追放されし者たちの話   作:J坊

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薬剤師の場合

 

「薬剤師、キミを追放する……」

「……うすうすそんな感じはしていたが、とりあえず理由を聞こうか?」

 

 とある宿屋。

 魔王討伐の旅を続ける勇者パーティーの薬剤師は、勇者に呼び出され、追放を宣告された。

 周りには聖女、戦士、商人が厳しい目つきでこちらを睨み、魔法使いのみ心配そうにオドオドとしていた。

 

「……言っておくが、キミに問題はない。キミは回復役の補助の他に様々な雑務を率先して行ってくれている。おまけに訪れた村では無償で医療活動を行うほど高潔だ。だが――」

「分かっている。原因は“コレ”だろ……?」

 

 そう言うと薬剤師は懐から一本の瓶を取り出し、机の上に置いた。

 

「……やはり、キミが持っていたんだな?」

「あぁ……」

「――! 私たちを騙してたんですね!?」

「落ち着け聖女! 奴だって好きで黙っていたわけではない!」

 

 身を乗り出した聖女を戦士が宥める。

 しかし、聖女は薬剤師を睨むのをやめなかった。

 視線に耐えきれず、薬剤師は目を背けた。

 そんな薬剤師の姿を見て魔法使いは涙をにじませる。

 

「まさか、キミがこんなものを持っていたとはな……」

「……騙すつもりはなかった。だが――」

「分かっている。キミに悪意はなかったことは……だが、今回の起こった事件の責任は取ってもらう」

 

 ――そう。すべてはこの薬が原因だった。

 始めは仲間のためだった。なのに、どこで間違えてしまったのだろう?

 僕はただ、魔法使いを助けたかっただけなのに……

 

「この薬の所為で、大勢の人が争っている……そう……この……」

 

 

 

「“毛生え薬”の所為で‼」

 

 

 

「……」

 

 勇者の言葉に項垂れる、薬剤師。

 ホント、どうしてこうなっちゃったんだろう?

 

「……ちなみに、いつから気づいてた?」

「逆に言うとどうして気づかれないと思ってた? 魔法使いを見ろ」

 

 勇者の指さす方向を見ると、最近までツルツルスキンヘッドだった魔法使い(七〇歳・童貞)はモサモサファンキーなアフロヘアになっていた。

 そりゃ、気づくわ。

 

「薬剤師を責めんでくれ! すべてはワシのためにやったことなんじゃああああああ!」

「分かってる。分かってるよ、マジで。でもさぁ、ホントなんでこうなったんっだろうねぇ……」

 

 土下座しながら泣きつく魔法使いを宥め、勇者はこうなった経緯に想いを馳せた。

 

 話は一か月前に遡る。

 その日、魔法使いの最後の希望は儚く潰えた。

 なんて書くとかっこいいが、早い話、ハゲになった。

 

 元々、頭髪が薄かった魔法使いは旅のストレスもあり、徐々に毛根を失いつつあった。

 そのため、薬剤師から増毛剤を貰ったり、商人から抜け毛を防ぐ食材を買ったりしていたのだが……

 

「まさか邪竜の炎で焼かれてしまうとはなぁ……」

「ぷっ……」

「笑うな商人!」

 

 数日前の戦闘で戦った邪竜のブレスが魔法使いの毛をかすめ、そこから線香のように燃えていき、戦い終わった頃には毛根まで焼き尽くされたのだ。

 

 魔法使いは泣いた。延々と泣いた。

 最早、人生に希望を見いだせないと言わんばかりに気落ちしていた。

 そんな魔法使いをおじいちゃん子だった薬剤師は見ていられず、どうにかできないかと思い、強力な育毛剤を使用したのだが……

 

「まさかキミが、あの伝説の秘薬『ラスト毛根エリクサー』を持っていたなんて……」

「僕の先祖がかつて『ラストエリクサー』をベースにして作ったらしい……」

「希少なアイテムなにに使ってくれてんだよ‼」

 

 曰く先祖の日記には「道具袋の肥やしになっていたから使った」と記載されていた。

 激レアなアイテム使うなよと勇者は憤慨する。

 とにもかくにも、薬の効力は見ての通り。ふっさふさのもっさもさになった。

 それだけなら、魔法使いがアフロになった程度で終わる話なのだが……

 

「まさか、国が動くなんて思わなかったなぁ……」

 

 話を聞きつけた国王(バーコードハゲ)が毛生え薬を独占しようと軍を動かしたのを皮切りに、様々な組織の重鎮(主に薄毛に悩む方々)が魔王そっちのけで刺客を送り始めた。

 遂には隠居した大魔王まで復活し、毛を毛で洗う――否、血を血で洗う争奪戦へと発展し、現在に至ると言う訳だ。

 

「ちなみに魔王は最近、別のパーティーにより倒されたらしいぞ」

「マジかよ、完全に出遅れたじゃん!」

 

 しかし、このままではいけない。

 時の権力者が求めてやまない秘薬。その在処が遂に判明してしまったのだ。

 最近じゃ「勇者パーティーに懸賞金をかけるべき」なんて話も上っているくらいだ。

 最早、薬剤師を勇者パーティーにおいては置けない。

 

「うぅ……たかが毛生え薬で、なんで世界戦争に発展しちまうんだよ……」

「ハゲ・風邪・水虫の特効薬は歴史を揺るがす大発明だからなぁ。狙われて当然だろう」

 

 せめて量産ができれば良かったが、材料が材料だけに不可能。

 故に逃げの一手しかない。

 

「とにかく、キミはこのままだと暗殺される恐れがあるから、『追放処分した』と言うことにして、商人の用意した船で新大陸にいってもらう」

 

 現在、新大陸では新しい国造りが行われており、人の出入りが激しい状態にある。

 そこに紛れてしまえば、しばらくは大丈夫だろう。

 

「そんでこの薬は……そうだな、火山にでも投げ込んでおこう」

「まぁ、賢明な判断だな」

「人類には早すぎた発明ですしね」

 

 たかが毛生え薬で世界大戦が引き起こされたのだ。

 それで苦しんでいる人がいるなら、こんなもの世に存在してはならない。

 最初、商人は適当なところに売るべきだと主張したが、今さらどこかに売り渡したところで、戦争は止まらないだろう。むしろそれを狙って泥沼化しかねない。

 

「なにからなにまでスイマセン……」

「ワシからも謝らせてくれ。申し訳ない」

「まぁ、これに懲りたら、隠し事はなるべくしないってことで。追放する側が言うのもなんだが達者にな――ッ!?」

 

 勇者がそう言った瞬間。

 

 ドゴォォォォォンッ‼

 

 大地を揺るがす轟音。

 巨大な炎の柱が立ち上り、空に巨大なキノコ雲が浮かぶ。

 当然、宿屋は灰になり、それどころか周囲一帯に巨大なクレーターが出来上がった。

 そして、勇者パーティーは……

 

「――あ、危なかった。聖女が防壁を張ってくれなかったら危なかった!」

「しかし、遅かった。魔法使いが爆炎によりアフロヘア―に……」

「いや、元々ですじゃ」

 

 ……なんとか無事だった。

 軽口を叩きながら聖女が防壁を解除する。

 

「しかしいったい誰だ!? 街中でこんな威力の魔法使うなんて使うなんて――ッ!?」

 

 そこまで言いかけて勇者は目を見開く。なんと村の周辺は軍勢に囲まれていた。

 

「なっ!? あれは王国騎士団!?」

「教会の聖騎士部隊まで!?」

「冒険者ギルドの本部隊もおるぞ!?」

「大魔王の軍勢も……‼」

「どうやら、計画は既にバレていたらしいな……」

 

 勇者たちの懸念通り、彼らは自分たちの居場所を突き止め、我先にと仕掛けてきたようだ。

 目的は一つ――

 

 

 

『皆の者! 毛生え薬を奪ええぇぇぇぇぇぇッ‼』

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ‼」」」」

 

 

 

 号令の下、各軍勢が勇者パーティー目掛けて突撃してきた。

 毛根への執着。彼らはさながら運命への報復者(ハゲンジャーズ)

 

 

「この軍事力を魔王討伐に使って欲しかった!」

「とにかく逃げろ!」

 

 いかに勇者パーティとは言え、多勢に無勢。

 故に三十六計逃げるが勝ち。一目散に逃走開始。

 

 しかし、多勢に無勢ですぐに追いつかれてしまう。

 

「クソッ! このままでは捕まってしまう!」

「ここは私に任せて先に行ってください!」

「聖女!」

 

 包囲網から逃がすために、聖女が防壁を張り、軍勢を足止めし――

 

「どうやらここまでのようだ。俺を置いて先に行け! なぁに、すぐに追いつくさ!」

「戦士!」

 

 突破口を作るため戦士が犠牲になり――

 

「しょうがねぇ、ここは俺が囮になる。お前らは先に行け!」

「商人‼」

 

 偽りの毛生え薬を手にした商人が、算盤をローラースケート代わりにして囮になった。

 

「いや、どういうこと!?」

「知らなかったか? 俺は算盤を足に装備することで素早さが三倍になるんだ」

「小学生か!?」

 

 勇者のツッコミをスルーし、商人は高速移動によりできた残像を巧みに利用し追手を煙に巻く。

 

 こうして、犠牲の甲斐があって、最早半分になった勇者パーティーは辛くも港にたどり着いた。

 しかし、そこに待ち受けていたのは運命への報復者(ハゲンジャーズ)の主要メンバー!

 国王、教皇、ギルドマスター、大魔王率いる精鋭たち!

 ちなみに全員もれなくつるっぱげ。

 夕暮れなのに、昼間並みに明るく照らされるほどだ。

 

「くそう! まさかここまで来るとは……」

「はわわわわ……」

 

 袋のネズミとなり、冷や汗を垂らす二人に、あまりの敵の多さにガクブルする魔法使い。

 

(ど、どうすればいいんじゃあ……!?)

 

 そもそもの原因は自分だと言うのに、魔力も底を尽き、魔法使いは役に立てないわが身を呪う。

 その時だった。

 

 ――力が欲しいか?

「!?」

 

 魔法使いの脳裏に何者かの声が聞こえてきた。

 

 ――我は汝、汝は我。

 

 また聞こえてきた、どうやら、幻聴ではないようだ。

 

(な、なんじゃ!?)

 ――我はお主に宿りし毛根の魂。すなわち、お主の一部。

(な、なんじゃってぇぇぇぇぇぇ!?)

 

 驚愕の事実に慄く魔法使い。

 どうやら毛生え薬の効果で、毛根に自我が生まれたらしい。ありえん。

 

(そ、それでワシの毛根がいったい、なんのようじゃ!?

 ――お主の今の頭髪は霊薬の力により、一本一本に魔王に匹敵する魔力が宿っている。その力をすべて使えば、この状況を打破することができる。

(な、なんじゃと!? なら……!)

 

 突然、差し伸べられた救いの手を、すぐに掴もうとする魔法使い。しかし、毛根は「だが!」と制止する。

 

 ――この魔力を使えば、今度こそ毛根が死滅する。

「!?」

 ――お前は、その苦しみに耐えられるのか?

 

 言われて躊躇する魔法使い。

 せっかく生えた頭髪をすべて失う。その事実に迷いが生まれた。しかし――

 

(もう二度と生えなくなってもいい‼)

 

 覚悟を決め、魔法使いは自らの魔力を頭部――厳密には毛根に集中。

 するとどうだろうか。魔法使いのアフロが輝き始め、矯正。さらに垂直に伸び始める。

 その様はまさに、怒髪天を突くといったところか。

 神話に出てくる世界樹か、天まで届く塔を彷彿させるほどに伸びたその髪を――

 

「くらえぇぇぇぇぇぇ‼」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 東洋の歌舞伎役者のように振り回す!

 台風のように乱れる髪の毛。それによって、運命への報復者(ハゲンジャーズ)は壊滅へと追い込まれた。

 しかし、その代償は大きかった。

 

「魔法使い!」

 

 とっさに薬剤師が駆け寄ろうとするも、勇者はその手を掴み首を振る。

 まるで冬の粉雪のように降り注ぐ、髪の毛は風に乗ってどこかへ飛んでいく。

 そして、最後の一本が飛び立つのを見送り、魔法使いは膝をつき、崩れ落ちた。

 

「……燃え尽きちまったよ、真っ白にな」

「魔法使いぃぃぃぃぃぃぃぃ‼」

 

 こうして、儚い犠牲のもと、薬剤師たちは大陸を後にした。

 その後、新大陸へと渡った勇者たちは、商人の立ち上げた製薬会社お抱えの冒険者となった。

 中でも薬剤師は頭角を現し、新たに育毛剤“ハエルンダーZ”を生み出すのだが、これはまた別の話。

 

 

 ――あと、魔法使いが今度はモヒカンになるのもまた別の話。

 

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