追放されし者たちの話   作:J坊

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おっさんの場合

 

「すまない、おっさん。王都の人事部からの命令で貴方を追放せざるを得なくなった」

「マジっすか」

「マジだ。申し訳ない」

 

 沈痛な表情で頭を下げる勇者。

 自分よりも一回り下の少年と言っていい年頃の上司が、誠心誠意謝罪する光景におっさん(三二歳、独身兼童貞)は胸を痛める。

 

 この世界に召喚されたのは半年前のこと。

 

 社畜人生真っただ中で、上司にパワハラ寸前の叱責にプッツン。

 クビを覚悟で殴ろうとした瞬間に召喚。

 うっかり王様を殴ってしまった時には死を覚悟した。

 

「異世界も世知辛いのは変わらないのか……自分の都合で呼び出しておいて……」

 

 異世界人を召喚すると次元を跳躍する影響でなんらかのチート能力が与えられるらしい。

 故に魔王討伐の戦力増強のためにと召喚されたのだが……なんの能力もなかった。

 王様を殴ったこともあって、怒った貴族たちは追放しよう、奴隷にしよう、処刑しようと騒ぎ立てたが、国王が一喝。

 

「召喚したものはしょうがない。勇者たちもまだ若いし、一人年長者がおれば安心じゃろう。慣れぬ土地で申し訳ないが、協力してはくれまいか?」と言う国王の後押しもあり紆余屈折がありながら、予定通り勇者パーティーに加えられた。

 殴ったことも軽く流してくれた。さすが王様、心広い。

 

 しかし、最早魔王城も目前に控え、これ以上戦力にならない自分は危険なので連れてはいけないとお役御免となったわけだ。

 

 ちなみに追放扱いなのは、自分を疎ましく思う貴族連中の留飲を下げるための方便だ。

 実際には退職金も出るし、その後の暮らしも保証してくれる。

 異世界にも色々あるのだ。ご理解いただきたい。

 

「おっさんがいなくなると寂しくなるなぁ……」

「まぁ、これもしょうがないよ。俺はもう役に立たないし」

「そんなことありませんよ。貴方がいなかったら僕たちはここまでこれませんでした」

 

 そう言ったのは賢者だったが、自分の方が彼に助けられたと思っている。

 若いながらも賢者の称号を得るだけあって、頭脳明晰で好奇心旺盛な彼は現代での知識を取り入れ、様々なことに役立ててくれた。

 

「後のことは頼んだぞ?」

「えぇ、分かってます。貴方の代わりはしっかり務めて見せます。貴方から教えてくれた知識を使って作ったこの――」

 

 そう言って賢者は道具袋から、光の剣がでそうな柄と機動戦士が持ってそうなライフルを取り出した。

 

「魔導ビームセイバーと魔導超電磁砲を使ってね」

「うん、おかしいな!? そんなの教えた覚えないな!?」

「え? なに言ってるんですか? 最初に銃の存在を教えてくれたじゃないですか」

「いや、そうだけどさぁ……」

 

 確かに少しでもみんなの役に立ちたいと現代知識チートでお馴染みの銃を作れないかと相談したことはあった。

 まぁ、平和な現代日本に生まれた達夫は銃の製造などの知識はなく、出来ればいいな程度の気持ちで。出来たとしても火縄銃とかマケット銃とかその辺の単発式を考えていた。

 しかし、一を聞いて十を知るとでも言うべきか。うろ覚えの知識を聞いただけで、あっさり理解した賢者はその後、数日で近代重火器を製造。

 ガトリング銃・対戦車用バズーカなど、魔王軍四天王を次々に屠っていった。そしてその結果がこれだ。

 

 現代どころか近未来チートじゃん。科学と魔法が交差してるじゃん。

 

 ちなみにおっさんも賢者の開発したビームガンで戦闘に参加してた。

 ドラゴン相手にみんなが剣や魔法で戦ってる中、昭和なデザインのビームガンで応戦する姿は、さながら地球防衛軍の気分であった。似たようなもんだけど。

 

「ホントに君は賢者の名に恥じないな」

「いえいえ、僕なんて武器を作っただけですよ。アイディアはおっさんのものです。ところで、今後の予定は?」

「それなんだが、辺境の村でしばらく静かに暮らそうと思ってるんだ。王様の薦めでな」

「へぇ、のんびりしてていいな」

「あぁ、所謂スローライフってやつだ」

 

 魔王を倒したら是非、遊びに来てくれ。

 そう言い残し、おっさんは勇者パーティーを去っていった。

 そして、半年後。

 おっさんは辺境ののどかな村――

 

 

 

『ただいま9回の裏、2ボール2ストライク2アウト。ドイナカユックリーズ期待の新星・おっさん選手はこの回を抑えられるでしょうか!?』

 

 

 

 ……ではなく、マウントに立っていた。

 

 なぜこうなったか?

 遡ること数年前。スローライフを送ろうと向かった村の草野球チームに入り、何度か試合したら、プロの目に留まりスカウト。

 その後、今まで発揮しなかったチート能力“投球”に目覚め、大活躍。現在に至る。

 

『おおっとここで相手チーム・ダイトカイヤベェズのバッター交代の指示が!』

 

 ――きたか!

 

 おっさんは代打で現れたその男を見て、より一層引き締める。

 

 ――元魔王軍筆頭・暗黒将軍。

 

 魔王軍により不当に追放された彼はどういう訳か自分と同じ経緯を経てバッターボックスに立っている。

 

(やはり来たか。チート持ちの俺に対抗できるのはコイツしかいない……)

 

 見れば、客席には彼の妻子と思われる魔族が応援している。

 ちなみにこちらは勇者と賢者と国王が応援に来てくれている。

 俺も嫁さん欲しい。ヤローじゃなくて。

 

(話を元に戻そう。コイツ相手に生半可な小細工は通用しな)

 

 カーブもフォークもシンカーも既に見切られ有効打にならない。スローボールで崩そうにも、もし見切られたら逆転負けする恐れがある。

 

 ならばスキル“魔球”にかけるしかないが、これでもまだ不安が残る。

 

 増える魔球。燃える魔球。消える魔球。投手を捕獲する魔球。隕石ばりの破壊力を持つ魔球。

 これまでの戦いで、そのどれもが破られてきた。

 慎重にならざる負えない。

 

 するとキャッチャーがサインを送ってきた。

 

『アレをやれ!』

「!?」

 

 ――まさか、あの魔球を投げろというのか!?

 

 アイコンタクトを送るとキャッチャーは真剣な表情で頷いた。

 

 キャッチャーの指示した球。それは、前回の試合で編み出した究極の魔球。

 しかし、アレは危険すぎる。

 投げたはいいが、あまりの威力にキャッチャーが星になったほどだ。(ちなみにその後、キャッチャーは旧大陸沖で発見された)

 

 故に封印を決意したのだが、それをここで使えというのか?

 

 頷くキャッチャー。俺に任せろ。そう言っている気がする。

 

(分かった。やろう……!)

 

 キャッチャーの決意に答えるように、おっさんは勝負に出た。

 

「食らえ! 必殺魔球“滅殺・アルティメットジャイロッッッッッ‼”」

「――! 来たか! ならば迎え撃とう!」

 

 待っていたとばかりに暗黒将軍はバットをフルシング!

 魔球とバットが激突した瞬間、凄まじい衝撃波が発生。会場を揺るがした。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおお!」

「ふんんんんんんんんんんんんんん!」

 

 拮抗するバットとボール。だが、それも長くはもたない。

 バットにはヒビが入り始め、ボールもチリチリと焦げ始めてきた。

 どちらが先に果てるか?

 意地と意地のぶつかり合い。その果てに――

 

「ぬああああああああああああッ!」

 

 暗黒将軍が渾身の力を込めてフルスイング。バットは耐えきれず粉々に砕け散った。

 

 ――打たれた。

 

 誰もがそう思ったその時であった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

 キャッチャーが凄まじい勢いで後方に吹き飛んだ。

 壁に激突し、めり込むキャッチャー。しかし、ミットの中にはすり減ったボールが。

 

『試合終了! 激闘を制したのはおっさん! 勝者はドイナカユックリーズだぁぁぁぁぁぁ!』

『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』

 

 観客の歓声が球場内に響き渡る。感極まった勇者たちが泣いている。

「無念……!」と呟き膝をつく暗黒将軍に手を差し伸べ、おっさんは「また戦おう」と再戦を誓った。

 

 おっさんは勇者にはなれなかった。しかし、この日、おっさんはヒーローになった。

 

 ――だが、一つ言わせてくれ。

 

 胴上げされながら、おっさんは思う。

 

 ――これSlowlife(スローライフ)ちゃう。Throwlife(スローライフ)や。

 

 

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