追放されし者たちの話   作:J坊

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盾使いの場合

「盾使い! 貴様を追放するッ!」

「な、なんだってー!?」

 

 とある宿屋に宿泊した、とある冒険者パーティーの戦士の一言に盾使いが衝撃を受けた。

 磨いていた自慢の盾を落としてしまうほどのショック。

 しばし、茫然とするも盾使いは冷静に真意を問いただす。

 

「な、なんでだ、戦士!? 俺がなにか悪いことをしたか!? 理由を言ってくれ!」

 

 自慢ではないが、自分はタンクとしての役割をキチンと果たしている。

 敵の攻撃に一身に引き受け、味方の体勢を整える。

 まさにタンクの鑑と自負している。

 そんな自分を追放する理由が分からない。

 困惑する盾使いに戦士はボソリと呟いた。

 

「……呟きが」

「え?」

「呟きがうるさいんだよ!」

「つ、つぶやき!?」

 

 ウガーッとキレる戦士は、ポケットからボイスレコーダーを取り出すと、机の上に叩きつけるように置いた。

 

「お前、敵から攻撃受けてる最中、変なこと呟いてるだろ!」

「えぇぇぇぇぇ!? そ、そんなことで、俺追放されるのか!?」

「そんなことって言うけど、お前、結構な頻度で呟いてるぞ!?」

「ぐ、具体的には!?」

「『あぁん……』とか『OH……』とか『イエス……っ!』とか色々、ヤバいぞ!? お前!」

「な、なんだってー!?」

 

 ショックを受ける盾使い。しかし、これが証拠だとばかりに戦士はボイスレコーダーのスイッチを入れた。すると……

 

『あぁん……!』

『い、いい……!』

『も、もっとぉぉぉぉぉ……‼』

 

 ……確かに自分の声である。これは誤魔化しきれない。

 

「う、嘘だろ!? 俺、こんな事言ってたのか!?」

「自覚なし、か。こりゃ重傷だな……」

 

 頭を抑え、項垂れる盾使いと頭痛を堪える戦士。

 たしかにこんなもの突き付けられた側も突き付ける側も精神的にクる。

 

「あと、最近だと『気んもつぃぃぃぃぃ……!』とか言ってたよ!?」

「色々、ヤバいな……‼」

 

 主に絵面的に。盾使いはガッシリとした大男だ。そんな自分がこんなセリフを言ってるとなると、確かにヤバい。町中だったら通報案件だ。

 

「ギルド職員に相談したら『タンク役の職業病です』だとさ……はっきり言う。引き返せるうちに冒険者辞めろ」

「そ、そんなこと言われても!」

 

 自分を思っての発言は理解できるが、それでも納得できない!

 そもそも、ただの呟きなら冒険者を辞める必要も追放することもないだろう。

 しかし、戦士は首を横に振った。

 

「俺たちはもうすぐBランクに昇格できる……そうすれば俺は勇者資格を得ることができ、魔王討伐資格を手に出来る……だけど……」

 

『勇者たるものある程度の品格が認められるので、常日頃の言動には気を付けてください』とギルド職員から注意を受けたのがつい先日。

 近年、勇者暗黒時代を払拭するため、勇者・聖女と言った職業は入念なる審査が行われるのだが、このままでは勇者資格を得ることができない。

 

 背に腹は代えられず、盾使いを追放するという結論に至った訳だ。

 

「おまけに先日、お前の道具袋から、こんなんが出てきました」

 

 そう言って、戦士が取り出したのは……

 

「こ、これは……」

「そう。ご存じ〇ールギャグです」

 

 その他にも手錠、犬の首輪、そっち方面のエッチな本……と言い訳できない証拠の数々が出てきた。

 

「う、うそだ! 俺はこんなもの買った覚えがない‼」

「ウソじゃない! 俺はお前がこれらの道具を買いに行くところを動画にも取っているんだ! 頼む現実を認めてくれ!」

 

 戦士は携帯霊板(スマートモノリス)を取り出すと、証拠の動画を見せる。

 そこには、アダルトショップにて虚ろな目でグッズを買いあさる盾使いの姿が。

 映しだされた自分の姿を見せつけられ、盾使いは崩れ落ちた。

 

 長年タンク役を務める冒険者がMに目覚める、そう珍しくもない。

 ただひたすら攻撃に耐える日々、積み重なる痛みに次第に魅入られていく者は近年、社会問題にすら発展しているのだ。

 そう言ったことを防ぐため、直接防御だけでなく魔術による防御や受け流す武術の習得、鎧や盾に衝撃を和らげる効果を付与させるなど、工夫をしている者が多いのだが……

 

「お前、見事にサボって、ただ防御力の高い装備身に着けるだけだったもんなぁ……」

「い、痛いの我慢すればいいかなっと思って……」

「その結果、快楽を覚えてるじゃないか」

 

 他人の性癖にとやかく言いたくはないが、ここまで大っぴらにされると庇いきれない。

 既にギルドからクレームが来ている以上、放っておくわけにもいかないのだ。

 思った以上に不味い状況を察したのか、盾使いは必死に縋ってきた。

 

「た、頼む! 追放しないでくれ! お願いだ! 靴を舐めろと言うなら舐める! 豚になれといったらなる! だから追放だけは! ブヒッ! ブヒィィィィィィ!」

「だからそれをやめろって言ってんの!」

 

 しかし、熱心に頼み込む盾使いを見て、勇者は考える。

 口ではなんだかんだ言ったが、長年連れ添った仲間を追放したくない。それに、フォーメーションも変えるにしても、新しいタンクの育成もするにしても、それなりに時間がかかる。

 新しい人間関係の構築やフォーメーションの変更を疎かにして、破滅した連中は星の数ほどいるのだから。

 

「……仕方ない。とりあえず、応急処置として喘ぎ声だけは抑えるようにしよう」

 

 流石に個人の性癖まで細かく言わないだろう。当面の問題、普段の素行を省みればいいだけの話だし。

 これが出来ずに落ちぶれる冒険者も多いが、こいつはそこまで自意識過剰じゃない。真面目な奴だ。真面目だから起こった悲劇だけど。

 今後、時間がある時、ギルドや病院のカウンセラーに相談し、少しずつ矯正していこう。

 

 そう言うことで、盾使いの追放は保留になったのだが……

 

 

「……やっぱり、お前追放するわ」

「な、なぜだ!? ちゃんと喘ぎ声は抑えたぞ!」

 

 すると戦士は再び、ボイスレコーダーを取り出し、再生する。

 盾使いの言う通り、喘ぎ声に関するクレームはなくなった。しかし……

 

『ラーメン……!』

『グラタン……!』

『ハンバーグゥゥゥゥゥゥ……ッ!』

 

「掛け声変えろってことじゃないからな!?」

 

 結局、盾使いは『昼飯時に集中できなくなる』と言うことで追放処分となった。

 その後、パーティーは新しいタンクの育成に時間をとられ、盾使いは冒険者を引退後、SMクラブで働くことになるのだが……

 

 彼らが幸せかどうかは神のみぞ知る。

 

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