追放されし者たちの話   作:J坊

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勇者の場合(前編)

 

「勇者様、あなたをこのパーティーから追放します」

 

 パーティーメンバーからの追放宣告にリーダーである勇者はしばし呆然とするも、すぐに我に返ると、「ふざけるな!」と怒鳴りつける。

 

「なにを言っているんだ!? 魔王城はすぐそばだ! それなのに追放だと!? ふざけるな!」

 

 魔王に対抗できるのは聖剣を手にした勇者のみ。

 なのに、その勇者を追放する? 冗談でも言って良いことと悪いことがある。

 だが、彼らは真剣だった。

 

「ふざけてんのはテメェだろうが。知ってるんだぜ? お前、あのクソ国王におふくろさんを人質に取られてるらしいじゃねぇか……」

「ッ!? なぜそれを……!?」

「みんな知ってますよ。『勇者様は魔王を倒さなければ母親の命はないと脅されてる』って」

「……」

 

 ――仲間の言う通りだった。

 

 今まで数々の勇者が魔王討伐に挑んだが、すべてが返り討ちにされ、残ったのは自分一人。

 そんな自分に死に物狂いで魔王を倒させるべく国王は母親を人質にとった。

 父を早くに亡くし、女手一つで育ててくれた母親を勇者は見捨てることは出来ず、今日まで魔王討伐の旅を続けてきた。だが……

 

「今回ばかりは話が別だ。魔王の力は強大過ぎる」

「魔王を倒したとしても、あの国王のことだ。貴様を生かしてはおかんだろう……」

「それは……」

 

 反論ができなかった。

 はっきり言って、今の国王は暗君だ。

 魔王討伐を理由に各地に重税を課し、歯向かう者はすべて処刑。

 そんな者が魔王を討伐した勇者をどうするか? 母を人質に取ったことから容易に想像できる。

 

 進むも地獄。退くも地獄。

 最早、勇者はどうあがこうとロクな結末は免れない。

 

「だから、キミを追放する。そうすれば国王の眼を一時的に逸らすことが出来るハズだ」

「その間、貴様は国に戻り母親を取り戻せ。そしてそのまま、逃げろ。手筈は整えている」

「魔王の方も俺たちが何とかする。倒すのは無理でも、足止めくらいならなんとかできるぜ」

「あなたは十分戦いました。あとは私たちに任せてください」

「み、みんな……」

 

 そんな自分を思い、彼らは断腸の思いで追放を言い渡したのだ。

 その優しさに思わず勇者の瞳から涙が零れる。

 だが、その優しさに甘える訳にはいかない。なぜなら……

 

「……キミたちの気持ちは分かった。だが、その前に確認したい。キミたちの職業は?」

「パン屋だぜ!」

「花屋よ!」

「文具屋です!」

「駄菓子屋だ!」

「商店街か!」

 

 そう。彼らは民間人だった。

 

 現在、この大陸は「勇者暗黒期」と言えるほど勇者のイメージ像は悪化の一途を辿っていた。

 勇者と言う特権階級を笠に着た連中が民間人に危害を加えているのが原因だった。

 その犯罪は多岐に渡り民家に押し入っての窃盗・強盗・器物破損は序の口。

 奴隷の売買や強姦・果ては殺人まで犯す者もいると言う。

 

 当然、そんなことを繰り返す連中に協力する者は少なく、他の勇者パーティーに所属する者は皆、勇者に取り入り甘い汁を吸いたいか、無理矢理任命されたかのどちらかだ。

 そんな情勢の中で、彼らは自ら志願し勇者パーティーに加わってくれたのだが……

 流石に、彼らに魔王をどうにかできるかなんて思えなかった。

 だって普通に民間人だもん。

 ここまで来れたのも、ほとんど運みたいなもんだもん。

 

「そもそもなんでパン屋と花屋と文具屋と駄菓子屋なんだよ……鍛冶師とか道具屋ならまだなんとかなりそうなのに……」

「おいおい勇者、パン屋を舐めるなよ? 俺のパンはわざわざ魔王軍から買いに来る奴がいるくらいうまいんだぜ?」

「私もです。先日魔王軍の四天王の方がプロポーズの為にウチの花を買っていかれました」

「なに、敵に塩送ってんだよ? せめて毒とか仕込んでおいてよ」

「「そんなことパン屋(花屋)の誇りにかけて出来る訳ねぇだろ(ないでしょ)!」」

「なにこの人たち、めんどくさい」

 

 職業意識の高い二人に勇者は頭を抱えたくなった。

 そうなると武器とか扱えるのは文具屋くらいだが……

 

「ふっ、僕を舐めないでください。鉛筆、カッター、Gペン、彫刻刀……文具には意外と刃物や先の尖っているものが多いんですから」

「頼りないよ」

 

 どう考えても鎧とか貫通できないだろう。

 極めつけは駄菓子屋だ。この人、なんでついてきたの?

 

「ふん、駄菓子屋を舐めるなよ? 俺は全国めんこ大会のチャンピオンだぞ?」

「だからなに!?」

「もっともアイツに敗北したから元が付くがな。俺は魔王を倒し、奴を倒す力を身につける。そして、俺の王者のプライドを取り戻す!」

「めんこの話ですよね?」

 

「アイツって誰だよ……」とツッコミを入れながら勇者はあきれ果てる。

 あと、魔王を倒してもプライドは取り戻せませんよ?

 

「とにかくダメだ! 魔王軍は強大だ! キミたち民兵に任せておけない!」

「それは俺たちも同じだ! お前の高潔さに惹かれて俺たちは勇者パーティーに入ったんだ! そんなお前をみすみす死なせられるか‼」

「……」

 

 強情な仲間の姿に勇者はため息を吐いて椅子に座る。

 どうやら互いに譲れないようだ。それならと、勇者は一つの手段を取ることにした。

 

「……分かった。その追放処分、甘んじて受け入れよう。だが……」

 

 瞬間、勇者の指から青白い粒子が放たれ、仲間たちに降りかかる。

 

「!? な、なにを……?」

「キミたちの気持ちはうれしいけど……僕は魔王と戦うのを止めない。止める訳にはいかないんだ……」

 

 言い終えると同時に仲間たちはその場で昏倒。深き眠りについた。

 勇者の唱えた魔法は《睡眠(スリープ)》。文字通り相手を眠らせる魔法だ。

 加えて今回は消費魔力を大目に使った。当分、目を覚まさないだろう。

 

「本当にお一人で行かれるのですか?」

「あぁ……みんなのことをよろしく頼む」

 

 仲間たちが眠ったのを確認し、後のことを宿屋の主人に任せると勇者は一人、魔王城へと向かった。

 

「すまない……みんな……」

 

 こんな自分についてきてくれた仲間たちの気持ちを踏みにじる形になってしまったことを詫びながら、それでも勇者は進み続ける。

 

 この世界に勇者は自分しかないのだから。

 

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