追放されし者たちの話   作:J坊

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GWのおともにどうぞ!


闇属性の場合

「――残念ですが、ご子息の魔法属性は【闇】でございます」

「なん……だと……!?」

 

 とある貴族の領地にある教会。

 そこでは、魔法の属性を調べる儀式を行っていた。

 この国では10歳を迎えた貴族の子供はみんな、自身の魔法属性を調べる仕来りがあった。

 本日はこの地の領主の次男(中身は地球から転生してきた35歳の独身のおっさん)が、儀式を受けたのだが……

 

「馬鹿な……炎魔法の名門である我が家から、忌まわしき闇属性の子供が生まれるのなどと……」

 

 父は動揺し、母は顔を覆い嘆き、兄はこちらを睨んでいる。

 

(あ、やばい。この流れは追放だわ……)

 

 場のただならぬ空気を察した次男は、前世で散々読んだ、追放ものの小説の内容を思い出した。

 

 おそらく、次は「闇属性の子供など、我が家にいてはならぬ! 貴様は今日限りで我が家から出ていけ!」と言われるだろう。

 

 最悪、殺されるかもしれない。

 

 そうこうしているうちに父は、大きくため息を吐き、次男に向けてこう宣言した。

 

「我が家から闇属性の子供が生まれたなどとあっては、今後に関わる。残念だが、追放する!」

(ほら、やっぱりな……)

 

 嫌な予感を的中させてしまった。

 

 

 

 ……と思ったら。

 

「その前に、どうにか誤魔化すぞ! 追放は本当にどうにもならなかった時の最後の手段だ!」

「いや、誤魔化すんかーい!」

 

 どうやら、予想斜め上の展開に話は向かっていくようだった。

 

 

 

「さて、どうやって、誤魔化すべきか。みんな、各々、意見を言ってくれ」

(本格的な会議になってしまった……)

 

 教会の空き部屋を使わせてもらい、進行役は父が務め、母、長兄、神官さん、そして次男が各々、神妙な顔で頷いた。

 

(まぁ、いきなり追い出されるよりは大分マシなんだけどね……)

 

 どうやら、我が家は物語にありがちな悪徳貴族とは違い、真っ当な倫理観を持っているようだ。

 しかし、油断は禁物。

 簡単に誤魔化すと言っていたが、もし、いい案が浮かばなかった場合、想定通り追放と言う形もあり得るのだから。

 特に長兄は、さっきから自分のことを睨んでいる。

 多分、次期党首の座を奪われないように、いかにして、自分を追い出すつもりか虎視眈々と狙っているに違いない。

 

 そんな次男の内心を知ってか知らずか、長兄が発言する。

 

「父上! 闇属性の人間が身内にいるとなれば、周囲からなにを言われるか分かりません!」

(ほらね。このデブ、俺を追い出すつもりだよ)

「なぜなら、闇属性は人の精神に干渉し、洗脳することを始め、呪いや死霊の使役、疫病の発生、果ては悪魔召喚と、様々な災いを呼ぶからです! そんな者が身内にいるとなっては、周囲から、不信を買うことになります!」

(しかし、やべぇな闇属性、聞いてるだけでロクでもねぇや)

 

 長男が語る闇属性の特徴を聞き、圧倒的に自分の不利を思い知らされる次男。

 ガチで追放を覚悟したほうがいいかもしれない。

 

「しかし! 逆に闇属性は上手く使えば、人を助けることも可能です!」

(ん?)

「人の精神に干渉すると言うことは、不安や怒りに苛まれている人の精神を安定させ、領地の治安を維持したり、魔物に放つことで恐慌状態に陥らせ、領地を守ることも可能です。さらに、呪い返しや、死霊の鎮魂、悪魔の封印も可能でしょう!」

(え? ちょっキミ……)

「なにより! こいつは俺の大事な弟です! たかが魔法の属性で追い出すだなんてできない! なので、なんとしてでも誤魔化す方法を考えましょう!」

(ごめん! キミのこと誤解してた‼)

 

 自分を貶めるかと思いきや、まさかの熱い宣言。

 ちょっと前まで、疑っていた自分が恥ずかしくなってきた。

 

「安心しろ! 兄ちゃんがお前のことを絶対守ってやるからな‼」

(心が痛いです。お兄様……)

 

 次男の心に罪悪感によるダメージが与えられる。

 どうやら、睨んでいたのも、自分を忌み嫌っていたからではなく「なにがあっても俺だけはお前の味方だ! 絶対に守護(まも)る!」と決意を固めていたからのようだ。

 

 父もこれにはニッコリ。「流石は私の息子だ!」と鼻高々である。

 

「ですが、誤魔化すにしてもどうやって? 今はまだいいですが、魔法学校に通うとなると、すぐにバレてしまうのでは?」

「うむ、たしかに……どうにかできないものか?」

 

 母のもっともな意見に、全員が頭を悩ます。

 この国の子供は、魔法学校に通うことが義務らしい。

 

「まぁ、入学時の属性検査は賄賂でどうにかなるが……」

「堂々たる不正!」

「父上! だったら、僕のお小遣いも使ってください‼ 担当官が足元見てくる可能性もありますので‼」

「お兄様! お気遣い無用です! だから、そのブタさん貯金箱はしまってくだい!」

 

 とにかく、入学の際にはそう言った手段を使うのはいい(良くはないが)

 だが、学園では実戦形式の授業もあるため、誤魔化しきれなくなる可能性が高い。

 

「特に戦闘訓練では、魔法を使用した模擬戦も行います。適性属性関係なく誰でも使える初級魔法ならともかく、やはり属性魔法も使用しないと成績に響きます。かと言って、大っぴらに闇魔法を使えば……」

 

 現実的な問題に母が頭を痛める。

 すると、長男が手を上げた。

 

「母上! 幸い闇属性はポピュラーな四大元素と複合したものが多いので、それで誤魔化せないでしょうか?」

「ふむ、たしかに……ですが具体的には?」

 

「例えば……」と母は手持ちの闇魔法辞典を捲り、いくつかの呪文名を上げる。

 

「この闇の黒い炎を生み出す『ダークフレア』これについては、どう誤魔化すのですか?」

 

 うむ。黒い炎とは中々に中二心をくすぐる魔法だ。

 しかし、それでは一目でアウトだろう。

 いったい、どう誤魔化す?

 すると、長男は自信満々にこう言った。

 

「『炎色反応です!』と言えば、納得してくれるでしょう!」

「無理がある」

 

※炎色反応:化学反応の一種。銅などの塩を炎の中に入れると発生する金属元素特有の反応のことで、主に花火の着色に仕様。

 

「ではこの黒い竜巻を生み出す『ブラック・トルネード』は?」

「『黄砂です!』で行きましょう!」

「いけないよ!?」

 

※黄砂:砂漠から発生し飛来する砂嵐。花粉と組み合わさることで、クソみたいなことになる。

 

「じゃあ、この亡者の腕を土と融合させて実体化させる『ゴースト・アーム』は?」

「『極太のヘビ花火です!』と言えば、なんとかなるはず!」

「ならないよ!?」

 

 ※ヘビ花火:花火の一種。火を点けると、うごうご蠢きながら花火が出てくる様子が中々、気持ち悪いゾ‼

 

 もうダメだ。誤魔化しきれないよ。これ。

 仮に誤魔化せてもいつか、ボロがでるよ。

 

「ふむ……このいい訳のボキャブラリー。さすがだな。我が息子よ」

「ありがとうございます!」

「いや、これでいいんかーい‼」

 

 だが、父的にはOKだった。

 曰く「堂々としてれば、大抵のことはツッコまれない。あとはノリと勢いでなんとかできる‼ 貴族ってそんなもんだ‼」と言うのが父の考えらしい。

 

「ですが、他にも問題が。使い魔です。魔法学園では使い魔と契約する機会もあります。その際、属性に関連した生物が召喚されますが、それについては、どう誤魔化しますか」

「あー……それがあったか……」

 

 母の指摘に再び、頭を悩ませる一同。

 

「ちなみに闇属性の使い魔ってどんなのがあるんですか?」

「そうですな……代表的なもので黒犬や黒猫やカラスなどの不吉の象徴。毒蛇や毒グモ、サソリなどの危険性の高い生物。あとは悪魔と呼ばれる異次元の生物ですな」

 

 次男の質問に、同席していた神官がスラスラ答える。

 どうしよう。見た目的に一発アウトだ。絵面からして「私、闇属性です」と言っているようなものだもの。

 

「ちなみに私のお勧めはサキュバスです。人型に近い上に、いざとなったら色仕掛けで誤魔化せる上に、プライベートでもエロいことしてもらえる可能性も――」

「……」

「あ、なんでもアリマセン。ハイ、冗談デスヨ?」

 

 神官にあるまじき発言を、母が一睨みで黙殺する。

 父も視線を逸らしている辺り、似たようなこと考えていたのだろう。

 この家の力関係が容易く察せられる一幕であった。

 

「ま、まぁ、犬猫なら割とポピュラーなので、大丈夫でしょう。ダカラソンナニニラマナイデ……」

 

 とは言え、割と簡単に、この問題もクリアできた。

 人を容易く殺せそうな視線を神官に向けてる母は……とりあえず、そっとしておこう。

 

「父上! 犬か猫なら犬がいいです‼」

「ふむ、犬はいい。だが私は敢えて猫を推す!」

「父上・兄上、その論争は終わりが見えなくなるので、またの機会にしてください」

 

 って言うか、俺の使い魔なんですけど?

 

「……そして、最後に問題が。この子の入学の次期に、恐らくですが、我が国の王子も入学するはずです。あのお方は闇属性への差別意識が特に強く、少しでも気に食わなければ、例え闇属性ではなくても、異端審問にかけることを躊躇いません」

「あの王子かぁ……バレたら絶対めんどくさいことになるなぁ……」

「え? そんなに問題のある王子なんですか?」

「うむ。自分の属性が希少な光属性だからとイキリ散らしていてな。大した努力もしないくせにマウント取ってくるのだよ。あのクソガキ……じゃなくてクソ王子」

「父上、一番取らないといけないワードが丸々残ってます」

 

 不敬罪でしょっ引かれますよ?

 

「父上の怒りも、もっともだ。あの王子は『炎属性など戦闘以外はバーベキューくらいしか役に立たない』とか抜かしてる癖に、招待してもいないバーベキュー大会にはシレっと参加するロクでもない王子だ」

「いや、貴族がなにやってるんですか?」

「おまけにあの王子、人の育てたロース肉ばかり狙いやがって、野菜は食わないとか、マジあり得ん‼ 王子じゃなかったら、肉の代わりに網に乗せてやるところだった!」

「兄上、焼肉奉行?」

 

 って言うか、話が脱線し始めているんだけど?

 

「まぁ、あの王子、頭が残念だし、テキトーに誤魔化せば、なんとかなるでしょう」

「そうですね。その辺は杞憂だったかもしれません」

「母上まで……」

 

 どんだけ国民に舐められてんだ? うちの王子は。

 この国の行く末に若干の不安を覚えながらも、その後も会議は続いたわけだが――

 

「ダメだ……最早、追放するしか道がない……」

「デスヨネー」

 

 やっぱりと言うべきか、色々無理があった訳で。

 結論として、どう頑張って誤魔化しても、闇属性であることは変えられない事実である。

 故に、その場しのぎの嘘で取り繕っても、属性を公表する卒業試験や就職活動などでは確実にバレる。

 

「父上! 諦めてはダメです! なんか、他にいい方法があります! でないと、弟は将来、俺の炎魔法を活用した炒飯専門店で発展するはずの領地で暮らせなくなっちゃいます!」

「兄上、そんな野望持ってたんですか!?」

「炎魔法は戦時以外じゃ暇だし、領地はただ治めるだけじゃダメだからな。だから火力が売りの料理で勝負する!」

 

 瞳に炎を宿しながら、なんとか自分が追放しない方法を諦めない長男。

 正直、自分がいなくても、この領地安泰だろう。

 

 そんな時、会議室に使用人の一人が慌てて入ってきた。

 

「旦那様! 大変です!」

「ど、どうした!? うちの次男は闇属性ではないぞ!」

「父上、言っちゃってます!」

「いえ、実は公爵様がいらしてまして――」

「な、なにぃ!?」

 

 突如、来訪した公爵。

 いったい、何事かと思いつつも、父はなんとか冷静さを取り戻し、公爵を出迎えるのだが……

 

 

 

「国王! 貴様を追放する‼」

 

 

 

 結果的に言えば、自分は追放を免れた。代わりに王族全員が追放されることになった。

 

「いや、なんでじゃあああああ!?」

 

 多くの貴族に囲まれ、簀巻きにされた国王が混乱のあまり絶叫した。

 いや、本当に。なんで、こうなったのだろうか?

 切欠は、公爵が我が家に来訪した時にまで遡る。

 

「実は、ウチの娘が闇属性にだったのよ」

「え? 公爵様もですか?」

「え? そっちも!?」

 

 なんでも、その年は例年よりも闇属性の子供が多かったそうだ。

 しかも、それが軒並み有力貴族の子息子女だから、さぁ大変。

 みんな、頭を悩ませていた。

 

 さらに運が悪いことに、国王に相談しようとしたとある貴族が、王城まで訪れた際……

 

「父上! 薄汚い闇属性など、全員処刑してしまいましょう! そう言う法律をつくりましょう!」

「んー、マイサンが言うなら、そうしちゃおっかなぁ?」

 

 ……などと言う会話を聞いてしまったからさぁ、大変。

 国王は本気ではなかったのだが、その発言が国中の貴族に伝播。

 不信を買うことになり、結果「もう、革命起こさね?」「さんせーい!」ってノリで、反

乱が起きましたとさ。

 当然、国王が弁明するも……

 

「いや、あれ、冗談だからね!? 誰も、本気で言ってない……」

「国王、そう言う発言は、例え嘘でも言ったらアカンでしょ。責任ある立場なんだから」

 

 てな感じで一蹴。

 そもそも、日頃から王子にベタ甘で、どんな我儘も聞き入れちゃう困った国王なのだから、今回もやりかねないと、誰もが思っていた。

 ついでに、王族たちも似たような連中が多かった。

 

 なので、この革命は起こるべくして起きたと言うべきだろう。

 

「良かったな! これで追放されなくて済んだぞ!」

「いや、代わりに大事になってますけど!?」

 

 その後、この国の闇属性の魔法は大きく発展するのだが、これはまた別の話。

 ついでに、長男の炒飯専門店がチェーン展開するのもまた別の話。

 

 

 

 




◆登場人物◆
・次男 レベル:5
 異世界転生してきた中身おっさんの子供。
 その後、闇属性の魔法使いとして新理論を確立したり、発展させたりする。
 ……ことはなく領内のカウンセラーとして仕事している。
 だが「仕事で疲れた人がいるのは異世界でも地球でも変わらないな。がんばろ!」と本人はプライドを持って職務に当たっている。

・父上 レベル:2000万
 厳格そうに見えて、愛妻家で子煩悩でお茶目。
 炎属性を駆使した戦闘力は国内随一だが、先日、早く風呂を沸かそうとして爆発させた前科がある。

・長男 レベル:95万
 2個上の兄。料理が趣味で、将来の夢は炒飯専門店で領内を発展させること。
 結果、彼の前に立ちふさがる数々の料理人とバトルを繰り広げることに。
 じゃっかん、ぽっちゃりしてる。

・母上 レベル:8千200万
 領内真の権力者。厳しいが、なんやかんやで家族仲は良好。
 スリーサイズは102/62/101のナイスバディ。
 父上、爆発しろ。

・神官殿 レベル52
「あ、司教様。本日は何用で? え? 先日、とある親和派の魔物が経営しているサキュバスのキャバクラで、経費使って飲んだな? そそそ、そんなことございませんよ!? 神に誓ってそんな――」

・公爵様 レベル13億4200万
 今回のMVP。後に、新たな国王になる。
 ちなみに、風属性。だが、ただの拳で真空波を、蹴りでかまいたちを起こせるガチの武闘派。

・国王&バカ王子 合計レベル20
 闇属性を不当に扱う国の癌。
 結果、追放されちゃいましたとさ。
 とほほ……


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