追放されし者たちの話   作:J坊

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勇者の場合(後編)

「待たせたな勇者! よく生きてた‼」

「まったく、下手な芝居打ってくれちゃって。探すのに手間取ったじゃないですか」

「え? え? なんでみんなここにいんの?」

「そんなもの決まってる。俺たちは勇者パーティーだぜ!?」

「仲間を助けるのは当然です!」

 

 どうやら彼らはあの後、すぐさま自身の目的を察し、魔王城に急行したらしい。

 腐っても仲間。自分の浅知恵はお見通しと言うことか。

 

「それはありがたいけど、その恰好は?」

「「「「「ノリッ!」」」」」

「……あぁ、そう」

 

 彼らの独特なノリに呆れてしまう勇者だった。

 あと、もう一つ疑問。

 

「しかし、我が国がここまで腐っていたとは……せめて我々の手で介錯しなければなりませぬな……‼」

「……なんで宿屋のおっさんも来てんの?」

「助っ人に来てもらった」

「ちょうど空きがありましたからね。無理言って来てもらったんです」

「いや無理すぎでしょ!?」

 

 どうやら宿屋の主人を新たな戦力としてスカウトしてきたようだ。

 自分の後釜でももっと、マシな人いなかったのだろうか?

 

「がっはっはっは! 誰かと思ったら勇者パーティーの愚民どもではないか。ちょうどよい、反逆者は全て処刑せよ!」

『はっ‼』

 

 そんな勇者たちをあざ笑うかのように国王は兵たちに命じる。

 突撃してくる兵隊の前に勇者パーティーが立ちふさがる。

 

「みんなダメだ! キミたちの力じゃ兵たちに勝てない!」

「まぁ、見ててください」

「僕たちの力を!」

「見せてやる!」

 

 そう言うと、勇者パーティーも王国軍へと突撃する。

 

「喰らいやがれ! 《パン祭り(ブレッド・フェスティバル)》‼」

「え!?」

 

 先陣を切るパン屋が叫ぶと背後から、無数のパンが時空を超えて出現する!

 

「なぜに!?」

「ふっ、パン屋たる者、いつでもどこでも、焼き立てのパンを提供できるようにしているのさ!」

 

 ……そう言えば、このパーティー、兵糧関係で困ったことなかったような気がするが、こういう事だったのだったのか。

 

「いやでも、それで時空間いじってるってどういうこと!?」

「こういう術は魔族でも高難易度の術なのですが……」

「一流のパン屋に不可能はねぇ! いくぜ! 発射(ファイア)‼」

 

 掛け声と同時にあんパン、食パン、カレーパン、ジャムパン、バターパン・チーズパン……

 メロンパンやロールパン、クリームパンと多種多様なパンが兵隊の口に向かって放たれる。

 そして……!

 

『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』

 

 パンを食べさせられた瞬間、兵隊たちの武装は解除――と言うより丸裸になってしまった。

 

「なぜに!?」

「ふっ、人間おいしいものを食べれば、誰だって丸裸になるもんだぜ」

「いや、物理的に丸裸になってんだけど!?」

 

 すっぽんぽんにされた兵士たちに追い打ちを仕掛けるように、今度は花屋が前に出る。

 

「今度は私の番です! 世界中の花粉よ! 私に力を分けてください!」

 

 すると世界各地より飛んできた無数の花粉が花屋の下に集まり、巨大な花粉の塊を作り上げた。

 

「ま、まさか……!」

「くらいなさい! 花粉玉ぁぁぁぁぁ‼」

 

 巨大な塊となった花粉は王国軍に直撃。

 阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。

 

「ぎゃあああああ! 目が、目があああああ!?」

「は、鼻水が止まらにゃいいいいいい!?」

「ね、眠くてだるくて……もう……ダメだぁ……」

 

 あっという間に壊滅状態に陥る王国軍。

 

「いや、なんで!? なんで一介の花屋がそんなバトルマンガの必殺技みたいなの使いこなせるの!?」

「ふ、一流の花屋たるもの、花粉くらい操れなければ、昨今の業界生き残れませんからね」

「普通の花屋は花粉なんて操れないよ!?」

 

 しかし、彼女の活躍によって、涙、鼻水、くしゃみの止まぬ国王軍は総崩れとなる。

 

「えぇい! なにをしておる! 魔法部隊! 弓兵部隊! 遠距離攻撃で奴らを嬲り殺せ!」

『はっ!』

 

 情けない自軍を怒鳴りつけた国王に従い、魔法部隊と弓兵部隊が攻撃を仕掛けてきた。

 次々に飛んでくる弓矢や魔法。しかし、それを防いだのは文具屋である。

 

「貴様ら文具の貯蔵は十分か!?」

 

 そう言って取り出したのは消しゴム。

 まず、文具屋は消しゴムを魔法や弓矢めがけて投げつける。

 するとどうだろうか。消しゴムが当たった瞬間、消滅したではないか。

 

「なぜに!?」

「ふ、僕の扱う消しゴムはただの消しゴムじゃない。最近知り合った付与術師の力で作られた、字だけじゃなく物体も消せる消しゴムなんだ。一流の文具屋として、常に新商品の仕入れには余念を隠さないのさ」

「なにそれ!? もう普通にマジックアイテムだろ!? むしろ兵器だよ‼」

「最近の消しゴムはボールペンも消せるからね」

「それ消しゴムが消せるんじゃなくて、ボールペンのインクが消しゴムで消せるの!」

 

 そんなこんなでほぼ壊滅状態に陥った国王軍。

 しかし、国王はここに来て、最悪の暴挙に打って出た。

 

「おのれ! こうなったら召喚獣で丸ごと消し飛ばしてくれる! いでよ! ブラックドラゴン!」

 

 すると空中に出現した魔法陣から数多のドラゴンが召喚される。

 魔物の中でもトップクラスの凶暴性と戦闘力を誇る、ブラックドラゴンである。

 

「くっ‼ まさか、こんな奴まで引っ張ってくるだなんて……‼」

 

「最早ここまでか……」と思った瞬間、駄菓子屋がブラックドラゴンと対峙する。

 

「ふっ、どうやら俺の出番のようだな。決闘(デュエル)‼」

 

 そう言うと、駄菓子屋は懐からめんこを取り出す。

 ほぼ同時に、ブラックドラゴンたちがブレスを放つ。

 触れたもの全てを焼き尽くす闇の炎を前に、駄菓子屋は不敵な笑みを浮かべた。

 

「おっと、いきなりダイレクトアタックか……なら、こっちは(トラップ)めんこ発動‼ 『鏡の聖結界・ミラーリバース』」

 

 駄菓子屋がめんこを叩きつけると、バリアが出現。なんとブレスを反射。

 ブラックドラゴンを返り討ちにする。

 

「ふ、罠めんこ『鏡の聖結界・ミラーリバース』の効果は相手がダイレクトアタックを宣言した瞬間、相手のフィールドにいるモンスターをすべて破壊する」

「いや罠めんこってなに!?」

「そして続けて俺は手持ちから『聖なる黒き守護神(ホーリーブラックガーディアン)』を召喚!」

 

 その宣言と共に、めんこから漆黒のゴーレムが召喚される。

 

「え!? 駄菓子屋、キミ、召喚術が使えるのか!?」

「召喚? 違う! こいつはめんこ(じゅう)! 俺の中に眠るめんこ(ぢから)が具現化した存在だ‼」

「めんこ獣!? なにそれ、聞いてない!?」

 

 ――って言うか、めんこ力ってなんだよ!?

 

 あまりの人知を超えた出来事に勇者の頭は混乱する。

 しかし、それを意に介さず駄菓子屋は新たに『暗黒の白き破壊者(ダークネス・ホワイト・デストロイヤー)』を特殊召喚する。

 

「――な!? まさか、あいつは!?」

「な、なんだ!?」

「間違いない! あれは世界を征服しようとした闇のめんこ軍団『デスめんこ団』を壊滅に追い込んだ伝説のめんこ戦士(バトラー)! 元大陸めんこバトルチャンピオンのエースめんこ獣だ!」

『な、なにぃ!?』

「いや、闇のめんこ軍団ってなによ!?」

 

 一部の兵士の動揺に、思わず勇者のツッコミが炸裂する。

 どうやら駄菓子屋はその道では知られた存在らしい。

 どよめく兵士たちを他所に、駄菓子屋は魔法(マジック)めんこ『混沌なる融合(カオスティック・フュージョン)』を発動させる!

 

「現れろ! 俺の最強のめんこ獣! 光と闇を司る混沌の調停者! 『混沌の救世龍(カオスティック・セイヴァースドラゴン)んんんんんッ‼』」

 

 光と闇の戦士が融合の余波で大地は裂け、天が割れる!

 そして、そこから現れたのは禍々しい姿に慈愛に満ちた瞳を持つ巨大な龍であった‼

 

「混沌の救世龍‼ 我が覇道に立ちふさがる愚か者たちを粉砕しろ‼ 『ワールド・エンド』ぉぉぉぉぉ‼」

 

 絶対的王者の宣告に従い救世龍はブレスを放つ。

 対する愚王は最早、なにも出来ずにただ無様に怯えるのみ。

 

「ま、待て! 勇者よ! 母親がどうなってもいいのか!? 以前貴様の母親は我が手の内にあるのだぞ!?」

「そうだ! 母さんはまだ、あいつに囚われてるんだ……!」

 

 国王の脅迫に慌てて駄菓子屋を止めようとする勇者。

 しかし、その心配は杞憂に終わる。

 

「ご心配なく、勇者様。我が宿屋ネットワークを通じ、勇者様のご母堂の身柄は既にこちらで保護しております!」

「うそーん!?」

「ふっ、我ら一流の宿屋にとって、ベッドのある部屋は全て自分の宿も同然。簡単に出入りできるのですよ」

 

 ――それ、普通に犯罪なのでは?

 

 そんな疑問を思い浮かべ、勇者は宿屋の底知れなさに戦慄する。

 ……ともあれ、これで憂いはなくなった。

 

 「では遠慮なく」とでも言うように龍の口からブレスが発射。

 逃げ出そうとしたブラックドラゴンたちを撃ち落とし、最早瀕死の国王軍にトドメを刺す。

 

「ぎぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 叩き潰されたカエルのような悲鳴を上げ、宙へと打ち上げられる国王軍は、そのまま頭から地面に叩きつけられ、足を宙に投げ出すようにし完全に壊滅した。

 

「ま、まさか、国王軍が全滅だなんて……」

「くっ! 退け! 退けぇぇぇぇぇぇ‼」

 

 五人の民間人に無双された、国王軍は尻尾を巻いて撤退。

 這う這うの体で逃げ出した国王軍を見て、駄菓子屋はニヒルに笑う。

 

「覚えておけ……駄菓子屋たるものすべてのホビーに秘められた力を解放することなど造作ないとな……!」

「駄菓子屋の枠超えてますよね?」

 

 ――って言うか、みんな、こんな力があったなら最初から言って欲しかったんだけど。

 

 そんなことを思いながら、呆れていると少女が何か言いたげな顔をして。くいくいと勇者の袖を引っ張ってきた。

 

「あ、あの……」

「え? なに?」

「その……助けていただいてありがとうございます……」

 

 おずおずと頬を赤くしながら礼をする少女に、勇者は「別に大したことはしてないよ」と言った。

 

「いや、ホント、大したことしてないし……」

 

 最後、うちのチート民間人が無双してたし。

 

「でも……あなたは魔族である私の話を聞いて下さりました……その上で、私の命まで助けてくださいました……あなたは立派な勇者ですよ……」

 

 そう言うと魔族の少女は再度「ありがとう」と頭を下げると、勇者はむずがゆさを感じ照れたように頬を掻いた。

 

 そんな彼の肩を宿屋の主人はポンッと叩くき言う。

 

「ふっ、やはりあなたは追放されて当然だ。倒すべき魔王の命を助けるなど、勇者にあるまじき行いですから、ね」

「いや、あんたが締めるのかよ!?」

 

 ――こうして勇者は役目を終えた。

 その後、王国軍を敵に回した勇者に安息の地は最早なくなったが、少女の誘いに乗り、仲間と共に新大陸に向かい、そこで、助け出した母親と再会する。

 

 数年後、王国軍は勇者に復讐をすべく、新大陸を侵攻するも人類と魔族の連合軍の前に為す術もなく敗北。加えて、各地で反乱が相次ぎ、滅亡することとなる。

 

 すべてを終えた勇者はその後、僧侶へと転職し各地で人類と魔族の共存を説く活動を行う。

 その傍らには、修道服を着た一人の魔族の少女と、わりとやりたい放題な仲間の姿があったという。

 

 

 

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