追放されし者たちの話   作:J坊

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風呂屋の場合

 冒険者ギルドの支部長室。

 そこでギルドマスターとあるパーティーが揉めに揉めていた。

 

「納得できません!!」

 

 バンッとデスクを叩き抗議するのは、このギルドのトップクラスの郎党のリーダー・戦士だった。

 

「俺たちの冒険者ランクをあげる代わりに、彼を追放しろなんて、そんな要求、呑める訳ないだろう!!」

 

 怒りを露に怒鳴り付ける戦士。それに賛同するように、仲間である聖女や武道家、女魔法使いも騒ぎだした。

 

「私たちを見くびらないでください!!」

「そんな人の道に背くような真似、するわけがなかろう!!」

「このギルドも落ちたものね。私たちのパーティーは彼のお陰で保てているようなもの。それをみすみす手放せと?」

 

 そう言って一歩も譲らない一党。

 彼らの反応は予想できていたのか、ギルドマスターは頭を抑えながら、盛大にため息を吐いた。

 

 事の発端は彼らの冒険者ランク昇格の件である。

 この間の会議において、ギルドの有望株である彼らをAランクに昇格させると言う議題が出た。

 しかし、その際に一党にいるある人物の存在が問題視された。

 結果、昇格の条件として『その人物を脱退させること』と意見が上がり、賛成多数で受理されたのだが……

 当然、猛反発をくらい現在に至ると言う訳である。

 

「まあ、お前たちの気持ちも分からんでもないが……」

 

 今までの苦楽を共にした仲間を追放し、彼らだけを昇格させるというのは、ふざけた話だと、ギルドマスターも思っている。

 しかし、彼はこの条件は致し方なしと考えていた。

 なぜなら……

 

「大体、彼のなにがいけないって言うんですか!? 納得のいく理由を言ってください!!」

「格好」

 

 理由を言った瞬間、彼らの勢いは失速し、気まずげに視線を反らした。

 

 問題になっている人物。

 その男の姿は、カピパラの覆面に、半ズボン一帳。

 武器としてデッキブラシと湯かき棒を装備した、おまわりさん御用達の格好をしていた。

 

「ちなみにキミ、職業は?」

「見てわかりませんか? 風呂屋です」

「わかるか」

 

 風呂屋要素デッキブラシと湯かき棒だけじゃねぇか。

 見た目のせいでヒントが実質ノーヒントだわ。

 良くて不審者。普通に変態。最悪、異常者が関の山だよ。

 

「大体、なんでこんな格好してんだよ!! ネタ装備にしてももっとなんかあっただろうが!!」

「仕方ないでしょう!? こっちだって頑張ったんですよ!!」

「なにをだよ!? なにを頑張ったらこんな珍獣が誕生すんだよ!?」

 

 至極当然の疑問。彼はいったい、どんな経緯で、どんな理由で、どんな心境でこんな変態染みた格好をしているのか。

 

「仕方ありませんね。理由をお話ししましょう」

「是非ともそうしてくれ」

 

 なんかいちいち微妙に上から目線の風呂屋にイラっとしながらも事情を聞いてみる。

 風呂屋の話では、元々彼らは同じ村で育った幼馴染だったそうだ。

 しかし、ある日魔物のスタンピートにより、村は壊滅。

 幸い死者こそ出なかったものの、復興には多額の資金が必用になり、彼らは冒険者になった。

 だが、当たり前ではあるが風呂屋は戦闘スキルのない職業。結果、一党の足手まといになった。

 

「本当なら、戦闘以外でみんなの役にたつのが一番なんでしょう。しかし、みんなが命がけで戦う中、俺だけが安全地帯で待つのは耐えられなかった」

「気持ちはわかるけど……」

「なにより、俺の中にあるフロンティアスピリッツを押さえきれなかったんです!!」

「うまいこと言うな」

 

 風呂屋だけにフロンティア? うるさいよ。

 

 とにかく。戦闘用のスキルがない以上、足手まといになるのは自明の理であった。

 どうにかできないか悩んだ一党。その末……

 

「ある名案が浮かびました。『スキルがないなら装備に頼ろう』と」

「理屈はわかった。で、なんでそれ?」

「探したんですけど、なかなか風呂屋ようの装備見つからなくて……でも魔法つかいがツテで手に入れたこの装備が性能良かったから……」

「性能が良くても、見てくれが最悪だろうが」

 

 というよりは8割裸である。装備売ったやつバカにしてるんじやねえの?

 

「でもちゃんと性能がいいんですよ!! これのお陰で、隠しスキルも解禁されたし、鑑定してみてください!!」

「えー……どれどれ?」

 

 食い下がる風呂屋に言われた通り、鑑定スキルを発動するギルドマスター。

 

・カピパラマスク:全ステータス150万アップ(装備解除後も永続) 風呂屋専用装備。カピパラの可愛らしさと野生の力、温泉愛により、風呂屋の隠しスキルを解禁させる。

 

・隠しスキル

【銭湯態勢】

 露出する部分が多いほどステータスが最大80%まで上昇する。なお、局部は隠さなければならない。

 

【温泉成分】

 その日入ったお風呂の効能を120%引き出し、入浴者のステータスを大幅に上昇させる。

 

【風呂場召喚】

 どんなところでも風呂場を召喚し、いつでもお風呂に入れる。なお、サービスで牛乳がついてくる。

 

「いや、壊れ性能じゃん。2つの意味で」

「ちなみに最初はタオル一枚にすべきと考えていたのですが『プラプラして気になる』『隠しきれてない』と苦情が来て、お湯着に変更になりました」

「それより下があったことに驚きだわ」

 

 一応TPOに配慮してたのか、それでも。

 

「まあ、事情は理解できた」

「だったら……」

「たが、納得はできん。苦情がきてんだよ。うちに」

「そ、そんなあ!!」

「いや、当然だよ。近隣住民から不振人物の目撃情報が相次いでんの!!」

 

 ぶっちゃけ、事情を知らなきゃ「変な覆面の露出狂」でしかない。

 

「だ、だが、世の中にはビキニアーマーの女戦士や上半身裸の武道家もいるだろう!! それとなにが違う」

「頭部」

 

 ビキニアーマーは仕方ない。ロマンが詰まってるからだ。

 上半身裸の武道家も仕方ない。強靭な肉体を見せることで威圧感を与えるからだ。

 だが風呂屋、お前はダメだ。覆面からして変態臭いからだ。

 

「とにかく繰り返すが、お前らが昇級するためには、風呂屋を追放しないといけないわけだが……」

「そんなこと言われても、困るよ!! 彼はこのパーティーの要だぞ!!」

「あー……ひょっとして、アレ? バフで実力以上の力を手に入れてるとかそいういうパターン?」

「いえ、普通に俺たち強いですけど?」

 

 言うや否や、戦士たちが「破ぁ!!」と叫ぶと、全身から黄金のオーラが溢れだし、戦闘力が跳ね上がった。

 具体的には、余波でギルドマスターの部屋が吹き飛び、近隣の動物は怯え、鳥は一斉に飛び立ち、魔物が慌てて逃げだすくらいの圧倒的な戦闘力だ。

 

「じゃあ、いいじゃん!! 十分じゃん!! 風呂屋のバフいらねえじゃん!!」

 

 って言うかなにしてくれてんの!?

 部屋がなくなったんだけど!?

 キィィィィィンと耳をつんざくように大気を振動させる、黄金に輝く戦士たちに負けないくらいの勢いでツッコミまくるギルドマスター。

 

「そんなことはない!! 風呂屋のバフがなければ魔王なんて100体しか倒せないんだぞ!?」

「過剰戦力って知ってます?」

 

 そもそも魔王が100体もいねえよ。

 

「風呂|〈バス〉によるバグレベルのバフ。それが俺たちのパーティーの強さの秘密です」

「やかましいわ」

「ちなみに俺も彼らと同じことができます」

 

 瞬間「破ぁ!!」っと風呂屋の戦闘力が解放され、今度はギルドが吹っ飛んだ。

 

 その戦闘力に魔界の大魔王は「……今の気は奴か」と反応し、天界の神々は「ラグナレクの時は来た」と呟き、地下深くに潜む大怪獣は長き眠りから目覚めようとする。

 

「いや、だからなにしてくれてんの!?」

「風呂屋だけに戦闘|〈銭湯〉力がズバ抜けてるんです。風呂屋だけにね」

「だまらっしゃい!!」

 

 なにをちょいちょいうまいこと言ってんだよ、この不審者。

 そんなこんなで話は平行線。

 両者一歩も引かず時間だけが過ぎていく。

 そんな中、事件は起きた。

 

「大変です!! ギルドマスター!!」

「なんだよ……こんな時に……」

「魔界から大魔王の軍勢が現れ、天界から神々が堕落した人間の粛清に来襲!! 大怪獣が長き眠りから目覚め、こちらに向かってきます!!」

「ほんとになにがあった!?」

「平穏と言うものは儚いものですからな」

「儚いどころか粉微塵なんですけど!?」

 

 最早、世界最後の日である。

 

「よし、みんな!! 俺たちで戦うぞ!!」

「ふ、当然だ」

「これも冒険者の努め……神の与えし試煉でしょう」

「腕が鳴るわね」

 

 しかし、そんな絶望的状況でも彼らは変わらなかった。むしろ、やる気に道溢れていた。

 

「そう、まるで湯船に張られたお湯のごとく」

「やかましい。っていうかこれ、Aランクどころか、人類総出で当たらないといけない案件ですが?」

「ならば、俺も一肌脱ごう」

「それ以上脱いだら、通報だからね」

 

 ギルドマスターのツッコミも意に介さず、人類存亡をかけた決戦に向かおうとする一同。

 

「先陣は俺が切らせてもらう‼」

 

そう言って、風呂屋は飛び上がり大魔王の軍勢をかき分け、最奥にいる大魔王を殴り飛ばした。

 

「一番ブロー‼」

「ぬぅ‼」

 

突然放たれた一撃に、大魔王は地面を踏みしめるも吹き飛ばされる。

その反動を利用し、今度は神の軍勢に向かい跳躍。

風呂屋を中心に円形の水の刃が発射され、神の使徒たちを切り刻む。

「フロア狩りっ‼」

「ぐあああああ‼」

 

 そのまま、大怪獣に飛び移ると、巨体を駆け上がり顎めがけてアッパーカットを叩き込む‼

 

「絶景狼天ブロォォォォォ‼」

「GYAAAAA⁉」

 

 脳天を揺らさんほどの一撃を叩き込まれ、そのまま仰向けに倒れダウンする大怪獣。しかし、彼らも負けてはいられない。

 

「死ねっ‼ 風呂屋‼」

「ここが貴様の墓場だ‼」

「GOAAAAAA‼」

「みんな! 風呂屋を援護するぞ‼」

『おうっ‼』

 

 敵味方入り乱れる大乱闘。まさにラグナレクそのものの光景だ。

 そして……

 

「いや~色々あったが、全員無事でなによりだ‼」

 

 街に被害は出たものの、不幸中の幸いに死者はゼロ。

 かくして、人類は滅びを免れた。だが……

 

「どうしたギルドマスター。表情が暗いな」

「……今回の騒ぎの責任なすりつけられて、ギルド追放されちゃった」

『……』

 

 世の中の理不尽に嘆くギルドマスター。

 しかし、風呂屋は落ち込む彼を温かく受け入れた。

 

「俺の実家の宿屋で働くかい? 今までのことはお湯に流してな。風呂屋だけに」

「やかましいよ」

 





◆登場人物◆
・風呂屋
 今回の主役。もともとは宿屋の息子だったがフロンティアスピリットを抑えきれず冒険者に。本人の資質もあってか最初は伸び悩んだが今では一流の冒険者である。
 ついでに装備品もツッコミどころ満載である。
 将来の夢は冒険ができる移動式温泉旅館の建設。レベル46億3200万

・ギルドマスター
 作中一の苦労人。下には振り回され、上には無茶振りされるうだつの上がらない毎日を送っていたが、この度めでたく退職となりました。
 なんやかんやで、風呂屋の実家の宿屋で働くことになるが、ホワイトな職場だったのでハッピーエンド。レベル32万480

・風呂屋の仲間
 リーダー各の戦士(レベル13億4000万)実は風呂屋が好きな聖女(レベル11億・上から84/61/83)
 マッシブな武道家(レベル7億2000万)。ツンデレな魔法使い(レベル4億8000万・上から79/53/82)で構成されている。
 風呂屋とは幼馴染で、夢は魔物に壊された村の復興。ちなみに4人とも同じ村出身で風呂屋とは移住先で出会ってからの幼馴染である。
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