山で、ハーレムメンバーは娼館で重労働中だとかなんとか……

 

「そんなこんなで、現在、勇者の名声は地に堕ちている状態なわけ……」

「そういえば、俺ら王城に招集された時、前の二つと違ってパレードとかやんなかったな……」

「聖剣も勇者の力を司る女神さまも『次、同じような奴選んだら力貸さん!』ってブチギレたらしいしね」

「マジか」

 

 そんなこんなで、我ら三代目勇者パーティーは汚名を削ぐため、日夜頑張って、真っ当に魔王討伐の旅をしているわけだ。

 

「……で、それと俺がマスコットキャラになることになんの関係が?」

「実は王国の人事部から『盗賊なんて仲間に入れてると世間様からまた、バッシングを受けかねない! なんとかしろ!』ってお達しがきてねぇ……」

「でもキミがパーティーを抜けたら困るんだ! さっきも言っただろ? まだ僕たちにはキミの力が必要だって」

「でも俺、戦闘じゃ役に立たないよ?」

「確かに“戦闘”じゃ役にたたないわよ? けどね、それ以外でパーティーに貢献してんでしょ」

「斥候や情報収集、交渉、物資の補給に炊事洗濯……キミにしかできないことは山ほどあるんだ‼」

「ゆ、勇者……」

「それに、君がいないと僕、朝起きられないんだぞ⁉」

「自分で起きろ」

 

 毎朝毎朝、二度寝ならぬ五度寝する勇者に、盗賊は冷徹に言い放つ。

 

「そうだ! お前がいなくなったら、俺のパンツが破れた時、誰が縫ってくれるんだ⁉」

「自分でやれ」

 

 毎回毎回、戦闘のたびに道着どころか、下着まで全損する武道家にツッコむ。

 

「二人の言うとおりだ。それに、お前がいないと私は、夜トイレにいけないんだぞ⁉」

「お願いだから一人でいけるようになって!」

 

 墓地だのダンジョンだのでアンデッドに出くわす度に、トイレまでついてきてほしいと頼んでくる女騎士にもツッコむ。

 

「あと、あたしの原稿手伝ってくれる人がいなくなるのも困るのよ。あんたがアシしてくんないと今年の夏の祭典に間に合わないし」

「おめーは魔王討伐の傍ら、何やってんの!?」

 

 実は壁サーの大手作家である魔法使いにもツッコんだ。

 こいつのおかげで、ベタ塗りやらトーン貼りもやたらうまくなったもんだ。

 

「でも、世間の声には抗えないのも事実。そこで、ピーンときたのよ」

「世間からのイメージアップが出来て、きみも残れる方法。それはゆるキャラだ!」

「やっぱ、まだ勇者パーティーへの不信感が民衆に残ってるからね。ここで、一つマスコットキャラを加入させ、親しみを持ってもらおうかとみんなで話し合ったのよ」

「えぇー……俺聞いてないんだけどー……」

 

 報連相はしっかりしてほしい。

 そう思う、盗賊だった。

 

「まぁ、事情は分かったけど……正気か? こんなん着て魔王討伐を続けるの? って言うか、これなんなの? ロバなの? カバなの?」

「製作者曰く、ゆっくんは勇者ランドからきたドラゴンらしい」

「ドラゴン!? 嘘だろ!? って言うかなんだよ、勇者ランドって。誰だよ製作者って?」

「おい! 私が夜なべして作ったゆっくんになにが不満なんだ?」

「お前かい」

 

 よく見れば、両手の指すべてに絆創膏が貼られてる女騎士。

 頑張ったんだろうなぁとしみじみ思う。

 

「……まぁ、そんなこんなで、君には不自由をかけるが、今後はマスコットとして後方支援と広報に勤しんでほしいんだ」

「えー……でもなぁ……」

「その代わり、戦闘には参加しなくていい! か弱いマスコットを戦わせる訳にはいかないからな!」

 

 勇者の言葉にも一理ある。

 彼の言う通り、戦闘面で役立たずになりつつある以上、ここらが引き際だろう。

 仕方ない。と呟くと盗賊はゆっくんの着ぐるみを受け取った。

 

「……分かった。今後は盗賊としてではなく、マスコットとして頑張らせてもらうよ」

「ありがとう! 僕たちも君の抜けた穴を埋められるよう精進するよ!」

 

 こうして、この日、盗賊は勇者パーティーから追放され、代わりにマスコットキャラ『ゆっくん』が加わった。

 

「そう言えば、勇者パーティーから追放された下級職が異常な力を手に入れるという噂を聞いたことがあるが……まさか、盗賊。お前も……」

「いや、それ都市伝説だから。って言うか、そもそも追放って言っても書類上の話だろ?」

「だよなぁ。今回は例外だよなぁ」

「まったく、小説の読みすぎだろ」

「「「HAHAHAHAHA」」」

 

 思い出したかのように呟いた武闘家の話を笑って一蹴し、盗賊は早速着ぐるみを装備する。

 ちなみにこの着ぐるみ、魔法使いが色々気を利かせて、温度調節機能やら消臭機能やらを付与してくれたそうで、着ぐるみ特有の問題点は既に解決済みらしい。

 

 仲間の気遣いに報いるため、盗賊は心機一転、マスコット業に専念することになった。

 

 

 

 ――時は流れて、決戦の日。

 

「ダークインフェルノぉぉぉぉぉ‼」

「「「「うわああああああああああ‼」」」」

 

 魔王の手から放たれた地獄の炎が勇者たちに襲い掛かる。

 

「がははははは! 他愛もない。勇者パーティーなど所詮、この程度か‼」

 

 すべてを焼き尽くす地獄の業火だ。直撃を食らえば、骨も残らない。

 高笑いをする魔王だったが、しかし、その余裕は一瞬にして崩れ去ることとなった。

 

「な、なんだとぉ!?」

 

 炎の中から悠然と姿を現した“そいつ”を前に魔王は驚愕する。

 

「き、貴様はまさか、勇者パーティー最強の……」

 

 部下から聞いていた報告を思い出す。

 “そいつ”が加入してから勇者パーティーの快進撃は始まった。

 

 その惚けた外見とは裏腹に戦闘ではまさに天下無双の力を振るい、奴の手により四天王は次々と敗れ去った。

 さらには偵察・斥候・炊事洗濯なんでもござれ。

 その愛らしい姿に魅了され離反した部下は数知れず。

 

 そう、奴こそが勇者パーティー一の実力者――――

 

「おのれゆっくぅぅぅぅぅん‼」

「ゆっくん」

 

 地獄の炎も何事もなく潜り抜け接近したゆっくんの右ストレートが炸裂し、魔王の身体には大きな穴が開いた。

 

「まさか、魔王であるこの私が、ゆるキャラなどに……」

 

 肉体の崩壊を防ぐことができず、魔王はそのまま塵となり、朽ち果てたのであった。

 

 

 

 

 

「……おかしいな、絶対」

 

 ゆっくんこと盗賊は現状を理解できなかった。

 ただのマスコットに成り下がった途端、始まった展開についていけなかったのだ。

 

「なぁ、姫騎士よ」

「なんだ、ゆっくん」

「この着ぐるみの材料ってなに」

「うむ、たしか神龍の鱗と聖獣の毛皮・あと鳳凰の羽毛だったかな」

「……まじかよ」

 

 姫騎士が述べたものは全て、伝説級や国宝レベルの素材だった。

 神に等しい存在・超Sランクモンスターからしかドロップできないそれらをふんだんに使ったこの着ぐるみは最早、ただの着ぐるみではない。

 聖剣すら余裕で凌駕する神の装備と化していたのだ。

 

 ちなみに、姫騎士がなんでそんなもの持っているかと言えば、答えは簡単。

 こいつの親が国王陛下であるからだ。

 子供に激甘な国王様にねだって、素材を譲渡してもらったと暴露された。

 

「いや、ホントどうすんだよこれぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 いくら私物とは言え、トンデモネェバグ装備。

 持っているだけで国際問題に発展しかねない。

 

「どうすんだよこれ、ホントどうすんの!? マスコットが魔王倒しちゃったよ!?」

「やったな、盗賊! これで世界は救われた!」

「救われたけどもっ! これ俺捕まんじゃねぇの!?」

 

 下手したら“姫をそそのかして~”みたいな因縁つけられて、監獄送りにされかねない。

 だって僕は盗賊だもの……

 

「大丈夫だ! 陛下はこの戦いが終わったら、正式にゆっくんを我が国のマスコットキャラに認定するらしい。キミは今後もゆっくんとして活動頑張ってくれ!」

「いや、頑張れねぇよ!? 俺はこの戦いが終わったら盗賊から足あらうつもりだったんだよ」

「足洗って、ゆっくんの中の人として再スタートきりなさいよ。でないとランドで一儲けしようとしてたあたしの計画がパーになるじゃない」

「お前の計画ってなに!? 初めて聞いたよ!?」

 

 どうやら裏でちゃっかり戦後、レジャー施設の建設を画策していたらしい。

 お前、商人に転職した方がいいんじゃねぇの?

 

「そんなことより、俺のパンツしらないか?」

「知るかっ!」

 

 魔王との戦闘によりすっぽんぽんになった武闘家にツッコミを一蹴し、ゆっくんは「どうしてこうなったああああああ!」と叫ぶのであった。

 

 その後、ゆっくんは大型レジャー施設「勇者ランド」のマスコットとして末永く愛されたそうな。

 めでたし、めでたし。

 

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